新国立劇場開場20周年シーズン記念公演として、フランス近代演劇の巨星ジャン・ジロドゥの不朽の名作と称される『トロイ戦争は起こらない』が、2017年10月5日(木)から新国立劇場中劇場で、10月26日(木)からは兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演されます。鈴木亮平さん演じる、平和を求める主人公、トロイの王子エクトールに相対するギリシャ外交使節の知将、オデュッセウスを演じられる谷田歩さんにお話を伺いました。
――今回の作品は「ギリシャ劇」になりますね。
「ギリシャ劇」ではあるけれど、作者がフランス人だから「フランス劇」なのかな? でも、例えばこの間の『フェードル』(2017年4月シアター・コクーン)は、作者がフランス人なのに「ギリシャ悲劇」ですもんね。
――先日ご出演された『フェードル』と、作品的にも、カンパニーとしても共通部分が多いですね。演出は栗山民也さん、翻訳は岩切正一郎さん、スタッフの方も…。
そうですね、おかげでやりやすいというか、入りこみやすいですね。
――谷田さん演じられるオデュッセウスは、2幕での登場ということで、ラスボス感がハンパない感じです。
(笑)。いや、でもオデュッセウスってね、調べれば調べるほど面白い奴で。「知将」なんだけど、その後の話とかみると、ラッキーで乗り越えて行った部分もいっぱいあって。とにかく女の人に好かれるんですよ。だからポセイドンには叱られてるんだけど、アテネには好かれてるから、それで救われちゃう。
――この作品の時代、トロイ戦争前のオデュッセウスは、何歳くらいなんでしょう?
本当は若いんじゃないかと思うんです。だって、トロイ戦争前ですもんね。トロイ戦争が10年間で、その後オデュッセウスが8年~9年間くらい漂流してたんですから、正味20年ぐらいトロイ戦争に出ていて自分の国に居ない。この作品はその前の話ですから。
――オデュッセウスとエクトールの会談の場面で、エクトールは若者らしい真っ直ぐで理想に満ちた発言をしますが、対するオデュッセウスの発言は、エクトールに比べると「老獪」に感じられます。エクトールは若者で、オデュッセウスはそれなりに歳を重ねているのではと思ったのですが。
そうですね。僕もそう思いました。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、『トロイ戦争は起こらない』について、オデュッセウスについて、さらに掘り下げて伺ったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。8月25日掲載予定のインタビュー「下」では、これまで出演された『フェードル』や『今は亡きヘンリー・モス』について、そして7月に亡くなられた中嶋しゅうさんとの最期の会話などについて語ってくださったインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■「戦争は必ずしも憎み合う同士がするわけではない。ライバルが居るからこそ起きる」と
■「王は戦争をしたがっている。戦争を起こさざるをえないぞ」って通知しに来た
■「オデュッセウスって武将ですか?」って栗山さんに聞いたら「ドイツ軍だよ」って
■「戦争」を体験して知ってる人が、少なくなっているから、伝えなきゃいけないと
<舞台『トロイ戦争は起こらない』>
【東京公演】2017年10月5日(木)~10月22日(日) 新国立劇場
【兵庫公演】2017年10月26日(木)~10月27日(金) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
公式サイト
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_009658.html
<関連リンク>
谷田歩 Official Twitter https://twitter.com/tani3rd
谷田歩劇団 AUN http://aun.la.coocan.jp/menber/sho-tanida.htm
谷田歩(J.CLIP) http://www.j-clip.co.jp/JCLIP14AW/member_jclip/TanidaAyumi.html
- 「虐待から救ってくれたら、その人が犯罪者でも恩人」、谷田歩インタビュー(下) 2019年11月8日
- 「栗山民也さんを、うならせたい」、舞台『カリギュラ』谷田歩インタビュー(上) 2019年11月7日
- 2017年以前の有料会員登録のきっかけ 2018年10月28日
- 2020年12月以前のプレゼント 2021年6月16日
- 「いつもと違う。生半可なものは届けられない」、大竹しのぶインタビュー(下) 2021年1月2日
- 「好きなのぉー!!と、青春です」、『フェードル』大竹しのぶインタビュー(上) 2021年1月1日
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■「戦争は必ずしも憎み合う同士がするわけではない。ライバルが居るからこそ起きる」と
――エクトールの、若者の持つ真っ直ぐさや正義感みたいなものを、世の中そんな綺麗なものばかりではない、といった感じでオデュッセウスがたたみかけ、2人が言葉を重ねていく内にエクトールが自分の主張では勝てないと自覚してしまいますね。トロイを背負って会談に臨んでいるエクトールが、ギリシャの、いわば外交官であるオデュッセウスの言っていることに勝てないと思うと、オデュッセウスの発するある種のプレッシャーが相当なものになるんだろうなと感じました。
オデュッセウスも戦争を望んでいるわけではないとは思うんですけど、でも戦争は必ずしも憎み合う同士がするわけではないって言うんです。前の日には仲良く酒飲んでいたのに、翌日には戦争が起こる。同じようなライバルが居るからこそ戦争が起きてしまう。あれ、かっこいい台詞だなって。
――「敵」同士が争うのではないというのも深いなぁと思いました。
そう。だからエクトールがもし若いとしても年老いていたとしても、威圧する会談…もちろん緊張感はあるんでしょうけど、どっちかが優勢とかいう会談じゃなくて、タイトロープな、もう本当にピーンと張っている、でも下手打てないぞっていうような会話になったら面白いでしょうね、あそこは。
■「王は戦争をしたがっている。戦争を起こさざるをえないぞ」って通知しに来た
――制作発表で鈴木亮平さんもおっしゃっていましたが、この会談の場面は、非常に緊張感のある面白いシーンになるだろうなと感じました。オデュッセウスの「戦争」に対する考え方ですが、まるで戦争自体が「意志」を持つような話し方をしますね。
そうですね。多分「戦争」を擬人化しているのは、自分の国ギリシャの王メネラスの意志っていう話じゃないのかなって思うんです。メネラスは戦争をしたがっている、トロイを欲しがっているよっていう。でも、僕(オデュッセウス)は別に戦争をふっかけるために来た訳じゃない。でも、多分メネラスからは指令を受けているから、エレーヌ(ギリシャ王妃)を返してくれって。さらにそれには条件をつけていて、返すのは“さらわれる前の、元の状態そっくりそのまま”だぞって言う。これはもう無理難題じゃないですか。そうやって戦争を起こさざるをえないぞっていう事を通知しに来たんだけれど、でも僕(オデュッセウス)自身の気持ちとしては、エクトールに、もうほんとに友達として「戦争ってそういうもんじゃん?」って。こうやって仲良くなっても、翌日には戦争は起こるからね、っていうことを告げに来ただけだと。これは今の時点での僕の考え方ですけど。
――戦争の意志=メネラスの意志ということですね。オデュッセウスは「戦争」それ自体をいわゆる人知の及ばぬところ、人が抗えないモノだという感覚を持っているのかなと想像していました。
“神託”みたいなもんですね。
――それに近い印象を受けました。なのでオデュッセウスの考え方って?と疑問に思って、ご本人(笑)にお伺いしてみたいなと。
いや、でもそうですね。オデュッセウス自身、神託によって「トロイ戦争に行ったら長いこと帰れないから」って言われてるじゃないですか。だから「行きたくない」って言ってて。でも多分メネラスの神託では「トロイを盗れ」っていう風なものになっているから。そうか、両方ですね。神託の意志と、メネラスの意志と。
――実際、神様の存在がとても身近な世界感ですね。今よりもっと神の言葉が身近で、そういう解釈の下の“戦争が意志を持っている”なのかなと想像してました。
神々が隣に居た時代ですから(笑)。面白いのは『フェードル』もそうなんですけど、現代の僕たちが神話の世界だと思っているミノタウロスとか、そういう存在がフェードルの「兄弟」なんですよね。だからきっと、事実、史実だとしたら、なにかそういう類の…例えば馬面であったり、見た目が人とちょっと違っていたり、そういう人物が石牢みたいなところに幽閉されていて、実際にそれを倒したとかがあったんじゃないのかなとは思うんですよね。
■「オデュッセウスって武将ですか?」って栗山さんに聞いたら「ドイツ軍だよ」って
――神話などの「口承文学」と言われるものは、実際に何か元になる出来事があって、それが語り伝えられている可能性はあると思います。
絶対そうですよね。だから栗山さんもね、「口伝えだからどんどんどんどん変わっていく」っておっしゃって。そういうもんなんじゃないのかなって。でもこれは第二次世界大戦前の1935年に書かれたものだから、どういう風な解釈で作家のジロドゥさんが書いたのかわからないけど、でも、面白い時代を題材にしているなと。
――ジャン・ジロドゥ自身が外交官だったそうですね。作品ではオデュッセウスもギリシャの外交官的な役回りなので、もしかしたら自身を重ねているところがあるのではないかなと。
やりたかったことというか、面白いだろうなっていうことをですよね。自分の経験を元にね。
――そうですね。オデュッセウスは作者自身の考えを投影している人物になっているのかもしれない。だからこそ「戦争の前には必ず、なにがしかの会談がある」という台詞があって。
それを経験したんですよね、多分。ジロドゥが外交官だった時に、ドイツ軍の将校が来て、そういう会話を上司としてたのを聞いた、とかね。で、そのドイツ軍の将校が、多分オデュッセウスみたいな奴だったんでしょうね、きっと。
――その会談の時間は、互いに親しい友人のように対等に話せる、だから話のわかる相手だとそう思って別れた翌日には、何故か戦争が始まってしまう。
そうですね、自分でそうやって説明してますしね。ただどうなんだろう? 栗山さんの演出、まだ分からないですけど、僕が『フェードル』のときに、「また10月ご一緒ですね」って言ったら、「そうだよ。また最後の最後に出て来て、ベラベラしゃべる役だから」って(笑)。それで、「マジすか! でもオデュッセウスって武将ですか?」って聞いたら、「いや、ドイツ軍だよ」って栗山さんがおっしゃったから、“あ! そうなんだ”みたいな。
■「戦争」を体験して知ってる人が、少なくなっているから、伝えなきゃいけないと
――ドイツ軍。
そう。だからきっとギリシャ悲劇っぽい扮装とかではなくて、そういうビジュアル、それをちょっと連想させるようなものになったりして。分かんないですけどね(笑)。
――人間はその場や状況に全く関係なくても、何かモチーフが置かれるだけで、それに関連した情報や感情を呼び込めてしまいますから、そういう意味では面白い効果がありそうですね。
だから栗山さんは、自分でホロコーストの場所に行かれたりするんです。あの当時の話とかを、興味なのか、忘れるなってことを伝えるためになのかわからないけれど、ご自分でも取材に行ったりとかしてね。本当に「戦争」を体験して知ってる人が、少なくなっているから、伝えなきゃいけないって。
――そうですね。その意味では今回の作品にその想いが…。
うん。出たらいいですよね、それが。
※谷田歩さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは9月7日(木)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。