「(中嶋)しゅうさんは、流血を僕に気付かせなかった」、谷田歩インタビュー(下)

谷田歩さん=撮影・達花和月

2017年10月5日(木)から新国立劇場中劇場で、10月26日(木)からは兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールで上演される舞台『トロイ戦争は起こらない』に、ギリシャ外交使節の知将、オデュッセウス役で出演される谷田歩さんのインタビュー「下」です。

谷田歩さん=撮影・達花和月

谷田歩さん=撮影・達花和月

――制作発表でもお話が出ましたが、今日親しくしていても、明日には戦争が始まっている。互いの意志は戦争はしたくないという方向なのに、何故か物理的にはそっちに走ってる、というお話しが心底ゾッとしました。自分の意に反して望まない方向に引っ張られてしまう、という構図の小さな齟齬は割と日常に転がっていて、珍しいものではないと思うんです。その大変大きな規模のものが、ここでは「戦争」なんだろうなと考えると、決して遠い感覚のものではないなと。

結局個人同士ですもんね。独裁者が居たら、絶対そいつの意志だし。日本だってね、過去になんで開戦したのか?までの理由がいろいろありますけど。

――一概には言えませんけれど、それでも、不可抗力な「自然災害」ではなく、「人間同士」が起こしたことなので、他に選択肢はなかったのか?とは考えてしまいますね。ところで制作発表で、「この作品は女性が強い」とおっしゃっていましたが、どんなところで「この女性強いな!」と思われたのでしょう?

もう、エレーヌがあれですよね、会話に出てますよね。なんでそういう返しをするのかなって。結局パリスのことも、メネラスのことも見てない、とかさ(笑)。

――エレーヌという女性は、オデュッセウスにはどう見えていたんでしょう?

最後の方でちょっとしゃべってましたね、エレーヌのこと。「手を出しちゃいけない女だった。それだけだ」って。他のことは全部良いけど、それだけだ、って。

――エレーヌはシャーマン的な不思議な要素も持つ女性に描かれていますね。明らかに周りの人たちと目線というか次元が違う。普通の人にとっては大事でも、彼女の目を通すと些細なことにしか映らないから「見えていないわ」って。

そうなんですよね。でもどの時代でもね、女の人は強いですよ(笑)。日本って言い方はなんかあれですけど、遅れてるのか分かんないけど、男が強い時代がちょっと長すぎましたね。だからこういう本を読むと、どうしても僕なんかは、あ、(女性が)強ぇなっていう感じなんですね。亮平さんは(強い女性が好きなので)そういうのは感じなかったって言ってたけどね(笑)。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、谷田さんがこれまで出演された『フェードル』や『今は亡きヘンリー・モス』について、そして7月に亡くなられた中嶋しゅうさんとの最期の会話などについて語ってくださったインタビューの後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■『フェードル』の(大竹)しのぶさんの…「好きなの…ッ!」って強烈じゃなかった?

■しゅうさんが「ごめんね。俺、本気だからさ。何でも本気でやっちゃうんだよ」って

■『下町ロケット』に引きずられて『バグダッド動物園のベンガルタイガー』で叫んで

■『トロイ戦争は起こらない』は現代世界で起こっていることを劇にしていて、面白い

<舞台『トロイ戦争は起こらない』>
【東京公演】2017年10月5日(木)~10月22日(日) 新国立劇場
【兵庫公演】2017年10月26日(木)~10月27日(金) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
公式サイト
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/16_009658.html

<関連リンク>
谷田歩 Official Twitter https://twitter.com/tani3rd
谷田歩劇団 AUN http://aun.la.coocan.jp/menber/sho-tanida.htm
谷田歩(J.CLIP) http://www.j-clip.co.jp/JCLIP14AW/member_jclip/TanidaAyumi.html

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谷田歩さん=撮影・達花和月

谷田歩さん=撮影・達花和月

※ここから有料会員限定部分です。

■『フェードル』の(大竹)しのぶさんの…「好きなの…ッ!」って強烈じゃなかった?

――そうおっしゃってましたね(笑)。でも谷田さんは女性が強いと感じられたということでしたから、これはお二人の女性の好みが…(笑)。

多分違うんでしょうね(笑)。うん、きっと。今回と直接関係ないけど、あの「好きなの…ッ!」って(大竹)しのぶさんの…、あれ強烈じゃなかったですか?(笑)。

――『フェードル』での台詞ですね(笑)。血を吐かんばかりのすさまじい表現で!

俺、毎回舞台袖にそれだけ聴きに行きましたもん(笑)。あれはね、栗山さんがこだわった台詞のひとつですね。

――あそこはあまりの迫力に、文字通り釘付け状態になりました。

だから、今回の作品でも、要所要所すごいのが多々あると思いますよ。

――谷田さんはシェイクスピア作品へのご出演も多くていらっしゃいますが、実際演っていらしてギリシャ劇との違いを感じられることはありますか?

うーん、翻訳によっても違いますね。大きく違うのは主役ばっか出てないってとこですかね、ギリシャ劇の方は。

――群像劇のように?

そうですね、シェイクスピアの場合は、ほんとに分かりやすくて、主役は多分やりやすいんだと思うけど、周りの役のことは何も書かれていなくて、何でコイツ急に出てきた?という奴が一杯居るんですね。でもギリシャ劇の方はちゃんと説明されてる役が多いですよね。だから今回はエクトールが主役だけど、エクトールを芯として周りが廻って行くんじゃなくて、エクトールも一緒になって廻っている感じがしますよね。

――特に終盤にかけて、エクトールが周りに翻弄されているように見えますね。物語の展開を大変楽しみにしています。

僕も楽しみです。

谷田歩さん=撮影・達花和月

谷田歩さん=撮影・達花和月

■しゅうさんが「ごめんね。俺、本気だからさ。何でも本気でやっちゃうんだよ」って

――これまでたくさんの作品にご出演されていらっしゃいますが、私が初めて拝見した作品は、2010年に小川絵梨子さんが演出された『今は亡きヘンリー・モス』だったんです。とても印象深い作品で、再演を今か今かとお待ちしていたので、父親役の中嶋しゅうさんの突然の訃報は、本当にショックでした。

しゅうさんね、亡くなる1ヶ月くらい前かな、「来年芝居やんねーか?」って電話がかかってきて。丁度その時期にスケジュールが空いてなくて「ごめんなさいしゅうさん、スケジュール埋まってて」って言ったら、すごい残念そうだったんですよね…。なんかそれが最期の会話になっちゃって。それだけはちょっと悔しいです。

でもね、『ヘンリー・モス』の時に、しゅうさんがあんな怖い親父演ってて、最後すげぇ絡むのに、全く駄目出しもしないし、アドバイスもなかったんだけど、ほんとに“感じろ!”っていう人で。最後掴み合いになる時に、思いっきりヘッドロックするシーンがあって、僕よりちっちゃいしゅうさんがそれをガン!と演って。そのシーンが終わってから、しゅうさんが「ごめんね。俺、本気だからさ。何でも本気でやっちゃうんだよ、ごめんね。だから谷田も本気でやってね。」っておっしゃって。で、その時「わかりました」って応えて。本番入って、毎回そうだったらしいんですけど、ある時にしゅうさんが流血してるって、スタッフさんから聞いて。掴み合いの時の、僕がしゅうさんのヘッドロックを回避するときに吹っ飛ばされて、毎回蛇口の所で頭をぶつけていたらしいんですよ。

でも、しゅうさん、共演してるときに血流してるのを僕に気付かせなかったんですよね。で、その話を聞いて、しゅうさんカッケーなぁって。「しゅうさん、ごめんなさい」って謝ったら「え、何が?」っておっしゃる。芝居は勿論考えながら演ってるんですけど、ほんとに“作らない”人でしたね。なんか“感じてくれ”っていう。

――アクションではバーン!とかドーン!とか激しい音が響いて、こんなに激しいけど演技なの?と、度肝を抜かれた記憶があります。セットの流し台とかはぶつかって、ボコボコでしたね。

あれって、小川絵梨子さんのプロデュース的なものでは日本に帰ってきて1作目だったので、気合い入ってましたからね(笑)。全員本気でしたよ。だって俺、あの時、伊礼彼方(谷田さんの弟役)のこと大っ嫌いでしたもん(笑)。

――(笑)。お世辞にも仲良しとは言い難い、激しい関係の兄と弟でしたね。

だってそういう役だから(笑)。それはしゅうさんに対してもそうですよ。もう恐怖でしかなかったですもん。だからほとんど稽古場でも呑みに行こうって話にならなくて。真っ直ぐ家に帰ってきても、稽古で消耗して台本開きたくない(笑)。丁度こういう暑い時期に稽古で…。いやでも、しゅうさんは格好良かったですよ。ほんとに。

――それにしても怪我を微塵も気付かせなかったしゅうさんが…それも毎公演。

毎回そうだったんだよって、スタッフさんが教えてくれて。しゅうさんは何も言わない。すげぇ本気の人でしたね。だから、全然格好良くないですけど、舞台上でそうやって、プツッときれて死んじゃうっていうのは、しゅうさん全然本望じゃないって思いますけど、でも俺は最期まで格好良いなと思いますけどね。

■『下町ロケット』に引きずられて『バグダッド動物園のベンガルタイガー』で叫んで

――役者という職業ですから、いろんな役を演じられるわけですけれども、例えば『下町ロケット』(2015年TBS)の唐木田さんで、わーーーっとものすごく熱量のある役を演じられたかと思うと、『浮標』(2016年)では、一転して柔らかで穏やかな佇まいの将校さんを演じられて。印象が全く違ってすごいなと思いました。

どっちかって言ったら、『浮標』の赤井さんの方が演りたい芝居なんですけど(笑)。『下町ロケット』は、どうしてもこのビジュアルで求められたんで。あの頃、新国立劇場で同時に演っていたのが『バグダッド動物園のベンガルタイガー』(2015年)だったんですけど、唐木田さんも叫んでいて、『ベンガルタイガー』でもすっげェ叫んでいて。多分、唐木田さんのせいで『ベンガルタイガー』は叫んだんですよね、俺(笑)。

――唐木田さんに引きずられて…?(笑)。

超引きずられてました(笑)。

――ちなみに谷田さんご本人に近いのは、熱い唐木田さんと穏やかな赤井さんのどちらでしょう?

いや、近さは…どっちだろう(笑)。でも赤井さんに近くいたいですよね(笑)。

――“近くいたい”んですね(笑)。やはり唐木田さんの熱さをお持ち、と(笑)。

まぁ、劇団(吉田鋼太郎さん主宰「劇団AUN」)で酒呑んだらね、そうなりますよ(笑)。

谷田歩さん=撮影・達花和月

谷田歩さん=撮影・達花和月

■『トロイ戦争は起こらない』は現代世界で起こっていることを劇にしていて、面白い

――いろいろお話をありがとうございました。最後にお客様へメッセージをお願いします。

亮平さんがおっしゃってましたけど、「ギリシャ劇」とかって聞いたら、やっぱり難しいとか前勉強が必要とかって考えるかもしれないけど、僕も自分の劇団で、鋼太郎さんの演出でシェイクスピアをずっとやってきて、観たらやっぱりハマるんですよ。難しくない、分かりやすいんですよね、ほんとに。難しいことを言っているのは言葉がちょっと難しそうに聞こえるだけで、やってることはほんとに簡単単純なことなので。だからそうですね、難しいものを想像するんじゃなくて、現代の僕たちの世界で起こっていることを劇にしているだけなので、非常に面白い作品になるんじゃないかと思ってます。すごい期待してます。

――ギリシャ劇だからといって、敷居が高いわけでは全然ないですよ、ということですね。

そう思いますよ。絶対楽しいんで!

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