「メリーに魅了された男ふたり」、『メリー・ポピンズ』、小野田龍之介(上)

小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

ミュージカル『メリー・ポピンズ』が、2022年3月31日(木)に開幕しました。東京公演は、5月8日(日)まで東急シアターオーブで上演されます。つづいて、5月20日(金)から6月6日(月)まで梅田芸術劇場メインホールで上演されます。2018年に日本人キャストで初演された作品の再演です。

原作は、アカデミー賞5部門を受賞したウォルト・ディズニーによる映画『メリー・ポピンズ』のもとにもなった、パメラ・トラバースの小説です。ディズニーとサー・キャメロン・マッキントッシュによって、ミュージカル化されました。たくさんの魔法が仕掛けられた舞台セット、つい口ずさみたくなる「チム・チム・チェリー」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」などの名曲、そして圧巻のダンスシーンなど、見どころが盛り沢山です。

アイデアニュースでは、キャストの方々にインタビューしました。初演ではロバートソンアイ役を演じ、今回の再演ではバート役を演じる小野田龍之介さんのインタビューを、上、下に分けてお届けします。「上」では、作品への想い、ロバートソン・アイとバートどちらも演じているからこそ見えてくるもの、バートについてダブルキャストの大貫勇輔さんと話したこと、バートを演じる上で大切にしていることなどについて話してくださった内容を紹介します。

「下」では、バートの役作りをする上での面白さ、久しぶりに踊る役を演じるにあたっての想いや周りからの反応、メリーを演じる濱田めぐみさんと笹本玲奈さんとのこれまでの共演経験を踏まえて感じること、ミュージカルの魅力について、30歳になられた今思うことやこれからのチャレンジについて話してくださった内容と、お客様へのメッセージを紹介します。

小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳
小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

(※このインタビューは、2月中旬に行いました)

――『メリー・ポピンズ』という作品の魅力について、どのように感じていらっしゃいますか?

音楽に、振付に、描かれているドラマ。すべてが100パーセント本当によくできていて、これでもかというくらい宝石箱のように次から次へといろいろなビッグナンバーや名曲が飛び出してくるのが、この作品の魅力だなと思っています。

初演から4年経った今、世界的にはコロナというものがあって、家族や友人と、そして社会と個人が分断されていたようなこの2年があって。その上で、改めて『メリー・ポピンズ』の世界に向き合うと、忘れかけていたワクワクや、何かでドキドキする気持ちを呼び戻してくれるかのような作品だなと、稽古したり台本を読んだりしながら実感しています。

 ――初演を拝見した時、特にメリーが魔法をかけて、カラフルに色彩が変わっていくシーンには、とても多幸感がありました。

 そうなんです。ミュージカルには、割と悲劇的なものも多く、このような「ワクワクする高揚感で涙が溢れる」という演目は、限られていると思うんです。これは、初演のときにも、カンパニーとしてもスタッフとしても、みんなで感じていたことでした。

最上級のエンタメを生み出すディズニーと、世界的名作を世に出し続けているキャメロンのチームとのコラボレーションだからこそ、そういう世界にお客様を引き込んでいけますし、俳優もそこに引っ張ってもらえているんです。

あとこの作品は、稽古場では「すごい魔法にかかった作品だな」とまでは分からないんですよね。最後のピースが必要といいますか。

――セットや衣装でしょうか。 

はい。モノクロだった世界が一気にカラーに変わるところは、本当にディズニーらしいなと思います。ディズニーのショーにも、そういうものが多いですし、『ジョリー・ホリデー』のカラーになる瞬間は映画でも描かれていますが、泣けるんですよね。

――カラフルになって繰り広げられるシーンを観ていると、別の世界にトリップするという感覚にもなります。

観ている側も、きっと、「観ている」というよりも、「本当にその世界に引っ張り込まれた」ような感じでしょうか。

――そこは『メリー・ポピンズ』ならではだなと思います。小野田さんは、初演ではロバートソン・アイを演じられて、今回はバートを演じられますが、作品への印象は変わりましたか?

どちらの役も、「メリーに魅了された男ふたり」というところが共通しています。ロバートソン・アイも、メリーがバンクス家に来た時に「素敵だなぁ」と思っているんです。でも、バートとロバートソン・アイは、片方が出ている時はもう片方が出ていない作りになっています。2人が見ている景色は、まるっきり違うんです。両方の役を合わせると、この名作のほぼ全シーンに出ていることになるんです。「僕ひとりで『メリー・ポピンズ』全部乗せ」というような状態なので、今、なんだかすごく得した気持ちです。

特にバートという役柄は、いち役としてそこに存在している人物でもありますが、どこか狂言回しというかストーリーテラーのような瞬間もいっぱいあるんです。ロバートソン・アイとしての経験があることで、バートとして出ていないシーンのことも全部分かっているので、すごく演じやすいこともありますし、含みをもって物事をしゃべれます。何となくの感覚ではなく、「ロバートソン・アイが見たバンクス家」を実感として覚えているので、バートとしてそこを分かっているのは面白いですね。

 ――バートには見えないはずのものも、知っているということですね。

 バートという役としてしか見ていませんが、ストーリーテラー的な部分を担っている立場の面から見ると、面白いなと思います。

 ――今、どんな風にバートという役を作っていますか?

変わってくる部分があるかもしれませんが、元々イギリスのスタッフと話していたのは、まず、バートはメリーのそばにいるので、結構スペクタクルな瞬間に出ていることが多いということです。

――メリーが魔法を使う場面ですね。

 はい。メリーに同調して子供たちを誘う部分では、魔法を使っているのはメリーであってバートではない。バートはあくまでも付き添い人みたいなところがあります。バートは「メリーワールド経験者」のような立場なんです。

だから一歩間違えると、ダンサー、歌手、エンターテイナーみたいにもなってしまいますが、バートは本来そうではないんです。あくまでもイギリスの労働者として生活していて、いつも働きながら、ちょっと重たい何かを背負って生きている普通の男性。歌うときもそこを意識します。「バートにはそういうところが必要だから、基本的にはメリーと一緒に踊るシーン以外では、歌って踊るのはとにかく隠し続けて欲しい」と言われています。

今はそういうところを大事にしています。メリーには空からバンクス家を、バートには大地からバンクス家を守って欲しいという感覚です。本当に土着的な男なんです。そういう部分を大事にしています。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、バートについて大貫さんと話したこと、バートを演じる上で大切にしていることなどについて話してくださった内容など、インタビュー前半の全文と写真を掲載しています。4月5日掲載予定のインタビュー「下」では、バートの役作りをする上での面白さ、久しぶりに踊る役を演じるにあたっての想いや周りからの反応、メリーを演じる濱田めぐみさんと笹本玲奈さんとのこれまでの共演経験を踏まえて感じること、ミュージカルの魅力について、30歳になられた今思うことやこれからのチャレンジなど、インタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■ミュージカルオタクの方は分かるかも。大貫バートの踊りなどを本人より覚えていた僕

■バートの「土着的な部分」を大切に。「すとん」とそこにいて子供たちに語りかける

■バートは、親身になって話をしてくれる信頼できる男性。「寄り添う」ことを意識

■やったことのある人のようにやろうとすると、「表面的に完成している風」になる

<ミュージカル『メリー・ポピンズ』>
【プレビュー公演】2022年3月24日(木)~3月30日(水) 東急シアターオーブ 渋谷ヒカリエ11階
【東京公演】2022年3月31日(木)~5月8日(日)  東急シアターオーブ 渋谷ヒカリエ11階
【大阪公演】2022年5月20日(金)~6月6日(月) 梅田芸術劇場メインホール公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/marypoppins2022/
https://marypoppins2022.jp/

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小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳
小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

※ここから有料会員限定部分です。

■ミュージカルオタクの方は分かるかも。大貫バートの踊りなどを本人より覚えていた僕

 ――初演でもバートを演じられていた大貫さんとは、どのようなお話をされていますか?

 しょっちゅういろんなことを話します。台詞や段取り的なことも含めて、すり合わせながらやっています。

 ――大貫さんのインタビューの際には、小野田さんが、ご自身以上にものすごくいろいろなことを覚えていらっしゃると伺いました。

ミュージカルファン、ミュージカルオタクの方たちは分かってくださるかもしれませんが、ファンの方たちは、俳優よりもいろんなことを覚えているんです。本当にそれと同じように、見ているほうが意外に覚えているんですよ。先ほども言った通り、バートが出ている時には、ロバートソン・アイは出ていないものだから、舞台稽古を客席で見ていたり、稽古場で見ていたりすることが多かったんです。

本当に何となくですが、「ここはこんな風に踊っていたよね」と言うと本当にそう踊っていたり。「こうじゃなかったっけ?」と言うと、勇輔くんが「僕より本当にいろんなことを知識として持っていて、どうしよう」と。僕は知識ではなく、記憶として持っているだけなんです。でもやはり、彼はダンサーですからね。本人も言っていますが、ダンスモードに入ったら一気に思い出すようです。記憶を取り戻すのが早いですよね。

小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳
小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

■バートの「土着的な部分」を大切に。「すとん」とそこにいて子供たちに語りかける

――大貫さんとの共同作業ですね。

 本当にそうです。「この歌詞、僕は正直分からないんだけど、どう思う?」とか「どういうことを言っていると思う?」などと話しています。

 ――バートの役作り的なことも、ご相談されますか?

それはあまり話さないです。「方向性が違う」ということはないのですが、ひとつの役を演じる上で、俳優の素養というか、持っているものがにじみ出る瞬間はあると思うんです。そこを見ながら、スタッフサイドが演出することも多いので、変に役作りのすり合わせみたいなことをしてしまうと、自分が自然に動いたものをストップしてしまうかなというのもありますし。彼は、ご自身が得意としているフィジカル的な部分、ダンサー的な様式というものを特に大切にしながらバートを演じているので、二人のバートは自然と別のものになります。

――小野田さんは、どのようなところを大事に演じられていますか?

 バートが持つ「土着的な部分」です。パフォーマーという部分は基本的になくしたいんです。すごく簡単に言うと、映画っぽくしたいです。映画でバートを演じたディック・ヴァン・ダイクのように、「すとん」とそこにいて、子供たちに語りかけるように。でも急にぽんとステップを踏み出すような。そういうところを大事にしたいかなと思っています。

小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳
小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

■バートは、親身になって話をしてくれる信頼できる男性。「寄り添う」ことを意識

 ――濱田さんも笹本さんも、大貫さんと小野田さんのバートは、全然違うとおっしゃっていました。

 違いますね。

 ――濱田さんがおっしゃっていたことで印象的だったのが、どちらもバートですが、大貫さんは明るく子供たちに「大丈夫だよ」というテイストで接しており、小野田さんは子供たちに「大変だよな」と寄り添うところが全然違うとおっしゃっていました。そういうところは意識されていますか?

「寄り添う」ということは非常に意識しています。イギリスのスタッフが言っていたのが、「バートには、大人でも子供でも、女性でも男性でも、誰でも対等に心に入り込めるというか、求心力がある。それは心の部分によるものなので、しゃべる時も絶対に上からしゃべったり馬鹿にしたりはしない。すごく親身になって話をしてくれる、信頼できる男性だ」と。

小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳
小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

■やったことのある人のようにやろうとすると、「表面的に完成している風」になる

ある意味、ショー的に飛び越えようと思えば、比較的簡単にできる作品であり、役でもあると思うんです。ダブルキャストで、濱田さんも笹本さんも、経験者と初出演という違いがあり、勇輔くんと僕も、僕はバート役としては初めてなので、やっぱりやっていた人やっていない人、役作りの違いは絶対にあると思うんですよ。

やったことのある人のようにやろうとすると、「何か大事なものを忘れて、完成しているようなもの」になってしまいます。やったことのない人が、完成形にたどり着こうとすると、「表面的に完成している風」になるんです。よくできている作品なので、表面的にやろうと思えばいくらでもできてしまうとも思うんです。だからショーアップされた部分だけにとらわれず、実はものすごく深く描かれている「子供たちの悩み」であったり、「家族への愛」だったりに寄り添う。

なぜ寄り添うかと言うと、まずバートが人間だから。そして、今回の『メリー・ポピンズ』の物語でメリーがバートを仲間として選んだのは、きっとバートがバンクス家のような境遇で育った男だからだと思うんですね。

お父さんとうまくいかなかったというか、本当はもっとお父さんと過ごしたかったみたいな、寂しい思いをした子供だったのかもしれません。その気持ちが分かるからこそ、彼は強引には引っ張らないけれど、寄り添って語りかけてあげるということができるんじゃないかな、ということを考えてやっています。 

小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳
小野田龍之介さん=撮影・岩村美佳

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“「メリーに魅了された男ふたり」、『メリー・ポピンズ』、小野田龍之介(上)” への 2 件のフィードバック

  1. りん より:

    小野田さんのインタビュー、観劇後に読ませていただきました。観劇して印象的だったのが、子供たちに寄り添うバートだなと感じたので、それがまさに役作りだったと知れてよかったです。ロバートソン・アイからのバートを演じる事で作品を色々な視点で見えていて素敵だと思いました。

  2. たま より:

    小野田龍之介さんの記事大変嬉しいです。他の記事にはなかった話が読めて嬉しいです。下も楽しみにしてます。

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