「どうすれば上演できるか。人に頼るだけでなく、演者も考えないと」加藤和樹(下)

稽古場の加藤和樹さん(左)と高畑淳子さん

2022年2月26日(土)から3月15日(火)まで東京芸術劇場 プレイハウスで上演される舞台『冬のライオン』で、ヘンリー二世の長男・リチャード役を演じる加藤和樹さんのインタビュー後編です。

「下」では、久しぶりのストレートプレイ出演にあたって感じていること、ミュージカルとライブを同時並行でこなしていた昨年末のこと、20代の頃に比べて無駄を削ぎ落とすことができるようになったこと、一人で準備するときにはみんなで合わせた時に現場で出せるストックを貯めるようにしていること、2022年の活動として発表されている『るろうに剣心 京都編』やご自身のアーティスト活動15周年の集大成となる「野音」のこと、コロナ禍が続いている今思うこと・読者の皆さまに伝えたいことなどについて話してくださった内容や、『冬のライオン』で楽しみにしていただきたいことやお客さまへのメッセージを紹介します。

稽古場の加藤和樹さん(左)と高畑淳子さん
稽古場の加藤和樹さん(左)と高畑淳子さん

(※このインタビューは1月末にリモートで実施したものです)

ーー3年ぶりの、ストレートプレイご出演ですが、稽古をされて新鮮ですか?それとも、ミュージカルとあまり変わらないような感覚ですか?

お芝居をやるという意味では、あまりミュージカルと差はないのですが、今回、本当に出演者も少ないですし、歌もないので、より言葉の意味やキャラクターを深めていかなければいけないと思っています。その台詞の意味合いや、なぜこの場でこういうことを言うのかなどを、もっと深く追求していかなくてはいけません。ミュージカルの歌の中の歌詞というのは、言葉であり、台詞ですから、両者にあまり違いはなく、「歌があるか、ないか」くらいでしかないですね。

ーー歌を音符として、自分に叩きこむ時間が必要ないですよね。

それはだいぶ助かっています。

ーー助かっているのですか?

だって、難しいじゃないですか。芝居だけをやっている今、改めて考えると、歌を歌いながら芝居をするのは大変だなと思うんです。でも、だからこそストレートプレイは、音楽がない分、ごまかしが効かない。ミュージカルでは、歌で心情を伝えられますが、ストレートプレイにはそれがありません。キャラクターをお客さまに理解していただくにあたっては、自分の居方や、そのほかの人たちとの関係性でしか表現できないですね。3兄弟のあり方もそうですが、そこの輪郭を、もう少しはっきりさせていくことが必要かなと思います。

ーー昨年末は、2種類のライブを回しながらミュージカルにもご出演と、忙しいスケジュールをこなされていました。加藤さんは、表現のバリエーションをさまざまお持ちかと思いますが、ご自身の表現活動において、それぞれのバランス感覚のようなものは、意識されていますか?

バランスというよりは、全部自分がやりたいことですし、それぞれで違う表情が見せられればいいなというくらいです。その中で、表現することが違うというだけで、どれも加藤和樹なので。それぞれの表情を楽しんでいただけたらと思います。自分の精神バランスとしては、昔ほど大変なことをやっているという感覚は、あまりないです。

ーー「昔」とは、いつ頃ですか?

20代のときですね。30歳を超えてからは、そんなに大変だとは感じていません。

ーー処理する力が上がったということでしょうか?

それもあると思います。現場を経験していく中で、無駄な時間を自分で削ぎ落としていけるようになりました。最初は経験がなかったので、どう切り替えていいかも分かりませんでしたが、だんだんスムーズにできるようになりました。昔は、アーティスト活動とミュージカルだけでも、スイッチが切り替えられなかったりしましたが、そういう部分ではラグがなくなった気がします。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、一人で準備するときにはみんなで合わせた時に現場で出せるストックを貯めるようにしていること、2022年の活動として発表されている『るろうに剣心 京都編』やご自身のアーティスト活動15周年の集大成となる「野音」のこと、コロナ禍が続いている今思うこと・読者の皆さまに伝えたいことなどについて話してくださった内容や、『冬のライオン』で楽しみにしていただきたいことやお客さまへのメッセージなど、インタビュー後半の全文を掲載しています。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■自分一人でもできる作業は、現場で何を出されてもいいようにストックを貯めること

■今年も新たな挑戦。小池先生との『るろうに剣心 京都編』も、15周年の「野音」も

■我々の仕事はなくても成立する。でも楽しみにしている人のために行動を起こすべき

■自分の愛する人や友達、家族にもう少し素直になってもいいのかなと感じられる作品

<舞台『冬のライオン』>
【東京公演】2022年2月26日(土)~3月15日(火) 東京芸術劇場 プレイハウス
公式サイト
https://www.thelioninwinter.jp/

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稽古場の加藤和樹さん(左)と高畑淳子さん
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■自分一人でもできる作業は、現場で何を出されてもいいようにストックを貯めること

ーー忙しいスケジュールを組み立てて進行していく中でも、例えば並行して『冬のライオン』の台本を覚えるなど、いろいろな物事が緻密に進んでいきますよね。「ラグがなくなってスムーズになった」ということですが、スイッチを切り替えて進んでいく作業は、どのようにされているのでしょうか?

単純に、その日に自分が何をやるかを決めて、それに向き合うだけなんですけどね。

ーーひとつひとつの作業にかかる時間が短縮されていった結果、という感じですか?

それはあると思いますね。歌を覚えるのも、台詞を入れる作業にしても、昔よりは早くなりました。歌も芝居もそうですが、実際に現場に行ってみないと分からないので、結局は、「とりあえず予習をしておく」くらいしかできないんです。ですから、自分は現場で何を出されてもいいようにストックを貯めておくんです。

例えば、先月のミュージカルフェスは、ソロ曲でした。その場合は、自分だけなので、何も持っていかなくても大丈夫なくらいですが、全員で歌う曲になると、ほかの人がどういうパートを歌っているか、自分のパートがどうなっているのかも、考えなくてはいけません。でもそれは、現場に行かないとできないことです。

それは芝居も同じで、家でひとりでできることは、とにかく台詞を入れることしかないんです。いくら台詞の練習をしても、相手のリアクションが変わってくれば、自分の芝居も変わってきますから。だから、意外と家でやる作業は覚える作業くらいしかないんです。それをいつどこで、どのタイミングで覚えるかを自分の中で計算して、「これはまだやらなくても大丈夫かな」とか。

■今年も新たな挑戦。小池先生との『るろうに剣心 京都編』も、15周年の「野音」も

ーー2022年が始まりましたが、今年については、どのように考えていらっしゃいますか?

今発表されているものは、『るろうに剣心 京都編』と、上演は来年ですが『キングアーサー』です。4月には自分のアーティスト15周年の集大成である「野音」もありますし、その前にはこの『冬のライオン』もあるので、いいスタートが切れるんじゃないかなと思います。自分としては「挑戦していくこと」を、毎年変わらずにテーマにしているので、新たな挑戦をまだまだしていきたいなと思っています。

ーー今年も昨年から続く、アーティストデビュー15周年の節目ではありますが、ご自身が取り組まれることは、昨年から続いているものの続きという感じでしょうか?

続きであり、より新たなものを打ち出していく1年になるんじゃないかと思います。

ーー「また新しいものを」という感覚でいらっしゃいますか?

『るろうに剣心 京都編』に関しては、『ウエスト・サイド・ストーリー』でできなかったIHIステージアラウンド東京で上演されます。久々の小池(修一郎)先生の演出ということもあって、またいろいろと学ぶことがあるだろうと思います。音楽活動では、新たな作品作りが水面下で進んでいます。この15周年が終わったあとに、次の20周年に向けてアーティスト活動をどうしていくかを、いろいろ考えて打ち出していかなければと思っています。

■我々の仕事はなくても成立する。でも楽しみにしている人のために行動を起こすべき

ーー読者の皆さまは、いろいろとご覧になるのを楽しみにしていらっしゃると思います。今、お伝えしたいメッセージはありますか?

まだコロナという馬鹿野郎が全然収まらないので。でも、何万回も言っていますが、我々にできることは、芝居や音楽を作って、皆さんにどうしたら観ていただけるかということでしかないんです。

それが少しでも、皆さんの心の支えになればいいなと思いますし、生きにくい世の中ですが、それでも我々はこのエンタメというものが、皆さんの力になると信じています。「この灯火だけは閉ざしてはいけない、絶やしてはいけない」と思いながら、行動制限やPCR検査をするなど、いろいろなことを制限される中で、より良いものを作っていこうと。キャストもスタッフも制作の皆さんもその想いだけで本当にがんばっています。

お客さんに見ていただけたら、それがすべてで、今までの苦労なんて忘れるんですよね。だから、上演や開催できるように我々は頑張るしかないと思うので、我々が作り出すものの、ほんの一部でも、気に留めていただけたらなと思います。

ーーコロナ禍がほぼ2年続いていますが、それ以前であれば思わなかったことを、ひとつ挙げるとしたら、いかがでしょうか?

もちろん思うことはひとつだけではありませんが、やはり我々の仕事は、マイナスの面でいうと、なくても成立するんです。でも、それを楽しみにしてくださっている人のために、自分たちは行動を起こすべきだなと思います。そこに気づけたことでしょうか。

やはり仕事があって、舞台のお仕事を頂いて、じゃあやりましょうと。やれることが当たり前ではなくて、どうしたらできるかを演者も考えないといけない。人に頼っているだけではなく、自分たちがどういう行動をして芝居作りに取り組んでいかないといけないかを改めて考えさせられました。

■自分の愛する人や友達、家族にもう少し素直になってもいいのかなと感じられる作品

ーーその思いで次にお届けするのが『冬のライオン』ですが、最後に、この作品で楽しみにしていただきたいこと、伝えておきたいことをお聞かせください。

「こんな家族いるよね」「素直になればいいのに」とか、クスッと笑ってもらえればいいかなと思います。自分の愛する人や友達、家族にもう少し素直になってもいいのかなと、この作品を観て、とても感じることができると思います。もちろん、全員が本音だけで生きていたら、世の中は大変なことになりますが、心を解き放ったり、大切な人に「私はあなたのことが大切です」とやさしさを伝えたり、そういうものをぎゅっと感じてもらえるような作品だと思うので、本当に堅く考えずに観にきていただきたいです。

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“「どうすれば上演できるか。人に頼るだけでなく、演者も考えないと」加藤和樹(下)” への 3 件のフィードバック

  1. Pink より:

    以前とは全く違う環境になり、世の中が真っ暗になってしまったように感じた2年前。「何もできなくなってしまった」→「できることを見つけよう」に発想転換ができたのは和樹さんのおかげです。
    エンタメに力をもらい、歌に励まされながらエッセンシャルワーカーとしてこの状況に一緒に立ち向かうことができ、感謝しかありません。
    心に栄養をもらうために、観劇に行きますね!
    楽しみにしています。

  2. non より:

    水面下で音楽制作が進んでる…なんと嬉しい言葉でしょうか?
    必要ない人もいるのでしょうが、私にとって舞台観劇は生きる術です。もちろん和樹さんのライブも!
    関係者だけではなく、私達観客もどうやってこの場所を守れるか?を常に考えていなくてはいけないと思います。
    全面中止になったあの日々から、やっとここまでこぎつけたんです。後退させたくないですもんね。

  3. taro より:

    2年前、帝劇で「ローマの休日」を拝見した時に、コロナに負けず上演された事に感謝し、涙が溢れました。
    ライヴに参加した時も、楽しくて感謝しかありませんでした。
    エンタメの灯を消さず挑戦し続けている姿に元気をいただいています。
    インタビューを通して、改めて強い思いを感じました。
    ありがとうございました。

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