沖縄・辺野古のゲート前で歌っていた きむきがん(김기강)さんのことは、こちらの記事で少しふれました。→ https://ideanews.jp/backup/archives/16053 「なんでここまで抵抗するのか、わかる?」 座り込み555日の辺野古レポート(上) まっすぐなまなざしと力強い歌声が印象的だった彼女が、劇団石(トル)の代表で、ひとり芝居や演劇ワークショップをしていることを知り、2016年2月6日、その舞台を見に行ってきました。心から感動したお芝居「在日バイタルチェック」、ひとりでも多くの人に見てもらいたいと思います。3月には沖縄で上演されるというので、そちらのお知らせも含めて、ぜひお読みください。
開演してすぐ、舞台の上に、海女さんがあらわれました。躍動感あふれる動き、しぐさは10代の少女と思われました。植民地支配の時代、日本人に土地も海もとられて、海女の仕事ができないから「日本に出稼ぎにいくわ」と話す少女は、行くなとすがる妹に(その姿は実際にはありません。ひとり芝居ですから)「すぐ帰ってくるから」と約束します。でも、実際には、故郷の海を再び見るのは75年後のことでした。
この海女だった少女が、日本の植民地時代に済州島から海を渡ってきた在日1世のハルモ二(おばあさん)で、物語の主人公です。現代では、デイサービスセンター「ミンドゥルレ(タンポポ)」に通う90歳のウルセンハルモ二は、壮絶な歴史を生き抜いた女性です。この人を演じるきがんさんは、何かが降りてきたとしか思えないほど見事で、一瞬のうちに10代の海女さんから90歳のハルモ二になった場面、「ガラスの仮面」のマヤちゃんかと思いました。
ミンドゥルレには在日のハルモ二たちが多く集まっていて、元気で明るいデーサービス所長さんは在日2世、民族学校に通ったので朝鮮語が不自由なく使える3世の職員や、帰化していて、そのことをなかなか言い出せない新人職員もいます。ある日、90歳の誕生日を迎えるウルセンハルモニをお祝いしようと、デーサービスのみんなが集まり、ハルモ二の連れ合いのハラボジ(おじいさん)もやってきました。ふたりのなれそめを聞くうち、1世が過ごしてきた100年の歴史が、舞台の上で凝縮されます。
激しい労働に従事する1世の男たち、苦労して子どもを育てる女たち、貧しい暮らし、差別、阪神教育闘争、指紋押捺、ヘイトスピーチ……その場面場面で、鮮やかにすべての登場人物を演じ分けるきがんさんは、舞台の上でとても大きく、パワーにあふれていました。舞台に立つのはきがんさんひとりですが、きがんさんにつながるハルモ二の、その子どもの、その兄弟姉妹の、同胞の思いを背中にしょって、立っているからなのでしょうか。圧倒的な演技でした。
もっとも泣けたのは、川に飛び込むような危ない真似をした息子を叱り飛ばしたハルモ二が、いじめられていた妹をかばうためのケンカだったことを知って、友だちの家を一軒一軒訪ねていくシーンです。「うちの娘と仲良くしてやってください」と、朝鮮なまりの日本語で、体を二つ折りにして頼むその姿。冷たい言葉と態度で追い払われ(その憎々しい日本の母親を演じるのも、もちろんきがんさんです)、乏しい蓄えの中から、娘がバカにされないようにと文房具を買い求めるハルモニの淋しそうな、透明な悲しい表情。忘れられません。
私事ではありますが、フィリピンの先住民族アエタの若者たちと20年来のつきあいをし、応援してきた経験の中で出会った無理解や差別、理不尽さを重ね合わせてきがんさんの舞台を思い出すと泣けてきます。心の中に、心も体も固まったような辛い思い出がある人ほど、舞台のハルモ二と一緒に泣いて笑って、また立ち上がる元気と勇気がもらえるはずです。だから、私も、沖縄の舞台を見たいと思っています!
きがんさんは、こうした演劇活動を続けながら、辺野古の新基地建設反対の現場にずっと関わり続けています。歴史を知ることは今を知ることであるなら、この見事に凝縮された在日コリアンの歴史劇を、沖縄で上演するというのは、まことに時宜を得た企画と言えるでしょう。
きがんさんが、在日1世の強烈なハルモ二の姿を胸に抱いているとしたら、基本的な人権を踏みにじられ、奪われ、苦しんできた沖縄のオジー、オバーの姿を胸に座り込む辺野古ゲート前の沖縄の仲間たちは、きがんさんの演技を、在日同胞が感動して見るのに負けないくらい熱い思いで受け止めてくれるはず。そんな風に思っています。
沖縄公演の詳しいことは、下記までお問い合わせください。
<在日バイタルチェック 沖縄公演>
【3月25日(金)】18:30開演(18:00開場)
うるま市民芸術劇場 燈(あかり)ホール(098-973-4400) 2000円 問い合わせ 090-8291-7134(宜野座)
【3月26日(土)】15:30開演(15:00開場)
沖縄大学 同窓会館(098-832-3216) 2000円 問い合わせ 090-5410-4158(上間)
【3月27日(日)】14:00開演(13:30開場)
沖縄愛楽園 交流会館(098ー052-8331) カンパ2000円 問い合わせ 090-8796-5112(稲垣)
【主催】「在日バイタルチェック」沖縄実行委員会 (mail: eiko08730☆water.ocn.ne.jp ☆は@に変えてください)
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■ほとんどの場面で笑うか泣くかしていたような気が
■マダン劇は、民衆が生きていくために欠かせない芸能の一つ
■沖縄の仲間たちは熱い思いで受け止めてくれるはず
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■ほとんどの場面で笑うか泣くかしていたような気が
ほとんどの場面で笑うか泣くかしていたような気がします。若い女性の面接場面、陽気でおしゃべりな2世の所長さんは、「キムチ作れたら、キムチ手当が出ます」「マッコリ作れたら…普通にびっくりします」などと弾丸トーク。めでたく採用になった新人のよう子さん、ハルモ二が「アイゴー、アイゴー」というのを聞いて「愛子さんという方を呼んでおられます!」と天然ボケ。阪神教育闘争のような死者が出た歴史的大事件の場面でも、カタコトの日本語をしゃべるGHQを登場させて、大いに沸かせてくれました。
ハルモ二がまだ若く、子どもたちが幼かったころ、いじめられた妹をかばってケンカする兄は、「在日をなめんなよ」と川に飛び込んで度胸を証明しようとします。この少年を演じるきがんさんが、また格別に素晴らしかったです。セリフのひとつひとつが胸に響き、妹を守ろうとする健気さ、切なさ、怒りが伝わってきて、涙が出ました。
必死に生き抜いてきたハルモニの半生を聞き、よう子さんは、お芝居の後半、実は在日3世であると告白します。就職差別や結婚差別を目の当たりにして、帰化の道を選んだけれど、学生時代、クラスメイトに「在日やろ」と言われて、心も体も固まってしまった経験のあるよう子さん。お芝居は、在日の歴史を振り返りながら、現代も続く無理解、差別、無知についてもあぶりだします。笑って、泣いて、考え込んで、また笑って、泣いて、ジェットコースターに乗ってバックトゥザフーチャーを経験したような90分でした。
■マダン劇は、民衆が生きていくために欠かせない芸能の一つ
チラシに書かれた言葉が、舞台を見た後でますます心に響いてきました。
『劇団が基調とする朝鮮半島に伝わるマダン劇は、民衆が生きていくために欠かせない芸能の一つで、村の中心に据えられたマダン(広場)に芝居を作り、見る者演じる者すべての村人達がその生活の喜びも苦労も分かち合ってきたものです』2016年3月沖縄公演のチラシより
『私達在日の心の中には、みなそれぞれにあの強烈な1世ハルモ二(おばあちゃん)の姿が生きています。時代に翻弄されながらも生き抜いてきた我々在日同胞の恨(ハン)がそこに凝縮しているといっても過言ではありません。この作品は、私の体を通して、先人達のその生きざまがどうか歴史に埋もれてしまわないように、みんなの心に残ってほしい、そして繋げたい、そんな作品です』2016年3月沖縄公演のチラシより
■沖縄の仲間たちは熱い思いで受け止めてくれるはず
きがんさんに辺野古のゲート前で会って、初めてその歌声聞かせてもらったのが、「あなたよ」という曲でした。
「毎朝、毎朝、若い竹のような姿で、何か間違ったことを一生懸命信じてやってくる機動隊のことを思います。非暴力の闘いを作ってこられた敬愛する阿波根 昌鴻(あはごん しょうこう)さんが教えて下さったように、彼らの人権も考えなあかんなあと思っています。誰かの大事な子どもだった彼らの気持ちに届くか、届かないかわかりませんが、作った歌なんです」
- おーい あなたよ 仕事は楽しいか
おーい あなたよ それは本当か
早朝から集まり、暴力的な排除にあっても、毎日「新基地建設反対」と座り込む沖縄の仲間たちは、在日1世のハルモ二の姿を胸に抱いて演じるきがんさんの「在日バイタルチェック」を、在日同胞に負けない拍手と、大きな笑い声と、熱い思いで受け止めてくれることでしょう。人権を踏みにじられ、奪われ、苦しんできた沖縄のオジー、オバーの姿を胸に、闘い続ける仲間だからです。3月の上映を心から楽しみにしています。