2016年9月30日~10月12日、東京・赤坂ACTシアターで上演された「ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~」の様子を紹介します(大阪では11月11日から11月16日まで、梅田芸術劇場で上演されます)。この作品は、ゲーム「バイオハザード」がベースで、原作権を持つカプコン社から、「自由に」とのお話の下、G2さんが脚本と演出を担当したオリジナルミュージカルです。
合成音声による読み上げ
<公式ページに掲載されたストーリーより>
アドリア海沿岸のとある城塞都市。過去の記憶を失くしたリサ・マーチン(柚希礼音)は、食料調達に出かけた仲間たちの帰りを待っていた。周りを囲む“奴ら”から逃れ、命からがら戻れたのはたった2人、その片割れのマルコ(KYOHEI)が“奴ら”に噛まれていた。絶望が広がる中、唯一の生き残りロブロ(平間壮一)が、噛まれても生きている少女が地中海の小島にいるらしいと告げる。医師ダン・ギブソン(渡辺大輔)はその少女の抗体から血清を作ることを提案。ダンとロブロ、空軍オタクのゼルグ(有川マコト)が小島へ向かうことに。
出発の時、“奴ら”の目を逸らすため、音楽家ロベルト(海宝直人/村井成仁)を中心に演奏を行う。3人を上手く出発させたと思いきや、奴らは暴れ出して住民を襲う。リサと武闘派のチャベス(横田栄司)がどうにか退治するが、チャベスの愛息ジルマが噛まれてしまった。2日以内に血清を打たなければ!リサとチャベスはジルマをつれて小島を目指す。その途中、空軍基地でリサはモーリス・グリーン大佐(吉野圭吾)と軍医ジョー・ナッグス(壤晴彦)から意外な自分の過去を知る…。果たしてリサたちは血清を手に入れ、世界を救うことができるのか?
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、登場人物別に舞台の様子を詳しく紹介します。(公演写真は無料部分のフォトギャラリーですべて見られます。有料部分にも写真を掲載していますが、有料部分だけの追加写真はありません)
<有料会員向け部分の小見出し>
■物語を通して描かれるチャベス父子の親子愛が印象的
■柚希礼音のリサは、スーパーウーマン。シャープな動きは流石
■渡辺大輔の奥深い歌声から感じられるリサへの思いと固い意志
■リサへの想いが空回り。純朴なロブロを小気味よく演じる平間壮一
■ロベルトの強く柔軟な精神を感じさせる海宝直人のやわらかな歌声
■大人の男性、父親としての存在感が胸に迫る横田栄司のチャベス
■丁々発止に2幕全体を支えた吉野圭吾の大佐と壤晴彦の軍医
■中井智彦ら超歌ウマな海の男たちの力強いアンサンブルは新鮮
■ウィルスの存在そのものを表現しているようなYOSHIEのダンス
■幻想的で印象に残った「あの時の二人とくじらの歌」のシーン
■サバイバルのコンセプトに、自然への畏敬の念を盛り込んで
<ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~>
【東京公演】 赤坂ACTシアター 9月30日(金)~10月12日(水)(この公演は終了しました)
【大阪公演】 梅田芸術劇場メインホール 11月11日(金)~11月16日(水)
公式ホームページ⇒http://musical-biohazard.com/index.html
⇒父子愛と自然への畏敬を描く、「ミュージカル バイオハザード ~ヴォイス・オブ・ガイア~」
⇒「ミュージカル バイオハザード」出演、平間壮一さんインタビュー(上)
⇒アンサンブルからメインキャストへ 平間壮一さんインタビュー(下)
⇒ミュージカル「ピーターパン」でフック船長役に、吉野圭吾インタビュー(上)
⇒誰も寄せ付けないのに子どもが寄ってくる、吉野圭吾インタビュー(下)
⇒幼稚園の時に演じた「おじいさん役」が楽しくて… 中井智彦インタビュー(上)
⇒「自分で創作をやりたかった」、中井智彦インタビュー(下)
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合成音声による読み上げ
■物語を通して描かれるチャベス父子の親子愛が印象的
一幕では、記憶を失ったミステリアスな美女、リサの過去を暗示する伏線と、困難な状況に協力して生き抜こうとするドゥブロブニクの人々との絆、二幕では血清を得るために奔走する過程で、一幕で置かれていた布石やダンとリサの過去についてが紐解かれていきます。そして、物語を通して描かれるチャベス父子の親子愛が心に残り印象的でした。
■柚希礼音のリサは、スーパーウーマン。シャープな動きは流石
ヒロインのリサ(柚希礼音さん)は、記憶を失い身元が解らないながら、医療知識があり、身のこなしにスキが無く、拳銃はおろか棍も使えるというスーパーウーマンぶりで、仲間のロブロやマルコといった男性陣から「高嶺の花」として慕われていました。芝居、歌、ダンス、そして殺陣もあるこの作品では、やはり宝塚歌劇団ご出身の柚希さん!シャープな動きは流石!ですが、特に2幕冒頭、心象風景の中でのリサとダンのダンスでは、リサの女性らしい艶やかさと華やかさが感じられて印象に残りました。また、ラスト近くに”奴ら”に襲われ傷付いたダンを抱きながら「それだけで不思議」というナンバーを、子守唄のようなアレンジで歌うシーンが登場しますが、このシーンの洞窟の中の質素な祭壇を思わせるようなセットと、ろうそくの灯りのような暖かみのあるライティングの効果もあって、さながら絵画の「岩窟の聖母」を思わせる、神秘的な母性を感じさせる美しい光景を魅せてくれました。そして、これは余談ながら(笑)、私が観劇した回のカーテンコールでは、カッコよく客席に投げキスをして女性客の声援を浴びる男前なお姿の一方、不意に渡辺さんにお姫様抱っこをされた後に、口元を両手で隠して照れながら退場する、可愛らしいお姿も拝見することができました(笑)。
■渡辺大輔の奥深い歌声から感じられるリサへの思いと固い意志
アメリカ人医師のダン(渡辺大輔さん)もリサに負けず劣らずミステリアス。過去の一時期リサと恋仲だった彼は、ある事件をきっかけに、記憶を無くしたリサを静かに見守り続けます。無茶をしようとするリサを諌めて彼が言う「君は、誰かの大切な人かもしれない」という、距離を置いた台詞に彼の覚悟を見るようで、リサを守るということと、ウィルスに対抗出来るワクチンを作り出す、という使命を持つダンの固い意志が、渡辺さんの爽やかかつ奥深いパワーを感じる歌声から十分に感じられました。
■リサへの想いが空回り。純朴なロブロを小気味よく演じる平間壮一
リサを慕うロブロ(平間壮一さん)は純朴な好青年。しかし彼女への想いは、ほぼ空回りでその度に客席の笑いを誘い、平間さんの小気味よい芝居が、ロブロをザンネンなところもあるけれど魅力的な人物にしていました。空軍基地でリサと再開したロブロが、彼女と歌うナンバーは、捕らわれの身のもどかしさを歌う、ビートの効いたとても耳に残る曲で、お二人のハモリが耳にとても気持ち良く響きました。
■ロベルトの強く柔軟な精神を感じさせる海宝直人のやわらかな歌声
音楽家のロベルト(海宝直人さん/村井成仁さん)は、おそらく今までずっと真摯に「音楽」に携わり「音楽」を愛してきた人物なのだろうと感じました。海宝さんのやわらかい歌声からは、ロベルトの人柄が、”奴ら”から目を逸らさず、音楽家としてこの現状に何が出来るかを模索する、強くて柔軟な精神の持ち主なのだと感じられました。物語終盤で彼のもたらした「魔よけ」は、奏でるその美しい音色がやさしい気持ちを呼び起こすようで、「音」の持つ力と可能性を改めて感じました。
■大人の男性、父親としての存在感が胸に迫る横田栄司のチャベス
無骨な武闘派、ベルナルド・チャベス(横田栄司さん)は、一幕では助力を求める仲間に対して、家族が一番大事と非協力的な姿勢を見せ、いわゆる変わり者の嫌われ者のような立ち位置で、リサ曰わくの「ジルマは良い子」と言われる彼の息子とは「似ていない親子」と見えましたが、ジルマとの会話の中で、過去に妻を”奴ら”に襲われ、それを自分の責任と考え、これ以上大事な家族を、息子を失うまいと、それを第一義に生きてきた人物とわかります。チャベスの歌う「ジルマ 息子よ」のナンバーは、誰の助けも借りずやってきたが、実は自分は息子に助けられていたんだと、息子が自分のすべてであるとの思いを切々と訴えていて、横田さんの大人の男性、父親としての存在感は胸に迫るものがありました。2幕では発病してしまったジルマに対して、銃でとどめをさそうとして、暫しためらった後、銃口と息子の間に自分の頭を差し入れて、ともに死のうとするシーンがあり、いかにもチャベスという人物らしい行動だと納得するとともに、やるせなさに涙を誘われました。
■丁々発止に2幕全体を支えた吉野圭吾の大佐と壤晴彦の軍医
モーリス・グリーン大佐(吉野圭吾さん)とジョー・ナッグス軍医(壤晴彦さん)は、軍隊という組織に動きを制限される、ストイックな吉野さんの大佐と、アル中を言い訳にしつつ、自由に振る舞う壤さんの先生という、貫禄と余裕ある大人な雰囲気の名コンビという風情で、互いに補い合う丁々発止の会話と行動力が2幕全体を力強く支えていました。個人的には優美なロングヘアのヴィジュアルイメージが強い吉野さんの、パツッと短髪で「ブラック・ジャック」のように両頬を渡る傷、艦の発令所で目深に軍帽を被り、アメリカ海軍の「SERVICE DRESS BLUE」をパリッと着こなす立ち姿、そしてニヒルかつ骨太な軍人気質という大佐のキャラクター造形と、壤さんの耳に心地よく響く、低音の魅力溢れる声に拍手!でした(笑)。
■中井智彦ら超歌ウマな海の男たちの力強いアンサンブルは新鮮
物語の中で、とある必要から、先生とワイオミングのサブマリナーたちが、かつてロベルトが作曲した「海のすべて」というナンバーをアカペラで合唱するシーンがありますが、副官役の中井智彦さんを筆頭とする、超歌ウマな海の男たちの力強いアンサンブルは、かなり異色でとても新鮮に響きました。同曲は、終盤でも大佐と先生の二重唱の、穏やかなアレンジでも歌われるのですが、こちらもとても耳が喜ぶひとときになりました。
■ウィルスの存在そのものを表現しているようなYOSHIEのダンス
スペシャルダンサーのYOSHIEさんは、1幕冒頭で最初の被害者となった「キャサリン」と、その後もウィルスに犯された人々を従え、動きの激しい見応えのあるダンスで度々登場し、その様は「人」というよりは荒れ狂う「疫神」のように見え、ウィルスの存在そのものを表現しているような、得体の知れなさを感じさせるその迫力は圧巻でした。
■幻想的で印象に残った「あの時の二人とくじらの歌」のシーン
物語では「音楽」と「クジラ」がキーワード、と言ってよいほど何回か登場しますが、2幕では海の中で泳ぐクジラを描写するシーンがあり、舞台前面に下ろした紗幕に、上方に水面が見える海中の映像を被せ、そこにヒレを持った巨大な影を映すことで、まるで海の深いところから上方を悠々と泳ぐクジラを眺めているようなダイナミックな視覚をもたらし、リサとアンサンブルさんたちの歌う「あの時の二人とくじらの歌」という、メロディラインの美しいナンバーがともに流れる演出はとても幻想的で、自然の神秘性、不可侵性をも感じられて、二つのキーワードが融合して、とても印象深いシーンになっていました。
■サバイバルのコンセプトに、自然への畏敬の念を盛り込んで
サブタイトルの「ヴォイス・オブ・ガイア」は、作中での「人間様がウィルスごときに負けるなんて」というロブロの台詞にもあるように、食物連鎖の最上位にいる人間が、無意識に持ってしまった自然への驕りへのメッセージであると感じられました。”絶望的な状況からあらゆる手段を使って生還を目指す「サバイバルホラー」の代名詞”というゲームの元々のコンセプトに、この作品でG2さんが新たに盛り込まれた、自然への畏敬の念に、改めてその事を考える機会を与えて貰いました。
また、その壮大なテーマを強力に、豊かに表現されていた、作曲・音楽監督の和田俊輔さんの音楽も、時にエネルギーの波動のような、時に人間の不可侵の世界に触れたような、アンサンブルの皆さんの美しい合唱とともに「ミュージカル バイオハザード」の世界感を、聴覚からより立体的に感じ取ることができました。
物語としては、喫緊の問題には一応の完結をみて幕を閉じるのですが、結局リサが何者であるのか?ということは謎のままです。ラストでチラリと語られた、リサの新たな旅立ちと、これから辿る運命やいかに?ということで、そのまま続きが作れそうなラストシーンになっていて、いつかこの個性的なキャラクターたちに再び会える日があるのかもしれないなと思った次第でした。