清く正しくヅカ男子:(3) 宙組ならではのコーラスが圧巻の『エリザベート』 

「エリザベート」に登場するルキーニの扮装をした濱恵介さん=写真提供・濱恵介さん

ミュージカル『エリザベート-愛と死の輪舞-』(小池修一郎潤色・演出)が7月22日に宝塚大劇場で開幕、約1ケ月間の公演を終えて8月22日に感動の中で千秋楽を迎えました。9月9日からは東京宝塚劇場での公演が始まります。このチケットは入手が極めて困難な状況ですが、宝塚大劇場で念願の観劇ができたので、その模様をレポートします。

「エリザベート」に登場するルキーニの扮装をした濱恵介さん=写真提供・濱恵介さん

「エリザベート」に登場するルキーニの扮装をした濱恵介さん=写真提供・濱恵介さん

■優れた歌唱力と確かな演技力の実咲凜音さん、念願のエリザベート役に

1996年の初演以来、宝塚歌劇団で9回目となる『エリザベート』の宙組公演。初日には宝塚歌劇団での『エリザベート』上演900回という節目となりました。エリザベートはストーリーのほぼ全てが楽曲によって成り立っている、超本格ミュージカル。宙組は「コーラスの宙組」と呼ばれていますが、この公演でのコーラスはまさに圧巻の一語に尽きます。特に1幕のカフェ、ミルクの場面では会場から感嘆の声が挙がるほどでした。今回の宙組『エリザベート』は、メインキャストのほぼ全員が歌唱力に優れ、非常に優れた出来映えとなっています。

タイトルロールのエリザベート皇后役は、宙組トップ娘役の【実咲凜音】さん。実咲凜音さんは『宝塚おとめ』(歌劇団公式団員名鑑)の演じたい役に毎年エリザベートを挙げ続けており、念願だった大役をついに射止めました。組のトップスターのうち、はっきりとやりたい役名を書いている方はあまりなく、エリザベートに賭ける思いが窺えます。

優れた歌唱力と確かな演技力を持つ実咲凜音さんのエリザベートは、とても手堅い印象。天真爛漫な少女時代から、美貌の皇后時代、そして晩年まで、とても同一人物とは思えないほど見事なもの。エリザベートの人生が「私の人生は私のもの」から「いつかたどり着くところ」(死)へと変化していく姿は、真に迫るものがありました。実咲凜音さんは念願の『エリザベート』をやり遂げた後、次回の大劇場公演『王妃の館』をもって、来年4月に宝塚歌劇団を退団することが発表されました。

<宝塚歌劇団のエリザベート>
【兵庫公演】 7月22日(金)~8月22日(月) 宝塚大劇場・・・上演済
【東京公演】 9月9日(金)~10月16日(日) 東京宝塚劇場

<東宝版のエリザベート>
【東京公演】 6月28日(火)~7月26日(火) 帝国劇場・・・上演済
【福岡公演】 8月6日(土)~9月4日(日) 博多座・・・上演中
【大阪公演】 9月11日(日)~9月30日(金) 梅田芸術劇場
【愛知公演】 10月8日(土)~10月23日(日) 中日劇場

<東海高校カヅラカタ歌劇団のエリザベート>
【東海高校演劇部公演】 10月8日(土) 東海高校(名古屋)

<エリザベート TAKARAZUKA20周年スペシャル・ガラ・コンサート>
【大阪公演】 12月9日(金)~12月18日(日) 梅田芸術劇場
【東京公演】 2017年1月8日(日)~2017年1月20日(金) Bunkamuraオーチャードホール

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エリザベート

※ここからはアイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分です。黄泉の帝王「トート」役の朝夏まなとさん、皇帝フランツ・ヨーゼフ役の真風涼帆さん、マダム・ヴォルフ役の伶美うららさんらについて書いています。

■「核心をつく」妖艶で中性的なトート(死)像

演出の【小池修一郎】さんは、【朝夏まなと】さんのトート像が「いろんなものをそぎ落として核心をついている」と制作発表会で語っていました。朝夏まなとさん演じる黄泉の帝王トートは、ポスターからして妖しい美しさを見せ、大きなインパクトを与えています。トートは人間ではなく「死」なので、とても難しい役です。

最近発刊された『ミュージカル「エリザベート」はこうして生まれた』(日之ノ出版、2016年)によると、エリザベートの原作者ミヒャエル・クンツェ氏は、亡国の皇后エリザベートを主人公にするミュージカルを書くにあたって、「死を彼女の恋人とする」ことで作品の世界観が一挙に広がったといいます。そして「トートは男らしいだけではなく、どちらの性別の者にとっても魅力的でなければならない」とトート(死)像を語っています。

朝夏まなとさんのトートは青紫が少しまじったグレーの長髪、長くて美しい手足を駆使した妖艶な姿は、中性的なロックシンガーを思わせるもの。今回のトート像が性別を超えた姿を意識したことは、今回の公演プログラムにも記されており、ウィーン版のトートの姿を彷彿とさせます。小池修一郎さんの言った「核心を突いたトート」とは、まさに原点にかえった姿のことではないかと思います。

朝夏なまとさんはトップ就任前後から歌唱力が上達しており、『エリザベート』でも伸びやかな歌で客席を魅了しています。残念なのは声が時々かすれてしまうこと。歌唱力を更に磨きをかけて、宝塚歌劇を担うトップスターとして大きな飛躍を期待したいと思います。

■飛躍的な実力の伸びを見せた皇帝フランツ・ヨーゼフ役の真風涼帆さん

今回の公演で飛躍的な実力の伸びを見せたのが、皇帝フランツ・ヨーゼフ役の、二番手【真風涼帆】さん。実は配役発表前にネット上では、真風涼帆さんはエリザベート皇后の暗殺者、ルイジ・ルキーニ(※ルキーニは三番手役)が似合うと巷間言われていました。逆説的に言えば、本来の番手より下の役が似合うということになってしまいます。本来の自分の番手の役を演じることが課題となりましたが、これまで苦手感のあった歌唱力が見違えるほど上達し、数々の難曲を見事に歌いあげています。これまでベテランがキャスティングされることが多かったフランツ役を、研11(入団11年目)の若々しさで演じるとともに、皇帝の威厳も威風堂々と見せてくれました。歴代でも屈指のフランツ役になるのではないかと思います。

■低音を見事に歌いあげたマダム・ヴォルフ役の伶美うららさん

真風涼帆さんとともに予想を超える好演だったのが、娘役二番手の【伶美うらら】さん。すぐれた美貌が目をひく娘役で、これまで数々のチャンスが与えられてきましたが、歌唱力の克服が大きな課題でした。伶美うららさんが演じるのは、皇帝フランツを誘惑する娼婦たちを手引きする【マダム・ヴォルフ】。原作ではベテラン女優が演じる役で、役柄からして低音の楽曲となりますが、見事に歌いあげました。

持ち前の美貌から、どの娼婦たちよりも余程マダム・ヴォルフのほうが美しいとさえ囁かれています。低音が得意なのであれば、身長がやや十分ではないとはいえ、男役という道はなかったのかと、今さらながらに残念に思います。伶美うららさんは研8(入団8年目)となり、ベテラン役を演じることも多くなるので、得意の低音で今後のご活躍を大いに期待したいと思います。

■印象に残った「美しい黒い扇」と「ボロボロの白い扇」を取り替えるシーン

今回の宙組公演の演出で特に印象に残ったのは、2幕目の病院訪問の場面。エリザベート皇后と【星吹彩翔】さん演じるヴィンディッシュ嬢(自身がエリザベート皇后だと思い込んでいる患者)が、「美しい黒い扇」と「ボロボロの白い扇」を取り替えるシーンがとても印象的でした。「もし替われるから替わってもいいのよ、私の孤独に耐えられるなら」という歌詞と見事なコントラストを描いています。

演出面での今後の要望としては、第1幕の最後の場面で、原作ウィーン版のようにエリザベートが肖像画(額縁)から登場するほうが良いと思います。この場面のエリザベートの衣装と髪かざりは、有名な肖像画そのままの姿で登場するわけですから、肖像画からの登場は、客席を大いに盛り上がらせると思います。

■今年は日本初演20周年のエリザベートyear

今年2016年は【エリザベートyear】ともいうべき年となりました。宝塚歌劇団に加え、帝国劇場でも6月28日から7月26日まで通常の男女キャストで上演。【帝国劇場版】は8月の福岡を皮切りに、大阪(9月)、名古屋(10月)で全国ツアーが上演されます。

実は、宝塚歌劇団と帝国劇場は同じ経営母体であり、『エリザベート』の上演が重ならないように(観客の奪い合いにならないように)、これまで交互に上演してきました。今年は日本初演20周年ということで、初めての同時上演に踏み切ったものです。また、男子演劇部がタカラヅカを演じることで有名な東海高校【カヅラカタ歌劇団】も、10月8日に『エリザベート』を上演します。そして年末年始には、歴代エリザベート出演キャストによる『エリザベートガラコンサート』が上演されます。

今後の『エリザベート』公演のチケット状況ですが、【宝塚歌劇団】は東京劇場は完売。チケットの正規の入手方法は、若干枚発売される当日券のみとなります。【帝国劇場版】も大阪、名古屋が完売しています。【カヅラカタ歌劇団】は、申し込みはこれからの発表になります。エリザベートのチケットを手にされている方は超プレミアム。【2016年エリザベートyear】を大いに楽しまれてはいかがでしょうか。

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