※編集部注:この記事は2017年2月8日に有料会員限定で掲載したものですが、ミュージカル『フランケンシュタイン』が2020年1月8日から2月24日まで東京・愛知・大阪で上演されることもあり、その参考にしていただけるように、2019年8月9日に全文を無料公開しました(本文の内容は2017年2月8日時点のものです)。
ミュージカル『フランケンシュタイン』が上演中です(東京公演、大阪公演終了。福岡公演2/10〜12、愛知公演2/17〜18)。ビクター・フランケンシュタイン&ジャック役の中川晃教さんと柿澤勇人さん、アンリ・デュプレ&怪物役の加藤和樹さんと小西遼生さん、それぞれダブルキャストのため、4種類の組み合わせがあります。その4組がどんな風に違うのか、日生劇場に通い、観て来ましたのでレポートさせて頂きます。さらに、私がなぜこの作品に深くハマったのか、その考察も書いています。
大型ミュージカルにダブルキャストはつきもので、観る側としてどうしても比べてしまうもの。観客それぞれ好みもありますし、「どちらが好き」というのはどうしても生まれるのが常だと思います。私個人も、ほとんどの作品でより好きな方は生まれます。でも、今回は4組どの組み合わせとも素晴らしいと思いました。技術的なことや、声の好みなどはあるかと思いますが、4人の役作りと個性がそれぞれに違っていたことなど、魅力がそれぞれで、見る度にゾクゾクしました。
加えて男同士の物語であることが、4組とも素晴らしいと思ってしまう要因のひとつではないかと思います。通常ダブルキャストが組まれるミュージカルでは男女の恋愛が主軸に描かれることが多いですが、そのほとんどが恋愛において最終的に「結ばれる」「別れる」という選択肢になります。これが男と男の場合、友情、敵対、上下、場合によっては恋愛など、さまざまな繋がりでさまざまな度合いの感情が生まれるのではないでしょうか。そういう意味でも、組み合わせによって色々な化学反応が起きるのではないかと。例えば「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンとジャベールも男同士ですね。
『フランケンシュタイン』においては、ふたりが出会い、友情、尊敬、死別、生き返り、敵対、復讐、そして死別。ジェットコースターのような物語展開の中、男と男の間で起こりうる、ありとあらゆる関係が詰めこまれています。3時間弱でこのジェットコースターを成り立たせるのだから、「ええ!?」というような展開もありますが、その間を埋めていくのが巧みな芝居と魅力的な音楽の数々。4人に加え、音月桂さん、鈴木壮麻さん、相島一之さん、濱田めぐみさんら、実力派の皆さんのパフォーマンスに圧倒されました。
東京公演の初日が開いてから千秋楽を迎える頃まで、何度も見に通いましたが、舞台は生もの。皆さんどんどん変化されていました。おそらく今も変化しているだろうと思います。同じ組み合わせでも観る回によって変化もありました。1度しか見ていない組み合わせも、2回見た組み合わせもあるので、同じ条件ではないですが私が感じた違いなどについて触れてみたいと思います。
■超天才の中川ビクターと、のめり込み型の柿澤ビクター
まず、4人それぞれの印象について。中川さんは、超天才ビクター。自分に完全なる自信があり、彼の生きるテーマともいえる生命創造への執着心をより強く感じます。唯一無二の超絶な歌声が、超天才であることを観客に納得させ、有無を言わせない迫力が印象的です。一方でビクターが抱える孤独や、愛情を求める思いを、心の奥底に意識的に押さえているように見える姿が痛々しく、ビクターの本当の心を知りたいと感じさせました。柿澤さんは、真っすぐに突き進むのめり込み型のビクター。生命創造への思いも、アンリへの思いも一生懸命で、常に足りないものを欲しているように見えました。
■極端に違うと感じたのは、ジュリアとの関係
中川さんと柿澤さんで極端に違うと感じるのは婚約者・ジュリア(音月)との関係。中川さんは、ジュリアを愛することへのためらいを感じますが、柿澤さんは愛していることがストレートに伝わってきます。物語冒頭からラストまで、ストレートプレイのような細かい芝居をするのが「ミュージカルは芝居」という柿澤さんならではのビクターだと思いました。
■哀愁と優しさの加藤アンリ、理性的で正義感が強い小西アンリ
加藤さんは、哀愁と優しさがにじみ出るアンリ。アンリが歌う「君の夢の中で」の歌詞に「夢見る君の瞳に僕は恋をした」とありますが、やっと出会えた恋する人・ビクターに素直に愛情を注いでいるように感じました。そして、こういう加藤さんが見てみたかったと思ったのが怪物。押さえきれない熱情とともに、怪物として生まれた苦しさを痛いほど感じました。つねにどこか寂し気なところが気になってしまいます。
小西さんは、理性的で、正義感が強いアンリ。あまり感情を表に出さないけれど、心の奥深くには激しい友情や愛情、悲哀を秘めているように感じました。だからこそ、その秘めた感情が垣間見えたときに、強く揺さぶられます。怪物も、ビクターへの復讐心を奥底で煮えたぎらせながらも、どこかクールな印象でした。
■一番対照的なペアは、「中川&小西」と「柿澤&加藤」
この4人の化学変化によって、4組に質感の違いを感じました。一番対照的だと思ったのは、「中川&小西」ペアと「柿澤&加藤」ペアです。
実は「中川&小西」ペアは、一番最後に観劇しました。作品についても、個々についてもある程度理解した状態でのぞんだにも関わらず、かなりの衝撃を受けました。男同士の友情と戦いの物語という言葉がぴったりで、一番男っぽい組み合わせ。特にふたりが対決する後半は、ふたりの中で燃えたぎるマグマのような感情が恐ろしく、と同時に互いをリスペクトする空気を感じました。
このふたりと対照的だったのが「柿澤&加藤」ペア。私は初日開けに一番最初に見た組み合わせです。気づけば物語序盤からボロボロと涙がこぼれていました。ひたすら孤独を背負って生きてきたふたりが出会うべくして出会い、互いの半身を見つけた、運命のふたりに見えたのです。アンリが死刑になってしまう悲劇の場面から、すべては崩壊に向けてカラカラと音を立てて崩れていくような感覚でした。怪物となって対峙してからも悲しさが溢れていて、見ていて辛くなるふたりでした。
■「中川&加藤」「柿澤&小西」は、「中川&小西」「柿澤&加藤」の間に
「中川&加藤」ペアと「柿澤&小西」ペアは元々メインビジュアルになっていた組み合わせです。歌で魅せる「中川&加藤」ペアと、芝居で魅せる「柿澤&小西」ペアになるのだろうと予想していましたが、加えてそれぞれの役づくりから化学反応が起き、組み合わせならではの質感の違いが興味深かったです。上記で述べた「中川&小西」ペアと「柿澤&加藤」ペアの間に位置している2組という印象です。
「中川&加藤」ペアは、突っ走っていくビクターに付いて行きながら、後ろから優しく支えるアンリという印象でした。その分、怪物になったときに、その関係が逆転していくさまが面白く、ふたりならではの見どころでした。技術的には、やはりふたりの歌を堪能できるという魅力もありました。
「柿澤&小西」ペアは、やんちゃで子供のようなビクターを、大きな心で見守るアンリというふたり。後半は、大きな敵となった怪物と必死に戦うビクターが目を覆いたくなるくらいに痛々しいのです。ふたりの緻密な芝居の組み立てが絡み合い、表情ひとつ、動きひとつの細部まで見落としたくないと思いました。
■誰もが独りで生まれ、独りで死んでゆく。だからこそ…
そして、もうひとつの感動ポイント「姉と弟」について触れたいと思います。この作品を見て、濱田さんが演じる、ビクターの姉・エレンが歌う場面で涙する観客が多かったと思います。私も観劇の度にこみ上げるものがある場面でした。エレンは両親を早くに亡くしたビクターの母親的役割を背負っている役です。濱田さんの歌の力が大きな要因であることを差し引いても、なぜこの場面が観客の心を動かすのかを考えてみました。
私自身がふたり姉弟であることから、実体験を通して感じていることですが、きょうだい関係において、姉弟関係は成長と共に関係性が変化します。子供の頃は、小さい弟が可愛くて守りたいと思い、弟も年上の姉を慕い頼ってくれます。ところが、成長していくと、この関係が一見逆転していきます。小さかった弟は、姉よりも体が大きくなり、自分の方が強くなっていく。でも、精神的には逆転していないので、姉はいつまでもやはり弟だと思っている。一方、弟はもう対等ぐらいには思っているんじゃないでしょうか。
これが、兄弟、姉妹、兄妹関係と比べて異なる関係性であるところで、親と子の関係に一番似ているのではないかと思うのです。エレンが弟を思う姿が母親のようであったり、成長したビクターがエレンを遠ざけていたり、ビクターが自分のせいで死んでしまったエレンを求めていたり、さまざまな場面でふたりの関係性が変わってるところに年月を感じ、心が動かされました。
メインキャストが対照的な2役を演じていることが、人間の多面的な素質を暗に示していること、キャスト全員が魂を削って役たちの生き様を見せてくれたこと、さらに何度も聞きたくなる魅力的な音楽など、作品に引き込まれた要因は多々あります。そのなかでも私がこの作品に引きずり込まれるようにハマったのは、「人間の孤独」を強く感じたからです。
孤独を背負い生きる人々が、使命や、愛情、友情を求めもがくけれど、結局は孤独から逃れられなかった。こう書くと、救いのない物語ですが、そこには私たち人間が逃れられない事実があります。誰もが独りで生まれて、独りで死んでゆく。本当の自分をわかってもらえない。孤独という感情は一生付いて回るものです。その事実を恐いと感じたり、認めたくない感情があるから、この作品を見ているとエグられるのではないでしょうか。
さらに、そのエグられた感情に向き合うことで、自覚のないままに心に溜まっていたさざまな膿を吐き出すことが出来た。だから見て疲れるけれど、カタルシスを得ることが出来る。私が何度も足を運んで、自分なりに出した答えです。「フランケンシュタイン」のような悲しい結末を迎えないためにも、日々後悔のないように生きようという戒めにもなりました。
この作品は、周囲の反応を聞くと、賛否まっぷたつの声があがることも面白いと思いました。ご覧になった皆さんはどのような感想を抱かれたでしょうか? ぜひコメント欄で、ご意見を伺えたら嬉しいです。
<ミュージカル『フランケンシュタイン』>(2017年)
【東京公演】2017/1/8 ~2017/1/29 日生劇場(この公演は終了しています)
【大阪公演】2017/2/2 ~ 2017/2/5 梅田芸術劇場メインホール(この公演は終了しています)
【福岡公演】2017/2/10 ~ 2017/2/12 キャナルシティ劇場(この公演は終了しています)
【愛知公演】2017/2/17 ~ 2017/2/18 愛知県芸術劇場大ホール(この公演は終了しています)
<ミュージカル『フランケンシュタイン』>(2020年)
【東京公演】2020年1月8日(水)~1月30日(木) 日生劇場
【愛知公演】2020年2月14日(金)~2月16日(日) 愛知県芸術劇場大ホール
【大阪公演】2020年2月20日(木)~2月24日(月) 梅田芸術劇場メインホール
<関連サイト>(2020年)
日生劇場『フランケンシュタイン』
https://www.tohostage.com/frankenstein/
フランケンシュタイン(ホリプロステージ)
https://horipro-stage.jp/stage/frankenstein2020/
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※こちらは、ミュージカル『フランケンシュタイン』の「偉大なる生命創造の歴史が始まる」が含まれた「中川晃教デビュー15周年記念プレミアム・コンサートwith東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団」CDです(試聴あり)。
以前から注目作という事もあって4組全て観れた人はほんの一部ではないでしょうか?自分もそのうちの1人でその点で4組のこうした考察を読むことは改めて自分が観てきたものとすり合わせすると同時に初めて触れる部分がありとても感慨深かったです。
個人的には久々に胸にグッとくる作品でした。すばらしい作品は次々と発信されていますがやはり上演されるタイミング、役者さんたちキャスティングの妙、筆者さんが言われてる化学変化など程良いバランスだったと思います。
記事を読んで観れなかった組み合わせも是非観たいしこの公演を経てまた成長した演者さんを観てみたい(再演希望)と思いました。
4パターン観ましたが、なかなか言葉に落とし込めませんでした。
記事を読ませて頂いて、そうそう、そうなのよーと思う部分もあり、他の人はこう取るのか?と眼から鱗だったりしました。
自分の記憶を整理するのに、とても参考になりました。ありがとうございます。
Wキャストの2人の役者さんそれぞれ味わいがあって、相乗効果でますます味わいが深くなります。
残り2公演観ますが、二人の役者さんが作り出す世界に、また一段とのめり込みそうです。
拝読しながらなるほどと何度も頷きました。4組全てとても個性的だからどれもそれぞれの面白さがあって!
私はメインビジュアルである中川さん加藤さん、柿澤さん小西さんの組み合わせが一番心揺さぶられ毎回涙するので大好きなのですが、中川さん小西さんの熱い友情を感じさせる組み合わせも、まさに悲劇の物語である柿澤さん加藤さんの組み合わせも同じくらい好きです!
4組の比較はとても読んでいて面白いです。今後の観劇の参考にさせていただきます!
岩村さんの記事を読んで「ああそうだ」と思わず言いたくなるひとつの答えのようなものが見つかったような気がしました。
小西さんのファンなので回数にどうしても差が出てしまうんですが、先日やっと加藤さんverを観ることができてこんなにも印象が違うんだなと。
岩村さんが書かれているように小西さん加藤さんの違い、そしてそこに中川さん柿澤さんとの組合せでの違い、本当に面白いです。
大阪公演まで観て、中川さんと小西さんのペアが1番好きだと自覚してて…男っぽさに惹かれたのかもしれません(笑)
今回も読みごたえのある記事をありがとうございました。福岡名古屋とまた違った感覚で観ることができそうです。
これからも楽しみにしています。