ジョン・パトリック・シャンリィ作『お月さまへようこそ』が、2019年7月16日から21日にblackAで上演されました。出演された百名ヒロキさん、山野靖博さんに、作品上演中に伺ったお話をお届けします。併せて撮影させて頂いたゲネ動画もお届けします。普段、大きな舞台で芝居をすることが多いおふたりが、どんな思いで50席程の空間で、この作品を上演したのか。この作品を通してどんなことを伝えたかったのか。ぜひおふたりの熱に触れてみてください。
『お月さまへようこそ』は全6編からなる短編集ですが、今回は「星降る夜に出掛けよう」「どん底」「喜びの孤独な衝動」「お月さまへようこそ」の4編が上演されました。出演は、百名さん、越前屋由隆さん(もんもちプロジェクト)、奥洞和哉さん、鈴木美緒さん、山野さんの5名、ピアノ演奏は森脇涼さん、演出は中原和樹さん(もんもちプロジェクト)です。
こちらは『お月さまへようこそ』公演より、プロローグと第1編「星降る夜に出掛けよう」と第2編「どん底」の一部の動画です。
――本番が開いてお客様の前で演じてみて、今ご自身では何を感じていますか?
百名:毎回違いますね。挑戦することを許してくれる演出家さんなので、挑戦しつつも毎回毎回打ちのめされる現実で、こんなに難しいのかと毎回思ってしまう……。
山野:難しいよね。
――難しいのは何が難しいですか?
百名:戯曲自体が難しくて、読んでいるときの気持ちをこんなにも出せないんだと。すごく大好きな作品ですが、こんなに難しいのははじめてです。
山野:僕も難しいなと思ってやっています。稽古を1カ月くらいみっちりやったんですが、掴んだと思ったら、次の瞬間にはするっとすり抜けていて「あれ!?」って。それが多いよね。
百名:そう。前にやって良かったものを追おうとしてしまうと、違うんだとわかりました。それが顕著にでる作品なのかなと。
――そうすると毎回違う?
山野:よく演出の中原が言うのは、「毎回ちゃんと生き直す」。幕があがる前に生まれて、幕が下りたらその役は死んで、次のときには生き直す。同じ瞬間はないですし、人間生きていたら同じ状態のときは一切ないじゃないですか。いろんな出来事も、細胞レベルでも。いつも同じにやろうとするのは不自然だと。
百名:お客様に同じように届けなければと、やりたくなってしまうんですよ。でも、それをやってしまうと、すぐに演出家にバレるので。もっと違う生き方があるなとわかるんですが、逆にそれを許してくれる現場はなかなかないので、挑戦できるというのは、いい経験値になるんじゃないかと思いますね。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、この作品が他の作品と違う点や、一緒にお芝居をしてみての感想など、インタビュー前半の全文と第1編「星降る夜に出掛けよう」と第2編「どん底」の公演写真を掲載しています。8月13日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、『お月さまへようこそ』公演より第3編「喜びの孤独な衝動」と第4編「お月さまへようこそ」の一部の動画と公演写真を掲載し、作品についての筆者の感想とそれを聞いて百名さんと山野さんがどう思ったか、4つの物語のうちどれが好きかなどについてうかがったインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■山野:「その瞬間に何をしたいか」に正直にいること 百名:それはかなり挑戦
■百名:僕が頑張ってやると山野さんが応えてくれるのが嬉しい 山野:持ち上げて(笑)
■百名:僕にはできないけれど、やりたいなとすごく勇気づけられました
■山野:多分、百名くんなんだなと思ったんです、絶対にこれだと
<『お月さまへようこそ』>
【東京公演】2019年7月16日(火)~7月21日(日) black A
東京都墨田区千歳1-3-4 1F (この公演は終了しています)
公演情報
https://stage.corich.jp/stage/99854
<関連リンク>
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※百名ヒロキさんと山野靖博さんのサイン色紙と公演写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは9月12日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
※ここから有料会員限定部分です。
■山野:「その瞬間に何をしたいか」に正直にいること 百名:それはかなり挑戦
――おそらくどの芝居でも、その役はその時をはじめて生きなければいけないですよね。
山野:世の中の俳優はすべてそう思って演じていると思います。
百名:そうですね。
――それでもこの作品が違うというのは何ですか?
山野:誤解される可能性もあるデリケートな話なのですが、毎回同じものをお届けしようと思うと、例えば動きを決めるなど、どこまでも仔細にできるじゃないですか。セリフの言い方も含めて、すべてを決めることもできるんですよね。その決めた同じところをいつも通りながら、毎回新鮮にやれたならば、それが一番理想ですし、それを追い求めていきたいと思っているのです。けれど仔細に決めることによって、慣れみたいなものが増える危険性が少しあるというか。形だけで判断をしようとしたら、いつもと同じことをやっていれば、それでもOKの基準のところもあるんですね。非常にデリケートなことですが、数多くの舞台があるなかで実際にあることなんですよね。決めてしまうことの弊害みたいなものがある。
百名:少なからずありますよね。
山野:その、決めてしまうことの弊害を知ったうえで、新鮮にやり続けなければいけないなと。今回は、どちらかというと「決めなくていいよ」というところから稽古がスタートしているので。中原のディレクションは、こうしたほうがいいと提案しているだけだから、それを死守する必要はなくて、そこに行けなかったら別のチョイスをしてもいい。「その瞬間に何をしたいのか」を優先した作り方で、形を大事にした作り方とは優先順位が違うんだと思うんですよね。毎回コンスタントに同じ形のものを届けるという価値もあります。でも今回は、同じものである必要性を優先しないけれども、その瞬間に何をしたいかに正直にいることを優先しているんでしょうかね。
百名:演出家さんがそれをいいよと言ってくれるんです。それはかなり挑戦ですし、俳優のことを信じてくれているんですよね。だからこそすごくプレッシャーがあって。
山野:怖いよね!
百名:怖いですが、もう生きがいですよね。この仕事をしていてすごく嬉しい、なかなかないことなんです。
――逆に舞台でなければ成立しないことですよね。映像だったら例えば何テイクかやっても、そのひとつを選ぶ。舞台で演じることの醍醐味でもありますね。
山野:そうですね。
百名:まさに。初心に戻るというか、新たなこういうのもあるんだなと。
――ある意味、商業演劇では難しいことかもしれませんね。このカンパニーだからできることなのかも。
百名&山野:本当にそうですね。
百名:だから毎日すごく怖いです。
山野:怖いね。
――相手もあることだから、どう来るかも違うんですもんね。
山野:お互いにそうなんですよ。
百名:もっと何か見つかる気がします。
■百名:僕が頑張ってやると山野さんが応えてくれるのが嬉しい 山野:持ち上げて(笑)
――おふたりだけの芝居の場面もありますが、その自由にやっていい芝居はいかがですか?
山野:今日は結構……。
百名:自由でしたね。今日は僕があまり動かなかったですし。稽古の時から思っていたんですが、山野さんは毎回違うというか。考えてちゃんとやってくれているんだろうなと。一緒じゃないシーンを見ていて、僕もこうあるべきだ、こうありたいと思っていたので、僕が頑張ってやると山野さんが応えてくれるのが嬉しいです。
山野:インタビューだからって持ち上げて(笑)。
(一同笑)
百名:でもそれは感じました。どの現場でもそうなのかもしれないですが、山野さんへの信頼感があります。
――一緒にお芝居するのは初めてですよね?
百名&山野:初めてです。
――おふたりの雰囲気が初めての感じがしないですね。
山野:事務所も一緒という安心感はあるかもしれないですね。
百名:そうですね。
――事務所で一緒になる前に、お互いの存在は知っていましたか?
百名:僕が最初に知ったのは、山野さんがtwitterで事務所所属のお知らせを出したときで、誰だろうって(笑)。『ジャージー・ボーイズ』は拝見しているんですが、認識していなかったんです。『「銀河鉄道999」さよならメーテル~僕の永遠』ではじめて認識してから拝見しました。
山野:僕は事務所にお世話になるときに、こんな方がいるんだなと初めて知りました。そんなに商業の舞台を観ていなかったので、初めて百名くんの舞台を観たのは『見渡す限りの卑怯者』です。
■百名:僕にはできないけれど、やりたいなとすごく勇気づけられました
――一緒にお芝居してみていかがでしたか?
山野:僕のほうが前情報があったんですよね。『見渡す限りの卑怯者』を観ていたから。『「銀河鉄道999」さよならメーテル~僕の永遠』はちょっと特殊だったし。
百名:だから、申し訳ないと思いながら参加したんですよね。事務所が同じだから出演させてもらえるんだろうなと思っていたので。
山野:あ! 違うよ! 全然そんなことない!
百名:最初から優しくて、すぐにわかるというか、悪い印象はひとつもなかったです。
山野:(笑)。
百名:僕は稽古がすごく苦手なんですが、山野さんの毎回のパッションを受けて、落ち込む毎日でしたね。「うわ! こう来たか!」って。
山野:僕が『どん底』でいろいろ試したんですよ。
百名:手が使えない人だったり、目が見えない人だったり。稽古であんなに極端に変えるのはかなり勇気がいることなので、僕にはできないけれど、やりたいなとすごく勇気づけられました。
――山野さんがいろいろトライする姿を目の当たりにしたんですね。
百名:だからこそ一緒にやっていても、もし僕が突拍子もないことをしたとしても、受けてくれるだろうなと安心感がありました。もっと強く叩いていいよって言ってくれて。
山野:一度、僕の肩を叩きたそうだったのに、遠慮したんですよ。
百名:すぐに言ってくれました。
■山野:多分、百名くんなんだなと思ったんです、絶対にこれだと
――山野さんは百名さんと芝居してみていかがですか?
山野:僕はこの作品の製作にも関わっているので、キャスティングを決めさせてもらったんです。百名くん以外のキャストは、はやめに決まっていましたが、百名くんの枠にうまく合う人がいなくてずっと悩んでいたんです。でも時間も迫っているしなと。そのときに、事務所の社長と別件で話していたときにこの話になって、百名くんがスケジュールあうかもと聞いたんです。それからネットでいろいろ見たんですが、顔写真とブログの文章を見て。
百名:ブログ見てくれたんだ!
山野:多分、百名くんなんだなと思ったんです。
――彼を探していたんだと。
山野:そうそう! 「ああ、なるほどな。きっとそうなんだ」と思ったんです。それが『見渡す限りの卑怯者』の本番中だったので、観に行かせて頂いたら、やっぱりそうだと思って。冒頭に百名くんが踊るシーンは、観客に何の情報も与えられないままの場面でしたが、これは振付された踊りではなく、彼がこの役として、鬱屈したどこにもいけない思いを、そのままインプロ的にやっているんだろうなと感じたんです。その内側にあるヒリヒリとした、何かを切り裂いていきそうな、ちょっとダークな力みたいなものを観たときに、絶対にこれだと。
百名:嬉しい。そこまで分析されていたとは(照)。ありがとうございます。
山野:本当に魅力的だなと思って。だから一緒にこの作品で芝居をすることがすごく楽しみでした。しかもこの作品は、ライトにやろうと思えば、いくらでもライトに作れるんですが、今回はそういう感じではなく演出していて。僕もそういうのが好きですし。そのなかで一緒にやれていることは幸せなことだなと思っています。初共演がもっと大きいカンパニーの作品だったら、関係が違っただろうなと。
百名:確かに。
――近づけますよね。まず近づかないとはじまらないみたいな。
山野:そうなんです。
百名:近づきましたよね。
山野:一緒に海に行ったりね(笑)。
百名:(笑)。超楽しかった!
※百名ヒロキさんと山野靖博さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは9月12日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
観劇にいった日々を思い出しました。
日々こぼれ落ちていってしまう記憶ですが、おかげでこの日々を思い出せる鍵になり、読み返すまでの経過によりこの記事の印象も変わるのではないかな…と思うととても楽しい。そんな当たり前の日々のような舞台だったなと。
毎回違うものを観ている感覚。それは観客も含めての変化のようで面白かったです。
それはお客さんを信頼して委ねて下さってるからだったのだなとインタビューを読んで思いました。
お月さまへようこそを観劇させていただきました。何度か観に行かせていただきましたが、記事にもあったように 動き・表情・間 などがその日ごとに違いました。登場人物の思いが色濃く見えて、より良いものをと日々挑戦しているのだなと。見る側としては少ない時間に多くの情報を詰め込まれているわけで、試されてる気がして役者の皆さんに置いていかれないよう必死でした。また観に行きたいです。
お月さまへようこそを観劇させて頂きました。インタビューでは、難しい戯曲だとおっしゃってましたが
答えのない(でない)演劇は、自らの想像力、妄想力を大いに刺激されて、とっても楽しかったです。
実際の舞台は私のスケジュールと合わなくて見に行けなかったので、ゲネ動画を上げていただき嬉しかったです。
お芝居を作っていく過程をお話されていて、興味深く読ませていただきました。