中川晃教インタビュー(上) 10年ぶりのスタジオ収録CD「decade」発売へ

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

ミュージカルでの活躍が目覚ましいシンガーソングライターの中川晃教さん。2001年にデビューし、翌年ミュージカル「モーツァルト!」で初舞台。以来、他に変えられない存在として、第一線で活躍を続けてきた。デビューから15年を迎える2016年、10年ぶりのスタジオ収録CD「decade」が、3月9日にビクターエンターテインメントから発売される。さらには、4〜5月のミュージカル「グランドホテル」、7月のミュージカル「ジャージーボーイズ」と、大作の主演作品が続く。CD発売や「グランドホテル」を中心に、中川さんにロングインタビューした。上・中・下と、3回に渡ってお届けする。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

10年間で書き溜めたオンリジナル楽曲たちが収録されたCD「decade」。『decade』は『10年間』という意味だ。

――完成したCDを手にしてどんな思いがしましたか?

本当に嬉しかったですし、ものすごく感慨深かったです。どんな現場も、どんな仕事も、ひとりではできないことですが、舞台の幕が開いて降りたときの達成感と、自分の音楽のアルバムが完成した達成感の違いを感じました。もしかしたら、日常が続くなかで、アルバムができあがったときの感慨深い感動を、もう二度と経験することはなかったかもしれません。でも、自分がやってきたことが積み重ねとなって味わえる感動があり、しかも自分の大好きな音楽、やっぱり自分のホームだと思っている音楽でアルバムが完成できたというのは、すごく幸せだなと思いました。

それと同時に、なぜ10年間スタジオ版を発売してこなかったかについて話すと、最初の頃は焦りもありましたが、「中川でやりたい」と言ってくれるディレクターに出会えるまでは、焦らずに待とうと思っていたんです。今回完成したCDには、ライブをやって積み重ねてきた10年間の楽曲が選曲されていて、待って良かったと思っています。「やりましょう」と言ってくれたビクターのディレクター大槻さんに出会えたこと、みんなの力を借りてできあがったんだという気持ちも込めて、感動し、幸せだと思いました。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――デビューから5年の間に作ってきたアルバムとは違う思いがありますか?

違いますね…うまく言えないのですが、絵空事でもなく、夢見心地でもなく、現実を直視しているんですが、18歳でデビューしていた頃にまわりの大人たちと一緒に作ってきたアルバムと、33歳になった今、自分の決断と自分の力で生きてきて、生みだすアルバムとでは、噛み締めたときにあふれてくる旨味の味の濃さが違うんだなとすごく感じました。まだまだ『中川晃教』という存在を知らない人達も当然たくさんいて、知ってもらうことは大切なことだから、絶えずやりつづけていかないといけないと思っています。どこかで『名刺』がわりに、「私はこういう人間ですよ」ということを示すアルバムが、スタジオ版として、しかもビクターというレーベルから出せるという意味をもった『名刺』がもてることは、必要なことだと思っていました。15周年というタイミングも含めて、今しかなかったのかなと思うと、運命的なものを感じています。

――若い頃に出したアルバムは、もっととがっていたでしょうし……

とがってましたね(笑)。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――大人のいうことに逆らうというか、自分はこうだということを言わなければいけないことにも全力でしたでしょうし、今はそれをいちど飲み込める余裕ができたのではないですか?

本当にそのとおりです。だから、今回できあがった音源をずっと聞いていると、すごく聞きやすいんですよ。いい意味で、 中川晃教の個性、一曲一曲に物語があることが個性だと思うんですが、その個性が連なっていて、バラエティにもちゃんととんでいるんだけれど、全体を通して聞きやすいものになったかなぁというのは、すごく感じていて、それもある部分委ねられたところから生まれてきたものが大きかったです。

――私も聞かせて頂きましたが、『上質な大人のアルバム』だと感じました。ファンの皆さんも大人の方が多いと思いますし、若い方にも聞いてほしいですが、まず今いるファンの皆さんがきっと喜ばれるのではないかと思いました。

特にどんなところがそう感じますか?

――頑張らなくても聞けると思ったんです。もちろん聞き入ったら入り込んでしまうのですが、聞き入らずにも聞ける余裕があるアルバムだと思いました。エネルギーはあるけれど、棘が目立たない感じが良かったんです。

そこが若い頃とは違うところかもしれないですね。すごくこだわりましたし、ボーカルの質感も一曲ごとにマイクを変えたりして、ボーカルも楽器の一部という考え方で、アンサンブルとして捉えたときに、歌だけが突出するのではなくて、楽曲に合った声と表現を、一番ベストな状態で録ってくれるマイクを選んでもらいました。ボーカルのレコーディングの部分にかなり力を貸してくれたエンジニアでプロデューサーの方がいるんですが、その力を借りたことで僕自身見えたこともたくさんありました。若いときだったら、もうちょっととんがっていたけれども、いろんな人達の意見を元に、柔軟に、素直に、受け止めてできました。みんなで作ったアルバムですね。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

<作品情報>
「decade」
・中川晃教10年ぶりのスタジオRecオリジナルフルアルバム
・今年、初夏に、初めて日本人キャストで上演される人気ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の中でも歌唱する“君の瞳に恋してる”(Can’t Take My Eyes Off You)をボーナス・トラックで収録
・初回盤特典DVDにはレコーディングの密着ドキュメント映像等計30分収録
◆2016.03.09発売 CD+DVD / VIZL-936 ¥4,500+税 Victor
◆2016.03.09発売 アルバム / VICL-64523 ¥3,000+税 Victor

<関連サイト>
⇒ビクターエンターテインメントの中川晃教さんのページ(試聴可能)
⇒中川晃教オフィシャルサイト
⇒ミュージカル『グランドホテル』
⇒シアタークリエ『ジャージー・ボーイズ』

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■ようやく日の目を浴びるときがきた『I have nothing』 
■喪った、別れた人たちとの時間があったからこそ今の自分がある
■あのライブの、あの空気、あの照明、あの流れのなかのあの曲

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■ようやく日の目を浴びるときがきた『I have nothing』 

――私が中川さんにお会いしてから7年目なんですが、CDを聞きながら、この曲はあのライブではじめて披露していたなとか思い出したんです。一番古い曲はどれだろうか……とか。

実は、一番古い曲は『I have nothing』で、中学生のときに作った曲です。デビュー当時からずっと選曲リストに入っていたんですが、当時のメーカーの方もプロデューサーも、この曲をずっと選ばなくて。この曲の歌詞は女性の気持ちで歌っていて、すごくディープな内容なんですが、今の自分の経験と、伴った声と、表現で、ようやく日の目を浴びるときがきたのかなと。一番長く待った子ですね。

――20年近く待った曲なんですね。コンサートごとに新しい曲を作りましたと歌って、ファンの皆さんが聞き入っていて……というのを思い出したんですよ。あの劇場で、こんな場面だったなとか。おそらくファンの皆さんも、それぞれに思い出があったりするんだろうなと。多くのアーティストは、CDを発売してからCDを引っさげてツアーに回りますよね。それが逆なので、ファンの方がそれぞれに思い出を持っている曲が集まったCDなんじゃないかと思いました。

なるほど!  ファンの人達が思い出を持っている曲!

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――個人的に一番覚えている曲は『春』です。2012年、上野の文化会館で、ポピュラーウィークでしたね。桜色のライトで空間を作っていて、すごく美しくて。

そうでしたね。震災の次の年に書いた曲ですね。

――『春』を他のライブで歌っているのをあまり聞いた記憶がないのですが、すごく印象に残っていて、『Miracle of love』とはまた違うけれど、心にぽつんぽつんと入ってくる曲だなと思います。どんな思いで『春』をアルバムの最後に入れたのかお聞きしたいのですが。

僕もこの曲が大好きなんですよ。

――私も大好きな曲です。

■喪った、別れた人たちとの時間があったからこそ今の自分がある

ありがとうございます。この曲は亡くなった人のことを歌っている曲なんです。震災直後に書いたのは『そして、僕は魚になる』なんですが、もちろん震災もありましたし、そういう思いが、この歌を書かせました。生きていれば誰でも別れはありますが、僕は高校のときに喪った親友がいて。でも、なかなか別れを直視する余裕が持てないんですよね。ふとした瞬間に蜃気楼のように遠くに浮かび上がってくる、自分が別れてきた人たち。劇的に悲しんだ別れもあるけれど、癒えないと思っていた別れも、時がたてばだんだんに癒えていくと、時間とともにわかってきた。ふと、喪った、別れた人たちとの時間があったからこそ今の自分があるんだと思い、「ありがとう」という気持ちが持てたときに、この曲ができました。実は、この曲の歌入れをしているときに、祖母が亡くなったんです。

――そうだったんですか……。一緒に暮らしていたおばあさまですか?

2年半一緒に住んでいたんですよね。その日、「行ってくるね〜」といつもどおり出かけたんです。お医者さんには余命を言われていたんですが、元気で、ぜんぜん大丈夫だって。そうしたら父から電話があったので、嫌な予感がして掛け直すと、祖母にかける電話をかけ間違えたって。「なんだ!」と思って『春』の歌入れに行ったんです。そうしたら、ふと祖母を思ったんですよね。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

『春』は、亡くなった方のことを歌っている曲ですが、自分にとって大切な、かけがえのない人への思いも詰まっているんです。今が充実して余裕があるからこそ、背けたく、忘れたくなるような瞬間や一時期を、過去を振り返って、消化できる時ってあると思うんです。すぐに消化しなくても、時がきたときに、そのことと向き合ったときに、消化できる自分になったときに消化すればいいじゃないかと思う。今が充実していると今年に入って毎日感じていて、それは祖母のおかげだったり、みんなのおかげだったりするんです。ぱっと『春』を思ったときに、思い浮かんだのがたまたま祖母だったんですね。亡くなることを全く考えずに歌っていたんですが、祖母のことを思いながら歌えるなと思った。

ボーカルのテイクを録り終わって聞いているときに、スタッフがスタジオから出ていったのを見て、何か嫌だなと思って出たら、祖母が亡くなったと連絡が入っていたんです。ちょうど歌っていた時間だったんだなと。楽しみにしてくれていたし、このアルバムを聞かせたかったなとか、いろんな思いもたくさんありますね。歌入れをしていたときは曲順がまだ決まっていなかったんですが、並べていったら、やっぱりこの曲がラストになりましたね。『Miracle of love』からはじまって、『春』で終わるというのは、自分のなかで、そういうふうになるように作られてきたんだなと思います。

――そうだったんですね。

■あのライブの、あの空気、あの照明、あの流れのなかのあの曲

語りはじめると、一曲一曲思いがあるんですが、『春』について聞いてくださったので、お話できました。さっき話してくださったとおり、ファンの方は「あのライブの、あの空気、あの照明、あの流れのなかのあの曲」と思い入れがあると思うんですよね。だから、ファンのみんなと一緒に歩んで育てた楽曲という意味では、アレンジはライブでほとんどできているからこそ、壊してしまうと、ファンのみんなにはちょっと寂しいんじゃないなと。だから、心地としてはライブのアレンジが生きていて、でも重たくなりすぎず、とんがり過ぎずにというふうにしました。アレンジは旭純さん、島健さんと作ったのですが、すごくいい形でおさまったなと思っています。

――とても強力なおふたりですね。

「ジャージーボーイズ」の音楽監督は島さんで、本番は旭さんが弾いてくれることになったんですよ。旭さんは島さんのアシスタントをされていた時があるそうです。旭さんとはポピュラーウィークがはじめてでしたが、それも縁が繋がったんですね。ポピュラーウィークは僕にとっても大きいコンサートでしたね。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

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