2016年8月11日、新設された祝日「山の日」に、アキノ隊員こと宮城秋乃さんのガイドで沖縄の東村高江を流れる新川川(あらかわがわ)を訪ねました。日本鱗翅(りんし)学会会員であるアキノ隊員は、沖縄の浜比嘉島出身、「沖縄のチョウチョ(蝶々)に人生を捧げました」と語ります。2011年には準絶滅危惧種のチョウ「リュウキュウウラボシシジミ」の個体群を新川川流域で確認。ヘリパッドの工事やオスプレイの配備で、この貴重なチョウもまた大きな影響を受けるかもしれないということをアキノ隊員は伝えてくれました。人間だけでなく、動物、植物、さらには昆虫類の命にも同じあたたかいまなざしを注ぐアキノ隊員の主催する「新川川沢登り観察会」。絶対行きたいと思った次第です。心配していた雨も上がり、沖縄本島でも有数の自然度の高い、命にあふれた森をおよそ20名の参加者と行ってきました。その報告です。
私が沖縄本島を訪れるのは、これで3度目になります。初めての沖縄体験は、辺野古での新基地建設反対の座り込み→https://ideanews.jp/backup/archives/16053、2回目は沖縄に連帯して活動する友人の公演を取材するため→https://ideanews.jp/backup/archives/19990でした。この時には「辺野古に集まろう!」とみんなの目が新基地の方に集中していて、高江を訪ねると小さなテントに数名の関係者がいて、おだやかな雰囲気。おやつの焼き芋をいただきながらヘリパッド建設反対の歴史的な流れなどをゆっくり説明してくださいました。ところが、辺野古の方が「和解」となった一方で、2年間中断されていた高江のヘリパッド工事を再開するため資材の搬入が行われたのは、2016年7月11日参議院選挙の翌日。現職の沖縄・北方担当大臣が落選して、沖縄県が「基地負担の痛みをこれ以上がまんしない」というはっきりした民意を示した選挙の次の日でした。
そして、あの7月22日を迎えます。沖縄県外から集められた機動隊が沖縄県警と合わせて800人とも1000人ともいわれる圧倒的な数で、工事再開反対のために座り込む市民を排除、バリケードの車も順に運び出していった、戒厳令下のような日。少なくとも3名の市民が救急搬送されるという異常な事態だったのです→https://ideanews.jp/backup/archives/25201
■『リュウキュウアオヘビたん、機動隊の前に現れて脅かしてやりなよ。そんなカワイイ顔ぢゃ無理か~』
フェイスブックやツイッター、ライブ動画配信など、ネット上では本当にたくさんの胸の痛む光景が流れていました。「沖縄を返して!」と叫ぶ人々。首にロープがからまってしまった女性の姿……。その中で私は、アキノ隊員の発信する記事に強く心を動かされました。
愛らしい顔のヘビの写真に添えられた言葉は、
『リュウキュウアオヘビたん、防衛局員や機動隊の前に現れて脅かしてやりなよ。でもそんなカワイイ顔ぢゃ無理か~』(アキノ隊員の鱗翅体験2016年8月2日より)
国の特別天然記念物で、やんばる地域にしか住んでいないキツツキ、ノグチゲラの写真には、
『ノグチゲラのつがいがガジュマルの実を食べていました。ワタシでなく、機動隊や沖縄防衛局員の前に現れてやりなよ。ワタシは君が一生懸命生きていること、もう十分知っているからさ』(アキノ隊員の鱗翅体験2016年8月2日より)
■体をはって抗議をしている人間だけでなく、声をあげられない生き物たちがたくさん住んでいるんだよ
沖縄県外のメディアもようやく取り上げるようになった「高江」には、体をはって抗議をしている人間だけでなく、声をあげられない生き物たちがたくさん住んでいるんだよということを、アキノ隊員はずっと発信し続けています。声をあげられない生き物とその生息地であるヤンバルの地域を守るのは、私たちの未来を守ることでもあるのだということも。
真夏の太陽が照り付け、汗がしたたる日でしたが、新川川の清流は冷たくて、足をひたすとすぐに汗がひくほどでした。ここは既に完成しているヘリパッドから数百メートル。高江の村を少し通らせていただき、高江に住んでいる方たちが水遊びに来る場所で沢歩きを楽しみ、新川ダムに近い滝を目指しました。
途中でたくさんのチョウや虫に出会いました。
参加した子どもたちは目がよくて、いろんな虫を見つけてくれました。
アキノ隊員は参加者たちが何かを見つけるたびに「〇〇さんがオキナワコカブトを見つけました!」などと可愛らしいよく通る高い声で褒めてくれ、丁寧に解説をしてくれます。本当に楽しい沢歩きでした。
参加した人たちのほとんどは、高江や辺野古の抗議活動に関わっている人たちでした。しばしの休息の時間。(とはいえ、早朝5時の行動に参加してからやってきた元気な人もおられました)こんな素晴らしい自然のすぐ近くをオスプレイが飛び、米軍人が訓練を続けていることに、改めて憤りを覚えます。
■高江の森は、準絶滅危惧種のチョウ「リュウキュウウラボシシジミ」の国内最大の発生地と思われる
アキノ隊員は、沖縄本島のやんばると石垣島・西表島だけに生息している固有亜種で、準絶滅危惧種に指定されているチョウ「リュウキュウウラボシシジミ」が高密度で、高江の森に住んでいることを2011年に発見しました。もともと個体数の少ないこのチョウが、これだけたくさんいる場所は、本当に貴重なのだそうです。翅を閉じたときのサイズが10ミリ前後の小さな小さなチョウ「リュウキュウウラボシシジ」のすみかを奪わないでとアキノ隊員は訴え続けています。
ヘリパッド建設で壊されるのは、高江で暮す方々の生活であり、同時にやんばるの森にしかいないたくさんの生き物の暮しです。一度失われたらもとに戻せない自然環境を壊してはいけません。森の生き物の命は、日本政府やアメリカのものではないのです。
美しい滝を見て、思わず歓声をあげた参加者たち。水は冷たく静かな淵で、泳ぐのに持ってこいのところでした。
参加者の中には植物に詳しい方もいて、滝の近くで「コケタンポポ」を見つけて教えてくれました。本当に小さい、可憐なお花でした。
アキノ隊員に、新川川には、完成しているふたつのヘリパッドの影響は出ていないか聞いたところ、今はまだ影響が目に見えないそうです。それにしても、沖縄北部に5つもダムがある水源地に米軍の訓練場があり、あらたにヘリパッド建設が進められていることは、水を守るという意味でも本当におかしなことだと思います。
■辺野古や高江の現場で頑張っているひとりの参加者の帽子に、リュウキュウハグロトンボが
辺野古や高江の現場で頑張っているひとりの参加者の帽子にリュウキュウハグロトンボがとまりました。私たちの代わりに声をあげてね、と伝えに来たのでしょうか。
■「死んでも美しくてカッコいい」オキナワカラスアゲハのメス。キラキラと鱗粉がよく見えました
チョウの専門家であるアキノ隊員が、「死んでもこんなに美しくてカッコいいね」と見せてくれたオキナワカラスアゲハのメスの死体。キラキラと鱗粉がよく見えました。この鱗粉が水をはじき、また、沖縄では雨が降っても気温が下がりにくいから、チョウは雨の中でも飛ぶことが出来るのだそうです。
小さな子どもたちも参加した「新川川沢登り観察会」でしたが、誰も途中で脱落することなく、けがもなく、無事に終了。素晴らしい自然を目の当たりに出来て、本当に楽しくて、また機会があったら必ず参加したいと思いました。
最後に、アキノ隊員は「参加費は、高江安波の昆虫の調査・保護のために大切に使わせてもらいます」と挨拶。自然度の高いやんばるの森を信じて身をまかせ、生きているたくさんの生き物を代弁してお話をしてくれたアキノ隊員、本当にお世話になりました。この森が好き、生き物が好きという気持ちがひしひしと伝わってきました。
■「森も川も海も大切。命は宝」なのは知っているのに、難しい言葉で生き物のすみかを奪おうとする
「森も川も海も大切。命は宝」そんなことは日本の偉い人たちだってきっとよく知っているのでしょう。でも、政治や経済の難しい言葉を使って、何かと引き換えに生き物のすみかを奪おうとしています。
この森や川がどんなに大切なのかということを、言葉だけでなく、一緒に歩いたり、水辺で遊んだり、生き物を観察したりすることで教えてくれたアキノ隊員。本当にありがとうございました。
関連ページ
◎アキノ隊員の鱗翅体験→http://akinotaiinnorinshitaiken.ti-da.net/
◎やんばる東村 高江の現状→http://takae.ti-da.net/
※ここからはアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。アキノ隊員の出演した報道番組の紹介や、筆者が知る米軍撤退後のフィリピン・サンバレス州のことなどをお伝えします。
■ようやく全国区のメディアが「高江」を取り上げるようになり、アキノ隊員もTBS報道特集に出演
■フィリピンで1991年から92年にかけて起きたこと~ピナツボ火山噴火と米軍基地返還
■「茶色のペット以外は飼ってはいけない」という法律が出来た寓話が意味するもの
- 「子や孫に残したい海 ~辺野古・大浦湾~」、大阪で6月18日まで写真展 2017年6月10日
- 「逃げられない場所に基地が来たらどうなる?」、『標的の島 風かたか』全国で上映 2017年3月26日
- 沖縄・米軍新基地建設反対で逮捕された山城博治さん、勾留5ヶ月で保釈 2017年3月19日
- 沖縄・辺野古の米軍新基地建設反対、抗議船から見た冬の海の風景は 2017年3月5日
- 刑事法の大学教授ら64人・アムネスティなど、山城博治さんの釈放求め声明 2017年2月23日
■ようやく全国区のメディアが「高江」を取り上げるようになり、アキノ隊員もTBS報道特集に出演
2016年8月6日のTBS報道特集が、米軍ヘリパッド建設の問題を取り上げました。アキノ隊員が撮影した生き物たちの映像が使われ、ご本人も登場。実は私は、新川川観察会で実際にお目にかかるより前に、テレビでアキノ隊員の声を聞いたのでした。そこでアキノ隊員はこのように語っています。
「オスプレイの飛行が生態系に悪影響を与えるということでハワイでは訓練が中止になったのに、沖縄でも当然同じ影響が出るはずなのに、沖縄では止まらない。それは、沖縄だからなんです。沖縄の命が軽視されてるんですよ」
「世界中で沖縄の“やんばる”にしかいない生き物たちがたくさんいて、それなのにそれでもこの森を壊すっていうことは、この国の命の価値観が低いっていうことだと思うんですよ」
■フィリピンで1991年から92年にかけて起きたこと~ピナツボ火山噴火と米軍基地返還
筆者は、フィリピンの中部ルソン地域で長年山岳先住民族アエタの若者に教育支援をおこなう「ピナツボ・アエタ教育里親プログラム」を主催してきました。20世紀における最大級の自然災害と言われるピナツボ火山噴火(1991年6月)により、火山灰が大量にクラーク米空軍基地に降り注ぎ、大きな被害が出ました。同じ時期、フィリピン政府と米国との間でフィリピンにおける米軍基地使用の延長を含む新しい条約の交渉がおこなわれていました。91年9月、フィリピン上院はこの条約の批准を拒んだのです。米軍としても、火山灰による損害が大きいクラーク軍基地を放棄することは容易な決断だったかもしれません。これにともなって、アジア最大のアメリカ海軍基地であったスービック海軍基地もフィリピンに変換されました。
米軍の存在が、サンバレス州を中心とするフィリピンの経済を支えていると言われてきました。基地の直接雇用や、悲しいことではありますが風俗関連などの雇用機会です。米軍が撤退して、しばらくは苦しい時がありましたが、フィリピン政府は経済特別区としてスービックの再開発をすすめ、今では韓国や台湾の企業も進出。かつて近づくだけで米兵に威嚇された広大な地域が、大統領直轄のSBMA(スービック湾都市開発庁)が管理しています。国際空港、港湾施設、ホテル、ショッピングセンター、免税品店、レストランなどさまざまな施設が出来て発展を続けています。
■「茶色のペット以外は飼ってはいけない」という法律が出来た寓話が意味するもの
フランク・パヴロフの寓話「茶色の朝」を思い出します。ある国で突然、「茶色のペット以外は飼ってはいけない」という法律が出来ました。驚き、違和感をおぼえながらも、飼っていた白黒の猫や黒い犬を始末する人々。
「仕事があるし・・・」、「毎日やらなきゃならないこまごましたことも多い・・・」、「ごたごたはごめんだから・・・」と、やり過ごしているうちに、社会は茶色一色に染まっていくのです。その法律を批判していた新聞が廃刊になり、その系列出版社の書籍も廃刊され、図書館から姿を消します。
まわりに合わせて茶色の犬と茶色の猫を飼いはじめ、快適な生活と感じる人々は、抵抗してひどい目にあうより、流れに身を任せて安心したいのです。
「茶色に守られた安心、それも悪くない。」
初めて読んだとき、途中で出てくるこの言葉が衝撃的でした。
しかし、ある日、友だちが逮捕されます。かつて茶色でない犬を飼っていたから。「いくらなんでもやり過ぎだ」、「抵抗すべきだった、いやだというべきだった」と気づいた時には遅すぎて、かつて白黒の猫を飼っていた主人公の家のドアが早朝、激しくたたかれます・・・外は茶色。
沖縄で起きていることを、(茶色一色と言うより、この写真だと青一色ですけど)自分には関係ないとか、政府が決めたことだから仕方ないとか思っているうちに、自分の家のドアがたたかれることになる。そんなことにならないように、手遅れになる前に声をあげるDNAを眠らせないでいたいです。
ここで起きていることは、決して他人事ではない。そのことを痛感した3度目の沖縄でした。