沖縄・辺野古の米軍新基地建設反対、抗議船から見た冬の海の風景は

辺野古・大浦湾に出現したフロートは工事に抗議する人たちを阻むためのもの=撮影・松中みどり

2017年2月9日から12日まで、沖縄を訪れました。前回の記事「刑事法の大学教授ら64人・アムネスティなど、山城博治さんの釈放求め声明」に続く、沖縄報告の後半は、辺野古の米軍新基地(普天間代替施設)建設反対の抗議船から見た海の風景です。沖縄県名護市の辺野古・大浦湾では、新基地建設のため、汚濁防止膜の海底基礎となる大型コンクリートブロックが投下されているのです。工事に反対する人たちは抗議船やカヌーを出して海上での抗議活動をおこなっていて、今回はその抗議船に同乗したというわけです。2月11日(祝)は、最低気温11℃、雨模様。風が常に吹いている船の上は、もっと寒く感じられました。途中から雨が降ってきて、私の初めての船上抗議行動は半日で終了でした。キャンプシュワブのゲート前に座り込んで、機動隊員に排除されるときも、相手の数や肉体的な強健さに圧倒されました。しかし、海の上に浮かぶひとり乗りのカヌーと、海上保安庁のゴムボートや工事のための作業船の重量感の差は、本当に大きくて、海上抗議行動をおこなっている人たちに頭が下がりました。抗議船上から撮影した、冬の辺野古の海の様子を動画でご覧ください。

沖縄・辺野古の海を埋め立てて新しい米軍基地を建設する件について、知っている人はよく知っているでしょう。でも、私も含め復習が必要な人も多いと思います。頭の中を整理する意味で、少し経緯を振り返ってみましょう。

そもそも、沖縄県宜野湾市にある米軍海兵隊の基地「普天間飛行場」の返還を求める運動がありました。住宅密集地に位置しているため「世界一危険な基地」と言われている普天間飛行場は、1996年日米両政府によって返還合意にいたりますが(SACO合意)、その条件はヘリポートを含む代替施設の建設です。移設先として名護市キャンプシュワブの辺野古沖が浮上、基地建設計画が出来ました。鳩山政権の時には沖縄県外移設を模索したことが記憶に新しいですが、現在安倍政権は「移転先は辺野古以外にはない」という強硬な姿勢をとっています。

長島と平島。辺野古崎近くの無人島。日豪渡り鳥条約の保護鳥、エリグロアジサシが営巣します。ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)ホームページより

長島と平島。辺野古崎近くの無人島。日豪渡り鳥条約の保護鳥、エリグロアジサシが営巣します。ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)ホームページより

日米の政府は、騒音問題や、墜落の不安を抱えて暮す普天間飛行場周辺の人々を盾に取って「普天間の危険性を除去して欲しければ、辺野古に新基地を作るしかない」と言っているのです。この構図は同じくSACO合意で示された「北部訓練場の半分を返還するから、東村高江に新しいヘリパッドを作らせろ」と迫って工事を強行した昨年の騒動とまったく同じです。つまり、「古くなって使いづらい施設は返すから、新しくて使いやすい施設を作ってよこせ」というわけです。もともと沖縄の人々の土地を戦後の混乱期に収容し、返還するときには見返りを要求するという理不尽なやり方は承服できるものではありません。しかも、新しい施設は、上の写真のような美しい海を埋め立てて作られます。この沖縄本島沿岸の辺野古・大浦湾は、アオサンゴ群集が生息する世界の北限で、国際的に希少性が認められた海域なのです。絶滅のおそれのある野生生物のひとつ、ジュゴンの餌場でもあります。環境保護や生物多様性保全の意味でも、この海に新基地を作ることはナンセンスとしか言えません。これを受けて、公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は、2017年2月10日、「辺野古・大浦湾の埋立て工事中止と計画見直しに関する緊急要請」を発表しました。その文章の後半にはこう書かれています。

現在、この地域ですすめられている米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設に伴う辺野古新基地(普天間代替施設)建設計画は、これら重要な生態系を劣化、消失させ、希少種の絶滅を引き起こす懸念があり、WWFジャパンも計画の見直しを求める要請を重ねてきました。

そうした中で今回、本格的埋め立て工事に向け、汚濁防止膜の設置と、そのためのコンクリートブロックの海底への投入等の作業が着工されたことは、国際的な観点から生物多様性の保全に取り組む団体としては、大変遺憾に思います。

自然や野生生物は、限りあるものであり、同時に一度失われれば、取り戻すことのできないものでもあります。南西諸島の豊かな自然(奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島)の、世界自然遺産への登録への道が見え始めたこの時こそ、その自然の重要な要素を構成する辺野古・大浦湾の多様な姿と生態系の機能を維持する決断を下すことは、国際社会と未来に対する日本の責任を果たすことでもあると考えます。

WWFジャパンはここに改めて、対象海域の生物多様性保全の観点から、直ちに現在進められている工事を中止するとともに、関係省庁はもとより、地方自治体や地元関係者の意見を踏まえた上で、十分な予防的措置の検討と、現在進められている基地計画の見直しを要請いたします。

大浦湾のチリビシで発見された、アオサンゴ群集。ジュゴン保護キャンペーンセンター

大浦湾のチリビシで発見された、アオサンゴ群集。ジュゴン保護キャンペーンセンター(SDCC)ホームページより

2016年12月、この美しい海に新基地を作らせたくない、少しでも作業を遅らせるための行動をしたいと環境に優しいカヌーで海に漕ぎ出すひとたちがいます。カヌーチーム辺野古ぶるーのメンバーです。どんな思いで海に出るのか、2017年最初のブログ記事には「ついにまた」と題してこんな風に書かれていました。

辺野古の浜には、この場所で初日の出を拝もうと多くの人が集まりました。今年こそは基地建設を止め、穏やかな年になるようにとの願いを込めて。その願いに応えるような、小春日和の日々が続いていました。
しかし、新年早々に、残念ながらその平穏を破り海上作業が再開されてしまいました。
4日朝から辺野古ぶるーは漕ぎ初めで集っていました。もちろん、作業再開されるかもしれないのでその監視と抗議と非暴力直接阻止のために。
午前中大浦湾のレジャービーチでは浜にフロートを並べる作業が行われました。船団と辺野古ぶるーは、その都度抗議の声をあげ続けました。

中略

4時過ぎに浮き桟橋(作業船や海保の船を係留するため)を設置する予定の場所に大型クレーンが再び現れました。
クレーンで釣り下ろされた三隻の作業船がオイルフェンスをひっぱりはじめました。
辺野古ぶるーと船団は、必死に阻止し、抗議しましたが、それまでおとなしかった海保が猛スピードで海上を走り回り冬なのに海中に墜ちている人をすぐに引き上げようともせずそのすぐ横を暴走していきます。

仲間が次々と危険にさらされていくのを見てああ、またはじまってしまったんだな…と、やるせない気持ちが再びわき起こってきます。
何のための作業だったのかと言うと、浮き桟橋を設置するのを私たちにじゃまされない為にその周りをオイルフェンスで囲うというもの。

つまり辺野古ぶるーや船団の海上行動がなければすぐに浮き桟橋を設置できるのにその前に1工程作業を追加しなければならなかったのです。

作業は始まってしまいましたが、初日での浮き桟橋の設置は阻止できたということです。
地道な行動の成果です!

しかし、逆もまた然り
戦争で人を殺す行為も、ほんの少しの作業の積み重ねの先にあるといえます。

ひとつひとつそれらの作業を止め遅らせる事でこの基地建設をストップさせなければ海を埋め、人の心を埋め、その上に戦争への道を造らせないために。

2017年2月11日、雨の降り始めた辺野古・大浦湾=撮影・松中みどり

2017年2月11日、雨の降り始めた辺野古・大浦湾=撮影・松中みどり

辺野古の海の工事は、実はしばらく止まっていました。仲井真前知事が2013年12月に国からの埋め立て申請を承認。その後の知事選で辺野古移設反対を掲げて初当選した翁長新知事が、2015年10月に「承認には法律的な瑕疵がある」として、承認を取り消します。国は翌11月に県を提訴、2016年3月に両者が和解。しばらく協議が続いている間、海の平和は保たれていました。(その間に高江のヘリパッド工事が強行され、やんばるの森が削られていたのですが)しかし、2016年12月20日、最高裁で翁長氏の取り消し処分を違法とする判決が確定。翁長知事は12月26日「承認取り消し処分」を取り消さざるを得なくなりました。これを受けての上記ブログなのです。辺野古の海を守りたいとカヌーを漕ぐ辺野古ぶるーのメンバーは1月早々に海に出て、海上工事を始めるための準備段階と言える作業を遅らせたというわけです。

ゲート前の座り込みも、高江での抗議行動も、辺野古の海での活動も、想いは同じだと思います。1分1秒でも工事を遅らせたい。何か少しでも基地建設反対、戦争反対の声を伝えたい。そのために寒い海に出て、圧倒的な力の差を見ても挫けずカヌーを漕ぎ、抗議船の上から呼びかけ続けるのです。

2017年2月11日、筆者の乗った抗議船にずっとついてまわっていた海保のゴムボート=撮影・松中みどり

2017年2月11日、筆者の乗った抗議船にずっとついてまわっていた海保のゴムボート=撮影・松中みどり

私が今回の沖縄訪問で、抗議船に乗って海の抗議行動に参加したいと思った理由はふたつあります。海が大好き、フィリピンやモルディブの海で泳いだりシュノーケルをしたりするのが趣味なので、美しいと評判の辺野古・大浦湾の海を見たかったことがひとつ。もうひとつの理由は、沖縄を訪れるようになって、たくさん新しい友人が出来ましたが、その中には海上での抗議活動に参加している人たちがいます。夏の頃はともかく、沖縄の1月2月が思いの他寒くて、風が強く、雨の日も多いことを経験してみると、そんなときにもカヌーを漕ぎだす友人たちのことがとても心配でした。作業を少しでも遅らせたいと冷たい海に出るカヌーは手漕ぎのひとり乗りです。70代の人、カヌーに乗り始めて間のない人、華奢で力の弱そうな女性もいます。早朝に集まって、海の様子を確認し、警報などが出ているとき以外は船長の判断で海に出る人たち。彼らの目に写っている風景を、私も船の上から見たいと思いました。

2017年2月11日辺野古・大浦湾=撮影・松中みどり

2017年2月11日辺野古・大浦湾=撮影・松中みどり

2月の海は寒く、天候も荒れがちです。2月10日は波浪警報が出ていたため、海に出るのを断念。それなのに、海中にコンクリートブロックを投入する作業は続行されました。高江の時と同様、強硬な姿勢に胸が痛みます。作業に関わる人たちの人権は守られているのでしょうか。翌2月11日、初めて海に出ましたが、祝日のためか雨と風の残る天候のせいか、この日は工事は行われませんでした。かえってゆっくりと、様々に工夫をしてカヌーの侵入を拒否するフロートの様子や、美しい海の中を観察することが出来ました。何枚も着込んで、使い捨てカイロを貼って、それでもなお寒い海の上。一旦事があれば、海の中に投げ出されることもあるカヌーチームのメンバーを思いました。大切な友人たちが、ここまでして守りたい海。私たち本土の人間が何も知らないまま、沖縄に基地負担を押し付け続けていいとはとても言えません。自分のことではないから。遠い小さな島のことだから。そううそぶいて誰かの犠牲の上に暮していると、ある日しっぺ返しが来ると思います。

抗議船の船長でもあり、ダイビングチーム・レインボーの代表でもある牧志さんの、水中写真が2月11日の沖縄タイムスに載っていましたが、抗議する市民らの侵入を防ぐフロートを立てるため重りの役目を果たす鉄板はむきだしで、海中の「凶器」のようだと表現されました。→辺野古海中で揺れる「凶器」 むき出しの鉄板新型フロート(沖縄タイムス2017年2月11日)

辺野古・大浦湾に出現したフロートは工事に抗議する人たちを阻むためのもの=撮影・松中みどり

辺野古・大浦湾に出現したフロートは工事に抗議する人たちを阻むためのもの=撮影・松中みどり

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アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、沖縄で今起きていることを知るために参考になるページの紹介と、ジャーナリストでドキュメンタリー映像作家、映画監督の三上智恵さんの新作「標的の島 風かたか」についてお知らせします。

沖縄の今を知るために、まずは地元の新聞、沖縄タイムスと琉球新報のページをご覧ください。某作家から「つぶさないといけない」などの暴言のあった沖縄の新聞2紙は、沖縄のことを心にかけ、思いを寄せている本土の人間にとっては頼もしい新聞です。今回、抗議船にはタイムスと新報の記者の方ふたりと一緒に乗りました。辺野古や高江の座り込み現場でもよく見かける二紙の記者たちは、きちんと現場を見て記事を書いていると思います。

◆沖縄タイムス http://www.okinawatimes.co.jp/

◆琉球新報 http://ryukyushimpo.jp/

カヌーチーム辺野古ぶるーのページには、カヌー教室参加者募集のお知らせもあります。興味のある方はぜひ。

◆辺野古ぶるーのブログ http://henokoblue.wixsite.com/henokoblue

今も座り込みなど抗議活動は続いています。東村高江のことを知るにはまずこちらのページをご覧ください。

◆やんばる東村 高江の現状 http://takae.ti-da.net/

残念ながら、沖縄の基地問題に関してはいろいろな言説が飛び交うネット状況になっていて、ちょっと発言すると酷い言いがかりをつけられることも多い昨今です。事実に反することがまことしやかに語られる時、私たちはまず、「本当にそうなの?」と立ち止まって調べたり考えたり判断したりすることが必要です。そのときにとても役に立つページがこちらです。

◆それってどうなの?沖縄の基地の話。 http://okidemaproject.blogspot.jp/

沖縄の基本、特に基地に関しては分かりやすく、役に立つ図表などが載っているのが、沖縄県のホームページです。

◆沖縄県公式ホームページ http://www.pref.okinawa.jp/index.html

今回、写真をお借りしたのはこちらのページです。美しい辺野古・大浦湾の写真がリンクフリー。勉強会やいろいろな活動の報告も載っています。

◆ジュゴン保護キャンペーン http://www.sdcc.jp/top.html

2月に「辺野古・大浦湾の埋立て工事中止と計画見直しに関する緊急要請」を出した環境保全団体WWFのページはこちらです。地球温暖化を防ぎ、野生動物を守り、森や海を守ることに興味がある方はぜひ。

◆WWFホームページ https://www.wwf.or.jp/

憲法と社会問題を考えるオピニオンウエブマガジン、「マガジン9」には、沖縄基地に関する読み応えのある連載記事がたくさんあります。「沖縄タイムス・新沖縄通信別冊」、映画監督三上智恵さんの「沖縄撮影日記」は超おすすめです。

◆マガジン9 http://www.magazine9.jp/

さて、その三上智恵さんの新作映画「標的の島 風(かじ)かたか」がいよいよ完成。3月11日沖縄を皮切りに各地で上映が予定されています。まずはこちらの予告編をご覧ください。

これまでも、三上監督の「標的の村」「戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)」には胸を打たれ、涙なしには見ることが出来ませんでした。これらのドキュメンタリー映画を見て、辺野古に行ってみよう、高江に足を運ぼうと思った人たちが全国にたくさんいます。その三上さんと、今回の沖縄訪問である共通の友人のお宅でご一緒しました。編集作業がいよいよ最終段階。新作の試写も終わっている2月11日にまだ作業が続いた理由は、2016年年末のオスプレイ墜落事故や、今年に入ってのまさかの埋め立て工事準備再開など、あまりに多くのことが立て続けに起きたために、映画のエンディングを変えるという大きなチャレンジをしていたからです。私の念願だった三上さんへのプレゼント。パンパンに張った腕や首を、特技にしているアロママッサージでほぐしました。ものすごく凝っているのに、痛みをかんじないほど固まった体に、彼女が背負っている重圧を感じさせられました。

新作映画のタイトルにもなった「風(かじ)かたか」は、風よけとか防波堤という意味です。。2016年6月19日、沖縄県那覇市でおこなわれた米軍属女性暴行殺人事件の被害者を追悼する県民大会での、稲嶺進名護市長の言葉からとられました。「我々は、また、命を救う“風かたか”になれなかった」。前の映画「標的の村」では、標的の村は東村高江でしたが、今回の映画で描かれる「標的の島」は沖縄ではなく、日本列島のことだと三上さんは言います。沖縄の人たちが反対している辺野古や高江と、新しくミサイル基地が作られ、自衛隊配備が進行している宮古島、石垣島。このことの意味を、新しい映画は描いています。ホームページにはこう書いてあります。

それは日本列島と南西諸島を防波堤として中国を軍事的に封じ込めるアメリカの戦略「エアシーバトル構想」の一環であり、日本を守るためではない。基地があれば標的になる、軍隊は市民の命を守らない―沖縄戦で歴史が証明したことだ。だからこそ、この抵抗は止まない。この国は、今、何を失おうとしているのか。映画は、伝えきれない現実を観るものに突きつける。

アイデアニュースでは、三上智恵さんの新しいドキュメンタリー映画を応援し、特別鑑賞券を販売する予定です。詳しくは次回の映画紹介記事をお待ちください。

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