フォトグラファー・ライターで、おもに演劇関係の撮影・執筆で活躍している岩村美佳さんの自伝的猫エッセイ、「私と猫たち」の第2回を掲載します。連載第1回(https://ideanews.jp/backup/archives/6489)で初めての猫「めーちゃん」に出あった岩村さんが、大学に進学して1人暮らしをはじめた後のお話です。(アイデアニュース編集部)
大学に進学して、2年の寮生活を終え、3年生からは寮を出なくてはいけないため、大学の近くで一人暮らしをはじめた。ところが一軒目でちょっとした問題があり、再び引っ越すことに。めーちゃんに出会って猫に目覚めた私は、「猫と暮らしたい」と思い立ち、どうせ引っ越すならばと、ペット可のマンションを探した。思いの他すぐにいい物件が見つかり、引っ越すことになった。
引越の前日、母が岡山から手伝いに来てくれた。ふたりで荷物を運び、まだ雑然とした新しい部屋で眠ろうとしたとき、母が「嘘をついていることがある」と話しはじめた。「実は、めーちゃん2週間前に死んじゃったの……」衝撃の告白だった。当然、なぜ知らせてくれなかったのか、どうして死んでしまったのかを問いただした。急死だったことや、東京で忙しくしている私を思い、今日まで話せなかったことを泣きながら話してくれた。それでも、めーちゃんがいなくなってしまったことを受け入れられず、母を恨んで「教えてくれなかったことを死ぬまで忘れないから!」と叫んだことを今でもはっきりと覚えている(母は全然覚えていないそうだけれど)。弟が私に連絡した方がいいと言ったそうで、「弟の方がよっぽどわかってるじゃん」と思ったものだ。
突然めーちゃんを失ったショックで、東京で猫を飼うのをやめようかと思ったが、「そのためにこの家に引っ越したんだから飼ったら」という母の言葉で、猫を探しはじめた。当時は今のようにインターネットで情報を集める手段はなかったので、ペットショップに見に行くか、情報誌かなと思っていた。そのとき、実家に投函された情報誌に掲載されていた、飼い主募集の投稿に、母が見て問い合わせた。友人から貰ったが、先住猫と折り合いが悪く、新しい貰い手を探しているという4カ月の子猫だった。そして、黄色の猫じゃらし付きで実家にやってきた子猫の、めーちゃんとはまるで違う風貌に、私達はとまどった。
めーちゃんは白地に小さなぶち模様だったが、子猫は黒っぽい縞柄。
めーちゃんは丸顔だったが、子猫は三角顔。
めーちゃんは団子しっぽだったが、子猫はしゅっと長いしっぽ。
めーちゃんが可愛くてしかたなかった私達にとっては、全然違うのだ。しかも、低くしゃがれた大きい鳴き声で、可愛いとはいいがたい声だった。この子を東京に連れていこうか……と考えたが、正直あまりときめかなかった。父の「置いていったら?」のひと言で、子猫は我が家の2代目猫となった。
なかなかやんちゃな子猫だった。借家だったため、キャットタワーに繋がれていることも多く、残っている写真はリードを付けた姿ばかり。猫じゃらしが大好きで、投げると犬のようにくわえてもってきた。あまりのやんちゃぶりに、生意気な意味の「しゃらくせえ」から「しゃら」と弟が名付けた。めーちゃんを失って一番ショックを受けていた母は、しゃらが我が家にきたことで元気になったという。めーちゃんは自分が生んだように可愛かったそうで、しゃらを実家に残してきて良かったと思う。
さて、では東京で飼う子はどうなったか。しゃらのこともあり、マンションだし大人しい子がいいなと、猫雑誌を手にとり、調べ始めた。そのとき目に止まったのがアビシニアンだった。人なつこくて、声も小さめ、見た目も可愛かったし、この種類にしようと決心した(めーちゃんとは真逆のビジュアルなのに、なぜときめいたのか全く覚えていない……)。ところが、当時まだ珍しかった種類で高かった。ペットショップでは高すぎて手が届かず、猫雑誌でブリーダーを探し譲ってもらうことにした。そして、両親から誕生日プレゼントに買ってもらうことに。誕生日プレゼントには高すぎだったけれど、自分では買えなかったし、感謝している。
探したブリーダーさんのところで、レッドカラーの雌猫が2匹生まれていて、一匹を選んで連れて帰って来た。帰りの電車の中、籠のなかで小さな声でずっと泣いていた。家に連れて帰ってきてもしばらく泣いていたが、お互いに疲れて一緒に眠った。枕元で丸くなった姿は、つぶしてしまうんじゃないかと思うぐらい小さかった。1月7日生まれだったので、春の七草の名前にしようと思い、「せり」と名付けた。
それからすぐに春休みになり、せりを実家に連れて帰った。せりとしゃらを初対面させると、ふたりともすぐに仲良くなり、いつも一緒にいた。せりは母猫に甘えるようにしゃらになつき、しゃらは母猫のように寄り添った。猫と猫のコミュニケーションを見るのははじめての経験。新鮮でとても可愛かったし、春休みの間じゅうふたりに夢中になっていた。
めーちゃんの死からふたりの出会いまでは、わずか2カ月半。充分に怒濤の展開だったが、まだまだ。我が家に大事件が起きた。なんと、しゃらが妊娠していることがわかったのだ! まだ、生後5カ月ぐらいのはずなのになんで〜!?
———————————————————
※岩村美佳さんのエッセイ、「私と猫たち」は隔週月曜日(月曜祝日の場合は火曜日)に掲載しています。
<アイデアニュース関連記事>
「私と猫たち」(1) 「めーちゃん」がやってきた
「私と猫たち」(2) 母が「嘘をついていることがある」と
「私と猫たち」(3) 生後5カ月で7匹の子を育てた「しゃら」
「私と猫たち」(4) 一番愛した特別な猫「せり」
「私と猫たち」(5) 箱入り3兄弟の10年
「私と猫たち」(6) 美人薄命というけれど
「私と猫たち」(7) 強面「政宗」、天敵「すもも」と「ぽんず」
「私と猫たち」(8) ぽんずにはじめてのお友達ができた!
「私と猫たち」(9) 小学生たちが助けた小さな命をつなぐ物語
———————————————————
<アイデアニュース有料会員向け【おまけ的小文】>
「猫の名前について」
後に知ったのだが、「しゃら」は前の家で「きいろ」という名前だったそう。我が家に一緒にやってきた黄色の猫じゃらしが大好きだったので、その名前になったとか。そんな名前もあるのかと結構驚いた。名前の付け方って、人それぞれで面白い。我が家は日本風の名前が好みで、理由もないと認めてもらえない。
「せり」は春の七草の中から「せり」と「すずな」を候補にした。母と弟に相談すると、弟が「子供の頃、苦手な子が『すずな』という名前だったから、『せり』にして」と言われ「せり」に決めた。ちなみに、七草の「せり」は語尾が上がるが、うちの「せり」は語尾が下がります。