刑事法の大学教授ら64人・アムネスティなど、山城博治さんの釈放求め声明

山城博治さん 2016年1月辺野古の座り込み現場にて=撮影・松中みどり

2016年10月17日、沖縄の米軍オスプレイ用ヘリパッド建設に対する抗議行動で、侵入防止用フェンス上の有刺鉄線一本を切ったとされて準現行犯逮捕された山城博治さんは、2017年2月22日現在、今も那覇拘置所に勾留されています。逮捕されてから2月23日で130日となります。

筆者は、2017年2月9日から12日まで、沖縄に行ってきました。那覇地裁前では大きな抗議集会がおこなわれ、そうでない日も「サイレントアピール」を担っている市民がいました。辺野古の座り込みの現場でも、日毎入れ替わり立ち替わりマイクを握り、リードする人がいます。博治さんが帰ってくるまで、みんなが自分の力を精一杯出して、最大限支えようとしている。そんな気がしました。「沖縄平和運動センター議長」の山城博治さんはなぜ逮捕され、そしてなぜ沖縄の、日本各地の、世界各地の、多くの人が彼の釈放を求めているのか。沖縄の現地取材報告です。

山城博治さん 2016年1月辺野古の座り込み現場にて=撮影・松中みどり

山城博治さん 2016年1月辺野古の座り込み現場にて=撮影・松中みどり

刑事法を研究する大学教授、准教授、講師らが「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」を発表したのは2016年12月28日。声明は、切断されたのは2,000円相当の有刺鉄線1本で、必要な捜査も終わっており、長期勾留は刑事訴訟法第91条の「不当に長い拘禁」(⇒条文)にあたり、速やかに解放すべきとしています。声明に名前を連ねた刑事法を研究している教授、准教授、講師らは、沖縄国際大学、琉球大学をはじめ、宮崎産業経営大学、熊本大学、佐賀大学、九州大学、九州国際大学、久留米大学、西南学院大学、福岡教育大学、山口大学、島根大学、岡山商科大学、高知大学、神戸学院大学、甲南大学、関西学院大学、大阪大学、大阪市立大学、大阪経済法科大学、立命館大学、龍谷大学、京都女子大、名古屋大学、一橋大学、東京造形大学、東京経済大学、駒沢大学、青山学院大学、関東学院大学、國學院大學、立正大学、独協大学、宇都宮大学、茨城大学、福島大学、山形大学などの先生方です。(⇒声明と賛同者のリストはこちら

さらに、国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」日本支部は2017年1月27日、「山城博治さんの速やかな釈放を求める」声明を発表しました(⇒声明)。アムネスティは、証拠隠滅の可能性が極めて低い状況でのこのような拘禁は身体の自由への侵害であり、山城さんを速やかに釈放するよう検察当局に強く求める、としています。山城さんが家族とも面会できない状態に置かれていることは、被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラルール)58条1項が「定期的に家族および友人の訪問を受けることが許されなければならない」としていることに反しており、家族の訪問は保障されるべきだとしています。

アムネスティの声明に出てくる国連被拘禁者処遇最低基準規則(ネルソン・マンデラ・ルールズ)は、2015年12月、国連総会において満場一致で採択改訂されたものです(⇒詳細)。なお、琉球新報によると、アムネスティは、ミャンマー民主化指導者のアウン・サン・スー・チーさんらが認定された「良心の囚人」に、山城さんを認定することも検討しているとのことです(⇒琉球新報の記事)。

山城博治さんの名前は、沖縄でずっと続いている米軍基地基地建設反対運動に心を寄せてきた人たちにとっては特別なもの。その名を口にすると笑顔になり、勇気をもらえる名前です。一方で、沖縄以外のマスメディアにあまり登場しない名前であり、知っている人と知らない人の温度差が非常に大きいことの象徴にも感じられます。

沖縄平和運動センター議長で、常に現場で基地反対の運動をまとめてきた博治さんは、2016年1月初めて沖縄・辺野古に座り込みに行った新参者の私を、「よく来たよく来た」と温かく迎え入れてくれました。こちらの記事をご覧ください→人にも動物にも優しく、ただただ平和に仲良く生きようと願う 辺野古レポート(下)

2016年1月に初めて会った博治さんは、顔をくしゃくしゃにして笑い、感動すれば涙声になり、突然踊りだし、大きな声で歌う、人間味あふれる魅力的な現場のリーダーでした。アジテーションの超が付くほどのうまさ、うまくないけど素敵な歌、楽しく明るい雰囲気を生み出し、みんなを巻き込む博治さん。誰かが警察に連れて行かれたとなれば、取り戻すまでずっと、声を枯らして抗議をし、捕らわれた仲間に向かってエールを送り続ける人です。

筆者は、2017年2月9日から12日まで、沖縄に行ってきました。那覇地裁前では大きな抗議集会がおこなわれ、そうでない日も前述のようにサイレントアピールを担っている市民がいました。座り込みの現場でも日毎入れ替わり立ち替わりマイクを握り、リードする人がいます。博治さんが帰ってくるまで、みんなが自分の力を精一杯出して、最大限支えようとしている。そんな気がしました。

2017年2月10日辺野古ゲート前=撮影・松中みどり

2017年2月10日辺野古ゲート前=撮影・松中みどり

■私も博治さんに手紙を書きました。この心が届きますようにと願っています

沖縄タイムスの社説(有料部分で紹介しています)にならい、私も博治さんへの手紙を掲載します。この心が届きますようにと願っています。

災害現場から博治さんへ

山城博治さん、この手紙を書いているのは、2016年10月17日にあなたが逮捕されてから4ヵ月と1日が過ぎたまだ寒さの残る2月18日です。初めて博治さんに辺野古のゲート前でお目にかかった日に差し上げた「漁網ブレスレット」、覚えておられるでしょうか。東日本大震災で被災した岩手県の漁師さんが、大切な生活道具だった漁網も津波で流され、捨てるに捨てられない破れた網を泣きながら洗っていたとき、この網で何か出来ないかと思ったことがきっかけで生まれたアクセサリーです。魚が獲れなくなり絶望の淵にある被災者へ、応援する気持ちを伝える漁網を使ったストラップやブレスレットを「すごくいい話だね。素敵だ」と嬉しそうに手に取ってくれましたね。

2016年1月13日、辺野古のゲート前で漁網アクセサリーを手にする博治さんと筆者=撮影・川口真由美さん

2016年1月13日、辺野古のゲート前で漁網アクセサリーを手にする博治さんと筆者=撮影・川口真由美さん

東日本大震災の被災地でも、たくさんの人が博治さんたちの沖縄の闘いを気にかけ、本当はその場に飛んでいきたいと思うほど心を寄せておられました。いざというとき、国に守ってもらえなかった体験をした人であればあるほど、人々の民意を踏みにじって強行される基地建設に怒りと危機感を覚えているからです。

福島の人たちは特にその思いが強いのではないでしょうか。今回、一緒に那覇地裁前でサイレントアピールをおこない、辺野古のゲート前では一緒にごぼう抜きをされた古い友人は、福島でずっと医師として働き、特に子どもたちの健康状態を診てきた人です。穏やかな人ですが、政治と政治家の理不尽さに怒りを覚える気持ちは誰にも負けないと思います。彼もまた、博治さんたちの解放を願っている被災地の仲間です。

2017年2月10日辺野古ゲート前=撮影・松中みどり

2017年2月10日辺野古ゲート前=撮影・松中みどり

フィリピンのピナツボ火山噴火被災者もまた、沖縄の基地のことを話したらとてもよく分かってくれます。なぜなら彼らも、大きな災害で故郷の風景が一変したあと、米軍が火山灰で使い物にならなくなった基地を捨てて出て行ったことをよく覚えているからです。基地があっても、その周辺の市民が守ってもらえるわけではないこと。そして、クラーク空軍基地もスービック海軍基地も米軍撤退後は経済特別区となり、地域の経済が上向いたことをよく知っているからです。米軍がいなくなった基地跡に次々出来たホテルやショッピングセンターで、多くの火山噴火被災者が働いています。

ピナツボ火山噴火で被災し、元の村から離れて暮らす先住民アエタの少女=撮影・松中みどり

ピナツボ火山噴火で被災し、元の村から離れて暮らす先住民アエタの少女=撮影・松中みどり

特に、火山噴火で大きな影響を受けた山岳先住民族アエタの人たちは、沖縄の人々が感じていることを一番よく分かるだろうと思います。先祖代々暮らしてきたピナツボ山の土地を、力とお金のある人たち~米軍とフィリピン政府、大企業に奪われた上、『遅れた』『野蛮な』『自分たちとは違う』存在だという視線をずっと受けてきた人たちだからです。沖縄で、こんなことがあったよと話すと、自分たちはその場にいけないけれどずっと祈っています。応援しますと言ってくれました。

神戸の借り上げ復興住宅問題について報じる新聞の展示 2017年1月17日=撮影・松中みどり

神戸の借り上げ復興住宅問題について報じる新聞の展示 2017年1月17日=撮影・松中みどり

私も被災者のひとりである阪神淡路大震災の被災地域でも、博治さんたちのことを忘れず、連帯しようと訴える人が少なからずいます。神戸では、もう22年以上の年月が流れてなお、借上げ復興公営住宅から被災者を退去させようと、自治体が被災者を訴えるというとんでもない裁判が進行中です。ここで踏みとどまらなければ、他の被災地に対し、悪しき前例を残すことになると、闘い続ける人がいます。そのことは、私も辺野古の座り来み現場で何度か話をさせてもらいました。そのような経験をしているからこそ、沖縄の人たちに心を寄せ思いを馳せ、現場に駆け付ける人が多いのでしょう。

博治さん、地震や津波、火山噴火など自然の大きな力に見舞われたあと、政治的にも翻弄され、取り残された人たちは、互いに手をつなぐことで力を得ています。博治さんたちと連帯し、ともにありたいと願うたくさんの人たちが、国内の、そして世界の被災地にたくさんいることを覚えていてください。体に十分気を付けてお過ごしくださいね。またあの笑顔を見せてもらえる日を心から楽しみにしています。

アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、2017年2月9日に那覇地裁前で取材した内容などを報告します。また、2月10日から11日は、辺野古で取材し、初めて船に乗船して海上抗議の様子を取材することもできましたので、陸上と海上の辺野古の様子を取材した記事を、近日中に掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■想像できないほど寒く、冷たい風が吹いていた「冬」の沖縄

■那覇地裁前のサイレントアピール、ドライバーや歩行者が会釈をしたり手を振り返し

■沖縄タイムスが2017年2月7日に掲載した社説「辺野古から博治さんへ」

■博治さんが帰ってくるまで、みんなが自分の力を精一杯出して、最大限支えようと

■分かりやすい「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」

■「山城氏らの行為は、沖縄の森と海、平和を守る憲法上の行為であり、不正ではない」

■悪性リンパ腫から復帰したばかりなのに、家族にも会えず、差し入れは1日1回

■国連との協議資格を取得しているIMADRなどが報告書「沈黙させられる沖縄の声」を発表

■ワシントンポスト紙やアイリッシュタイムスも反対派リーダー長期勾留の記事を掲載

※辺野古の「海上レポート」は、近日中に掲載します。

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※ここから有料会員限定部分です。

■想像できないほど寒く、冷たい風が吹いていた「冬」の沖縄

「冬」の沖縄は、知らない人からは想像できないほど寒く、冷たい風が吹いていました。日本全国が低気圧や寒気の影響を受けていた2月9日、到着が遅れた飛行機がようやく那覇空港に着いて、すぐに向かったのは那覇地裁前。ここは辺野古・高江の反対運動にからむ三つの罪で逮捕・起訴された山城博治さんら3名が勾留されている那覇拘置所が近く、ほぼ毎日、支援の人たちがプラカードをかかげて立っているときいたからです。

■那覇地裁前のサイレントアピール、ドライバーや歩行者が会釈をしたり手を振り返し

この日も、数名の市民の皆さんが手作りのプラカードを手に、かなり気温の下がった曇り空の午後、静かな抗議・サイレントアピールをされていました。「みんなバラバラの町や市からの参加です」「個人で参加していて、出来る時にこうして立っているんです」と口々におっしゃいました。山城博治さんのご家族ですよと紹介された方は、朝から長時間立っておられたそうで、ちょうど入れ違いに帰っていかれました。すぐ目の前を行き交う車や歩道を行く人々の反応はおおむね良好で、たくさんのドライバーや歩行者が会釈をしたり手を振り返したりしてくれます。「こちら側に立った方がみんなに見えて効果的ですよ」と教えてくれたのは、那覇地裁の関係者の人だったそうで、沖縄のみなさんの多くが理不尽だ、不当な勾留だと感じているのではないかと思いながら、私もさっそく荷物を置いて手を振りました。

2017年2月9日那覇地裁前で抗議をする人々。後方のピンク色のスーツケースとカバンは筆者のもの=撮影・松中みどり

2017年2月9日那覇地裁前で抗議をする人々。後方のピンク色のスーツケースとカバンは筆者のもの=撮影・松中みどり

2017年2月9日那覇地裁前にて=撮影・松中みどり

2017年2月9日那覇地裁前にて=撮影・松中みどり

■沖縄タイムスが2017年2月7日に掲載した社説「辺野古から博治さんへ」

沖縄の地元紙のひとつ「沖縄タイムス」が2017年2月7日、このような博治さんにあてて手紙を綴るような社説を載せました。一般的な手紙のように個人から個人へではなく、「辺野古から博治さんへ」「沖縄は絶対諦めない」というタイトルでした。こちらをぜひお読みになってください→ 沖縄タイムス社説

2017年2月7日付「沖縄タイムス」社説=撮影・松中みどり

2017年2月7日付「沖縄タイムス」社説=撮影・松中みどり

社説にある一節に、

新基地建設に反対する市民らは、工事車両が基地に入るのを阻止しようと、キャンプ・シュワブのゲート前に座り込み、精一杯の抵抗を試みました。博治さんの不在の穴をみんなで埋め合わせているような、決意と危機感の入り交じった空気と言えばいいのでしょうか。

という文章があります。

■博治さんが帰ってくるまで、みんなが自分の力を精一杯出して、最大限支えようと

確かに、博治さんがいないということは反対運動に大きな打撃であり、だからこそ博治さんは理不尽に長期勾留されているのでしょうが、その穴をみんなで埋めようとすることで、運動は広がりと新しいしなやかな強さを得ていると言えます。那覇地裁前では大きな抗議集会がおこなわれ、そうでない日も前述のようにサイレントアピールを担っている市民がいます。座り込みの現場でも日毎入れ替わり立ち替わりマイクを握り、リードする人がいます。博治さんが帰ってくるまで、みんなが自分の力を精一杯出して、最大限支えようとしている。そんな気がしました。

2017年2月9日那覇地裁前にて=撮影・松中みどり

2017年2月9日那覇地裁前にて=撮影・松中みどり

■分かりやすい「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」

無料部分にも書きましたが、山城博治さんの逮捕・起訴・長期勾留については色々な支援団体が署名活動をし、声明を発表しています。2016年12月28日に出された「山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明」がこの件の背景を知るのに分かりやすいと思いますので、長くなりますが引用します。こちらのページもご参照ください→山城博治氏の釈放を求める刑事法研究者の緊急声明

沖縄平和運動センターの山城博治議長(64)が、70日間を超えて勾留されている。山城氏は次々に3度逮捕され、起訴された。接見禁止の処分に付され、家族との面会も許されていない山城氏は、弁護士を通して地元2紙の取材に応じ、「翁長県政、全県民が苦境に立たされている」「多くの仲間たちが全力を尽くして阻止行動を行ってきましたが、言い知れない悲しみと無慈悲にも力で抑え込んできた政治権力の暴力に満身の怒りを禁じ得ません」と述べる(沖縄タイムス2016年12月22日、琉球新報同24日)。この長期勾留は、正当な理由のない拘禁であり(憲法34条違反)、速やかに釈放されねばならない。以下にその理由を述べる。

山城氏は、①2016年10月17日、米軍北部訓練場のオスプレイ訓練用ヘリパッド建設に対する抗議行動中、沖縄防衛局職員の設置する侵入防止用フェンス上に張られた有刺鉄線一本を切ったとされ、準現行犯逮捕された。同月20日午後、那覇簡裁は、那覇地検の勾留請求を却下するが、地検が準抗告し、同日夜、那覇地裁が勾留を決定した。これに先立ち、②同日午後4時頃、沖縄県警は、沖縄防衛局職員に対する公務執行妨害と傷害の疑いで逮捕状を執行し、山城氏を再逮捕した。11月11日、山城氏は①と②の件で起訴され、翌12日、保釈請求が却下された(準抗告も棄却、また接見禁止決定に対する準抗告、特別抗告も棄却)。さらに山城氏は、③11月29日、名護市辺野古の新基地建設事業に対する威力業務妨害の疑いでまたしても逮捕され、12月20日、追起訴された。

山城氏は、以上の3件で「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(犯罪の嫌疑)と「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があるとされて勾留されている(刑訴法60条)。

しかし、まず、犯罪の嫌疑についていえば、以上の3件が、辺野古新基地建設断念とオスプレイ配備撤回を掲げたいわゆる「オール沖縄」の民意を表明する政治的表現行為として行われたことは明らかであり、このような憲法上の権利行為に「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」があるのは、その権利性を上回る優越的利益の侵害が認められた場合だけである。政治的表現行為の自由は、最大限尊重されなければならない。いずれの事件も抗議行動を阻止しようとする機動隊等との衝突で偶発的、不可避的に発生した可能性が高く、違法性の程度の極めて低いものばかりである。すなわち、①で切断されたのは価額2,000円相当の有刺鉄線1本であるにすぎない。②は、沖縄防衛局職員が、山城氏らに腕や肩をつかまれて揺さぶられるなどしたことで、右上肢打撲を負ったとして被害を届け出たものであり、任意の事情聴取を優先すべき軽微な事案である。そして③は、10か月も前のことであるが、1月下旬にキャンプ・シュワブのゲート前路上で、工事車両の進入を阻止するために、座り込んでは機動隊員に強制排除されていた非暴力の市民らが、座り込む代わりにコンクリートブロックを積み上げたのであり、車両進入の度にこれも難なく撤去されていた。実に機動隊が配備されたことで、沖縄防衛局の基地建設事業は推進されていたのである。つまり山城氏のしたことは、犯罪であると疑ってかかり、身体拘束できるような行為ではなかったのである。

百歩譲り、仮に嫌疑を認めたとしても、次に、情状事実は罪証隠滅の対象には含まれない、と考えるのが刑事訴訟法学の有力説である。②の件を除けば、山城氏はあえて事実自体を争おうとはしないだろう。しかも現在の山城氏は起訴後の勾留の状態にある。検察は公判維持のために必要な捜査を終えている。被告人の身体拘束は、裁判所への出頭を確保するための例外中の例外の手段でなければならない。もはや罪証隠滅のおそれを認めることはできない。以上の通り、山城氏を勾留する相当の理由は認められない。

法的に理由のない勾留は違法である。その上で付言すれば、自由刑の科されることの想定できない事案で、そもそも未決拘禁などすべきではない。また、山城氏は健康上の問題を抱えており、身体拘束の継続によって回復不可能な不利益を被るおそれがある。しかも犯罪の嫌疑ありとされたのは憲法上の権利行為であり、勾留の処分は萎縮効果をもつ。したがって比例原則に照らし、山城氏の70日間を超える勾留は相当ではない。以上に鑑みると、山城氏のこれ以上の勾留は「不当に長い拘禁」(刑訴法91条)であると解されねばならない。

山城氏の長期勾留は、従来から問題視されてきた日本の「人質司法」が、在日米軍基地をめぐる日本政府と沖縄県の対立の深まる中で、政治的に問題化したとみられる非常に憂慮すべき事態である。私たちは、刑事法研究者として、これを見過ごすことができない。山城氏を速やかに解放すべきである。

呼びかけ人5名を含む64名(2017年1月現在)の刑事法の大学教員による共同声明です。刑事法学者の見解なので、刑事法上も、博治さんの逮捕や長期勾留がどれほど不当かということが分かると思います。

■「山城氏らの行為は、沖縄の森と海、平和を守る憲法上の行為であり、不正ではない」

また、筆者が興味深く読んだのは、”博治さんの行為は”「辺野古新基地建設断念とオスプレイ配備撤回を掲げたいわゆる「オール沖縄」の民意を表明する政治的表現行為」”であり、”政治的表現行為の自由は、最大限尊重されなければならない”というくだりです。沖縄の民意は選挙でも何度もはっきりと示されているのに国はそれを無視し、大きな力でねじふせようとしています。どちらに大きな非があるのか、無残に切り倒された高江の森や、巨大なコンクリートブロックが落とされている辺野古の海を見れば明らかではないでしょうか。呼びかけ人のひとりである森川恭剛(琉球大学教授)さんは、2017年1月22日、沖縄タイムス「論壇」に「山城博治氏の拘留違法/刑事司法側に不正「解放」を」と題して以下のような文章を発表されました。

私は全国の刑事法研究者らに上述の緊急声明への賛同を呼びかけた。1月17日の2次集約までに59人(匿名4人)の賛同が得られ、5人に呼びかけ人と合わせ、64人の研究者が、山城氏の「解放」を求めている。「解放」と書くのは、山城氏らの逮捕・勾留が違法であり、起訴も取り消されねばならないと考えるからである。

なぜなら山城氏らがしたことは、犯罪であると疑ってかかるような行為ではなかったからである。たしかに沖縄防衛局の設置するフェンス上に張られた有刺鉄線を切ったなどと疑われている。それは刑法の器物損壊罪の条文に当てはまる行為であり、違法性が推定されるとする考え方がある。しかし、ここでの問題は、仮に非常に軽微な違法性を認めるとしても、それは、山城氏らを逮捕し、勾留するに足る「犯罪の嫌疑」なのかである。

私たちは病院で注射針を刺されるとき、傷害罪であり、私の体に対する違法行為であるとは考えない。招かざる者の体を押して出て行ってもらうことも違法ではない。同じように、山城氏らの行為は一見して違法ではなかった。それは沖縄の森と海、そして平和を守ろうとする憲法上の行為であり、不正ではなかった。

■悪性リンパ腫から復帰したばかりなのに、家族にも会えず、差し入れは1日1回

2000円程度の有刺鉄線を切った博治さんの勾留は、2017年2月17日時点で4か月に及んでいます。博治さんは悪性リンパ腫という難病から現場復帰したばかりで、体調には不安があります。勾留中の他のふたりと違って弁護士しか接見が出来ない状況が続いています。家族にも会えず、差し入れは1日1回。そのような状況に対して国際人権NGOアムネスティも声明を発表しました。こちらの記事を参照ください→アムネスティが即時釈放要求 山城さん長期勾留 国際運動を開始

日本:山城博治さんの速やかな釈放を求める

2017年1月27日

[日本支部声明]

国・地域:日本トピック:危機にある個人

沖縄平和運動センターの山城博治さんが公務執行妨害などの罪に問われ、昨年10月17日に逮捕されて以来100日を超える。アムネスティ・インターナショナル日本は、山城さんの勾留が長期に及んでいることに強い懸念を表明する。山城さんは直ちに釈放されるべきである。

山城さんは2016年10月17日、沖縄県の米軍北部訓練場において、有刺鉄線を1本切ったとして器物損壊容疑で逮捕された。同20日に勾留が決定、同時に公務執行妨害と傷害の容疑で再逮捕された。現在、山城さんは、3つの罪で逮捕・起訴されている。当局は、軽微な犯罪での逮捕・勾留・起訴を繰り返している。勾留のためには証拠隠滅の恐れがあるなど必要な要件はあるが、上記の罪の証拠に関して隠滅の可能性は極めて低く、その他の要件についても該当する理由はない。国際人権基準は、公判前に釈放することを前提としており、このような拘禁は身体の自由への侵害である。

さらに、山城さんは、家族とも面会できない状態が続いている。被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラルール)は、定期的に家族および友人の訪問を受けることが許されなければならないとしている(58条1項)。山城さんは、2015年の大病からは回復したものの体調が心配されており、家族の訪問は保障されるべきである。

山城さんは、沖縄における米軍基地反対運動のリーダーとして、政治信条に基づいて長年にわたって活動してきた。沖縄は、日本における米軍基地の7割が集中する地域であり、基地に関わる問題には、常に政治的な文脈が影響している。今回の逮捕と長期拘禁は、そうした影響の表れであって、日本政府による沖縄米軍基地反対運動の抑圧とも指摘されている。アムネスティ日本は、デモや座り込みを含む抗議行動を表現の自由として保障する義務を日本政府が負っていることを想起させ、山城さんの逮捕・拘禁が運動への委縮効果を生むおそれがあることに懸念を表明する。

国際社会は、政府による抑圧を防ぐため数々の努力を重ね、自由権規約や被拘禁者処遇最低基準規則、ならびに保護原則を作り上げてきた。日本政府は、こうした国際人権基準を遵守すべきである。

アムネスティは、表現、結社、集会の自由の権利を尊重し保障するよう日本政府に求めるとともに、国際人権基準に則って山城さんを速やかに釈放するよう検察当局に強く求める。また、アムネスティは、山城さんが釈放されるまでの間に家族に会えること、必要な医療を受けることができることを求め、国際的な行動を展開する。

以上

アムネスティ・インターナショナル日本

2017年1月27日

■国連との協議資格を取得しているIMADRなどが報告書「沈黙させられる沖縄の声」を発表

人権団体としてもうひとつ、「反差別国際運動 IMADR:The International Movement Against All Forms of Discrimination and Racism」が、この件で報告書を作成しています。部落解放同盟の呼びかけにより1988年に設立され、日本に基盤を持つ人権NGOとしては初めて国連との協議資格を取得しているIMADRが沖縄国際人権法研究会と共同で出した報告書「沈黙させられる沖縄の声」(2017年2月3日)です。こちらは添付資料に「辺野古・高江での暴力行為、拘束、逮捕に関するリスト(2014-17)がついた27ページに及ぶ報告書です。ぜひこちらをお読みください→ 共同報告書「沈黙させられる沖縄の声」

幸い、衆議院議員であり人権派弁護士、博治さんの高校の先輩・後輩という間柄の照屋寛徳さんが、接見禁止の続いている博治さんと弁護士として面会をすることが出来、そのときの様子をブログに綴って公開しておられます。「博治から博治へ」と題されたこちらのページもお読みください→ 「博治から博治へ」

■ワシントンポスト紙やアイリッシュタイムスも反対派リーダー長期勾留の記事を掲載

その他、鎌田慧さんや落合恵子さんらが呼びかけた山城博治さんらを救え!キャンペーンによる釈放を求める署名や、ワシントンポスト紙アイリッシュタイムスなど海外からも、反対派のリーダーが長期勾留されていることを取り上げた記事が出てきています。

辺野古の海上抗議行動の様子などを船の上から取材した記事は、近日中に掲載します。今しばらく、お待ちください。

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