「演劇は夢の世界じゃなく、自分を見る鏡」、『人間風車』成河インタビュー(上)

成河さん=撮影・岩村美佳

舞台『人間風車』が、2017年9月28日から全国各地で、成河さん主演で14年ぶりに上演されます。後藤ひろひとさんが劇団「遊気舎」に1987年に書き下ろした作品で、演出は河原雅彦さん、共演はミムラさん、加藤諒さん他、新たなキャストが集結しました。笑いが恐怖に展開していく衝撃の童話ホラー作品で、後藤さん独特の世界観に引き込まれます。稽古開始から2週間のタイミングで成河さんにインタビューしました。(上)(下)に分けてお届けします。

成河さん=撮影・岩村美佳

成河さん=撮影・岩村美佳

――『人間風車』をご覧になったことはありましたか?

残念ながら見たことがなかったので、映像で拝見しました。

――稽古が始まって2週間が経ち、何かご自身が考えていたことと比べて、意外なことや発見などはありますか?

やっぱり大変ですね。僕にとっては懐かしいジャンルの演劇だなということはずっと思っていました。1997年、2000年、2003年と小劇場的なエネルギーが残っている時代で、今と全然違うんですよね。何でもありの世界というか、色々な人たちが自分たちの引き出しを持ち寄って、とにかく面白くしてやろうという雑多なエネルギーがありました。今はもう少しそれぞれの分野が専門化していると思うので、笑いなら笑い、会話なら会話、歌ならミュージカルという風に見世物としてどんどん分かれていっていますよね。それが、当時はまだ混ざっていた時代だなと。僕はそういうのが、とても好きだったなと思い出しました。実際にやってみると、本当にどれだけ引き出しがあっても足りないというか、あらゆる引き出しが必要で、見せ方ひとつとっても、笑って頂くポイントでも、本当に台本のレベルで一筋縄ではいかないなと、ひしひしと感じています。

――河原さんとは『ショーシャンクの空に』でご一緒されていますね。

河原さんは本当に俳優の気持ちを分かってくださった上で、厳しい言葉をかけてくださいますし、話も聞いてくれます。とにかく隅々まで見ていてくださる方なので何より信頼しています。

――今、どういう話をされているんですか?

僕が演じる平川という人物像についてですね。これは込み入った話になりますが、童話作家として、平川という人物をどう捉えるかなんですよ。ある意味、極端な天然ちゃんで、少年のようで純粋で穢れを知らずに、純粋に突き進んでいってそれが反転してしまった。この意外さと面白さで台本は書かれていると思うんですね。でも今、2017年の段階で本を読ませて頂いて、これをニュートラルに見た時に、僕はすごく、どこにでもいる普通の人なんじゃないかと思っちゃったんですよ。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、「演劇は、舞台でお客さんに夢を届ける、夢の世界のことじゃないと思う」と話す成河さんに、演劇について詳しく語っていただいたインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。9月26日掲載予定のインタビュー「下」では、様々な作品に引っ張りだこの成河さんに「やりたいと思うポイント」などについて伺ったインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■「それこそが正義だ」と信じて努力してきた人間が、そこから離れてしまう

■普段絶対に言えない恨み言や憎しみを、役の衣を着て言えるのはある種の快感

■観客にとって、何が嘘がないのかと考えたら、救われてはいけないんだろうなと

■観た人に居心地が悪いものが残っても、それが実生活の中で役に立って欲しい

<PARCO & CUBE 20th present 『人間風車』>
【東京公演】2017年9月28日(木)~10月9日(月・祝) 東京芸術劇場 プレイハウス
【高知公演】2017年10月13日(金) 高知県立県民文化ホール・オレンジホール
【福岡公演】2017年10月18日(水) 福岡市民会館・大ホール
【大阪公演】2017年10月20日(金)~10月22日(日) 森ノ宮ピロティホール
【新潟公演】2017年10月25日(水) りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
【新潟・長野公演】2017年10月28日(土) ホクト文化ホール・中ホール
【宮城公演】2017年11月2日(木) 電力ホール

<公式サイト>
PARCO STAGE『人間風車』
http://www.parco-play.com/web/program/ningenfusha/

<関連リンク>
Space Craft Group ACTOR 成河
http://www.spacecraft.co.jp/songha/
成河・スタッフ オフィシャルtwitter
https://twitter.com/tw_de_songha_sc

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成河さん=撮影・岩村美佳

成河さん=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

■「それこそが正義だ」と信じて努力してきた人間が、そこから離れてしまう

僕自身がこうやって年を重ねていますから、今さら天然は出来ませんしね(笑)。平川という人物の面白みを、色々なことを自覚して酸いも甘いも、妬みや嫉みもあったでしょうが、人を信じることを選択して生きていこうと頑張っている人間が、いざギリギリまで掴んでいた手綱を最後離してしまい、その時に「これまでの人生は全て過ちだった」と思う。昨日河原さんとも話していたんですが、本当に天然で純粋で一直線な人が、「これまでの人生は過ちだった」なんて言わないと思うんですよ。

――色々と考えて生きていないと言わないんじゃないかと。

「そうであるべきだ」「それこそが正義だ」と信じて努力してきた人間が、そこから離れてしまうということに僕は台本を読んで惹かれていたんですね。そういう作りをしている最中なんですが、やはりそこが台本でも難しくなってくるんです。どこまでが純粋で天然な少年性なのか、どこまでが自覚的で分かっていた人間がこうなってしまったのか、そのバランスを、今ずっと探している所です。

成河さん=撮影・岩村美佳

成河さん=撮影・岩村美佳

■普段絶対に言えない恨み言や憎しみを、役の衣を着て言えるのはある種の快感

――ギリギリまで掴んでいた手綱を離してしまう場面は、特に見せ場にもなってくると思いますが、取り組んでいていかがですか?

そのシーンも何十回と稽古しているんですが、発見がありました。やはりああいう恨み言や憎しみを口走るのって、とても辛い作業だなと思っていたんですが、違ったんですよ。大竹しのぶさんが『フェードル』というお芝居をやられていた時にパンフレットでおっしゃっていたんですが、「辛い悲劇や苦しい様を舞台でやると、すごく精神的にも負荷がかかって大変ですよね」と聞かれた時に、「全然そんな事ないのよ」というお話をされていたんです。「普段思っていても言えないようなことを、思い切り話すことが出来るから、逆にすごく気持ちいいのよ」と。

――心の中で呟く闇を実際に言葉に出来るんですね。

僕、本当にその通りだなと思って。それを役の衣を着て言わせてもらえるなんて、普段じゃ絶対言えないことが言えるのは、俳優としての快感なんだと思いました。正直に「これ、辛いな」と言うことは出来るんですが、実際やってみるとやはり、ある種の快感や爽快感がある訳ですよ。それは平川の快感や爽快感と一致するものですし、実際に全部通してやってみると、意外と後半よりも前半の方が辛いんですよ。

――純粋な平川のところですね。

どうやって人物を組み立てていくのか。どこまでが純粋で、どこまで分かっている人物を作るのかという作業の方が楽しいですが、手探りだったりするので。後半、本当に恨みをぶつけていく所に関しては、もちろん前半で変わってくるので舵取りは大事ですが、何か自分の中にある爽快感を認めました。

――物語が転換することになる場面の振り幅は、演劇だから観られる面白さですよね。

そうですよね。

――映像だとそうはならないじゃないですか。

本当にそうだと思います。

――何かギアチェンジした感じです。

お客さんをぶん殴るくらい裏切って、「何でだよ!」と思ってもらえるような振り幅にはしたいと思っていますね。

成河さん=撮影・岩村美佳

成河さん=撮影・岩村美佳

■観客にとって、何が嘘がないのかと考えたら、救われてはいけないんだろうなと

――以前の映像と今回の脚本を拝見しましたが、これまでの上演と比べて、より救いがないといいますが、衝撃的でした。

最後の最後で衝撃的な展開が待っていますね。後藤さん自身は1997年に最初に書いた衝動に戻したい思いがあったそうです。最後の上演から14年経っていますからね。今の観客にとって、何が嘘がないのかと考えたら、平川は救われてはいけないんだろうなと思ったんだろうと。今、その展開について河原さんとも色々お話させて頂いていますが、やはり人間の悪意や吐いてしまった恨みの、行き場所というのが何かひとつ浄化されたり、カタルシスがあったりするのは舞台の醍醐味なんだと思います。

僕も社会的な発言が出来るわけではないですが、例えば、放射線廃棄物みたいなものなんだと思うんですよ。消えないけれど存在していて、目をつぶって消えたふりを人間はしてしまうし、出来てしまう。もちろんそれはひとつの生きる強さでもある。舞台で何かそういう教訓みたいなものをやりたい訳ではありませんが、浄化されてなくなっていくというのを、今、舞台でやると嘘になるのかなと、後藤さんの本を読んで思いました。

――浄化されて心地よくなった余韻で終わってしまうと、観客はそれだけを持って帰るかもしれませんね。

時代によって、そういう効能が演劇にはあったり、必要だったりするんでしょうが、こういう作品があってこそ演劇なのかなと思います。

成河さん=撮影・岩村美佳

成河さん=撮影・岩村美佳

■観た人に居心地が悪いものが残っても、それが実生活の中で役に立って欲しい

――電波には乗せられないけど、舞台なら出来るみたいな所はありますよね。

ありますね。だから、観終わっての意見は真っ二つになると思いますよ。だからこそ意味があるというか、それが是であろうが、否であろうが、観た人、体験した人が何かこう……もしかしたらそれは居心地が悪いものかもしれないけれど残っていって、やはりそれが実生活の中で役に立って欲しいと思うんですよ。

演劇は、舞台でお客さんに夢を届ける、夢の世界のことじゃないと思うんですね。エンターテインメントとして、そういうものがあってもいいと思うんです。でも、エンターテインメントのもうひとつの側面があって、人間を見る、自分を見る、鏡写しだということですよね。人の振りを見て、わが身をということが演劇の一つの効果だと思うので、こういう少し辛辣な結末や展開を観た時にお客さんは何を思うのかなというのは、僕自身とても興味があります。それを突きつけられた時に向かい合うというのは、例えば再生したり、コマ送りで見たり、一時停止してトイレに行ったり……という世界では通じないものですよね。ある意味そこでものすごい緊張感をもって座らされていますし。そういう緊張感のなかで投げかけて、それを受け取るものですから、やはりこういう題材は舞台でこそ発揮されるのかなと思います。

――成河さんが出演される作品は、あまり気楽な作品はないですよね。例えば、観て楽しかったと帰れるような作品はそんなにないと思います。

そうですね。

――もちろん何を受け取るかは観客の自由ですが、成河さん自身の中ではどうやって溜まっていくんですか?

僕は演劇を始めた頃から演劇を観るのが大好きだったので、演劇を観て、観て、観て、それで観ながらやってきた所があります。自分が感動するもの、自分の観客体験というのを押し付けても仕方ないんですけどね。僕は人生で演劇にたくさん助けられたり、役に立ったりしたことがありますし、鏡写しで人を見る、自分を見るという行為は、好き嫌いを超えて価値がある部分じゃないかなと思うんですよ。だから、自分が作品に携わる時に、もしそうじゃない作品だったとしても、そうである部分も探そうとします。

――なるほど。能動的に探す。

逆に、僕がそういう部分を見つけられなかったら、やはり納得して楽しく出来ませんし、それは自分にとっても、人にとっても何の成果にもならないんだろうなと思います。

成河さん=撮影・岩村美佳

成河さん=撮影・岩村美佳

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“「演劇は夢の世界じゃなく、自分を見る鏡」、『人間風車』成河インタビュー(上)” への 3 件のフィードバック

  1. はぐ。 より:

    インタビュー記事を読んで、観劇が楽しみになりました。
    人間の内側を抉ってきそうで、心して観に行きたいと思います。

  2. やよい より:

    新しく生まれ変わった人間風車を観られるのがとても楽しみです。
    作品に込められた思いを劇場で受け取りたいと思います!

  3. クリーム より:

    いよいよ始まります
    花髑髏から子午線の祀り凄い台詞の量
    舞台とお稽古が重なっていると思います
    頭の中覗いてみたいといつも思います
    役者さんて凄いです
    ゴチャゴチャにならないのか?
    また楽しみです

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