「万作の会」主宰の狂言師、野村万作さん(人間国宝)門下の若手狂言師、岡聡史さん、中村修一さん、内藤連さん、飯田豪さんの4人による研鑽のための「狂言このあたり乃会」が2018年4月に発足し、第1回の公演が、2018年7月7日(土)に東京・銕仙会能楽研修所で開かれます。2015年8月から5回にわたり行われた、一門の稽古舞台である「野村よいや舞台」での袴狂言による稽古会「狂言研鑽会」を経ての新たな取り組みについて、意気込みを話していただきました。
《第1回演目、あらすじ》
『末広かり』(すえひろがり)
果報者が来客に末広かり(扇)を贈ろうと、太郎冠者を都へ買いに行かせるが、太郎冠者は末広かりが何なのか分からない。声を掛けてきた男(すっぱ:詐欺師)の巧みな言葉に、古傘を末広かりと信じ込み、早速屋敷に持って帰って果報者に見せるのだが…。
『隠狸』(かくしだぬき)
太郎冠者が主人に黙って狸を捕っているという噂を聞き、主人は狸汁を振舞おうと客を招いたと太郎冠者に告げる。太郎冠者は狸など捕ったことも無いと誤魔化すが、ならば市場で買ってこいと遣いに出される。実は昨夜も大狸を捕まえていた太郎冠者は主人に黙って市場で売ってしまおうとするが、様子を見にきた主人と出くわしてしまい…。
――今まで「狂言研鑽会」と名乗られていた会から、新たに「狂言このあたり乃会」が発足しました。
内藤:我々若手がシテ(主役)をやる機会は限られていますので、そういった機会を設ける「研鑽の場」として、また新しい客層の開拓、特に若い方にも観ていただけるようにと、身近な稽古場(野村よいや舞台)でやらせて頂いていました。それを年に2回、前回でちょうど5回目。
中村:2年半ですね。
内藤:2年半ですかね。5回やって、万作先生から「ちょっとそれで区切りにしたらどうだ」と。「狂言研鑽会」のときは、この稽古場で、装束も着けずに、この格好(紋付き袴)で演じていたんです。
中村:まさしくこのままです。
内藤:で、やはり稽古場ですので、本来そういう、お客様に見せるためには使っていないですから。
中村:よいや舞台自体が。
内藤:なかなか難しい問題がいくつかありまして。
一同:(笑)。
内藤:お客様を入れるときもそうですし、稽古場に置いてある荷物を移動させたりとか(笑)、大変なこともありまして。そういう事情と、我々も多少経験を積んだということで、今回を区切りにひとつステップアップして、場所を能楽堂に移し、装束を着けてやるということになりました。我々から発信した話ではありますが、先生にお許しをいただいて、この度は第1回と(笑)。
――「研鑽会」からのステップアップということで、普段先生方と演じられるときと同じように、場所が能楽堂になり、装束もお着けになるんですね。
内藤:そうですね。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、これまでの「狂言研鑽会」と今後の「このあたり乃会」の違いや、第1回公演の具体的な内容な見どころなどについて話してくださったインタビュー前半の全文と写真(ソロ写真計8カット)を掲載しています。6月8日掲載予定のインタビュー「下」では、岡さん、中村さん、内藤さん、飯田さん、それぞれが狂言の世界に入られたきっかけや、「このあたり乃会」という名前に込められた意味や目指すものなどについて伺ったインタビューの後半の全文と写真(計10カット)を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■今までは4人だけですべてを。能楽堂になると先輩方のお手を借りない訳にはいかないんです
■『末広かり』は最後の囃子物がみどころ。狂言らしい狂言で、みんな優しいし、心に余裕がある
■『隠狸』は和泉流専有曲。狸を隠そうとする太郎冠者と見つけようとする主人の連舞がみどころ
■必ず誰かしら初めての役をやっていくのが研鑽会の時からのコンセプト
<狂言このあたり乃会>
【東京公演】2018年7月7日(土)14:00 銕仙会能楽研修所
東京都港区南青山4-21-29(03-3401-2285)
http://www.tessen.org/map
問い合わせ:万作の会(TEL:03-5981-9778)
料金:全席自由 2,000円
お求め先:Confetti(カンフェティ)
(TEL:0120-240-540 ※携帯・PHSからはTEL:03-6228-1630)
<公式サイト>
「万作の会」公演のご案内 2018年7月
http://www.mansaku.co.jp/performance/all.html#201807
<関連リンク>
万作の会
http://www.mansaku.co.jp/index.html
中村修一 Facebook
https://www.facebook.com/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E4%BF%AE%E4%B8%80-1909427009280281/
- 若手狂言師の研鑽会「狂言このあたり乃会」第五回公演、一般発売は6月17日から 2022年6月16日
- 「『咲嘩』は、優しいオレオレ詐欺の人」、「狂言このあたり乃会」対談(下) 2021年7月6日
- 「『水汲』はミュージカル調でリリカル」、「狂言このあたり乃会」対談(上) 2021年7月5日
- 尾上菊之丞が構成・演出の詩楽劇『八雲立つ』、尾上右近・水夏希ら出演 2022年9月12日
- ミュージカル『太平洋序曲』2023年上演、山本耕史・松下優也・海宝直人・廣瀬友祐・ウエンツ瑛士・立石俊樹ら 2022年7月15日
- 若手狂言師の研鑽会「狂言このあたり乃会」第五回公演、一般発売は6月17日から 2022年6月16日
※岡聡史さん、中村修一さん、内藤連さん、飯田豪さんに書いていただいたサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは6月27日(水)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
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■今までは4人だけですべてを。能楽堂になると先輩方のお手を借りない訳にはいかないんです
中村:今までは研鑽の意味も含めて、4人だけですべての「役」をやろうということだったんですけど、今回は先輩である深田博治さんにも、一役やっていただきます。それもまた我々には勉強になる、と。今までにも4人が出る狂言が1度あったんですが(狂言研鑽会 第3回『八幡前』2016年)、その時は、全員フル出場しちゃったので。
一同:(笑)。
中村:本当は幕上げ(揚幕を上げること)も僕らがやっていたんですが、その時はさすがに誰も上げられなかったので、先輩に手伝っていただきました。今回は、働キ(はたらき:楽屋働き。演者の補佐を行う)・後見(こうけん:舞台上で道具の出し入れや役者の装束を整える)と、裏のところも少し先輩たちにお願いして、僕らは「役」に専念できるようになりました。
飯田:普通、幕を上げるのには2人必要なんですよ。
――1人では出来ないんですね!
飯田:ここ(稽古場)では1人で上げられるようになっているんです。
内藤:稽古場ですから。簡易的になっているんです。
飯田:なので、3人物の狂言だったとしてもギリギリ4人で出来たんですけども、例えば今度から3人物の狂言をやろうとしても、さらにもう2人居なければできないので、もう、能楽堂になると先輩方のお手を借りない訳にはいかないんです。
■『末広かり』は最後の囃子物がみどころ。狂言らしい狂言で、みんな優しいし、心に余裕がある
――第1回目の演目『末広かり』と、『隠狸』について、みどころと意気込みなどをお願いします。まずは、『末広かり』から。果報者に内藤さん、太郎冠者(たろうかじゃ:家来・使用人のこと。狂言では太郎冠者が主役の演目がほとんど)に飯田さん、すっぱ(詐欺師)に深田さんですね。
内藤:『末広かり』は、よくある「取り違え」の狂言のひとつなんですね。代表的な、有名な曲のひとつです。取り違える狂言というのはいくつかあって『鐘の音(かねのね)』という狂言でしたら、“price of gold”=「金の値」を聞いてこいって言われて、“sound of the bell”=「鐘の音」を取り違えてしまい…と。そういうものと同じように取り違える。まず、「末広かり」というのは扇のことなんですが、簡単にいうと、それを太郎冠者が古い唐傘と間違えて買ってきてしまうという狂言です。やっぱりみどころは最後の囃子物のところだと思いますね。実際は四拍子(しびょうし:笛 、小鼓、大鼓、太鼓の4種の楽器の総称。囃子方)を入れてすることが多いんですが、今回は入れずにやります。
――今回は囃子方は入らずにやるんですね。
内藤:今回はそうです。そういう上演方法もあるんです。囃子物のところはやっぱり面白いし、みどころですね。
――末広かりを取り違えた太郎冠者に、使いを頼んだ果報者が怒ってしまうんですが、結果的には明るいお話で。世知辛い世の中で、人のミスを許せない人たちが多い昨今からすると、ものすごくカラッとしたお話ですね。
飯田:そうですね。この曲は大変おめでたい曲で、個人的には、大変狂言らしい狂言だと思っています。「末広かりを買ってこい」と言われて、何もわからずに出て行ってしまって、いざ都に着いてみたら、「あぁ、なんだかわからない」となってしまう太郎冠者も、どういうわけか騙した上で、「主人に怒られたら、これを謡え」と言ってくれるすっぱの優しさとか(笑)。で、さらに先程言っていた『鐘の音』は、同じように謡を太郎冠者が自分で作って謡うんですけれども、「なんでもないことしさりおれ(そんなのはどうでもいい)」って言われて怒られて終わるんですね。でも『末広かり』では、「アイツなんか楽しいの謡ってるぞ」って言って、騙されたのはムカついたけど今のは楽しかった、みたいなことを言って、…どこまでオチを言って良いのかわからないですけど(笑)。そういうような、やっぱりみんな優しいし、心に余裕があるし(笑)。
中村:ハッピーエンドです。
飯田:そうですね。
内藤:私たちは「祝言性」という言い方をよくしますけど、おめでたい曲ですから、お正月によくやりますね。こけら落としとか、第1回目にやることも多い。それで今回、私がシテをさせていただけるということだったので、先生から演目の候補を2つ出されて、「どっちが良いか選びなさい」と言われてですね。『末広かり』という曲が好きだということもありまして、それでもう迷うことなく。まぁ、一応相談はしましたけども(笑)、即決させていただきました。
飯田:私もこの曲自体が、大変狂言的でおめでたくて、ひとつの憧れの曲でございましたし、で、多分この曲の中で一番しゃべっているのは太郎冠者なんです。それをやらせていただくのも初めてですので、意気込みと言いますか、ある程度頑張らないとな、と言いますか(笑)。お手柔らかにお願いしますと言いますか。そんなような感じで(笑)。
■「隠狸」は和泉流専有曲。狸を隠そうとする太郎冠者と見つけようとする主人の連舞がみどころ
――ありがとうございました。それでは、次の演目『隠狸』。太郎冠者に中村さん、主に岡さんですね。
中村:「両シテ(りょうして:アド(相手役)がシテ(主役)と同等の重要な役である場合にシテと同格に扱う)」といって、本来は太郎冠者がシテなんですけども、今回はみんな同人(どうじん)なので、主人・太郎冠者の両シテで、両方主人公。実際、セリフの量も大変さも変わらないです。(岡さんに)「隠狸」の曲の面白いところ、何ですかね?
岡:それは…太郎冠者が面白い。
一同:(笑)。
中村:和泉流専有曲といって、うちの流儀にしかない曲なんです。万作先生も萬斎先生もとても得意にされているので、僕らもよく拝見していて、イメージはものすごく頭の中にはあるんです。ただ、ある程度難しい曲なので、やらせていただく機会がなかなかない曲。自分の身体の中で、頭の中で、目標としているイメージはありますが、なかなかそうはいかないですね、まだ。掛け合いの狂言なので、お互いのセリフがテンポよくポンポンポンポンといけば、もう筋立てだけで十分面白い曲ですね。あらすじも…(岡さんに)何か言ってよ(笑)。
一同:(笑)。
岡:あらすじ…うん、言ってよ(笑)。
中村:あらすじは、勝手に太郎冠者が狸を釣っている(捕る)ことに主人が怒っていて、それを隠そうとする太郎冠者と、それを追及しようとする主人の戦いなんです。(岡さんに向かって)みどころは…。
岡:みどころは、アレです。狸の作リ物。
――作リ物ですか!(笑)。
岡:狸のぬいぐるみ、お人形が出てきますけど、そこですね。演者じゃなく(笑)。
一同:(爆笑)
中村:本当のクライマックスは、謡も舞もよく出てくる曲で、途中に「花の袖」という基本的な小舞と、最後に「鵜之段(うのだん)」という能『鵜飼』の中の一節を主人と太郎冠者で連舞(つれまい)をするんです。2人一緒に舞いますが、太郎冠者としては、狸を持っていることをばれないように、一方では、舞いながら、こう、どうにかして見つけてやろうという主人の戦いになります。そこがクライマックスですよね?
岡:そうですね。演じる部分でのみどころは連舞ですね。一緒に舞うところです。お互いやりどころですし、そこがみどころですけど、それ以外ですと、狸です! 他にも和泉流の家はありますけど、多分、うちの狸が一番可愛いです。
――(笑)。確か、作リ物を手がけられている方がいらっしゃるんですよね?
中村:野村良乍さんですね。
――他の狂言のお家の方に作リ物が良いと言われたりされるそうですね。その方が作られた狸なんでしょうか?
岡:そうです、そうです。それが元になって今、初号機、弐号機、参号機と、どんどん増えているんです。
内藤:5匹くらいいます。
岡:どんどん増えているんですよ。ですけど、元は野村良乍さんがお創りになったものがベースですね。
――狸が何匹もいるということは、『隠狸』は頻繁に上演されている演目なのでしょうか?
岡:先生方はよく演ります。まだ、僕たちが演るには、なかなかハードルが高いです。
■必ず誰かしら初めての役をやっていくのが研鑽会の時からのコンセプト
中村:全員、今回初役(はつやく)です。初めてやる曲に挑むというのが、研鑽会の時からのコンセプトでもあるので。
――そうなんでね。それでは今後も回数を重ねていかれる度に、新しい曲に挑戦されると。
一同:そうですね。そうなると思います。
飯田:これまでの研鑽会でも、必ず誰かしらは初めての役をやっていました。
内藤:シテは初めて、ということが多いですね。同じ演目の相手役は演ったことあるけど、って。
――そこは今後もずっと続けていかれるんですね。
内藤:基本的には、配役はすべて先生がお決めになっているので。
――「このあたり乃会」というステップアップを、と、おっしゃったのは皆さんで、演目をお決めになったのは先生?
内藤:そうですね。
――演目に関して「これやりたいです!」と自発的に言って決めることはあるのでしょうか?
一同:まぁ…(笑)。ほとんどないですね。
内藤:「稽古曲」といわれる曲がいくつかありまして、やはり、その時の技量に適う曲を選んだ方が、研鑽になる。
中村:我々としてはね。
内藤:元々が「研鑽の場」ですから。
――先輩方の「狂言ざゞん座」も、演目をお決めになるのは先生?
内藤:あそこは自分たちみたいですね。
岡:でもあそこも最初のうちは先生がお決めになっていました。そして、だんだん回数とか年数を重ねて、先生も「そろそろ君たちで」みたいな感じに。そういうお許しがない限り、なかなか「自分はこれがやりたいです」とは、先生には…僕は言い辛いです。
一同:(笑)。
飯田:そういうことはあんまり言わないですね。
――そうなんですね。
※岡聡史さん、中村修一さん、内藤連さん、飯田豪さんに書いていただいたサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは6月27日(水)です。(このプレゼントの応募は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
研鑽会と言うのは初めての役をするんですね。いろいろな役をされているのかと思っていました。同じ演目でも人が違うと全く違う演技になるのが、観ていて楽しいです。これからも期待してますので頑張ってください。
萬斎さんをきっかけに狂言を知り、研鑽会を観に行ってから狂言に興味を持ち始めました。
まだ初心者なので色々お話を聞けるのは勉強になりますし、研鑽会でもそうでしたが、4人のお話を聞くのがとても楽しかったので今回このような記事を読めて本当に嬉しいです。
私はまだ知らないことが多いので4人がとのようなきっかけで始めたか、どういう形で行なっているか…などなどとても楽しく拝見させて頂きました。
舞台でのお写真ではなく素の状態のお写真を観れるのもとてもレアで嬉しいです(笑)
またこのような機会があれば是非拝見したいと思います。
今回貴重な抽選プレゼントもあるので応募させて頂きます!