シンガーソングライターの中川晃教さんのインタビュー2回目は、3月9日に発売されるCD「decade」について、選曲や今後への思いを伺った。ボーナストラックに収録される曲は、今年7月に日本初演されるミュージカル「ジャージーボーイズ」でも歌うナンバー「君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)」。ザ・フォー・シーズンズの世界的ヒット曲だ。中川は、フランキー・ヴァリ役を演じる。
――選曲していくなかで、作ったときや、ライブで歌ったときなどを意識した曲などはありましたか?
レコーディング中も含めて、もちろん考えていましたね。歌詞もちょこちょこ変えているんですよ。良くなっていると自分では思っています。『Miracle of love』も変えています。
――気づきませんでした……。
2コーラス目は『意図しない別れもあるけど、愛しい時間の記憶遠ざかる今』だったんです。『いとしない』『いとしい』とかけていたんですが、「韻を踏んでいるけれど成功していません」と音楽関係の方に言われていて、確かになと今回ずっと考えていたんです。それで、『意図しない別れもあるけど、恋した時間の記憶遠ざかる今』と変えたんです。『そして、僕は魚になる』では気仙沼の海を思い浮かべた『オレンジ色の海に輝く波は』を『オレンジ色の海にさんざめく波は』に変えました。割と、細かく細かく意味がちゃんとわかるように意識して変えました。
――ファンの皆さんは驚くかもしれませんね。
特に『Miracle of love』は、好きな方は衝撃だろうと思います。
――『愛しい』と『恋した』は意味が多少異なりますもんね。
聞いた感覚も違うと思うんですよ。
――『Miracle of love』は、特に大好きな方がたくさんいらっしゃいますもんね。
選曲に関してもかなり意識したのは、2001年のデビュー当時に僕の歌に興味を持ってくれた人と、2002年の「モーツァルト!」で好きになってくれたファンの方が多くて、ふたつの入口があるんですよ。僕にとっては、歌もミュージカルも切り離せない『中川晃教』なので、『ファーストヴォイス』がデビューだとして、『セカンドヴォイス』がミュージカルに出て自分の歌が進化したこと。そして、このアルバムからはじまる『サードヴォイス』があるんです。一番最初のファーストヴォイスと今のサードヴォイスを聞き比べたときに、そこには確実に時間が流れていて、経験が伴っていて、成長したなと思ってもらえるものにしたいと思いました。そして、声の表現、歌の表現の力をこのアルバムにおさめたいと思ったんですね。今は僕のことを忘れてしまっているけれど、好きでいてくれた潜在ファンにもいいと思ってもらえるナンバーであり、ミュージカルを見てきた方が聞いたときにちゃんと満足できるものである。そういうことを考えて選曲したので、いろんなバリエーションの曲があるんです。でも、一貫してヴォーカルというものの色、景色、表現がちゃんと収められる選曲にしたいと思って選びました。
『ラブネバーダイズ』という曲、『あなたは結婚したい? あなたは母親を殺したい?』と投げかける曲なんですが、とがっているけれど今の時代に必要な歌だと思うんです。大切な曲なんですが、それを入れてしまうとバランスが取れなかった。まだ30曲以上あるんですが、その中からこのアルバムの曲を選曲したというのは、一緒に歩んできたファンの方はわかってくれるんじゃないかと思います。
――ライブでしか聞けない曲があるのも、それは貴重で、大事な曲になりますよね。
それもいいですよね!
<作品情報>
「decade」
・中川晃教10年ぶりのスタジオRecオリジナルフルアルバム
・今年、初夏に、初めて日本人キャストで上演される人気ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』の中でも歌唱する“君の瞳に恋してる”(Can’t Take My Eyes Off You)をボーナス・トラックで収録
・初回盤特典DVDにはレコーディングの密着ドキュメント映像等計30分収録
◆2016.03.09発売 CD+DVD / VIZL-936 ¥4,500+税 Victor
◆2016.03.09発売 アルバム / VICL-64523 ¥3,000+税 Victor
<関連サイト>
⇒ビクターエンターテインメントの中川晃教さんのページ(試聴可能)
⇒中川晃教オフィシャルサイト
⇒ミュージカル『グランドホテル』
⇒シアタークリエ『ジャージー・ボーイズ』
- キャスト全員が魂を削って描いた「孤独」、『フランケンシュタイン』4組の公演を観て 2019年8月9日
- 「ミュージカルはエンターテイメントの集合地点」、中川晃教&ソニン対談(下) 2017年6月16日
- 「物語はすでに始まっている」、『ビューティフル』中川晃教&ソニン対談(上) 2017年6月15日
- 「今、自分がようやく見えるようになってきた」、中川晃教さん単独インタビュー 2017年3月6日
- 読売演劇大賞最優秀男優賞の中川晃教さん「今まで出会ってきたすべての人に感謝」 2017年2月16日
<プレゼント>
中川晃教さんのサイン色紙と写真1枚をセットにして、アイデアニュース有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。応募締め切りは3月18日(金)。当選者の発表は発送をもってかえさせていただきます。⇒このプレゼントの募集は終了しました。ご応募くださったみなさま、ありがとうございました。
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■ミュージカルは切っても切り離せない
■あの時にやっていたら、多分ここまで表現ができなかった
■どの曲にひっかかるのかが知りたい
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■ミュージカルは切っても切り離せない
――ボーナストラックには「ジャージーボーイズ」でも歌うナンバー『君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)』が入りましたね。
このアルバムをきっかけにサードヴォイスというところを考えはじめたときに、ミュージカルは切っても切り離せないんです。自分のミュージカルの中での歴史を遡ってみると、「音楽のミュージカルを中川にやらせたい」「中川じゃないとやれない」と言ってもらえているんだと思いました。
僕がやってきたのは「The Who’s Tommy」(The Whoのコンセプトアルバムが映画化されてミュージカル化された)、「OUR HOUSE」(スカバンドのマッドネスのヒットチューンがたくさん詰まっている)、「エレンディラ」(音楽劇で『ピアノ・レッスン』のマイケル・ナイマンが書き下ろしたナンバーを歌った)、「CHESS」(全編ABBAのオリジナル楽曲)などで、そして今年「ジャージーボーイズ」をやらせて頂きます。
「ジャージーボーイズ」は、ビートルズが現れる前に、世界で一番人気があったヴォーカルグループ『ザ・フォー・シーズンズ』のミュージカルで、すごく繋がったなと思いました。奇しくもそれが今のタイミングだったことも、ミュージカルシーンで掴んだターニングポイント。フランキー・ヴァリという役は、経験がなくしては手中に収めることはできなかっただろうと思います。そういうことも含めて、辿り着いた作品なので、この作品のなかの曲を絶対に入れたいと思い、誰もがいちどは聞いたことがあるこの曲になりました。
――舞台を見て感動した人も、後からも聞けて、相乗効果ですね。
■あの時にやっていたら、多分ここまで表現ができなかった
「ジャージーボーイズ」が一番最初にブロードウェイではじまったときに、興味ないかと聞かれたんです。そのときは権利の関係で日本での上演がなくなってしまったのですが、記憶に残っていました。やはり巡ってくるものなんだと思いましたね。もし、あの時にやっていたら、多分ここまでテクニックや表現ができなかっただろうと思うんです。今、やるべくして掴んだのかなと思いますね。だから、なおさら運命やタイミングを感じます。
――15周年、10年ぶりのアルバム発表で、いろんな期待もあると思いますが、このアルバムを出すことによって、野心や目標などはありますか?
こんなに幸せなことはないんですが、現実は隣り合わせですよね。一曲一曲歌を入れているときも、トラックを作っていく作業のときも、そこに集中して入り込んでいる自分がいるんですが、果たしてどれだけの人に共感を得たり、どれだけの人に届くものなのかということを同時に考えたときに、そういうことを考えられるのが僕にとって音楽をやっている喜びでもあるんだなと思います。やっぱり音楽は自分自身の、一番フィットする時間であったり、ものだったり、生きるということとイコールで考えられる唯一無二なものなのかなと思えたんです。そのためにはもちろん努力も惜しまず、やっていきたいと思っています。
■どの曲にひっかかるのかが知りたい
今回はいろんな意見を聞くことができ、自分自身も楽しいと思ってトライすることができました。自分の主観だけではなく、客観的な意見をちゃんと取り入れて、中川晃教の10年間としてパッケージに収めることができたことを経てきて今思うことは、これが確実にどこまで音楽ファンに届くかどうかというところは一番注視して見ていきたいところだということです。その反応のなかで、次の自分自身の音楽をやっていくうえでのヒントを得たいと思っているので、これが完璧ではないのかもしれません。
でも、今の自分自身のやってきたことが、ある意味間違っていることはないと思っています。だから、音楽シーンのなかでの、ミュージカルを経て、シンガーソングライターとしてこのアルバムをきっかけに活動していくうえで、ここからまた音楽業界での自分の役割が見つけられたらいいなという気持ちでいるんです。そのためには、まず聞いてもらわなければいけないんですよね。聞いてもらったときに、どの曲にひっかかるのか、逆にどの曲にひかからないのか、知りたいですね。
――ミュージカルファンと音楽ファンではひっかかるところが違うかもしれませんね。
好きなのか、嫌いなのか、古いと思うのか、新しいと思うのか、斬新だと思うのか。それもすごく知りたいことですね。
――音楽に限らずですが、自分が発信したいこだわりが、広く人々に受け入れられないことはありますよね。
個性と世の中のニーズってあると思うんですよね。JポップシーンのなかでのわかりやすいJポップと、僕の個性は違うと思っているんですよ。あえてそれを今やるということも、選択肢のなかにはもしかするとこれから見えてくることかもしれないという意味での野心はあるんです。でも、逆に言ったら、この個性が通用するのを待つという選択肢もあると思っています。Jポップと僕の個性とが交わる時が必ず来ると、狙い続けてきてもいます。
もっとたくさんの人に知ってもらいたい思いは変わらないし、ヒットすればいいと思っています。でも、ヒットしたいと思って生まれるものがヒットではないと思っているから、このアルバムを投げている先は、別にJポップシーンだけではないじゃないかと思っているんです。洋楽が好きな音楽ファン、R&Bが好きな音楽ファン、男性ヴォーカリストが好きな音楽ファン、クラシック、ワールドミュージック、ジャズ、ミュージカルまで大人の音楽ファンが聞く音楽という意味では、そんなにわかりやすくJポップというものではないというのは、聞いたらわかってもらえるかなと思いますね。
――例えばiTunesのなかではJポップに入るかもしれないですが、それは大きすぎる枠ですよね。今はジャンルも多くて、さまざまな音楽がありますよね。
どこで火がつくかわからない時代じゃないですか。例えば、妻夫木聡さんが雑誌の取材で、「今聞いている音楽はサカナクションなんです」と言ったら、読者がみんなサカナクションを聞きはじめて、今やビクターの看板のひとりになっているように、誰がどこでどうなって火が着くかわからないじゃないですか。そう考えたときに、これはあてがわれたものではなくて、自分の世界であり、持っているものだと思うんです。それをもっとライトユーザーにも聞きやすくするディレクションもあれば、もっとディープな、この限られた人たちだけが満足するものでいいじゃないかと、グッズのような感覚で作るのもありかもしれないですよね。これまでもいろんな選択肢を残してきたなかで、出会っているという意味では、どこで火がつくかわからないですが、その瞬間を見逃すことなく、粛々と、これまでも、これからも、積み重ねて、やっていきたいと思っています。