百名ヒロキさん、山野靖博さんの対談後半です。2019年7月16日から21日にblackAで上演された『お月さまへようこそ』(ジョン・パトリック・シャンリィ作)で伝えたかったこと、なぜこの作品が好きなのか、作品のテーマでもある“孤独”について、など伺っています。
こちらは、『お月さまへようこそ』公演より、第3編「喜びの孤独な衝動」と第4編「お月さまへようこそ」の一部の動画です。
――作品の内容にも触れていきたいと思いますが、おそらく観た人たちは言葉にしづらい作品なので、twitterなどにもあまりすぐには感想が出てこないのかなと思ったりするんですが、その分自由というか。今まさに観劇直後のインタビューをさせて頂いているので、私の感想をお伝えしておくと……。
百名&山野:ぜひぜひ!
――人と人との関わりとか、私たちが普段感じていることがすごく凝縮されていて、どこにでもハマるだろうなと思いました。私は“人は孤独である”と思っていて、特に演劇に関わろうとする人はそういうことを考えている人が多いと思うんですよね。4作品を通じて、人は孤独に生きているからこそ、人との関わり合いを求めたりするんじゃないかと思っている、自分の日頃の感覚がシンプルに合致したところが好きでしたし、その戯曲のテーマがぎゅっとしている芝居だなと思いました。
百名&山野:なるほど。ありがとうございます。
――どうとることもできる作品だからこそ、難しさもあるのだと思いますが、おふたりはこの作品どこに一番魅力を感じていたり、注力したりしていますか? 例えば自由に感じてくれたら嬉しいけれど、特にここを感じてほしいとか。
百名:本当にいろんな受け取り方ありますし、自分も好きだからこそ、なぜこれが表現できないんだという悔しさがずっとあるんです。この作品の作者のシャンリィさんの、「綺麗なのに孤独」という、絶望名人みたいな(笑)。
(一同笑)
百名:絶望しているのに誰もが複雑、ある意味人間の真理というか。シンプルに絶望して、シンプルに夢見て、それって簡単なようですごく難しいことだなと、この作品から学ばせて頂きました。だからこそ関われて良かったなと思いました。
――4つの物語のなかで一番好きな作品はありますか?
百名:「どん底」が好きなんです。なぜかはわからないですが、観ていていい作品だな、自分だったらこう受け取るな、みんなはどう受け取っているんだろうかと。本当だったら、あんなに簡単に、また(次に)向かうとは、オオカミなんて怖くないとは言えないですが、ずっと夢の中というか……。難しいけれど好きです。
山野:なるほどね。僕はこの作品に出会ったのは5~6年前なんですが、その時に一番好きだと思ったのは「どん底」でした。改めて今回上演することになって読み直したときには、「星降る夜に出掛けよう」の女のセリフにすごくシンパシーを感じました。
――わかります!
山野:やっぱり! 良かったです!
(一同笑)
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、『お月さまへようこそ』で伝えたかったこと、なぜこの作品が好きなのか、作品のテーマでもある“孤独”について、などなどインタビュー後半の全文と写真を掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出し>
■山野:「孤独なんだよ」と言った、ここに漂う何かみたいなもののほうがより雄弁
■山野:悩んだりすることって、言語化できないもののほうが多いんじゃないか
■百名:こういう作品が刺さってほしい、だからこそ演じる側もちゃんとやらなければ
■百名:関わることができて幸せ 山野:上演できたことがとても嬉しい
<『お月さまへようこそ』>
【東京公演】2019年7月16日(火)~7月21日(日) black A
東京都墨田区千歳1-3-4 1F (この公演は終了しています)
公演情報
https://stage.corich.jp/stage/99854
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※ここから有料会員限定部分です。
■山野:「孤独なんだよ」と言った、ここに漂う何かみたいなもののほうがより雄弁
山野:翻訳をしていらっしゃる鈴木小百合さんが、稽古を観てくださって、「これを翻訳したのは30年も前の話だけれど、こうやって今みなさんに上演して頂いて嬉しく思います」と言ってくださったんです。30年って結構な時間じゃないですか。でも、その結構な時間を経ても、特に今ジェンダー観というのがどんどん変わっているにも関わらず、“女”という役が語る言葉が、現代の僕たちに、女性男性を問わず、ちゃんと刺さるというのは、本当にすごいなと。
百名:わかります!
山野:でも、シャンリィさんが1982年に書かれたからこの着地点なんだというのも理解できるし、この作品が書かれた頃にはこの地球上に生まれていなかった僕たちが読んでもシンパシーを感じられるというのは、すごいことだなと思います。
百名:なかなかないことですよね。
――いつの時代も人間の根本は変わらないということじゃないですか?
山野:そうですね。だから孤独ということなんでしょうね。すごくわかりやすく抽出すると、この作品の核にあるのは“孤独”というテーマだと思うんですが、単に“孤独”ということを手を変え品を変え見せていくのではなく、それに共感しあうだけでは終わりたくないところはちょっとあって。世間でいうところの“孤独”ってわかりやすいじゃないですか。でも、本当に持っている私たちの孤独って、そんなにわかりやすいものじゃないと思うんですよ。確かに孤独という言葉で表すこともできるし、孤独を抱えて生きているってすごく共感しあえる。でも、その「孤独なんだよ」と言葉にしたことによって表されるものよりも、「孤独なんだよ」と言った、ここに漂う何かみたいなもののほうがより雄弁だなと思っていて。もちろん僕らはそれを孤独という言葉に置き換えるんですが。この作品は孤独が核になっているけれど、その孤独というものをただ伝えたいのではなくて、ちょっと意地悪な言い方をすれば、パッとわからなくしたいなというところがあるんです。
■山野:悩んだりすることって、言語化できないもののほうが多いんじゃないか
――わかりにくいほうがいい?
山野:そうではないんですが、何て言ったらいいんだろう。
百名:わかりやすくすると何かそうではないような……。
山野:こぼれ落ちてしまうものはあるなと思っていて。僕たちが生きているなかで、悩んだりすることって、言語化できないもののほうが多いんじゃないかなと思うんです。その言語化できないこぼれ落ちていくものをそぎ落としていって、わかりやすいポイントを提示していくと、わかりやすい作品になっていくと思うんですが、あえてその作業をしなくてもいいかなと。それは中原の演劇の作り方のスタンスでもあるんですが、僕はそれにとても共感するんです。せっかく自分たちで制約なくできて、百名くんのおかげでたくさんのお客様にも来ていただけて、制作の予算も苦しくなく、好きなことができているので。
百名:いえいえ。でも、コーラを買えちゃいましたね。
山野:普通だったら空の瓶だからね。自由にできる分、他ではチャレンジできないけれど、本当はチャレンジしたいことを、詰め込めたらいいなと思っています。
■百名:こういう作品が刺さってほしい、だからこそ演じる側もちゃんとやらなければ
――百名さんは、孤独についてなど、山野さんのお話を受けていかがですか?
百名:僕は、孤独は誰にもわからないと思っているので。わかってほしくもないはずなのに、なぜかみんな寂しいから共有したがるというか。SNSをみていても気持ち悪いなと思うこととか…。でも自分も結局そうだし。SNSで広がるごとに、もっといびつになってきている世界ですが、こういう作品が刺さってほしいなと思います。もしこれが刺さらなくなるとしたら嫌だなと。もっと受け継がれていい作品だと思います。だからこそ演じる側もちゃんとやらなければいけないなと思います。
――本当に大事なことほど簡単には書きたくないこともありますよね。
百名&山野:そうですよね。
百名:そういう葛藤ありますよね。シェアしたい気持ちもありますし。
山野:それはすごく大事ですよね。
――特に自分で発信する仕事をしている方々は、みんなその葛藤はあるだろうなと思います。
山野:昨日初日が開けて、みんなと話していたんですが、幸か不幸かSNSが口コミとしての影響力を持っていて、もちろん企業の論理で動く商業作品は、収益化していかなければ回らないので、口コミの力はすごく大事なものじゃないですか。その考え方でいくと、どれだけたくさんのリアクションがあって、そのリアクションによって新しいお客様が来るようになる、という循環をひとつの成功の指標とすることって、とっても大事なことだと思うんですよ。SNSで反射的に話題にすることができるようなものが話題の中心に上がってくる傾向はあると思うんですね。でも、この作品が開いて初日で50人観ているはずなのに、ほとんど感想が上がってこなくて。なかには「どう表現したらいいかわからない」と率直に書いてくださっている方もいて、それを「嬉しいな」と思ったんです。簡単に「面白かった」ではすまないものって世の中にありますし、それが芸術とか文化というものの持っている懐の深さだと。例えば百名くんの絵も、すごく魅力的じゃないですか。でもあの魅力を感想として呟こうと思ったら、僕は立ち尽くすなと思って。結局、呟こうと思ったら立ち尽くしてしまうとしたら、その思いは表層に出てこないということ。人々の心のなかだけで留まっていく。こういう思いが可視化されないまま、ないものにされて、表層に出てきたものだけが「在るもの」とされて、成功か失敗かを判断されるようになると、どんどん文化がおかしくなっていくなという思いがあります。
■百名:関わることができて幸せ 山野:上演できたことがとても嬉しい
――最後に言い残しておきたいことはありますか?
百名:この作品に関わることができて、新しく吸収したものがたくさんあります。演劇に対しての心構えも変わりましたし、こういうことをしていいんだという発見もありました。関わることができて幸せです。それこそ(この思いは)誰にもわからないことですが、でも頑張ってやっていくので。ただ、“この作品が受け継がれていきますように”と祈ります。今回出演できたことに感謝しています。
山野:そう言ってもらえて嬉しいです。僕はこの作品が大好きなので、上演できたことがとても嬉しいです。これが上演できたのも、出てほしいと声をかけたら出演してくれたキャスト、演出してくれた中原、そしていろいろな方が手助けしてくれたからです。そして、観にきてくださった皆様のおかげです。本当にありがたいと思っています。
――山野さんは作品を作る側にも長けていそうですよね。
山野:ありがとうございます。興味はあります。でも、まずは僕自身、俳優としての技術とスキルと、経歴も含めてみなさんにちゃんと知っていただけるように、「山野いいね」と言ってくださる方がひとりでも多くなるようにしていかないと、自分が何をやっても意味がないなと思っているので、僕は俳優としてがんばろうと思っています。
――今日はお疲れのところ、ありがとうございました。
百名&山野:こちらこそありがとうございました!
※百名ヒロキさんと山野靖博さんのサイン色紙と写真1カットを、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。この下の応募フォームからご応募ください。応募締め切りは9月12日(木)です。(このプレゼントの募集は終了しました)有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
貴重な動画とインタビューありがとうございました。
本番から1ヶ月以上たって、また新たな気持ちでインタビューを読み返しました。その場かぎりの舞台を、こうして振り返ることができるので、こういったメディアでとりあげてくださることが嬉しいです。
幻想的な光や音、空間に包まれながらもリアルな人間の孤独をじりじり感じ取り、見終わったあとには心がじんわり暖かくなるのが印象的でした。
孤独のなか、誰かを愛し愛され関係を築き、自分に素直に生きること。
シンプルなようでとても難しいことだなと改めて感じました。
「楽しい!」で図ることが難しい作品ですが、役者さんお2人の感じ方をこうして言葉で知ることができて嬉しかったです。
またインタビュー等、楽しみにしています。
作り上げるまでの過程のお話しや心の内にある想いや今後のことが読めて感謝です。それこそ可視化されないとても貴重なお話し。
インタビューを読んで、全く同じメンバーで、環境で、この作品を数年たって再演したら…また違う景色が見えそうだと楽しくなりました。
時間を経てまた観たい作品です。
興味深い対談と動画をどうもありがとうございます。
「お月さまへようこそ」は大好きな戯曲なのでとても楽しみにしていました。
まろやかに仕上げることも出来る作品ですが、とてもキリッとした演出で、辛辣でストレートな表現もあり、観た直後は上手く言葉に出来ませんでした。
本当の意味で心が通じ合う心地よさやどこまでも人とすれ違うせつなさなど、後からジワジワとくるものがありました。
ハッピーで現実を忘れるような作品も大好きですが、今回のように自分と向き合うことや考えたくなるような作品も大好きです。
とても丁寧な対談から、お二人の演劇に対する真剣さや誠実な気持ちも伝わってきました。
そして言葉にならない気持ちって皆さん何かしら抱えながら頑張っているのよね〜とちょっぴり安心したのも確かです。
微力ながら、こらからも観たい作品があれば足を運びたいと思います!