「シンプルだからこそ難しい」、『パジャマゲーム』青山航士・工藤広夢対談(上)

青山航士さんと工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

2017年9月25日から10月29日まで、東京と大阪で上演されるミュージカル・コメディ『パジャマゲーム』。初演(1955年)と再演(2006年)で、トニー賞を受賞し、時代を超え普遍的に人々に愛される明るくて楽しいことこの上ない作品です。そして『タイタニック』『グランドホテル』で日本でもすっかりお馴染みとなったイギリスの若手演出家、トム・サザーランド氏の演出、ロンドンミュージカル界で十指に数えられる振付家、ニック・ウィンストン氏の振付という話題性もとても気になるところ。ボブ・フォッシーとの縁も深い本作では、ダンスも必見間違いなしです。今回はそのダンスシーンでのご活躍が楽しみなお二人、青山航士さんと工藤広夢さんにお話を伺いました。

青山航士さんと工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

青山航士さんと工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

――稽古が始まって、キャストの皆様のSNSでは「筋肉痛、汗だく、シャツが!」という言葉が頻繁に飛び交っていて、これは大変そうだなぁと思いながら拝見しています(笑)。

青山:ははははは(笑)。

工藤:ハイ。僕は稽古中に毎回、Tシャツ3枚くらい替えてます(笑)。

――稽古場は空調が効いているでしょうけど、それでもこの時期(取材は8月)は大変ですね。

青山:出演者は暑いんですけど、スタッフサイドは「寒い。」って言ってますよ。でも(演出の)トムが暑がりなんですよ!(笑)。

工藤:(笑)。でも、動いてほんとにちょうどいい感じですね。

――振付のニックさんが来日されて、お稽古初日から「筋肉痛」っていう単語が飛び交って。

青山:ニックがみんなと初めてだったので、どのくらい出来るか技量を見るために、どのシーンで使うとかを含めて、初日にワークショップみたいなものがあったんです。

工藤:もう初日から大運動会でした、ホントに。「飛んで!飛んで!飛んで!」みたいな振付で、急にジャンプしたので、みんな「筋肉がやられた!」って。

――ダンススキルをお持ちの方々から聞こえてきた「筋肉痛」という言葉に、どれほど激しい動きを?!と驚きつつも、観客的には、これはどんなダンスを拝見できるのか楽しみだなー!って思ってしまいました。

青山:いや、相当楽しくなると思います。ほんっとに!

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、ボブ・フォッシーとの縁が深い本作の稽古がどのように進んでいるのかなどについて伺ったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。19日掲載予定のインタビュー「下」では、青山さんと工藤さんが共演された『王家の紋章』などについて伺ったインタビューの後半の全文を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■青山「振付は、四角、丸、三角だったり、シンプル。でも線がちょっとでも乱れると…」

■工藤「踊り始めた時の先生がフォッシースタイルだったので、ほんとにワクワク」

■青山「(トムさん演出の『グランドホテル』の時は)ゲネぐらいで、また変わりました」

■工藤「稽古はシビアで、1発目で出来ないとすぐ変えちゃう。猶予期間が無くて悔しい」

<ミュージカル『パジャマゲーム』>
【東京公演】2017年9月25日(月)~10月15日(日) 日本青年館ホール
【大阪公演】2017年10月19日(木)~10月29日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式サイト http://pajama-game.jp/

<関連リンク>
青山航士 オフィシャルサイト http://www.f-spirit.co.jp/aoyama/aoyama.html
青山航士 ブルーマウンテンCafé http://aoyamakoji.jugem.jp/
Junction 工藤広夢 http://www.junction99.com/p_hiromu.html
工藤広夢 むぅの夢日記 https://ameblo.jp/mu-noblog-0305/

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青山航士さんと工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

青山航士さんと工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

※ここから有料会員限定部分です。

■青山「振付は、四角、丸、三角だったり、シンプル。でも線がちょっとでも乱れると…」

――この作品はボブ・フォッシーとの縁が大変深いですが、振付のニックさんも『フォッシー』のオリジナルキャストでいらっしゃいますね。

工藤:ニックの踊る“スタイル”がパワフル過ぎて、もう僕たちも「やらなきゃ!」という気持ちにさせられるっていうのは、稽古中すごくありました。難しいステップとかはそんなに無いんですけど、一見複雑……初見でパッと見ると、ものすごい複雑なことをやっているように見えるステップ、そんな振りは多いのかなって。

青山:誰でも出来るというか、見てる人が「あ、私も踊れるんじゃないか?」っていう風に思わせる、ワクワクさせるような振付の仕方なんだなぁと思いました。

――でもやってることは難しい?

青山:やっていることはシンプルなんですけど、シンプルが一番難しいですよ、やっぱり。

工藤:ストップの振付とかも、エネルギーはすごく出しているんですけど、スマートに見せなきゃいけないみたいな振付が、一番こう…精神的にも「くる」というか(笑)。

青山:振付を絵で形に例えると、複雑ではないんですよ。ごちゃごちゃっていうラインではなくて、結構「四角」だったり「丸」だったり「三角」だったり、シンプルで分かりやすい。見て分かりやすいんですけど、それだからこそ、その「三角」の線がちょっとでも乱れていると…駄目!

青山航士さん=撮影・伊藤華織

青山航士さん=撮影・伊藤華織

――分かりやすいけれどすごく精緻な作りなんですね! 観る側としても、プロの高度で複雑な技を拝見する楽しみも確かにありますが、「ひょっとしたらこれ、自分も踊れるかも?」と思わせてくれるダンスは、とっつき易い分、のめり込み度が違う気がします。

青山:「王道」な振付です。最近どっちかっていうと、すごい凝った振付だったり、ヒップホップだったり、ストリートだったり、もう複雑な動きで華やかに見せるっていう作品が主流というか、流行っているんですよ。だけどやっぱりこの年代の、古き良きシンプルな動きがね。でもそれを踊れる人はやっぱり少ないです。なんでもそうですけど、それにはやっぱり基本がないと駄目だし。バレエもできないと駄目だし。

工藤:レッスンとか受けにいっても、やっぱり少ないですね。そういうフォッシースタイルとか、ほんとに動かないで、手だけ上げてお洒落!みたいな先生が、なかなかいないなっていうのは思います。

――シンプルなダンスが少ないという傾向は日本に限った話なんでしょうか?

青山:その作品によるとは思うんですけど、でもやっぱりそういう作品が少ないですね。踊りが主流というか。踊りが主流でも、やっぱり最近若い振付の人とかは、どっちかっていうと凝った方に走っちゃう。いろんなものを、色を付けたがっちゃう。でもニックの振付はごくシンプルに「黒と白」だけの感じなんで、だから見てても分かりやすい。

■工藤「踊り始めた時の先生がフォッシースタイルだったので、ほんとにワクワク」

――これまで「フォッシースタイル」で舞台に立たれたご経験は?

工藤:僕は仙台で踊り始めたんですけど、その仙台で通ってたスタジオが、歌とお芝居とダンスを全般的にやるミュージカルアカデミーみたいなところで、そのダンスの先生がニューヨークでフォッシースタイルを勉強して、完全に影響を受けて日本で俳優をされていた先生だったんです。僕はそこが入り口だったので、もうほんとにワクワク。稽古初日からほんとに楽しかったですね。

青山:広夢いいよね。若いときからある意味触れてるから。

工藤:そうなんです。『West Side Story』や『A Chorus Line』から「ミュージカルいいな」って思い始めたので、まさに今回は自分が入り始めたジャンルのスタイルというか。好きなジャンルです。

青山:僕は2014年に『CHICAGO』という作品で初めてフォッシースタイルに出会って、ゲイリー(・クリスト)という本場の方の振付で、そこでやっぱりフォッシーの世界にドップリはまって。僕はそこからですね。その前にも別にレッスンを受けたことはないし、フォッシーの作品に出たこともなかったので。

工藤:僕はもうこのスタイルが好きすぎて。去年ニューヨークに行ってきたんですけど、毎日フォッシースタイルのレッスン受けに行って「またお前来たのか?」みたいなことを言われてました(笑)。でも日本だとなかなかないので、ニューヨークまで行かないと受けられないなと思って、受けに行っちゃったんです。

工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

――日本で「フォッシースタイル」に触れられる機会は少ないのですね。

青山:みんな知ってはいるんですよ、ダンスやってる人は。だけど、本当に知ってる人は少ないと思います。それをかじって「出来ますよ、教えられますよ」っていう人は、多分たくさん居ると思います。それを受けたいなっていう人もたくさん居る。だけど、本場の人から教えて貰ってるのを知ってると、それちょっと違うな、って思う所もあったりするんですけど。

――トムさんが今回の作品について「フォッシーへのオマージュではあるけれども、新しいものを作る」ということをおっしゃっていましたね。

青山:もうもう、すでに立ち稽古開始1分でそれが現れてます(笑)って言うぐらい。台本もほぼ書き換えるからね、って言うくらいの勢いで。

工藤:本当に(笑)。振付も1回踊らせてみて、しっくり来なかったら、すぐ変えちゃう。

青山:ヘタしたら「じゃあ、君ちょっとこのシーン出ないで」ってなるかもしれないし。

工藤:そうですね。

青山:そのぐらい、やっぱりその人たちが一番楽しめたり、輝けたりするようにね。トムが、舞台上は“Play Ground”だってよく言うんですよ。「遊び場」だって。だから「君たちが一番楽しく過ごせる環境を僕は創りたいから、この脚本でその通りいかなかったら、僕は君たちに沿って脚本を書き直す」って言うぐらい。もちろんベースはあるんですけどね。

■青山「(トムさん演出の『グランドホテル』の時は)ゲネぐらいで、また変わりました」

――トムさんは以前にも『The Pajama Game』(2008年)を演出されていますが、その時とはまた違ったものになるということですね。

青山:勿論違うものになると思います。人種も違うし、演ってる人も違うので。

工藤:絶対違うと思いますね。

――観客も日本人が圧倒的に多いでしょうし。ある程度はローカライゼーションされるのでしょうね。

工藤:やっぱりアメリカンジョークって日本人にはなかなか伝わり辛いし、しかも文字に書き換えるとなおさら「どこが面白いんだろう?」って思うところがいっぱいあるので、そこはトムの演出で、今いろいろだんだんと変わっていっている段階です。

――トムさんの日本での直近の作品『グランドホテル』では、結構土壇場までキャストの方達とディスカッションなさったと聞いています。

青山:あの時もゲネぐらいでまた変わりましたね。ホントに、ギリギリに。大変でした、ホントに!

工藤:そうなんだ!

青山:しかも2チームあったから。僕たちは両方演って、違う演出だったりもするので。

青山航士さん=撮影・伊藤華織

青山航士さん=撮影・伊藤華織

――観る側的には、例えば楽近くでも演出家が入って演出が変わったりするのは、創り手側の作品への飽くなき熱を感じられてワクワクする出来事なのですが、演者的には大変だろうなーと(笑)。

青山:大変ですけど、それはそれですごく良い緊張感だし、そこまで追求してるというか、作品に対してのベストを尽くす想いだったり。

工藤:やっぱり初日が開けて、中日(なかび)くらいまでくると、初日ではこういう感覚で演ってたっていうのが、だんだん変わってくるんですよ。スタミナもついてきたりして、踊ってて「あれ? 俺こんなに体力余ってるけど大丈夫かな?」とか、自分の中の感覚が変わってくるんです。

青山:すごいね。体力がつくって。俺、だんだん疲れてくるから(笑)。

工藤:(笑)。そういう面でも新しいことがひとつ起こると、なにか自分の中で創り直さないととか、そういうことを意識することが一番大切だと思うので。公演期間が長いとだんだん無意識になりがちなので、そういう意識を働かせて貰う1つのきっかけだなと思うんです。

■工藤「稽古はシビアで、1発目で出来ないとすぐ変えちゃう。猶予期間が無くて悔しい」

――本当にストイックにしのぎを削っていらっしゃいますね。お稽古場でのニックさんの印象はいかがですか?

工藤:ワークショップの時は感じなかったんですけど、稽古に入って振付して貰った時に、結構いろいろ僕たちを試すんですよ。「何が出来るの?」とか。例えばメンズだけで踊る振りがあったら「じゃ、どういう技が出来るの?」、「リフトが出来るの?」とか。それで「それ出来る? 出来なかったら変えるよ」ってなるんですけど、結構シビアで、1発目ですぐ出来ないとすぐ変えちゃう(笑)。猶予期間が無いなぁとは思いましたね。やっぱり「合わない」って思ったらすぐもうチェンジして。

青山:そういう意味では、僕たちのレベルに合わせてくれるというか。自分の考えだけで振付をするのではなく、ちゃんとその人に合っていて、その人がよく見えるように。そして例えば1回だけじゃなく、40回ちゃんとそれを出来るか?っていうのを含めて。

工藤:僕の中でちょっと悔しいなって思ったりしたんですけど(笑)。1回やって出来なくて、ニックが「じゃあ変えるね」って言った時に“いや、1日練習すれば出来ると思うんですけど…”って思っちゃったりしたんですよね。

工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

工藤広夢さん=撮影・伊藤華織

青山:それはあるよね(笑)。でもこの間、振付してて、男性3人で踊るところで、最初ニックが振り付けたジャンプをしたんだけど、結局自分たちで「ちょっとこれ、こっちの方やってみない?」って言って提案したら、すぐOK出て。そういうこともあるんですね。だから、凄い方なのに一緒に提案して創ってくださる方で。そういう意味では信頼してくれてるのかわからないけど、でもやっぱりプレイヤーをちゃんとリスペクトしてくださっているので。

――すごく良い循環のクリエイティブな空間ですね。

青山:いや、本当にそう思います。

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