2017年9月28日から全国各地で上演される舞台『人間風車』に出演する成河さんのインタビュー、後半です。有料会員限定部分では、いまや様々な作品に引っ張りだこの成河さんに、やりたいと思うポイントなどについて伺いました。
――加藤さんのサムはいかがですか?
本当にぴったりです。サムが持つ純粋さと狂気を表現するのに、ビジュアルでは兼ね備えていて簡単そうに見えますが、中身は本当に複雑なんですよね。とても繊細だったり、周りがすごく見えていたりするので、そんな彼の多面的な部分が役に活かされているなと思います。加藤くんは、普通の人では選ばない選択肢を平気で選んだりするんです。そこがとても意外で面白くて、河原さんもすごく楽しんでいます。サムがひとつ吐く台詞に対しても「それ選ぶ? 面白いね」と。これはぜひ楽しみにして頂きたいですが、きっと彼が真面目に選択した、彼にとって嘘のないものというのが、とてもユニークなんですよね。それがサムにはピッタリだなと思います。
――ミムラさんはいかがですか?
ミムラさんは、お喋りで勉強熱心。本当に勉強を積み重ねていらっしゃる方だなという印象があります。その上で、作品や役に対してとても真摯で、たくさんのコミュニケーションを厭わない人なので、話していると尽きないですよ。本当にこれだけたくさんお話をしながら作られる共演者というのは、僕はとても嬉しいですね。ミムラさんは本当に作品に向き合う姿勢を尊敬出来ると感じているので、一緒に同じ方向を向いて作れたらと思っています。
――今回、キャスティングが面白いなと思いました。
もちろんそうですね。色々な出自の人が混じっているので、そういう意味では小劇場で一緒にやっていた時代とはまた違って、それぞれの武器や得意なもの、不得意なものが違うので、そこで河原さんが苦労してらっしゃる部分もありますが、その各々の得意な所、不得意な所が上手く噛み合った時に、とても面白くなるんだろうと思います。
――良知(真次)さん、矢崎(広)さん、松田(凌)さん、今野(浩喜)さんなど、それぞれに出演された舞台を拝見していますが、記憶に残るというか、爪跡を残される方が集まっているなと。
そうですね。でも、最終的には役者として考えると、役者が爪跡を残しても何の意味もなく、作品が時代に爪跡を残すために何が出来るのかですから、僕も含めて今は自分に出来ることをガンガンやっています。それが上手く調和した時に役者を観てもらうのではなく、きちんと作品を観てもらうことが出来る。役者がみんな消えられたらいいなと思いますよ。個性的な分、それが噛み合って、作品がすっと前に出た時に奇跡が起こるんだろうという作品ではあります。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「正直なところ、即日完売ほど空しいものはない」という成河さんが演劇にかける思いなどについて詳しく伺ったインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■人を観にいきたいのならコンサート。演劇にある無名性はギリギリの所で大事
■自分の引き出しにあるもので作るのは苦手。僕自身が常に何かと出会いたい
■僕らは、自分で考えて選ばなくてはいけない世代。だから自分で考える人が多い
■演劇を全く知らない人にも役に立つものが含まれた『人間風車』。ぜひ劇場に
<PARCO & CUBE 20th present 『人間風車』>
【東京公演】2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝) 東京芸術劇場 プレイハウス
【高知公演】2017年10月13日(金) 高知県立県民文化ホール・オレンジホール
【福岡公演】2017年10月18日(水) 福岡市民会館・大ホール
【大阪公演】2017年10月20日(金)~10月22日(日) 森ノ宮ピロティホール
【新潟公演】2017年10月25日(水) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
【新潟・長野公演】2017年10月28日(土) ホクト文化ホール・中ホール
【宮城公演】2017年11月2日(木) 電力ホール
<公式サイト>
PARCO STAGE『人間風車』
http://www.parco-play.com/web/program/ningenfusha/
<関連リンク>
Space Craft Group ACTOR 成河
http://www.spacecraft.co.jp/songha/
成河・スタッフ オフィシャルtwitter
https://twitter.com/tw_de_songha_sc
- 「太宰治と芥川龍之介みたいと(笑)」、『スリル・ミー』成河・福士誠治対談(上) 2021年3月31日
- 「都心部から離れた所に、演劇として健全な環境がある」、成河インタビュー(下) 2019年9月27日
- 2017年以前の有料会員登録のきっかけ 2018年10月28日
- 「自分の考えを率直にぶつけました」『COLOR』成河・井川荃芬対談(下) 2022年9月5日
- 「俳優はプロデューサーと一緒に創りたい」『COLOR』成河・井川荃芬対談(上) 2022年9月4日
- 「ファンクラブに入っていたかも」『COLOR』浦井健治・小山ゆうな対談(下) 2022年9月2日
※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは10月9日(月・祝)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
※ここから有料会員限定部分です。
――その個が消えて、作品が前に出るためにもちろん稽古期間があると思いますが、どういう作業でそこに取り組むんですか?
厳しいですよ。それはやはり何よりも河原さんが調和やバランスを見てくださっているので、かといって隠れて自分を殺しては出来ない仕事ですから、どこまで自分の持ち味みたいなものを活かしながらこの世界に溶け込んでみんなで作れるかですが……出来ないかもしれない(笑)。
――出来ないかもしれない!?
とういうくらいこのお芝居はとても難しくて、ファンタジーとリアルのシーンがくっきり分かれていますよね。とてもエンターテイメントしているし、急激に心理劇になっていく部分もある作品ですが、やはり僕も含めて役者さんたちも、それぞれ得手不得手があるんですよね。こういうバランスで交じり合った戯曲はあの時代ならではだなと思います。今で考えたら、とても大変なチャレンジですし、勢いだけで押し切ってしまう所もありますし、そういう意味でも振れ幅がある作品になったらいいなと思います。
■人を観にいきたいのならコンサート。演劇にある無名性はギリギリの所で大事
――究極のところ、役者ではなく作品が立てばいいということですよね。
どうしても状況的に日本で演劇を作る環境はとても難しいですね。正直なところ、即日完売ほど空しいものはないんですよ。もう観る人が決まってしまっていますから。もちろん観て頂いたり、お客さんに入って頂かないと続けられない仕事ではありますが、だからこそ理想をきちんと持っておくことは大事だとずっと思っています。誰に見せるのか、誰のためにやるのか。誰か特定層のためにあっては、演劇はあまりにももったいないんですよね。もちろんそういうエンターテイメントがあっていいと思いますが。
――演劇は能動的に足を運ばないと観られないから、現状、その俳優が好きという強い思いを持って見に来る観客が多いでしょうね。
でも、結構厳しく考えると、そういう演劇は長続きしないと思います。10年、20年、30年、100年後……果たして生の芸事が残っていくかどうか、と考えた時にVRや4DXで済むと思うんですよ。
――なるほど。
もしくは音楽やコンサートだったら、もちろんそのアーティストを好きな人が足を運ぶと思います。僕も大好きですから、よくわかります。舞台はある意味で、もちろん人を観に行く訳ですが、そこにある無名性というのはギリギリの所で大事だなと思います。蜷川(幸雄)さんもずっと「無名性の力」というのをおっしゃっていましたよね。でも、演劇は根本的にはそうなんですよね。
――今はどうしても、個が立ってしまう。
立たせないと見てもらえないですからね。
――その矛盾する中で成河さんはどこに落とし所を作るんでしょうか?
僕は今、立場的にちょうどいい所にいるなと思っています。今、自分の立場で出来ることを、何千人、何万人のお客さんが放っておいても来てくれることはないので、ある意味ではちょうどいいというか、そこで興味を持ってくださった方に作品を受け取るというプロセスを体験して欲しいと思います。難しいと思うんですよ。例えば、日本中に知られる程に有名になった人が、本当に演劇が好きで、スズナリや本多劇場に立ちたいと思った時に、果たしてそれが実現するのかというのは難しいですよね。
――そうですね。
本人が出たいと思い、制作側が出て欲しいと思っても、そこには色々な力が作用してしまうので、そのバランスはとても難しいと思います。自分の行く先々のことは本当に慎重に選ばなければいけないですが、僕は舞台を通して作品を受け取るというプロセスをお客さんとやりたいですね。もう、僕自身の事はどうだっていいんですよ(笑)。
■自分の引き出しにあるもので作るのは苦手。僕自身が常に何かと出会いたい
――「僕自身の事はどうだっていい」とおっしゃっている成河さんに、ご自身のことを伺っていきたいのですが(笑)。
もちろんです(笑)。よろしくお願いします。
――この3年くらいを振り返って、演劇の中でも色々なジャンルで活躍されていて、成河さんに死角はないんじゃないかと思うくらい、どこにいても成立させる力を持っていると思いますが、恐らく多くのオファーが来るなかで、何を指針に「これに出たい」「これをやりたい」と思われるのでしょうか?
基本的に自分の引き出しにあるもので何かを作るというのは、苦手なんですよ。「あれをやって」「あれでいいからやって」と言われるのが、とてもストレスなんですね。これはただの僕のエゴですが、僕自身が常に何かと出会いたいと思っているんです。理屈っぽく聞こえるかもしれませんが、僕が何かに出会って、僕自身が変化した姿をお客さんは観て面白いだろうと思うので、やはり舞台は少なくともサービス業ではないと思うんですよね。
僕自身が何か大きなものに出会ったり、変化したりした時は、本当にお客さんにとっても、素敵なものになったんだなと思えることが多いです。逆に、自分の出来ることを組み合わせてやったなと思うと、もちろんそれはお仕事として成立するんですが、それだけだと僕は長続きしないんです。すごく不遜なことを言ってしまうと、「僕にとって意味のあることが、あなたにとって意味がある」と思うんですね。
「これはあなたにとって意味があるからやってあげます」という態度には中々なれなくて、だから考えてしまうんです。この作品は自分の何のためになって、何の意義があって、何の効能があるのか。そこがはっきりしないと、僕は見せられないんですよね。いくらでも誤解があっていいんです。全く違う捉え方をされても、構わないと思うんです。ただ、僕の中でひとつ大切なものが生まれれば、それを色々な角度から見て楽しんで頂けたらと思っています。
――この『人間風車』をやりたいと思ったのは、何がすごく良かったんですか?
「人を恨むこと」ですね。人は人を恨んでしまう訳ですよ。自分が何かを恨んでしまった、負の、悪意の部分に直面することは、実生活で多々ある訳じゃないですか。実生活においての人の恨みは、底が知れないと思うんです。例えば、これを観に来たお客様が誰かひとりの人をとても恨んでいたとして、「俺の恨みはこんなもんじゃないから」と思われたら大失敗です。願わくば、代替行為でありたいと、代わりにやってあげたいと思うんです。人をどうしても恨んでしまった人に対して、ドン引きするくらいの結末と恨み方を見せて、「ここまでしなくてもな」と思ってほしい。そういう時は相手の人間の顔が浮かぶと思うので、「あいつの事はもういいかな」と思ってもらえたら、やはりそれは価値がありますよね。
――恨みを持ち続けても有効ではなく、悲劇に陥るという結果ですもんね。
自分の姿を見る訳ですから。
――先程おっしゃった「鏡写し」ですね。
そこに到達するためには、やはり色々な我というものを消していかなければいけないですし、作品が純粋に立っていかなければいけないんです。そういう意味で、今回後藤さんがチョイスしてくださった、向き合っても、向き合っても許されませんよという結末は、ものすごくしんどいものですが、忘れてはいけないことかなと思います。
■僕らは、自分で考えて選ばなくてはいけない世代。だから自分で考える人が多い
――今、30代半ばですよね。同世代がそれぞれに様々なジャンルで主演をしていますね。脂の乗っている時期だと思いますが、演劇界もとても盛り上がっていると思います。その中で、今後この世代はどういう風にやっていくだろうと思っていますか?
やはりこの世代は多いと思うんですよね。映像でも活躍している役者で言うと、藤原竜也さんや小栗旬さんもそうですね。僕は世代に関してはとても敏感で、僕らの世代は何があったかというと、ひとつの転換が起こっていた世代だと思うんです。上の人にくっついていれば良かった時代ではなくて、上も下もいた世代。何かを自分で考えて選ばなくてはいけない世代。だから、自分でものを考える人が多いですよね。
――それは20代の頃からそうですか?
そんな気がしますよ。常に何か疑いを持たざるをえなかったというか。
――例えば、華やかな時代で常に進んでいけばいいという訳ではないと。
だから、憧れているものはそれぞれにたくさんあるでしょうが、それでもどこか100%憧れきれない所をどこかに抱えている世代というんでしょうか。前も見て、後ろも見て、何か新しいものを探していかなくてはいけない世代だと思うんですね。特に演劇のジャンルもバラバラになっていますが、そこでジャンルもお客さんも俳優もバラバラになっていく……というのが10年、20年、30年後には起こるだろうと思っている訳です。「それでいいのか」と問われると、決してそうではない。それではもったいない。だから僕は色々やるんです(笑)。
――「次はこれ、その次はあれ」という風に(笑)。
言葉にどんどん収斂されていく今の流れに、すごく抵抗は感じていますね。何でも出来なければいけないでしょうし、お客さんは何でも観て当たり前なはずです。好きなものだけを観ればいい時代ですよね。
――選べますもんね。
選べますから皆さんは好きなものだけを観るし、僕等も好きなものだけをやるんですが、演劇というものの本当の効能を考えた時に、ずっとそんな簡単なことではない気はしています。それではもったいないなと。つまりそれは、未知との出会いであり、違う価値観です。好きなものだけ選んで、好きなことだけしていく世の中になったら、違う価値観の人と一緒にいられませんよね。考え方も好きなものも全く違う人たちが、舞台上で何か私たちに共通したものについて考えるから価値があると思うんですね。その時初めて人を許せることになるでしょうし、そういうことのためにやりたいですね。僕がそういうことに敏感なので、もし時代がそういう方向ではない所へ行くのだとすれば、それに抗うような形で自分から何かを発信して、そういう場を作っていきたいと思います。
――NHK「ごごナマ」に出演されたときにも、最後そういうお話になっていましたね。
本が書きたい、演出がやりたい、という野望がある訳ではなく、何か自分から作品を作らなくてはと思います。いつになってもいいんですけれどね。
――これからが面白い時期じゃないですか?
まだまだやった事がない役が山のようにありますからね。
■演劇を全く知らない人にも役に立つものが含まれた『人間風車』。ぜひ劇場に
――今後も楽しみにしています。最後に『人間風車』を楽しみにしていらっしゃるお客様にメッセージをお願いします。
『人間風車』はパルコ版の最後の上演が2003年ですから、14年経っています。今の僕たち、それはやる側にとっても、観る側にとっても、今嘘のない『人間風車』というものを目指して作っています。作品のファンの方も、演劇を全く知らないという方も、それぞれの楽しみ方には留まらず、実生活にとってもとても役に立つ豊かなものが含まれた作品だと思っています。好き嫌いを超えて、ぜひ体験して頂きたいので、劇場にそれを味わいに来て欲しいと思います。
※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは10月9日(月・祝)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
インタビューを読みながら、ハッと気付かされました。
観劇をする時に、出演する俳優で選んでしまっている事のなんと多い事か…
でも、心に残るモノって作品力の高いモノが殆どなんですよね。
『人間風車』が私にとって、心にいつまでも残る作品であると良いなぁ…
成河さんの演劇に対するお話、とても面白くて読み応えがありました。今後どのようなことを発信してくれるのか楽しみです。まずは「人間風車」で何か感じ取りたいです。
演劇について熱く語る成河さん。とても興味深く読みました。観客が見るものを選ぶとき、作品の内容はもちろんですが、誰が出ているかはとても重要なポイントです。作品に対して、個を目立たせるのではなく、どれだけ尽くせるかが無名性につながるのかな、と思いました。