2017年10月25日、アメリカの下院歳出小委員会で公聴会が開かれました。そこで冒頭陳述をおこなったのが、ダウン症をもっているフランク・スティーブンスさん。「私の人生には生きる価値がある」と語った力強いスピーチをお聴きください。
アメリカの議会では、常任委員会の小委員会で、民間の関係者を呼んで証言を聞くということをひんぱんにおこなっているそうです。それを参考に政策の方針を決めたり、予算を割り振ったりするわけですが、この日登壇したフランクさんは、俳優であり、スペシャルオリンピックのアスリートで、ダウン症の財団の役員でもあります。( )の単語が聴き取れるように注意して、スピーチの最初の部分をお聴きください。
Mr. Chairman and members of the ( 1 ), just so there is no confusion, let me say that I am not a research scientist.
However, no one knows more about life with Down syndrome than I do. Whatever you learn today, please remember this, I am a man with down syndrome and my life is ( 2 ) living.議長および委員会のメンバーの皆さん、混乱のないように一応申し上げておきます。私は科学研究員ではありません。(笑)
でも、ここにいる誰よりも、ダウン症を持って生きる人生について知っています。今日、何か学んでいただけるとしたら、これだけは覚えておいてください。私はダウン症です。そして私の人生は生きるに価するものです。
彼の証言に先立って、2017年8月アメリカCBSニュースの番組でアイスランドの出生前診断のことが取り上げられ、論議を呼んでいました。アイスランドでは、妊婦の80から85パーセントが出生前スクリーニングを受け、胎児がダウン症の可能性が高いとなると、ほぼ100パーセントの人が中絶しているというドキュメンタリーです。福祉国家デンマークも、ダウン症の胎児の中絶率は98パーセント。フランクさんの証言はまさに、アメリカが今後、どのような方向に進んでいくのかを決める大事なものだったのです。フランクさんの次の言葉に胸をつかれます。
Sadly, across the world, a notion is being sold that maybe we don’t need research concerning Down Syndrome. Some people say prenatal screens will identify Down Syndrome in the womb and those pregnancies will just be ( 3 ). It’s hard for me to sit here and say those words.
悲しいことに、世界では、ダウン症の研究はもう必要ないという考え方が出てきています。出生前スクリーニングでダウン症の胎児だということがわかったら、中絶してしまえばいいのだと言う人たちがいます。ここに座ってこのような言葉を紹介するだけでも、私には辛いことです。
<関連サイト>
Powerful Speech on Down Syndrome Goes Viral ジェローム・ルジューヌ財団の記事
Frank Stephens ウイキペディアの記事
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、聴き取りの答えと解説、フランクさんのスピーチの続きを紹介しています。筆者の試訳つきです。ぜひご利用ください。
<有料会員限定部分の小見出し>
■聴き取りの答え~に価するという言い方~
■スピーチ全文(松中みどり試訳つき)
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■聴き取りの答え~に価するという言い方~
Mr. Chairman and members of the ( 1 ), just so there is no confusion, let me say that I am not a research scientist.
聴き取れましたか? 答えはcommittee です。委員会という意味で、members of the committee で、「委員会に所属するメンバーの皆さん」、という呼びかけです。ちなみに議長をMr.Chairman と言っていますのでこの時の議長は男性だったということがわかります。女性の議長であれば、Madam Chairman と呼びかけるか、Madam Chair もしくは Madam Chairwoman でしょうか。男性の時ほどはっきりと決まっていません。性差を意識しないChairperson という言葉もありますが、呼びかけるときに使うと不自然で、今、過渡期の言葉と言えそうです。
I am a man with down syndrome and my life is ( 2 ) living.
答えはworth です。~に価する、~の価値があるという意味の言葉で、品詞としては形容詞と考える人や前置詞と考える人がいて、品詞分類には議論の余地があります。似た言葉でworthy という言葉があり、こちらは形容詞と考えられています。
- 1.It is worth a million yen. これには100万円の価値がある。
- 2.He is worth trusting. 彼は信頼に値する。
1の例文のようにworth の後ろに名詞が来る場合と、2のように~ing 動名詞を伴う場合がありますが、いずれも~に価する、~の価値があるという意味になります。
- 1.He is worthy of trust. 彼は信頼に値する。
- 2.He is a worthy man who deserves out trust. 彼は私たちの信頼に値する男だ。
worthyは1の例文のように、of を伴った使い方をします。また、2のように、名詞の前に置いていかにも形容詞という使い方が出来ます。
and those pregnancies will just be ( 3 ).
答えはterminated で、終わらせる、終止符を打つという意味の動詞terminate が、受動態で使われています。
■スピーチ全文(松中みどり試訳つき)
Mr. Chairman and members of the committee, just so there is no confusion, let me say that I am not a research scientist. However, no one knows more about life with Down Syndrome than I do. Whatever you learn today, please remember this: I am a man with Down Syndrome and my life is worth living.
議長および委員会のメンバーの皆さん、混乱のないように一応申し上げておきます。私は科学研究員ではありません。(笑)
でも、ここにいる誰よりも、ダウン症を持って生きる人生について知っています。今日、何か学んでいただけるとしたら、これだけは覚えておいてください。私はダウン症です。そして私の人生は生きるに価するものです。
Sadly, across the world, a notion is being sold that maybe we don’t need research concerning Down Syndrome. Some people say prenatal screens will identify Down Syndrome in the womb and those pregnancies will just be terminated. It’s hard for me to sit here and say those words.
悲しいことに、世界では、ダウン症の研究はもう必要ないという考え方が出てきています。出生前スクリーニングでダウン症の胎児だということがわかったら、中絶してしまえばいいのだと言う人たちがいます。ここに座ってこのような言葉を紹介するだけでも、私には辛いことです。
I completely understand that the people pushing this particular “final solution” are saying that people like me should not exist. That view is deeply prejudice by an outdated idea of life with Down Syndrome. Seriously, I have a great life!
私にはよく分かっています。この「最終的解決方法」を推し進めている人たちは、私のような人間は存在してはならないと言いたいのです。でも、そういう物の考え方はひどい偏見で、ダウン症候群をもって生まれた人の人生について、時代遅れの考え方をしているのです。冗談抜きで、私は素晴らしい人生を送っているんですよ!
I have lectured at universities, acted in an award-winning film and an Emmy-winning TV show, and spoken to thousands of young people about the value of inclusion in making America great. I have been to the White House twice and I didn’t have to jump the fence either time.
私は大学で講義をしたこともありますし、賞を受けた映画に出たことも、エミー賞を取ったテレビ番組で演じたこともあります。アメリカを偉大にしている考え方:共に生きていくという社会的な一体性の価値について、何千人という若者に話をしたこともあります。ホワイトハウスにも二度招かれて行きました。二度とも、フェンスを飛び越えて入らなくてもよかったんですよ。(笑)
Seriously, I don’t feel I should have to justify my existence, but to those who question the value of people with Down Syndrome, I would make three points.
真面目な話、私は自分の存在を正当化しないといけないなんて、思っていません。でも、ダウン症を持っている我々の価値に疑問をもっている人のため、3つのポイントをあげて説明します。
First, we are a medical gift to society, a blueprint for medical research into cancer, Alzheimer’s, and immune system disorders. Second, we are an unusually powerful source of happiness: a Harvard-based study has discovered that people with Down Syndrome, as well as their parents and siblings, are happier than society at large. Surely happiness is worth something? Finally, we are the canary in the eugenics coal mine. We are giving the world a chance to think about the ethics of choosing which humans get a chance at life. So we are helping to defeat cancer and Alzheimer’s and we make the world a happier place. Is there really no place for us in the world? Is there really no place for us in the NIH budget?
まず第一に、私たちは社会への医学的な贈り物です。癌やアルツハイマー病や免疫系疾患を研究する青写真です。次に、私たちはちょっとないほどパワフルな幸福の源になります。ハーバードの研究によると、ダウン症を持っている人たちと、その両親や兄弟姉妹は、社会の一般の人たちより幸せだということがわかりました。もちろん、幸せって価値がありますよね。最後に、私たちは優生学の炭鉱におけるカナリアなのです。私たちの存在が、世界に考えるチャンスを与えるんです。どんな人間が生きるチャンスを得るのか、どう選択するべきなのかという倫理について。つまり、私たちは、癌やアルツハイマーを打ち負かすことに力を貸し、世界を幸せな場所にしているんですよ。私たちにはこの世界に居場所はないのですか?アメリカ国立衛生研究所の予算に、私たちのために割くお金は本当にないんでしょうか?
On a deeply personal note, I cannot tell you how much it means to me that my extra chromosome might lead to the answer to Alzheimer’s. It’s likely that this thief will one day steal my memories, my very life, from me. This is very hard for me to say, but it has already begun to steal my mom from me. Please, think about all those people you love the way I love my mom. Help us make this difference, if not for me and my mom then for you and the ones you love. Fund this research. Let’s be America, not Iceland or Denmark. Let’s pursue answers, not “final solutions”. Let’s be America. Let’s make our goal to be Alzheimer’s free, not Down Syndrome free. Thank you
とても個人的なことなのですが、私の一本多い染色体がアルツハイマー病を解明する糸口になるかもしれないのなら、それは私にとって、言葉にならないくらい大きな意味があるのです。この一本多い染色体という泥棒が、いつの日か私の記憶や、私の人生そのものを盗んでいく日が来るかもしれません。これは口にするのも辛いことですが、この泥棒はすでに私の母を盗みつつあります。私が母を愛しているように、みなさんにも愛する人がいますよね。どうかその人たちのことを考えてください。良い変化をもたらすことが出来るように、私たちに力を貸して下さい。私や私の母のためでなくても、みなさんやみなさんの愛する人たちのために。研究に資金を出してください。私たちはアメリカでありましょう。アイスランドやデンマークではなくて。答えを求めましょう。「最終的解決方法」ではなくて。私たちはアメリカでありましょう。ダウン症を持っている人がいない社会ではなく、アルツハイマー病のない社会を、私たちのゴールにしましょう。どうもありがとうございました。