今回は、とびきり美しい2匹の猫について綴る。1匹は我が家の猫「うめ吉」、もう1匹は仕事場近くの飼い猫「トラ」。2匹とも、猫好きでない人まで、「うわっ! 可愛い!」と思わず声に出すくらいの美猫。もし猫界にスター制度があったら、間違いなくトップスターになったんじゃないかと思うくらいのスター性をもった猫だった。
うめ吉は、2008年5月23日に、我が家に突然やってきた。仕事を終えて帰宅すると、父が「大変なことになってるよ!」と言う。何かと思ってリビングに向うと、ゲージの中に小さな子猫がいた。母が出かけたときに、大きい道路横の生け垣の中で泣いていたそう。お母さんとはぐれてしまったのか、捨て猫か。このまま置いておいたら、道路に出て死んでしまうだろうと、母はハンカチを敷いた手のひらにのせて、連れて帰ってきたそうだ。まだ、およそ生後1カ月ぐらい。小さくて、可愛くて。私は急いでカメラ持って来て、撮影をはじめた。
ちょうど同じく猫をたくさん飼っている友人の家で、子猫を拾ったばかりだった。母は、その子が「さくら」と名前が付いたので、うちは「うめ」にするという。
母:男の子だから、『うめ夫』にしようか?
私:えー。なんかダサイ。
母:うーん、じゃあ『うめ吉』は?
私:そっちの方が可愛い!
ということで、「うめ吉」と決まった。我が家に久しぶりにやってきた子猫。可愛くて、写真を撮り続けようと決めた。翌日、獣医さんに連れていった後、母に手伝ってもらって家の前でロケをした。まだよちよちしていたので、逃げられることはないかなと。こんな機会はなかなかないと思った。うめ吉は、撮影中泣き続けていたが、お母さんを呼んでいたのだろうか。怖かっただけかな……(汗)。
その1週間後、室内撮影会も敢行。床に毛布を敷き、映ったらいまいちなところに布を垂らした。撮影に使えそうな花、ボール、紙風船、リボン、ぬいぐるみ、色々と準備した。撮り続けること3時間、楽しそうに遊ぶ姿を撮りながら、気づくと一緒に寝ていた。
老猫になっていた、しゃらファミリーたちはうめ吉を受け入れて可愛がってくれた。特に、しゃらがお母さんに、てんてん三郎がお父さんという感じ。肝っ玉母さんは老猫になっても健在だった。子猫特有の大運動会になると、母は「しゃらちゃん、よろしく」とうめ吉をしゃらに託した。甘噛みでうめ吉を抑え、教育もしてくれた。うめ吉は、みんなの愛情を受けて元気に育っていった。
大きくなったうめ吉は、目が大きくなり、毛の色は濃いオレンジ色に変化した。とても美しく、母の友人が夏の暑い最中、毎日会いに通ってきたほど。写真を見た人は、口々に「可愛い!」「綺麗!」と叫んでいた。私自身、今まで見たなかでも一番可愛いくて、どんどん虜になっていった。
唯一、仲良くならなかったのはせりだ。しゃら以外の猫は好きじゃなかったせりは、やはり新しい猫もあまり気に入らないらしく、遠巻きに見ていた。すると、大きくなったうめ吉は、せりを追い回した。「来るな!」と反応するせりが面白いのだろう。若いエネルギーで、老いたせりをからかった。
2013年。2011年から、せり、てんてん三郎、じゅうべい、しゃら次郎と見送った私達は、次に旅立つのは20歳になったしゃらだろうと思っていた。ところが、うめ吉の突然死に向き合うことになる。
仕事場にいた私に母から電話が入った。
「うめちゃんが死んでる……」
信じられない言葉だった。
「嘘でしょう!? なんで!? 本当に? 何とかならないの?」
パニックだった。
「なんでーーーーー!」
電話を切ったあと、クッションを抱えておもいきり叫び声をあげた。
帰る支度をしながら、泣き過ぎて過呼吸になってしまうくらいだった。
帰宅すると、うめ吉は眠ったような顔をしていた。老いて死んでいった子たちは、ガリガリで痛々しい顔をしている。でも、うめ吉は生きていたときそのままの顔だった。苦しまずに死んだのだろうなと思った。いつもと変わらず元気だったのに、母が出掛けて帰ってきたら死んでいたという。原因はわからない突然死だった。私も母も、呆然とするしかなかった。翌々日の朝、何度も訪れたペット葬儀場でお葬式をしてもらった。このとき、絶対に写真を撮ろうと思い、カメラを持って行った。葬儀場の方にお願いして撮らせて頂き、一枚一枚嗚咽を吐きながらシャッターを切った。最後の別れをしてシャッターを切り、骨を拾ってシャッターを切り……。あんな気持ちでシャッターを切ったのははじめての経験だった。
うめ吉が死んだ約2カ月後のある日、仕事場の近くの電柱に「猫を探しています」というチラシを見つけた。とても可愛いキジトラ白の子猫で、目を引く可愛さだった。「見たことはないけれど、はやく見つかるといいな」と思いながらその場を立ち去った。しばらくして、猫友達の喫茶店で、子猫の話を聞いた。このお店の看板猫だった近所の猫が死んで、新しく子猫がやってきたという。喫茶店の裏の家で飼っている猫なのだが、家と外を出入り自由にしていて、主に世話をしていたのは友人を中心とした近所の人達だった。その子猫が、先日見た「探しています」の猫だったのだ。
教えてもらって、すぐに見に行くと生後4カ月の雄の子猫だった。色こそ違えど、うめ吉を思いだすようなとても可愛い子猫だった。ちょうど、その家はもよりの駅から仕事場の間にあったので、うめ吉を亡くしてぽっかり空いた穴を埋めるように、毎日トラちゃんに会いに通った。
トラちゃんはとても人なつこく、膝にのるのが大好きだった。あの可愛い顔で「だっこ♡」とせがまれたら、「もう、何時間でも抱っこしてあげる!」と1〜2時間くらい平気だった。飼い主が長く家を空けることも多く、会いにいくと人恋しいのかべったり離れず、私の膝で眠っていた。帰ろうとすると付いてきてしまう。トラちゃんが満足するまで付き合うこともしばしばだった。
トラちゃんの家のまわりは、喫茶店、美容院、飲み屋、事務所、エステサロンなど、店舗がたくさんあった。いつでも外に出られるトラちゃんは、各店舗を周り、その一角の看板猫のようになっていた。私のようにたびたび会いにくる人もたくさんいた。近くに小学校や保育園もあり、「トラちゃーん♪」と小さな子供たちもやってくる。街のアイドル猫だ。トラちゃんを通じて猫友達、猫知人が次々と増え、楽しい日々を過ごした。
2014年秋、別れは突然やってきた。振り返った私の目の前で、トラちゃんはスピードを出してきた車に轢かれてしまった。タイヤに巻き込まれるその瞬間が鮮明に脳裏に焼き付いている。一瞬の出来事がスローモーションに見えた。そして、虫の息だったトラちゃんは、私の膝の上で息を引き取った。一緒にトラちゃんを可愛がった友人たちと早すぎる死を悲しんだ。「いつかこうなるんじゃないかと思った……」口々にそう語った。猫が都会で外で生きるには危険が多すぎる。翌日、可愛がってくれたたくさんの人に見送られて、トラちゃんは出棺していった。
美人薄命というけれど、私の周りの猫たちは、綺麗な猫ほど命が短い。しかも、綺麗なまま、突然いなくなってしまうのだ。「綺麗すぎて早く呼ばれてしまうんだよ」そう言われて、「ああ、そうなのか」と納得してしまう。
うめ吉とトラちゃんは、2013年と2015年に写真展で展示し、思っていた以上の反響を頂いた。写真を通して、2匹の命に触れてくださった皆さんに感謝している。そして、この記事を通してさらに多く人に知って頂いた。この先、まだ山のようにある写真を写真集にして、さらに多くの人に、小さな命の輝きを届けたい。それが今の夢だ。
トラちゃんを展示した写真展でのメッセージをここに転載させて頂く。
- 約一年前、車にひかれてわずか一歳半で死んでしまった、ご近所猫「トラちゃん」
- 人間が大好きで、たくさんの人に愛されて育ちました。
お外で駆け回る姿はいつも楽しそうでした。
でも、お外は楽しさと隣り合わせの危険がいっぱい。
- ここは人間のための世界なのでしょうか。
ちいさな命が問いかけます。
私達が生きるこの世界は 人間のための世界なのでしょうか。
- トラちゃんの生き生きとした姿が、皆さんの心に何かを灯したならば幸いです。
- 2015年10月 岩村美佳
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洗濯バサミが大好きだったうめ吉と、自然と遊んでいたトラちゃん。
うめ吉は、我が家にやってきて一週間弱ゲージの中で過ごした。ゲージは外に猫砂が飛び散らないようにと、ダンボールで囲って洗濯バサミで止めていた。ゲージの中で退屈していたうめ吉は、手をのばして洗濯バサミをおもちゃがわりに遊んでいた。ゲージの周りで遊ぶときも、洗濯バサミを見つけては手を出したり、かじったり。何がそんなに面白いのだろうかと思うぐらい気に入っていた。
このほんの一週間弱の習慣で、それからもずっと洗濯バサミが大好きだった。洗濯バサミの種類にこだわりはないらしい。落ちているのを見つけては転がして遊ぶ。洗濯物干しなんて、大好きなおもちゃの集合体だ。吊るしてあると、目を輝かせてよじのぼって遊んでいた。他の猫は見向きもしていなかったので、刷り込みとはこういうものかと感心したものだ。
トラちゃんにとっては自然が遊び場。草や虫、雪までもがおもちゃだった。2014年は、東京に2度の大雪が降った。トラちゃんは駐車場に積もった雪の広場で、はじめての雪に振れ、はしゃいで楽しそうに駆け回っていた。「猫はこたつで丸くなる」なんて嘘だなと。カメラを持って、雪と戯れる姿を撮りにいった。
家だけで暮らす猫と、外でも過ごす猫。身の回りの全てをおもちゃにしてしまうのが猫らしい。
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※岩村美佳さんのエッセイ、「私と猫たち」は隔週月曜日(月曜祝日の場合は火曜日)に掲載しています。
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