2016年2月22日に掲載したアイデアニュースの記事では、株式会社ピーエーエス(PAS)さんが開発した、座る姿勢が改善できるクッション「p!nto」と、それを使用して毎日が快適になったあるご家族を紹介しました。→ 疲れていなかった頃の自分に戻れるクッション「p!nto」 ある家族の物語
今日は、PASの真骨頂ともいえる、その人その人にあった補装具のオーダーメードの第一歩、「採型・採寸」の様子をご紹介いたします。こちらにまた、もうひとつの家族の物語がありました。
玲乃愛(レノア)ちゃんは、生まれつきの障害のために、”重度障害児”というカテゴリーに入り、基本的には、今後歩いたり、話したりすることはないという認識で療育をされるお子さんです。でも、この写真の表情を見てもわかる通り、「障害」に対する新しい考え方とコミュニケーションの方法に出会って、この数年で目覚ましく心身が発達しています。お母さんの古池敦子さんは、レノアちゃんをこのカラフルなバギーに乗せて、いろんなところに出かけて行きます。レノアちゃんの可能性を信じている素敵なお母さんなのです。
普段は指談(指で〇や☓や数字やひらがなを書いて、想いを読み取ってもらう方法)でお話をするレノアちゃんですが、自分の気持ちを分かってもらえるようになってから、どんどん笑顔が出て、なんと言葉も出るようになりました。私が指談の練習をさせてもらうと、なぜかいつも単語がぽろっと、レノアちゃんの口からこぼれます。
ある時は
みどり:「レノアちゃん、指談の練習させてね、筆談の方がいいかな」
レノア:『ペン!』
みどり:「ええ~~、今、レノアちゃんがペンって言った!!!」
またある時は
みどり:「レノアちゃん、昨日の夢には食べるシーンが出てきたか、〇か✕で教えてね」
レノア:『うん!』
みどり:「ええ~~~、指談の練習にならないけど、すごい!!!」
こんなレノアちゃんの様子を見て、自分のお父さんの介護経験から、姿勢を改善する装具と、発語のためのリハビリが必要なのではないかと考えたのが前回ご登場のSさんです。Sさんも、レノアちゃんやレノアちゃんのお母さんの敦子さんと仲良し。さっそくp!ntoのことやそれを開発した株式会社PASさんのことを、敦子さんに知らせたというわけです。前にも書いたように、Sさんは、こうした情報を知らない人に、当事者として、また“知った者の責任”として、「こんな良いものがあるよ」「こんな方法があるよ」と発信していきたいと考えているからなのです。
「障害児」であるレノアちゃんの場合は、p!ntoのような一般向けの製品ではなく、レノアちゃんの体にあった補装具を福祉制度を使って購入することが出来ます。オーダーメードで、ひとりひとりの体にあった製品を作ってきた野村寿子さんが、レノアちゃんの骨、筋肉、関節などを確かめながら採型をするところを見学させていただきました。
体をきちんとホールドし、動きやすい補装具ができたら、バギーに乗って移動するときのずり落ちが軽減されたり、発語するための肺の動きが楽になったり、食べる時の姿勢が変わって咀嚼力があがったり、いろいろな効果が期待できるというので、この日は、関係者一同ドキドキワクワクして、集まったという次第です。
特殊な材料で出来た椅子型の装置を使ってレノアゃんの体に合った装具を作っていきます。この装置のある部屋に入ってきたレノアちゃん、いつも元気な女の子なのですが、あいにくこの日は調子が悪く、時々咳き込むことがありました。それもあってか緊張気味の様子です。
型を採る前、レノアちゃんは、いつものようにカラフルなバギーに座っていました。手は外に広げていて、体がずり落ちないようにベルトを閉めています。脚は左右不均等に開いていて、咳き込むと手や脚がバギーの外にはみ出たり、体幹が動いてバギーに座ったポジションがズレていきました。また、よだれがよく出るのも、いつものことでした。
作業療法士であり、PASのベテランセラピスト野村さんは、年間300件を超える採型をおこなっておられます。まずは、レノアちゃんの手に触れ、落ち着かせるように話しかけました。
それからは、野村さんを中心に3名の技師が、レノアちゃんの体の特徴をとらえ、重力の負担を最も減らす位置と姿勢を探っていく、PAS独自の特別な採型が始まりました。
野村さんはじめ、PASの技師さんたちは、「レノアちゃんなら、歩行器があったら歩けるでしょう」と当たり前のようにおっしゃいました。「体が素直で、体幹もきちんとしているし、歩けると思いますよ」と。
レノアちゃんは「寝たきり」が基本、移動の時だけバギーや車椅子が必要なので、そちらは安全第一。体がずり落ちないように、動きを制限するように作るのが当たり前。そんな“常識”を説く専門家が多い中、娘はきっと、もっと動けるし、いろんなことが出来ると信じていたお母さんの敦子さんの耳に、野村さんたちの言葉はどんなに嬉しかったでしょう。
採型中も、咳が出ていましたが、この特殊な採型用の椅子の上のレノアちゃんは、手足をばたつかせることも、よだれを出すこともなく、素直に自然に座っていました。作業が進むにつれ、楽な姿勢がとれているためか、咳自体がおさまってきたのです。
最終的には、こんな型が採れました。
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■補装具ができるまでの流れ
■今日レノアちゃんが乗ってきたバギーが、野村さんの魔法にかかりました
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■補装具ができるまでの流れ
障害者手帳を持っているレノアちゃんなので、「補装具費支給制度」を利用するための手続きが要ります。また今日の採型で作成した品が、体に合うかどうかの仮合わせがありますから、オーダーメードの装具が完成するまでにはまだ時間がかかります。
一般的に、身体障害者手帳を持っているかたなら、オーダーメードの補装具をPASさんに依頼して、製品を使用するまで次のような流れになっています。
(1)『相談』 使う人の身体機能に加えて、日常生活、使用環境、持ち運び頻度などを丁寧に確認し、その人に合った製品を提案していく。
(2)『補装具費支給制度への申請』 身体障害者手帳のある人、特定の難病指定のある人は、補装具費支給制度を申請することで、原則として1割負担となる。
(3)『採型・採寸』 今回、レノアちゃんが経験したのがこの段階。シーティングエンジニア、車椅子安全整備士などの資格をもったスタッフ3名で、採寸、採型をおこなう。
この後、(4)『製造』、(5)『適合(仮合わせ・納品)』、(6)『アフターフォロー』と続きます。
■今日レノアちゃんが乗ってきたバギーが、野村さんの魔法にかかりました
オーダーメードですから、製品が完成するまでしばらくは、今までのバギーや椅子を使う必要があります。採型が終わると、野村さんが、レノアちゃんのバギーをもっと座りやすいように「改造」しはじめました。レノアちゃんの体にふれて確かめたからと、一番利用頻度の高いレノアちゃんのバギーを、あっという間にさっき採型したような形に近づけていきました。少しでも毎日を快適に過ごして欲しいという気持ちと、高い技術を目の当たりにして、本当に驚き、感動しました。そして、レノアちゃんはこれからどんどん良い方向に進むと確信しました。
既製のクッションの位置を変えたり、ちょっと背もたれの形を採型用の椅子みたいに形付けていく野村さん。体がすっぽり支えられると、レノアちゃんの脚はまっすぐになり、背中は伸びて、なによりも手が、お行儀よく膝の上に置かれて落ち着いています。いくら咳をしても、この体勢はくずれませんでした。そして一番私が驚いたのは、よだれがピタッと止まったことでした。
技術と経験がある野村さんだから出来る、魔法のような手技。今のバギーのままで、これだけ変化するのだから、オーダーメードの品が手に入ったら、レノアちゃんはどんなに楽に、快適に過ごせることでしょう。きっと立ったり歩いたりすることも、遠くない未来に現実になると思いますし、おしゃべりももっと出来るようになりますね。
株式会社PASのホームページに、この採型のことに関して詳しく載っていますので、こちらをご覧ください→ http://www.pas21.com/technology/
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