近未来の「街」を訪れた天使が見たものは… 舞台「天使は瞳を閉じて」ルポ(上)

「虚構の劇団『天使は瞳を閉じて』」公演より=写真提供・サードステージ

鴻上尚史さん主宰「虚構の劇団」による「天使は瞳を閉じて」が、2016年8月5日から9月4日まで、東京・愛媛・兵庫で上演されました。1988年に「第三舞台」で初演され、その後何度かの再演を経て、「虚構の劇団」としては2011年以来5年ぶり2回目の再演となった「天使は瞳を閉じて」公演の様子を、「上」「下」2回に分けて詳しくレポートします。

「虚構の劇団『天使は瞳を閉じて』」公演より=写真提供・サードステージ

「虚構の劇団『天使は瞳を閉じて』」公演より=写真提供・サードステージ

■「放射線管理地区」に指定され、透明な壁で封鎖された地域に閉じ込められてしまった人々

物語の舞台は近未来の地球。「放射線管理地区」に指定されたとある土地が、今まさに「封鎖」されようとしている。住人、動物愛護の活動家、高額な報酬を受け取り怪しげな実験に参加しようとする人、過去の贖罪のために生きようとする人、生きる事に絶望した人、etc.がそれぞれの大儀のために、封鎖されようとしている土地に入ろうとし、早急な非難を呼びかける警官や電力会社の社員とすったもんだの押し問答となる。

やがて大きなサイレンの音とともに封鎖の刻限を過ぎると、人々は自分たちが透明な壁に閉じ込められて、外に出られなくなっていることに気がつく。政府と電力会社が秘密裏に開発したこの壁は、放射線を通さない特徴を持ち、出口はどこにも存在しないという。閉じ込められてしまった彼らは、一瞬パニックを起こすものの、なんとかなるさと言いながら、封鎖されたこの土地で新たな「街」をつくるのだと「放射線管理区域」の奥深くに消えていった。

■大地震が起きて人間がいなくなった地球。透明な壁に閉じ込められた人たちだけが残った

時が過ぎ、地球規模の大地震が起こり、世界中の発電所から漏れ出た放射線に汚染されて、地球上には人間がいなくなってしまう。「神」の存在も覚束ないそこには、二人の「天使」たちが居た。天使の任務は「見つめる」こと。人間が居なくなった今、彼らは自分たちの受け持ち区域にかろうじて生き残った、動物や昆虫の様子を日々報告しあっていた。

ある日、天使の一人が透明なドーム状の膜に覆われた「街」を見つけ、そこに人間たちが居ると報告する。彼らがその「街」へ降り立ってみると、そこは賑やかなパーティーの真っ最中だった。透明な膜に覆われた「街」。そこは高度なIT技術とマスメディア、ソーシャルメディア、あらゆるメディアが異様に発達していた……。

<虚構の劇団  第12回公演「天使は瞳を閉じて」> (この公演は終了しています)
【東京公演】2016 年8 月5 日(金)~14 日(日) :座・高円寺1
【愛媛公演】2016年8月20日~21日 あかがねミュージアム あかがね座(多目的ホール)
【関西公演】2016 年8 月26 日(金)~28 日(日) :AI・HALL(伊丹市立演劇ホール)
【東京凱旋公演】 2016 年8 月31 日(水)~9 月4 日(日) :あうるすぽっと
【作・演出】鴻上尚史 【出演】上遠野太洸 鉢嶺杏奈 伊藤公一 佃井皆美 / 小沢道成 杉浦一輝 三上陽永 渡辺芳博 森田ひかり 木村美月 (虚構の劇団)

<関連サイト>
虚構の劇団  第12回「天使は瞳を閉じて」
虚構の劇団のページ

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近未来の「街」を訪れた天使が見たものは… 舞台「天使は瞳を閉じて」ルポ(上)
重くなりがちな社会派のテーマを、笑える演出で 「天使は瞳を閉じて」ルポ(下)(10月2日掲載予定)

<ここからアイデアニュース有料会員限定部分>一部ネタバレを含みますので、この作品をご覧になったことのない方はご注意ください。公演レポートの「下」は、10月2日(日)に掲載する予定です。

■透明ドームの中で天使が見たのは、売れないロックンローラーの結婚パーティ

■クロスメディア戦略で大ヒット曲を出したユタカ(上遠野太洸)。しかし急速に忘れ去られ…

■何故こうなるのか訳が解らず、それでもユタカの味方であろうとするマリ(鉢嶺杏奈)の一途な姿

■立ちはだかる壁に挑戦し続けるユタカと、迂回路を探すケイ(佃井皆美)。その対処方法は対照的で

■透明ドームの中で天使が見たのは、売れないロックンローラーの結婚パーティ

ある日、天使の一人が透明なドーム状の膜に覆われた「街」を見つけ、そこに人間たちが居ると報告する。彼らがその「街」へ降り立ってみると、そこは賑やかなパーティーの真っ最中だった。透明な膜に覆われた「街」。そこは高度なIT技術とマスメディア、ソーシャルメディア、あらゆるメディアが異様に発達していた。

いつも飄々とした風情のマスター(渡辺芳博さん)が経営する店「アンジェリコ」は、常連客が集い、憩いの場になっている。今日は親しい仲間内での結婚パーティが賑やかに行われていた。

売れないロックンローラーのユタカ(上遠野太洸さん)は、彼を一途に愛し、支えてくれるマリ(鉢嶺杏奈さん)との結婚を契機に、音楽を諦め、実家の工務店を継いで二人で幸せな家庭を築こうとしている。

二人のためのパーティーの仕切りは、街に君臨する一大企業カルマグループの傘下「カルマTV」プロデューサーのサブロウ(三上陽永さん)。観た人に勇気を与えられる番組を創りたいと語る彼は、明るくにぎやかしな性格だが、やがてマリへのある想いを抱くようになる。

スターになることを夢見る売れない芸術家のケイ(佃井皆美さん)。きっぷの良い姐御肌の彼女の情熱から生まれる芸術は、リアルで重い内容がなかなか受け入れて貰えなかった。

カルマグループ幹部に上り詰める切れ者、次々と斬新なイノベーションで、新たなムーブメントを仕掛ける電通太郎(伊藤公一さん)。プライベートでは人当たりの良い彼だが、ビジネスシーンでは情に縛られない合理的思考を持っていた。

いつか「街」の外に出ることを夢見て、透明な壁を破ろうと日々壁に向かって突撃するアキラ(杉浦一輝さん)。どこまでも前向きな性格の彼の毎日の挑戦は「壁を壊そう」という番組名で、カルマTVの名物プログラムになっている。

歌手時代のユタカのファンで、自分のやりたいことが見つからず、アルバイトを転々としているチハル(木村美月さん)。彼女はユタカへの思慕を日々募らせていた。

楽しそうなパーティーの様子を見つめていた二人の天使うちの一人が、突然「天使を辞めて人間になる!」と宣言。パーティーのドサクサの中で、「テンコ」(森田ひかりさん)という名の人間として人々の輪に混ざり、マスターの店の店員として人間と共に生活を始める。ひとりになった天使(小沢道成さん)は、自分の受け持ち区域を気にしつつも、透明な膜に覆われた「街」の人々を見つめ続ける・・・。

リアルさもチラ付くハードな設定の上に、「天使」というファンタジー要素を織り交ぜながら展開していく”透明な壁(膜)の中の街の人々”は、壁の外の世界を知らず、客席の私たちとなんら変わらない日々を営んでいきます。

■クロスメディア戦略で大ヒット曲を出したユタカ(上遠野太洸)。しかし急速に忘れ去られ…

皆に祝福され幸せな結婚生活をスタートさせたユタカとマリ。新婚ホヤホヤの二人の仲睦まじさには、「こンの、馬鹿ップル!!!(笑)」と、言いたくなるほど周りが目のやり場に困るイチャイチャぶりを披露してくれ、”見つめている”天使役の小沢さんも血管切れそうなほどアテられていましたが(笑)、上遠野さんと鉢嶺さん演じる、この美男美女夫婦のイチャイチャが恐ろしく可愛い!はじめ脊髄反射でイラッとしたのもつかの間(笑)、うっかりほっこりとさせられる、キラキラと爽やかな魅力を放っていました。

そんな幸せ真っ只中の二人でしたが、結婚前にユタカが創った曲がカルマTVのドラマの主題歌に採用され、太郎とサブロウの二人から、ドラマのヒロインとしてマリが女優としてスカウトされたあたりから様子が変わりはじめます。太郎とサブロウの仕掛けた強力なクロスメディア戦略の効果もあって、ユタカの曲はまたたく間に大ヒットし、一度は諦めた音楽の世界への想いに再び火がつくユタカ。ここでは実際に上遠野さんがマイクスタンドアクションバリバリでカッコイイロッカーとして熱唱してくれました。

しかし時がたち「僅かな時間で強引に街に溢れたものは、その半分の時間で忘れ去られる」という正鵠を射る天使のモノローグが流れ、大ヒットしたユタカの曲は急速に人々から忘れさられていきました。この辺りは、”熱しやすく冷めやすい”私たちの現実にも通じるところだと思います。音楽の仕事が無くなり、カルマTVで通販番組のナビゲーターやバラエティ番組で着ぐるみを着て、メディアへの露出を続けつつも、自分はロッカーなんだという思いを強くしていくユタカ。

■何故こうなるのか訳が解らず、それでもユタカの味方であろうとするマリ(鉢嶺杏奈)の一途な姿

一方、思いがけず人気女優となったものの、夫ユタカの才能を信じて、彼の曲を必死で太郎とサブロウに売り込むマリ。ひたむきに明るく自分をささえてくれるマリの姿と、思うようにいかない自分へのジレンマが、ユタカのプライドを傷つけ、さらには自分に想いを寄せているチハルの存在や、マリを想っていたサブロウの「マリちゃんを譲ってくれ」という面と向かっての爆弾宣言などもあり、耐えられなくなったユタカはとうとう離婚を選びます。

前半の可愛らしくもほほえましい、仲良し新婚夫婦の姿を観ているだけに、愁嘆場での血を吐くような上遠野さんのユタカの叫びと、何故こうなるのか訳が解らず、それでも最後までユタカの味方であろうとする鉢嶺さんのマリの一途な姿には、二人は何を間違ってしまったのかとほろ苦い思いでした。

■立ちはだかる壁に挑戦し続けるユタカと、迂回路を探すケイ(佃井皆美)。その対処方法は対照的で

ユタカと同じくロッカーのケイは、太郎やサブロウに自分の作品を次々と売り込みますが、なかなか自分の”表現”を受け入れてもらえず、その度に挫折感を味わいながらも、次の道を模索していきます。最初は音楽、次に映像作家、漫画家、そして(離婚後の)ユタカのマネージャーと、その職業を転々と変えていくさまは、目の前に立ちはだかる壁に対して、同じ壁に挑戦し続けるユタカと、迂回路を探すケイとで、その対処の方法が対照的。

一見、凹んでも必ず復活する、バイタリティの塊のような彼女ですが、彼女の作品の斬新さとは裏腹に、ぶつかる事によって生じる、他人と自身への被害を最小限に留めようと、正面衝突を回避しているようにも感じられ、物語の終盤での彼女の「ロッカーがよく言う、『世界と戦う』の『世界』は『自分』のことで、『世界と戦う』とは、『自分と闘う』こと。正しく世界と戦う人は正しく自分を傷つけ、めちゃくちゃに世界と戦う人は、めちゃくちゃに自分を傷つける」という台詞を聞いた時に、彼女は紆余曲折の末にひとつの答えをつかんだのだと思いました。

ケイの言葉で強く印象に残っているのが、「OK, OK, It’s No problem」というフレーズですが、そう言って客席含め周りを「安心」させて、次へと踏み出していた彼女が、同じ言葉を言いながらユタカの目の前でとった最期の選択には、見つめていた天使も間に合わないほどにあまりに突然で、観客としても不意をつかれ、また、ユタカとマリの結婚式で彼女が披露した「サプライズプレゼント」のシュチュエーションも、実は冗談ではなかったのだと二重にショックを受けました。

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