ミュージカル『マリー・アントワネット』が、福岡、東京、愛知公演を終え、2019年1月1日から梅田芸術劇場メインホール公演が始まり、1月15日(火)に大千穐楽を迎えます。本作は遠藤周作の小説『王妃マリー・アントワネット』をもとに、脚本・歌詞をミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲をシルヴェスター・リーヴァイが手がけた作品。2006年には日本で世界初演され、12年の時を経て、再び観客の前に帰ってきました。大阪公演の様子をレポートします。
舞台は18世紀末のフランス。国王ルイ16世(佐藤隆紀/原田優一のダブルキャスト)の統治の下、上流階級の貴族たちは贅沢な暮らしを楽しむ一方、民衆は飢えと貧困に苦しみ、国に大きな不満を抱いていました。
ある日、パリのパレ・ロワイヤルで開かれたオルレアン公(吉原光夫)主催の舞踏会に、豪華な衣装に身を包んだマリー・アントワネット(花總まり/笹本玲奈のダブルキャスト)が登場。許されない関係にありながらも愛し合う、スウェーデン貴族・フェルセン伯爵(福岡・東京は田代万里生/古川雄大のダブルキャスト。名古屋・大阪は古川雄大のシングルキャスト)と、束の間の逢瀬を楽しみます。ところが、華やかな舞踏会の途中で、貧しい少女マルグリット・アルノー(ソニン/昆夏美のダブルキャスト)が乱入。苦しい生活を送る民衆の実情を直訴しますが、貴族たちからは全く相手にされませんでした。同じイニシャルをもつ2人の「MA」は、こうして巡り合ったのです。
フェルセンは、マリーに革命の危険が迫っていると忠告しますが、現実から目を背けようとするマリーに、その声は届きませんでした。一方、飢えと貧困に苦しむ民衆のことなど考えず、贅沢な暮らしを送る王妃や貴族たちに反感を抱いたマルグリットは、密かに王座を狙うオルレアン公に利用され、革命派の詩人ジャック・エベール(坂元健児)とともに、民衆たちを扇動。飢えも恐れもない世界を求めて、革命の道へと突き進んでいきます。
私が観た回にマリー・アントワネットを演じたのは、花總まりさん。立ち振る舞いや仕草からは自然と品位の高さがにじみ出ており、これまでの経験の豊かさが感じられます。最新のファッションやヘアスタイルにも余念なく、許されざる恋に走るマリーには「ワガママな王妃」「国を破滅に導いた悪女」というイメージが付きまとっていますが、14歳で敵国であるフランスに嫁ぎ、王宮では堅苦しい慣習に縛られた生活を送っていたという背景を知れば、きっとマリーは孤独だったのだろうとも思います。革命の危機という現実から目を背け、フェルセンに愛を求める姿からは、そんなマリーが感じていた寂しさが垣間見えました。
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<有料会員限定部分の小見出し>
■マリー・アントワネット役の花總まりさん、息子と引き離されるシーンは忘れられません
■マルグリット・アルノー役のソニンさん、腹の底から出る、地を這うような歌声で圧倒
■フェルセン伯爵役の古川雄大さん、愛に溺れるのではなく心の底から愛している様子が
■原田優一、駒田一、彩吹真央、坂元健児、彩乃かなみ、そして吉原光夫、みなさんの重厚な歌唱が
■豪華絢爛で波乱万丈、強いメッセージも。濃密な3時間、再び会いたくなる作品
<ミュージカル『マリー・アントワネット』>
【福岡公演】2018年9月14日(金)~9月30日(日) 博多座(この公演は終了しています)
【東京公演】2018年10月8日(月・祝)~11月25日(日) 帝国劇場(この公演は終了しています)
【愛知公演】2018年12月10日(月)~12月21日(金) 御園座(この公演は終了しています)
【大阪公演】2019年1月1日(火・祝)~1月15日(火) 梅田芸術劇場 メインホール
http://www.umegei.com/ma2019/schedule.html
<関連サイト>
帝国劇場 ミュージカル『マリー・アントワネット』
https://www.tohostage.com/ma/
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■マリー・アントワネット役の花總まりさん、息子と引き離されるシーンは忘れられません
物語の後半になると、華やかな生活が一変し、窮地に追いやられていくマリーの前に、いわれなき誹謗中傷、夫の処刑、子どもたちとの別離など、これでもかという程に苦難が続きます。特に、息子と引き離され、涙を流しながら「やめて」と懇願するマリーをジャック・エベールが突き放すシーンには胸を痛めた方も多いのではないでしょうか。悲痛なマリーの嘆き声がしんとした場内に響き渡る光景は、いまでも忘れられません。物語の前半に見た麗しい姿とは対照的に、最期は白髪姿になり、地味な格好に身を包んでいるマリーですが、凛とした表情で処刑台へと向かう姿からは、王妃としての気品とプライド、そして潔さが感じられました。
■マルグリット・アルノー役のソニンさん、腹の底から出る、地を這うような歌声で圧倒
もう一人の中心人物である貧しい少女、マルグリット・アルノーを私が観た回に演じたソニンさんは、飢えと貧困に苦しむ中、明るい未来を手にするため突き進む革命の象徴ともいえるべき人物を熱演。腹の底から出る地を這うような声は、民衆たちが抱える憎しみや怒りが現れており、その力強い歌声に圧倒されました。物語は悲しい末路を辿っていきますが、処刑台に向かう途中、倒れてしまったマリーにマグリットが手を差し伸べるシーンは、最後に唯一救われたと思える印象深いシーン。あれだけ毛嫌いしていたマリーに、マルグリットが敬意を表して一礼する場面を見た瞬間、この物語はマルグリット・アルノーなくして成立しなかったのだと、改めて感じました。
■フェルセン伯爵役の古川雄大さん、愛に溺れるのではなく心の底から愛している様子が
フェルセン伯爵を演じた古川雄大さんには、冒頭のナンバー「♪マリー・アントワネット」から惹きつけられました。劇場内に響くなめらかな高音が心地よく、聴き応えたっぷりの歌声。優雅な佇まいでマリーをエスコートする姿もスマートで、容姿端麗とうたわれたフェルセン役にぴったりとハマッていました。許されざる関係にあるマリーとフェルセンですが、ただ愛に溺れているような関係ではないという描写も印象深いところ。現実逃避するマリーを諌め、正しい道へと導こうとするフェルセンから、マリー・アントワネットという一人の女性を心の底から愛している様子が見受けられるからこそ、迎える悲劇的な結末がより一層切なさを増長させているように思いました。
■原田優一、駒田一、彩吹真央、坂元健児、彩乃かなみ、そして吉原光夫、みなさんの重厚な歌唱が
フランス国王ルイ16世を私が観た回に演じたのは、原田優一さん。物語の序盤は気弱で頼りない印象を受けるルイ16世ですが、この人はきっと、ただ本当に平凡な暮らしを送りたかっただけなのだろうなという気持ちが、演技の節々から感じられ国王を好演。そんな想いがにじみ出たナンバー「♪もしも鍛冶屋なら」には、胸が締め付けられるような切なさを覚え、自然と涙が溢れてきます。一方、王座を狙い、国王一家を失墜させようと企てるオルレアン公役の吉原光夫さんが、分かりやすい悪を演じていたおかげで、よりマリーやマルグリットなどほかの役に感情移入しやすくなっていました。ソロナンバーを堂々と、力強く歌い上げる姿は、さすがといったところ。そのほか、シリアスな物語をパッと明るくさせてくれるマリーお抱えのヘアドレッサー・レオナール役の駒田一さん&衣装デザイナー・ローズ・ベルタン役の彩吹真央さん、マルグリットとともに革命を率いる詩人、ジャック・エベール役の坂元健児さん、マリーの心の支えとなっていたランバル公爵夫人役の彩乃かなみさんなど、歌唱力の高いキャスト陣も勢ぞろい。そんな実力も折り紙つきのキャストたちが、ミヒャエル・クンツェ&シルヴェスター・リーヴァイの名コンビが手がける、美しく、重厚感のある数々の楽曲に彩りを添えてくれていました。
■豪華絢爛で波乱万丈、強いメッセージも。濃密な3時間、再び会いたくなる作品
マリー・アントワネットの波乱万丈の人生やドラマスティックな音楽、次々に展開する華々しい舞台装置、煌びやかな衣装など、隅から隅まで見どころたっぷりのミュージカル『マリー・アントワネット』。ひとたび幕が開き、物語が始まれば、一気に革命が起きた動乱の時代、18世紀末のフランスの世界へと引き込まれます。単に衣装や舞台装置が豪華絢爛で、歌も踊りもたっぷりと堪能できるというミュージカル的な見どころがあるだけでなく、「正義とはなにか」という強いメッセージを問いかけている本作。特に、革命という正義の名のもと、非道な行いに走る民衆たちの群集心理には、ある種の怖さが感じられ、どちらが正義なのかと分からなくなってしまうほどです。どの視点に立つかによって、物語の見方が変わるところも印象深く、濃密に感じられた3時間。再び会いたくなる作品でした。