『標的の島 風かたか』の三上智恵さんと『テロリストは僕だった』の大矢英代さんの共同監督作品『沖縄スパイ戦史』の試写に行きました。軍隊は住民を守らない。少年でさえ利用し尽くして、戦わせる……。“裏の沖縄戦”を描いた新たな傑作の誕生です。
■少年ゲリラ兵 ~護郷隊~
映画は、あどけない顔をした沖縄の少年たちが、ゲリラ戦を担う「護郷隊」の一員として過酷な任務を果たしていたことを伝えます。夜の闇にまぎれて敵の食糧庫を襲ったり、日本軍が開発した特殊な武器で爆破をおこなったり、敵を殺したり。10代半ばの少年たちおよそ1000人を率いたのは、有名な「陸軍中野学校」でスパイ教育を受けた青年将校たちでした。なぜ少年を投入したのか。火器も兵力も圧倒的に足りない中、地理に詳しい地元民を使うことくらいしか手段が残されていなかったからです。少年ならば、軍人には見えない。ゲリラ戦に最適だったのです。160名が戦死、生き残った人も、遺族も、PTSDに苦しみ抜きます。
■軍命による強制移住 ~マラリア地獄~
映画はまた、同じく陸軍中野学校出身の工作員によって、波照間島の住民が丸ごと、マラリア有病地帯である西表島に移住させられたことを伝えます。米軍が上陸せず、空襲や戦闘での死者はひとりも出ていない波照間島。しかし、島の住民の3分の1にあたる500名は、マラリアにかかって命を落としたのです。マラリアの島で亡くなった人の遺体は浜一面に並んだといいます。
なぜ強制移住は行われたのか? 住民たちの安全確保が目的ではなく、そこには、全く別の理由が存在していたのでした……。
■住民虐殺 ~スパイリスト~
それから映画は、「裏の沖縄戦」の中でも最も深い闇を伝えます。住民が敵に捕まればスパイになるという恐怖に支配されていた日本軍。敗残兵となった日本軍人たちは、敵と接触して情報をもらす恐れのある住民の「スパイリスト」を作り、順に殺していったという証言があります。
その中で、住民同士が監視しあい、密告しあった過去が明かされていきます。軍の暴力が、憎しみと恐怖の連鎖を生み、人々に疑心暗鬼を生じさせ、今でも言葉にできないほどの傷を残していました。
こちらは公式ページに掲載されている『沖縄スパイ戦史』劇場予告篇の動画です。
■2人の監督の決意
映画を通して“沖縄基地問題”を全国に知らしめた三上智恵監督の原点は、沖縄戦でした。「今の状況に対抗するためには、沖縄戦から直接処方箋をとってくるしかないと思った」という試写会での挨拶が心に残っています。
沖縄戦を、「護郷隊」「マラリア地獄」「スパイ虐殺」という視点で見なおすことで、自衛隊=軍隊が南西諸島に増強配備されている今の状況の危うさが浮き彫りになりました。
そこに、学生時代から波照間島で戦争被害のドキュメンタリーを撮っていた大矢英代監督の「マラリア地獄を生き抜いた人の教訓を伝えなければ、同じ過ちが繰り返される」という、ジャーナリストとしての使命感が加わりました。
戦争への道を繰り返さないためにも、多くの人に観てもらいたい映画です。カンヒザクラが咲くエンディングまで、あっという間の114分でした。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、映画『沖縄スパイ戦史』の画像8カットと、テレビや新聞に「護郷隊」が紹介されているものをまとめて紹介しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■映画『沖縄スパイ戦史』より(画像8カット)
■映画『沖縄スパイ戦史』チラシ画像
■メディアに現れた護郷隊 ~テレビ・ウエブサイト~
■メディアに現れた護郷隊 ~本~
■メディアに現れた護郷隊 ~新聞~
■子どもを使ったテロ ~現代の戦争~
<映画『沖縄スパイ戦史』>
7月21日(土)より沖縄・桜坂劇場、7月28日(土)より東京・ポレポレ東中野、8月4日(土)より大阪・第七藝術劇場、8月8日(木)より広島・横川シネマ、8月11日(土)より神奈川・横浜シネマ・ジャック&ベティ、ほか全国で順次公開。
映画公式HP
http://www.spy-senshi.com/
映画公式FB
https://www.facebook.com/spy.senshi
映画公式ツイッター
https://twitter.com/spy_senshi
監督:三上智恵、大矢英代
プロデューサー:橋本佳子、木下繁貴
撮影:平田 守
編集:鈴尾啓太
監督補:比嘉真人
音楽:勝井祐二
協力:琉球新報社、沖縄タイムス社
製作協力:沖縄記録映画製作を応援する会
製作:DOCUMENTARY JAPAN、東風、三上智恵、大矢英代
配給:東風
2018/日本/DCP/114分/ドキュメンタリー
問い合わせ:合同会社 東風
TEL:03-5919-1542 FAX:03-5919-1543
MAIL:info☆tongpoo-films.jp (☆を@に変えてください)
<関連リンク>
三上智恵の沖縄撮影日記 マガジン9
http://www.magazine9.jp/category/article/mikami/
大矢英代 Hanayo Oya’s Website
https://hanayooya.themedia.jp/
- ミュージカル『FLOWER DRUM SONG』、古屋敬多・桜井玲香がW主演で4月上演 2022年1月21日
- 「世界にひとつだけ、特別なんだよと」、『Music is Beautiful』當間ローズ(上) 2022年1月14日
- 「『FUNNY BUNNY』撮影時に、飯塚健監督が、頼もしくなったと」、岡山天音(下) 2022年1月6日
- 「深め、新しいものが足される」『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』、竹内將人(上) 2022年11月21日
- 『ザ・ビューティフル・ゲーム』 、全キャスト発表 2022年11月4日
- 珠城りょう、宝塚歌劇団退団後の初主演舞台『マヌエラ』2023年1月に東京・大阪 2022年8月25日
- 「優柔不断さに、リアリティが」『東京ラブストーリー』、笹本玲奈・夢咲ねね(上) 2022年11月19日
- 「女性って、強くてかっこいいんだと」、『ジェーン・エア』、屋比久知奈(上) 2022年11月16日
- 『ザ・ビューティフル・ゲーム』 、全キャスト発表 2022年11月4日
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■映画『沖縄スパイ戦史』より(画像8カット)
■映画『沖縄スパイ戦史』チラシ画像
■メディアに現れた護郷隊 ~テレビ・ウエブサイト~
三上監督が、放送局時代に作ったニュース特集のページ「QAB 琉球朝日放送【特集 島は戦場だった 少年護郷隊】」は、こちらです。
http://www.qab.co.jp/news/2010040717335.html
また、NHKの『戦争証言 アーカイブス』というサイトの中に、戦争経験者の証言のページがあり、その中に元護郷隊という人の証言を動画で見ることが出来ます。映画で大きく取り上げられている瑞慶山良好さん他6名の方が証言しています。
「焼かれたふるさと」照屋義松さん
http://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130304_00000
「死ぬ覚悟はできているか」東江平之さん
http://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130305_00000
「戦場で知った死の恐怖」沖泊栄吉さん
http://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130306_00000
「“子ども”を利用した作戦」玉那覇有義さん
http://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130307_00000
「生きることを軽んじる戦場」瑞慶山良好さん
http://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130308_00000
「友達を戦場で失って」玉那覇盛一さん
http://www2.nhk.or.jp/archives/shogenarchives/shogen/movie.cgi?das_id=D0001130316_00000
同じくNHKの番組でアニメドキュメント「あの日、僕らは戦場で―少年兵の告白ー」が、NHKスペシャルとして2015年8月11日に放送されました。沖縄戦で子どもたちが「少年兵」として利用されていたことをアニメと実写で伝えるドキュメンタリーです。
https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2015064288SA000/?spg=P200800000500000
NHKスペシャル アニメドキュメント「あの日、僕らは戦場で」 メイキングと制作秘話
http://www.nhk.or.jp/po/channel/2575.html
少年兵を演じた声優の比嘉クミコさん(沖縄出身)は、演じてみて感じたことをこのように話しています。
「アニメの中で少年たちが、『敵を殺すことも、自分の命がなくなることも、友だちが死ぬことも、次第にどうでもよくなっていく』と話していましたが、どうでもよくなることほど怖いことはないな、と思いました。アフレコの途中、『少年に刀を突きつけるなんて、普通できないよね』と言った方がいましたが、アニメで描かれている時代は、普通の状態ではなく、国全体がまひしている状態。人が人でなくなっていく姿を見るのは、本当に怖かったです。収録が終わったいまもまだ、怖いですね」
■メディアに現れた護郷隊 ~本~
三上監督が「今オススメする本としてはダントツ」とおっしゃるのが、2018年4月に出版されたばかりの川満彰さんの本「陸軍中野学校と沖縄戦 知られざる少年兵『護郷隊』」(吉川弘文館)です。
⇒陸軍中野学校と沖縄戦 知られざる少年兵「護郷隊」
NHKの番組の関連本としては、NHKスペシャル制作班の本が出版されています。
⇒アニメドキュメント あの日、僕らは戦場で―少年兵の告白
⇒僕は少年ゲリラ兵だった:陸軍中野学校が作った沖縄秘密部隊
この他にも、護郷隊を扱った本がありました。
⇒少年兵はなぜ故郷に火を放ったのか 沖縄護郷隊の戦い
■メディアに現れた護郷隊 ~新聞~
地元紙の琉球新報には「護郷隊」関連の記事が多数ありました。例えば 「沖縄戦元隊員証言、護郷隊少年兵が互いに制裁」という2015年の記事には、上官の命令により少年が仲間を射殺した例があったと報じています。
https://ryukyushimpo.jp/news/prentry-244607.html
同じく地元紙の沖縄タイムスにも「護郷隊」に関する記事が多く見られます。「[話題本題]名護市史編さん委員会編『名護・やんばるの沖縄戦-名護市史本編3』 弱者の戦争利用に力点」では、「少年ゲリラ部隊・護郷隊と、飛行場守備のために配置された宇土部隊の記述も、決定版と呼べる内容だ。本土の『捨て石』とされた沖縄にあって、やんばるは『捨て石の中の捨て石』だったことが浮かび上がる」と書かれています。
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/76232
■子どもを使ったテロ ~現代の戦争~
子どもたちが戦争に加担したときくと、72年前はひどい時代だったのだなあと思うかもしれませんが、アムネスティによると、現在、19ヵ国で25万人以上のこどもたちが、強制的に武器をもたされ、兵士として徴用されていると言われています。過激派組織によって誘拐され、洗脳され、自爆テロ実行犯になっている子どもの話も耳にします。
愛され、守られるべき存在であるこどもたちが、利用され、捨て石にされる。それは、戦争がもっている恐ろしい側面です。軍隊とは敵をせん滅するものであって、住民を守るためにあるのではないことは、沖縄戦で証明されています。この方針・哲学が今も自衛隊に受け継がれているのか、いないのか、私たちはちゃんと見ていかなければならないと思います。