2020年2月上旬から東京芸術劇場プレイハウスで上演される、舞台『ねじまき鳥クロニクル』に出演する成河さんにインタビューしました。『ねじまき鳥クロニクル』は、村上春樹さんの代表的長編小説で、初の舞台化となります。演出・振付・美術を担当するのは、ミュージカル『100万回生きたねこ』や百鬼オペラ『羅生門』を手がけたイスラエルのインバル・ピントさん。共同演出と脚本は、演劇団体「マームとジプシー」を主宰する藤田貴大さん。そして音楽は、NHK『あまちゃん』『いだてん』など映像作品の音楽でも広く活躍する大友良英さんが担当します。出演は、成河さんの他、渡辺大知さん、門脇麦さん、大貫勇輔さん、徳永えりさん、松岡広大さん、成田亜佑美さん、さとうこうじさん、吹越 満さん、銀粉蝶さん。様々に活躍する多彩なキャストが揃いました。スチール撮影現場を訪ね、作品への思いを伺いました。
――今回この作品に出たいと思った、惹かれたポイントはなんですか?
『100万回生きたねこ』の再演に出演させていただいたときに、インバルさんと出会わせていただいて、それからはもう自分の時間さえ許せばインバルと作品が作りたいとずっと思い続けていたので、念願叶って、もう一度インバルと作品が作れる、参加させていただけると思い、もう無条件にやりますの返事でした。
――インバルさんと聞いて即答ですか?
もちろん! 僕にとっては本当に大切な人なので。ひとつには、コンテンポラリーダンスという種を植えていただいた最初の方なんです。どちらかというと、僕は日本の小劇場のなかでのフィジカル・シアターみたいな物を追いかけてきました。それを少し専門的に、表現の引き出しとしてコンテンポラリーダンスをキチッと一から仕込んでいただいた方。半年ぐらい勉強させていただいたので、種がその後もいろいろな、全然種類の違うお芝居をやる時も、何もかもに役に立っていますし、物を考える、すごく良い材料にもなりました。ずっと大事にしたい宝物のような方だと思っているので、ようやく、またご一緒できるという思いです。
――最近は言葉が中心となる芝居へのご出演が多かったので、身体を動かす作品は久しぶりかなと思うのですが。
そうですね。自分のなかでは、音声表現と身体表現という、大きく分けたらふたつあり、僕はどっちも混ざった状態で表現をしたいと思っています。でも混ぜるためには、それぞれにあるいろいろな専門的な材料をとにかく、ぼんやりとした色ではなくて、それぞれがくっきりした色の物が混ざる事で、ひとつ表現として強くなるんじゃないかという思いがあります。そのなかで、インバルと接して得た身体表現の役割がとても大きいです。今、たまに出させていただいているような、大型のミュージカルは歌唱表現です。大劇場での歌唱表現は、マイクを使った、いかにマイクと付き合うかですが、究極的な音声表現のような気がします。今回は身体表現をもう一度自分のなかで音声表現と出会わせる、とても良い機会を頂いたなと思います。インバルはとにかく、何でも喜んで食べてみたがってくれるので(笑)。
――いろいろな事に興味があるんですね。
そうです。インバルに関して言えば、もうご存知の、ファンのお客様も多いと思いますが、本当に彼女を見ていると、全部表現なんです。稽古場でずっと絵を描いているんです。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、村上春樹さんの長編小説『ねじまき鳥クロニクル』についてや、出演されたミュージカル『エリザベート』で経験したクリエイティビティについて語ってくださったインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。9月27日(金)掲載予定のインタビュー「下」では、演劇やショー・ビジネスに関わるマーケティングが電子チケットがメジャーになってくる時代にどうなっていくか、都心部から離れた所にこそ演劇として健全な環境があるということなどについて話してくださったインタビューの後半の全文を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■一番てっぺんに来るのは稽古場、作品作りの前に稽古場作りがある、だから“キッチン”ですよね
■心をざわつかせるような事が書かれていますが、着地点としてすごく優しいお話だなと
■クリエイションは、何ができあがるかわからない物を、お客様も含めて面白がれる物のはず
■何が起こるかわからないことを楽しんでほしい、思っていた物と違う物をまた楽しんでほしい
<『ねじまき鳥クロニクル』>
【東京公演】2020年2月11日(火・祝)~3月1日(日) 東京芸術劇場プレイハウス
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2020/
<関連リンク>
成河-Jugem
http://web-dorama.jugem.jp
成河スタッフオフィシャルTwitter
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※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは10月26日(土)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
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■一番てっぺんに来るのは稽古場、作品作りの前に稽古場作りがある、だから“キッチン”ですよね
――インバルさんは美術もなさいますね。
そう。美術、衣裳、物販で売るようなグッズも彼女が絵を描いてます。彼女のなかでは単なる表現というカテゴリーしかなくて、全部がそのための材料に見えるんですね。ひとつひとつ、時間をかけて立ち上げられたと思いますが、彼女のなかでひとつ表現という状態で溶け合っているのが、見ていて本当に憧れましたし、尊敬できましたし、ワクワクしました。
――今回、作品ジャンルをカテゴライズしないそうですね。
ノージャンルです。企画なさったホリプロの篠田さんというプロデューサーの方がとてもクリエイティブな方で。僕にとって、今回は篠田さんのプロジェクトで、『100万回生きたねこ』『わたしは真悟』につづき3作品目ですが、全部僕のなかでは繋がっているんです。ジャンルレスな物として舞台を作りたいという事は、誰よりも篠田さんがずっと考えていらっしゃると思うんです。そこにどういう材料を持ち込んで、みんなで稽古場のなかで溶け合えるのかということが大切なので、こういう機会は本当に貴重だと思っています。加えて、本当に尊敬すべき事ですが、とても長いクリエイションの期間を設けるんです。混ぜたらどうなるかわからない物を混ぜる、ジャンルを溶け合わせるという事を目指す以上、いろいろな失敗や、いろいろな実験が稽古場のなかで必要な時に、1ヶ月では絶対に無理なんですよ。ほとんどの公演の稽古が1ヶ月なこのご時世に、すごく踏ん張って、2ヶ月、あるいはそれ以上という稽古期間をとってくださるので、逆に言うと、僕たち俳優のほうがなかなか時間を渡せなくて、迷惑をかけていると思うくらいです。その志みたいなものにはすごく共鳴する部分があります。稽古がとにかく楽しいんですよ。やはり作品を作るにあたり、どう考えても一番てっぺんに来るのは稽古場ですから。作品作りの前に稽古場作りがあるというのはみんなが思う事で、だから“キッチン”ですよね。
――本当にクリエイティブな場ですね。
そうなんですよ。どれだけ綺麗な内装のレストランでも、キッチンが狭くて汚かったら、レストランである意味がないと思うので。最優先が稽古場です。理想的な稽古場を探したいなと思いますが、それでも時間は限られていますから。
■心をざわつかせるような事が書かれていますが、着地点としてすごく優しいお話だなと
――村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』は、もう読みましたか?
僕は元々読んでいませんでしたので、このお話を頂いてゆっくり時間をかけて読んで、3ヶ月前ぐらいに読み終えました。
――読んだ感触はいかがでしたか?
読んだ人によっていろいろな感想があると思います。僕は最終的に、とても優しくて温かい気持ちになりました。そういう目線を感じました。物語の中で行われている事は、目を塞ぎたくなるような、心をざわつかせるような事が書かれていますが、それが決して露悪的な事ではなくて、最終的に、着地点としてすごく優しいお話だなと思いました。戯曲はまだいただいてないです。僕は戯曲を読んで、それを上演するのが専門だと思っているので、どういう戯曲を藤田さんが作ってくるのかが楽しみですね。戯曲が藤田さんというのもまたすごく面白い人たちを混ぜようとしているなという気概を感じます。実は何年も前からずっと、マームとジプシーが大好きで、よく観ていたので、すごく嬉しいです。
――藤田さんと現場をご一緒するのは初めてですか?
ええ、作品は初めてです。そういう交わる点を作ってくれるという事だけでもすごく感謝ですし、ちょっとワクワクしますね。何が出てくるのか、どうなるのか、誰もわからないんですよ。でも物を作るって、最初はそうであるべきだなと、改めて思います。安心材料いっこもねえっす!
(現場爆笑)
――それは余計に楽しいじゃないですか(笑)!
本当に(笑)。もちろん、ひとりひとりを見れば、頼もしい方、面白い方、素敵な方ばかりなのですが、一緒に居る!?みたいな(笑)。ただ、間違いなくジャンルレスな物にはなるだろうと。僕たちは毎日知恵熱が出るような稽古場が過ごせたらいいんじゃないですか(笑)。とにかく、物を考える稽古場が過ごせそうだなと。物を自分たちで考えなければ1ミリも進まない稽古場って、実はとても素敵な稽古場だと思うんです。ちょっとでも気を緩めると自動的に進んでいってしまう事のほうが、人間、多いので、そうではなく、この先の見えなさが一番作品作りにとっては栄養だなと思います。
■クリエイションは、何ができあがるかわからない物を、お客様も含めて面白がれる物のはず
――成河さんが出演されてきた、この1、2年の作品群とはまた異色になりますね。
再演物、レパートリー物が多くて、そこにドンと腰を据えて参加する事も僕は嫌いじゃありませんので。
――何ができあがるのか、ある程度想像がついている物が多かったですか?
というよりは、その土俵の中で自分が何ができるだろうという視点です。クリエイションという物は、それぞれが持っている物全部をとにかくさらけ出して、何ができあがるかは本当に誰もわからない物を、お客様も含めて面白がれる物のはず。こんな物は賭け事ですよ(笑)。お客さんたちはそれぞれの材料を見て、これとこれとこれだったら、どんな料理ができるんだろうと期待してほしいですし、演劇ってそういう風に期待していいと思います。安全安心のクオリティじゃなくて、そういう何ができるかわからないもの。
――『エリザベート』ひとつとっても、今回またこんなに違う!?と驚きました。
今年の『エリザベート』は、(シルベスター・)リーヴァイさんが曲を書き換えたところがあったり、テンポがゆっくりになったりで、現場は大混乱しましたが、小池(修一郎)さんもリーヴァイさんをクリエイターとしてすごくリスペクトされていました。現場をスムーズに進めようと思ったら、クリエイティビティって邪魔なんですよね。要するに、そのクリエイティビティの喧嘩なんですよ。でも、喧嘩をすればするほど、すごい物が生まれるかもしれないし、その喧嘩を止めた時に、やはり本当に必要な物が停滞する。それはお客さんにもバレると思うし、そういう意味では今回の『エリザベート』の変更は、良いか悪いかとか、好きとか嫌いとかじゃないんです。クリエイティビティを進めるという事は、地盤がひとつググッと上がるようなものなので。好き嫌いの問題じゃなくて、ひとつクリエイティビティを稽古場にもたらしてくれたのは、やはりすごいなと思って尊敬しました。
■何が起こるかわからないことを楽しんでほしい、思っていた物と違う物をまた楽しんでほしい
――あれほど上演され続けている歴史があって、観客も想像できる作品でもそうなんですね。
何回やっていてもそうなんです。でも本当は、物を作る人ってそうですよ。それは当然です。ベルトコンベアーに載せて済むなら、最初から作らないと思います。インバルなんて、その最たる人ですから。日本ではどちらかというと美徳として、何か変わらない物、変わらない質の物、安心や安全みたいなものが好まれると思いますが、それは地震がある国だからだと思うんです。要するに、それでも変わらぬ物を、そういう夢を描きたい。抱きたいんですよ。
――地盤が動くくらいに、いろいろな事が起こるけれど、変わらない物が好きということですか?
つまり、日本にある物ってすぐに壊れてしまう物が多い。だから、日本の本来の建築技術は、すぐにまた再構築できるような技術でしょう? 西洋の何百年も変わらず建っているような物は日本では作ってこなかったわけです。そういうなかで、日本で作品に何を求めるか、そこに何かひとつがあるような気がして。もしかしたら逆かもしれない。もしかしたら本来、作って壊して、作って壊してしてきた民族のような気もするんです。西洋の100年、1000年建築に憧れるような柄じゃなかったような気がするんです。
――石で積み上げるじゃなくて、火で燃える建築……。
そう。全部壊れたらまたすぐに作り直せる。それが日本人の強さのような気もするので。何の話だこれ(笑)。
――(笑)。
演劇を考えた時に、何が起こるかわからないことを楽しんでほしいですし、思っていた物と違う物をまた楽しんでほしい。そういう物が楽しめる能力が僕たちには本来あったはずなんです。すごく僕たちの人生そのものにもまた通じるような気がするから。インバルとやるからには、そういう創作でありたいなと思います。
※成河さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは10月26日(土)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
これを読むまで、なぜかインバルさんは男性だと思い込んでいました。。すみません。
インバルさんの作品を観劇するのは初めてなのですが、このインタビューを読んで、胸の高まりとかザワザワとかワクワクがかなりの割合で支配してきています。
今回は役者さんはもちろん、音楽家の方々もキャストと記載されていて、その全てがどのように混ざり合い高め合うのか楽しみでなりません!
どんな世界を観れるのでしょうか。
期待しています★
成河さんがインバルさんの作品への出演を待望されていたのと同じく、私も
成河さんがインバルさんと一緒に作品を作られることを待ち望んでいました。発表されたときは、うれしくて、ガッツポーズ!いろんなめぐり会いから生まれる新しい物への期待。とにかく楽しみです。
成河さんの言葉は本当に素敵ですね。
どんな作品が作られるのか劇場に確かめに行きたいと思いました。
成河さんのインタビュー、とても興味深く読ませていただきました。以前一人会で、お芝居は鍋のようなものとおっしゃっていたのを思い出します。演出家、脚本家、役者、たくさんのスタッフさん、そして観客の私達も鍋の中でしっかり煮込まれて、どんな味になるのでしょう(*^▽^*)BLUE/ORANGEのお稽古の時、成河さんのブログに鉛筆と消しゴムの写真があがっていて、お芝居って本当に一から立ち上げていくものなのだと心打たれました。ジェットコースターの先にある物は何か?是非とも劇場でしかと確かめたいと思います。
ついしん 漆黒の中に存在感のある成河さんのお写真、とてもクールでミステリアスで素敵です✨✨
成河さんの舞台は、いつも楽しみです。観る方も、一筋縄ではいかない。覚悟が要ります。この舞台のちらしの、地面の顔の成河さんを見つけたとき、そう思いました。
ちゃんとわかって帰ることができるのかな?大貫さんも出るので、楽しみです。
この記事の成河さん、とても挑戦的で、カッコイイです!!
ノージャンルという言葉を初めて知りました。普段よりたくさんいろんなお稽古をされるとのこと、どんな舞台になるのかとてもワクワクしながら記事を読みました。
続きもとても楽しみです。