「良くないと思うことに何かを提示するのは演劇と同じ」、曽世海司インタビュー(下)

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

初舞台から20年を経た男優集団スタジオライフの曽世海司さんのインタビューの続きです。後半部分は、サイレントスタンディングの活動や、曽世さん自身のこれまでとこれからについてなど、思いを率直に語ってくださった内容を紹介します。※アイデアニュース有料会員3名さまに、曽世海司さんのサイン色紙と写真1カットをプレゼントします。また、6月の劇団スタジオライフ公演に、アイデアニュース有料会員20名さま(ペア10組)を無料ご招待します。詳しくはこの記事の末尾をご覧ください。

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

『エッグ・スタンド』の公演にあたり、筆者はたまたま劇団フェイスブックページで、劇団員の方々が街頭に立つ写真を見つけました。そして、こんな言葉が目に留まりました。

何もかもきわどいところにある

愛も

憎しみも

生も死も

演劇集団として、当たり前に世の中との関わりを持ち続けたいと思っています。

何枚か掲載されていた写真の中で、劇団員の一人、曽世海司さんの立ち姿が特に印象に残りました。明確な意思表示と、さわやかで自然体な佇まい。これが、劇団スタジオライフが「当たり前に世の中との関わりを持ち続け」る姿勢を示しているのかなと感じた一枚でした。スタジオライフが行うサイレントスタンディングは、演出家や俳優らで作る「安保法制と安倍政権の暴走を許さない演劇人・舞台表現者の会」に賛同した活動。同会は、安全保障関連法が成立した2015年9月に発足し、毎月19日に各団体や有志が最寄りの駅で、サイレントスタンディングを実施しています。賛同団体は64団体、賛同人は832名(参考:同会公式ウェブサイト)。

「安保法制と安倍政権の暴走を許さない演劇人・舞台表現者の会」に賛同してスタジオライフが続けているサイレントスタンディング=写真提供・スタジオライフ

「安保法制と安倍政権の暴走を許さない演劇人・舞台表現者の会」に賛同してスタジオライフが続けているサイレントスタンディング=写真提供・スタジオライフ

■演劇人がこんなことをしなくて済むならそれに越したことはない

――サイレントスタンディングの活動について教えてください。

この活動に関しては、演劇人がこんなことをしなくて済むならそれに越したことはない、と多分誰もが思っていると思います。演劇は、世の中と結び付いたところから発生しているものですから、良くないと思うことに対して何かを提示することは、僕たちはこれまで演劇活動の中でずっとしてきています。それは直接的ではないにしろ、何かを感じていただく材料を提示することとして。ですから、何か現実的に声を発しないといけない状況があれば、演劇と同じように何かメッセージを掲げる、という考え方は通じるものがあって共感できます。

主催は日本劇団協議会の実行委員の方々。そこにスタジオライフ、特に座長の藤原(啓児)が賛同して、毎月19日に最寄りの駅にプラカードを持って立っています。藤原は欠かさず参加していますが、僕自身は行ける時に行っています。サイレントスタンディングはスタジオライフの活動として賛同して参加していますが、そこには曽世海司という俳優と、僕は本名を西村雅彦と言いますが、西村がミックスされた状態で立っている感じがします。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、曽世さんが演劇に身を置いている理由や、観客が求めていることに対する曽世さんの捉え方などについてうかがった、インタビューの全文を掲載しています。

<インタビュー「下」有料会員限定部分の小見出し>

■自分の活動を仕事とは捉えていなくて、生き様や人生と考えています

■表現を制限され、演劇も出来なくなる時代が来てしまうのは嫌です

■現実との落差を感じることも、演劇が提示しているメッセージの一つ

■古今東西のあらゆるものを題材に、いい意味で節操がない劇団であり続けたい

<劇団スタジオライフ 今後の公演情報>
スタジオライフ公演『THE SMALL POPPIES ~スモール・ポピーズ~』
【東京公演】2017年6月15日(木)~7月2日(日) 新宿御苑 シアターサンモール
1980年代、オーストラリア、アデレード。小学校入学を前にしたクリントとテオとレップの物語。クリントは母子家庭、ママは恋人のエディと一緒になりたいけれど面白くないクリント。テオの一家はギリシャからの移民家族。通じない言葉の中で生き抜こうとしている。レップはカンボジアからの難民。姉のノイとたった2人、移民局の世話でアデレードに到着したばかり。みんな5歳の子供たち、彼からは新しい世界の入り口の前で不安や混沌の中にいる。5歳なりの親との葛藤、ウォルシュ先生との触れ合い、芽生える友情…。これといった強烈なストーリーはないが、数々のスケッチから「人と一緒にいるということ」が見えてくるDAVID HOLMAN渾身の戯曲。それぞれの役者が、5歳の子供役と親や先生など大人役を切り換えながら演じます。役者たちにとって面白いと同時に恐い作品です。(公式ページより)
公式ページ http://www.studio-life.com/stage/the_small_poppies2017/

<関連サイト>
劇団スタジオライフ http://www.studio-life.com/
劇団スタジオライフ公式ツィッター https://twitter.com/_studiolife_
スタジオライフ公式facebookページ https://www.facebook.com/studiolife1985/

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※抽選でアイデアニュース有料会員3名さまに、曽世海司さんのサイン色紙と写真1カットをプレゼントします。有料会員がログインすると、この記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは5月15日(月)です。

※抽選で有料会員5組10名様を、スタジオライフ公演『THE SMALL POPPIES ~スモール・ポピーズ~』公演のうち6月16日(金)19時公演(kangarooチーム)と6月20日(火)19時公演(koalaチーム)に、無料ご招待します(合計10組20名様ご招待)。有料会員がログインすると、この記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。ご招待の応募締め切りは5月15日(月)です。当選された方には、5月16日にメールでご連絡し、招待券(当日引換券)を郵送します。

※ここから有料会員限定部分です。

■自分の活動を仕事とは捉えていなくて、生き様や人生と考えています

――個人としての意思が乗っているということですか。

僕は、自分の活動を仕事とは捉えていなくて、生き様や人生と考えています。ですから、サイレントスタンディングも人生の一部という感覚で、演劇活動の延長とは考えていないですね。

実際に駅前で立っていると、通行人の方が僕らのところにやってきて「がんばってね」と言ってくださることがあります。それに、ちらっとこちらを見て、少しだけ会釈をして行かれる方も結構いらっしゃるんですよ。心の中で「がんばって」と言ってくださっていると理解しています。

――行動に踏み出せないけれど、気持ちが重なる部分があると感じるからでしょうか。

そうですね。実際にこういう行動は誰もがやれるものではないし、やるものではないのかもしれない。行動まで出られなくても、賛同してくださる方や、何かしら通じるものを感じていただける方がいれば、僕たちがやっている意味はあると思います。

――ファンの方々からの見られ方は意識されますか?

お客様の考え方それぞれあると思いますので、お考えにそぐわない場合もあるだろうとは思います。ですが今はそれよりも、という気持ちの方が大きいです。プラカードには反対の意思をはっきりと示した文言を掲げていますが、僕は現政権がすべてダメだとは言いたくなくて、国民の過半数が納得できる政策に転換してくれたら、別に現政権でもいい。国民を幸せにするために政治をしてください、というメッセージを持っています。

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

■表現を制限され、演劇も出来なくなる時代が来てしまうのは嫌です

――メッセージはどのように決められているのですか?

(藤原啓児さん回答)協議会で話し合い、皆で考えて、試行錯誤しながら言葉を選んでいます。

――街中で行き交う方々は、そもそも好意的に舞台を観に来られているファンの方々とはまったく違って、演劇自体よく分からない、いろんな考え方の方々がいる中で、身をさらして静かに立つという感覚は、舞台に立つ感覚とはまったく違うものですか?

立っている方々にはそれぞれ、少しずつ違う形の思いがあると思います。僕は劇場に足を運んでくださるお客様、特に『エッグ・スタンド』に来てくださる方々は、おそらく似たようなマインドをお持ちかなと思うんですね。戦争はしてほしくないし、皆が幸せでいられたらいいのに、と。街中では、劇場になかなか足を向けることができない方々に向けてお伝えする効果はあると思っています。

じつはプラカードのメッセージの下に「演劇人・舞台表現者の会」と書いてあります。それは演劇人が活動していると掲げることで、「演劇人も戦争を反対しなければいけないのか。それは何でだろう」と思ってくださるだけで十分だと僕は思うんです。

――なるほど。そういう効果があるのですね。

サイレントスタンディングを演劇人がやることには意味があると思ったんです。どうして演劇人が戦争に反対するのか。それは、表現を制限されることが降りかかる恐れがあるから。それで演劇も出来なくなる時代が来てしまうのは嫌です、と僕たちが意思を示していることが、少しでも伝わればいいと思っています。そこまで気づかない方々が世の中にたくさんいるように思いますから。実際、うちの若い劇団員にも、なぜ演劇人がサイレントスタンディングを行うのかの意図が、まだ伝わりきっていない部分があります。

表現活動は、たった70年ほど前に制限されていた時代があった。当時を知っている方は、あんな時代が来るのはいやだとおっしゃいますが、知らない世代はそれがどれだけ怖いことなのか、想像つかない。今は特に考えなくても済む状態の方もたくさんいると思いますが、何か不自由な時代になってしまったと実感してからではもう遅いので、その前に歯止めかけませんかということです。

――そこには想像力が必要。

国会前に行ってデモに参加するのも、根本は同じことだと思います。そこで声を出されている方々は勇気があってすごい、と心から思うんです。演劇人は声を出す訓練を積んでいる分、普通の人より大きな声は出せますが、スタジオライフでは、その手段は取らずにサイレントスタンディングを行っている。それは、受け手側の想像力を喚起させるという点で意味があると思い、僕はこの趣旨に賛同したいと思いました。

――サイレントスタンディングである理由がそこにある。

これで国会前に演劇人がデモに行こうという風になったら、僕は行っているかどうか分からない。あそこで声を上げる石田純一さんはやっぱりカッコイイと思いますし、声を上げている方々に対してリスペクトはしているのですが、自分がやるべき活動と考えた時に、サイレントスタンディングの方に寄り添うのがちょうどいいと思っています。

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

■現実との落差を感じることも、演劇が提示しているメッセージの一つ

――インタビューの前半は演じること、後半は現実の世の中におけるご活動についてお話を聞かせていただきましたが、曽世さんから見て現実と真実は今、どういう風に見えていますか?

僕には真実は分かりませんし、きっと皆、探究して生きていくのだろうと思います。今の世の中で感じるのは、覆い隠されているものが多いということ。それは政治にしても企業にしてもそうですが、本当のことを言うと崩壊するから隠す、という風潮が当たり前のように蔓延しているのが嫌ですね。それが現実社会に見え隠れしている。だから僕は、演劇に身を置いているのかもしれない。

――それはどういうことですか?

演劇は心の本当のところを描いていて、舞台の上では自由。劇場空間では抑え込まれることはないですから。抑圧された現実から解放されたい、と僕たちやる側もそうですが、もしかして見に来てくださる方々も、そんな瞬間を求めて劇場にいるのかもしれないですね。

――その一方で、観劇後は終わってしまったはかなさと、また現実に戻らなければいけないというがっかりした気分、観劇中の高揚感との落差も私は割と感じてしまいます。ですが『エッグ・スタンド』を観て、スタジオライフさんの作品はその開きが緩和されて、すっと日常へ送り返してくださるようにも感じます。

演出の倉田の中で、不幸にも命を落としていった人たちを登場させる物語でも、その魂を浄化させてあげたい気持ちはとても強くあると感じます。そして作品として、浄化させて終わる。ですが、お客様の感じ方はどちらでもいいんです。作り手としてはとても残酷なことですが、現実に戻った時に、今まで夢の中の世界にいたけれど現実は違うと落差を感じることも、演劇が提示しているメッセージの一つなのかもしれない。

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

■古今東西のあらゆるものを題材に、いい意味で節操がない劇団であり続けたい

――そうなのですか。

それが原動力につながることもありますから。逆に現実の憂さを忘れて劇場空間に来ていただいて、心晴れやかになって帰っていただけるのも有難いです。受け止め方は様々ですから、どちらでもいいと思っています。うちの劇団は、作品選びに節操がないんです(笑)。萩尾望都先生からシェークスピア、東野圭吾先生、古今東西ありとあらゆるものを題材にしているので。その節操のなさが僕は好きですし、いい意味で節操がない劇団であり続けたいと皆、自負していると思います。その方がいろんなメッセージを発しやすいですし、いろんなものを感じていただける方がいいなと思います。提示したがりの人間の集まりですね(笑)。

――曽世さんご自身の歩みとしてはいかがですか?

いろんなバリエーションがあるのが好きですね。僕自身も演劇をやり、落語もトークライブもサイレントスタンディングもやっていますし、パラレルな道が同時進行しているような感じです。

――それは年齢を重ねて、今になって感じられていることですか。

そうですね。整理されてきた感じはあります。まだ他にやりたいことがいっぱいありますし、今もバラバラなことをやっていますが、ふと気が付いたら一本の大きな道の上で同じ方向に向かっているような気がします。

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

曽世海司さん=撮影・桝郷春美

※抽選で有料会員3名さまに曽世海司さんのサイン色紙と写真をプレゼントします。有料会員がログインすると、この記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは5月15日(月)です。

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“「良くないと思うことに何かを提示するのは演劇と同じ」、曽世海司インタビュー(下)” への 2 件のフィードバック

  1. sachipon より:

    曽世さんがサイレントスタンディングされているのはFacebookで知っていましたが、演劇人だからこその理由がある事を知れて、今回取り上げていただいて良かったです。エッグ・スタンド素晴らしかったです。大きな世の中の流れの中に、ひとり、ひとり必死で強く生きる姿に感動しました。こういうものが観れなくなるかもしれないというのは、嫌ですね。スタジオライフさんの舞台はいつも必ず心に何かを残して語りたくなります。次の公演も楽しみです。

  2. KatieM より:

    曽世さんは劇団のトークショーなどで司会として聞き手側にまわることが多いので、今回ご自身のお芝居や演劇の在り方についてのお話をたっぷり伺えてとても嬉しかったです。インタビュアーの方の聞き出す力の素晴らしさも感じたとても読み応えのあるインタビューでした!

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