「一人の表現者としてコアな部分を失ってはいけない」、中井智彦インタビュー(下)

中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

2021年2月20日(土)に、渋谷 PLEASURE PLEASUREでコンサート『I Live Musical! 5』(ライブ配信あり)を開催する中井智彦さんのインタビュー、後編です。ミュージカルにおけるセリフと音楽の関係性についてや、先日まで出演されていた『Play a Life』にまつわるエピソード、観劇した『パレード』で受けた衝撃、ライフワークとして取り組まれている「中原中也」についての想いなどについて伺いました。

中井智彦さん=撮影・村岡侑紀
中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

ーー先日までご出演されていた『Play a Life』は、いかがでしたか?

『Play a Life』のように、歌とセリフの境目がないような作品は面白いですね。ブラボー!ブラボー!と1曲1曲アリアをバンバン歌って拍手喝采、というミュージカルとは違って、『Play a Life』は拍手する隙がない作り方になっているんです。

ーーなかったです。

そういう作品の作り方って、僕すごく好きなんです。拍手を求めて歌があるのではなく、曲があっても途切れずにそのまま物語が進む。「そこに曲がある理由」が毎回ある。例えば夫が実習生に「出ていけよ」と言った後に「君はもう」って歌う時があるんですが、「歌うぞ」とか気持ちを切り替えているわけじゃないんです。実習生が部屋を出て行って、部屋に残った夫は改めて妻を「見る」。でも妻はもういないので当然「見えない」。そこで感じた夫の虚無感が湧き上がってくるので、自然と思いが歌になる。

ーー「そこに曲がある理由」が毎回ある。

そういえば、この前、僕『パレード』を観に行ったんですよね。あの作品では、あまりにも明るい曲の後ろで残酷なことが起きているというシーンでの音楽の使われ方に衝撃を受けました。セリフと音楽は表裏。

ーーセリフと音楽が表裏…。

『Play a Life』に「出て行けよ」っていうセリフがあったんですよ。さっきも例に出しましたけど。あれも、単純に「出て行けよ」って言っているだけじゃないんですよね。「壊さないでくれよ、俺の世界を」っていう気持ちが裏に込められているんです。ここが音楽になると、音楽がその裏の気持ちを音程で表してくれるんです。

『パレード』には、すごく明るい音色が鳴っていて、みんなが楽しく騒いでいる中、石丸幹二さんが演じられているユダヤ人のレオ・フランクが、トボトボ歩いているというシーンがあるんです。なんだこの明るさは。パレードなんてうるさいな、という彼の雰囲気と、音楽の明るさのコントラスト。そして、このレオの死刑が決まってみんなが喜ぶというシーンもあるのですが、ここも音楽によって、ものすごい明るさで表現されていたんですよ。ミュージカルで使われる音楽に芝居との相乗効果を感じました。

ミュージカルの音楽には、「単にいい曲」を作るのではない要素が入っているです。僕はそこに惹かれている気がしていますね。すごく時間をかけて作られていると思います。

※こちらは、2018年5月11日に開かれた中井智彦コンサート『I Live Musical!Ⅲ』の様子が収録された 「【ライブ映像】中井智彦I Live Musical!Ⅲ #1~#8 /ひとりミュージカル」動画です。

【ライブ映像】中井智彦I Live Musical!Ⅲ #1~#8 /ひとりミュージカル

※アイデアニュース有料会員限定部分には、『I Live Musical!』についてのお話のほか、中井さんがライフワークとして取り組まれている「中原中也」についての想いなどについて伺ったインタビュー後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>

■言葉になる前の世界は無限。字になることで他の人が読んで、宇宙が広がっていく

■中也の詩と詩の間は、自由に想像して演じればいい。これって、俳優の特権

■特攻隊員が、中也の詩をよく読んでいた。彼らが自我を求めた事実を忘れてはいけない

■大きい舞台に立たせていただきつつ、「個」として表現する場も作っていきたい

<中井智彦コンサート『​I Live Musical! 5​』>
【東京公演】2021年2月20日(土)16:45開場/17:30開演
会場:渋谷 PLEASURE PLEASURE
出演:中井智彦(Vo) スペシャルゲスト:岡幸二郎(Vo)
Band: 長濱司(key)/成尾憲治(g)/村上和駿(ds)/田中啓介(b) 
当日引換券:6,600円(ドリンク代600円別途)
公式サイト
https://udo.jp/concert/NakaiTomohiko
【ライブ配信】2021年2月20日(土)17:00開場/17:30開演
配信:PIA LIVE STREAM
視聴チケット:2,000円
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2169472

<関連リンク>
中井智彦 ブログ「歌日記」
https://www.nakaitomohiko.jp/contents/utanikki
中井智彦 公式YouTube
https://www.youtube.com/channel/UC3CR-gXzHTThv5IgyHN2BWQ
中井智彦 オフィシャルウェブサイト
https://www.nakaitomohiko.jp/
中井智彦 オフィシャルTwitter
https://twitter.com/NakaiTomohiko
中井智彦 Instagram
https://www.instagram.com/nakaitomohiko/
中井智彦 Facebookページ
https://www.facebook.com/nakaitomohiko.vma/

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中井智彦さん=撮影・村岡侑紀
中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

※ここから有料会員限定部分です。

■言葉になる前の世界は無限。字になることで他の人が読んで、宇宙が広がっていく

ーー中井さんといえば、詩人の中原中也のことも是非お伺いしたいです。

中原中也の世界を表現することは、僕のライフワークですね。詩から中也の世界に入りましたが、後に彼の日記や評論も読みました。役者からみても、彼の考え方ってすごく通じる部分があるんですよ。中也は「名辞以前(めいじいぜん)」という言葉を作っているんですね。「言葉になる前の感覚」のことです。「具体的に書く」前の世界って、宇宙みたいに無限に広がっているじゃないですか。字になることで、他の人が彼の言葉を読んで、またその人の中に、それぞれの宇宙が広がっていく。これは、僕ら役者にとっても、とても関係のあることだと思うんです。

セリフを字面として読み取れることだけで言い合っていても、どうしようもないんですよね。字面として読もうとしたセリフの前には、絶対にそれぞれの役者の中でイマジネーションがあるんですよ。例えば、「愛してる」って言うセリフがあるとします。ちゃんとそこに「愛してる」っていうリアリティが役者の中で膨らんでから発しないと、そのセリフは嘘になってしまいますよね。

ーー言葉にする前の感覚をリアルに感じてから発話しないと、空虚になるということですね。

そうです。イマジネーションの部分ですね。あと、彼は「芸術を衰退させるものは、固定観念である」とも書いているんです。その通りだなと思うんです。芸術には、正解も完成もないから面白い。中也は、そこを頑なに追求し続けて30歳で亡くなりました。中也の詩に29歳の時に再会した僕は、「このままでいいのか?」と自分に問いかけましたね。

中井智彦さん=撮影・村岡侑紀
中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

■中也の詩と詩の間は、自由に想像して演じればいい。これって、俳優の特権

ーー中也が30歳で亡くなって、中井さんはその1歳前の29歳の時に中也の詩に再会した。

中也の日記も読んでいたので、彼の生き方を身近に感じていたんです。でも、彼の詩がたくさんある中で、この詩とこの詩の間でどのように生きたのか。そこまでは書いていないからわからないんですよね。でも知りたくなってきて。で、思ったんですよ。僕が中也を演じればいいんだと! 彼の生涯を彼の詩と共に自分が演じたら、彼の詩と詩の間は、自由に想像して作れますよね。これって、役者の特権だなあと思うんです。

ーー中也の人生は、どんな物語になりそうですか?

彼はとても暗いものを、たくさん持っているんですよ。でも、『夏』という詩があって。中也自身が、死んでいる自分を客観的に見ているんです。この詩は、「さっぱりとした」って言って終わっているんですよね。僕はこの詩に触れた時、ある意味ほっとして。そういう気持ちで亡くなっていった、もしくはそういう気持ちであろうとしたんだと思います。そう感じた時、僕は中也を主人公にした物語を作ろうと思ったんですよね。僕が作っている一人芝居は、この、『夏』の詩で終わるようにしました。あと、中也は生涯、「自我」「自己」を追求し続けた人なんです。だから、みんながこうだからじゃなくて「お前は」どう思っているのかと問い詰めてくる詩が多いんです。彼の詩を通して「なぜ?」「どうして?」と自分に問いかけるのは、僕にとって大切なことですね。

中井智彦さん=撮影・村岡侑紀
中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

■特攻隊員が、中也の詩をよく読んでいた。彼らが自我を求めた事実を忘れてはいけない

ーー自分がどうしたいか、というところですね。表現者としても。

特攻隊の青年たちが、中也の詩をよく読んでいたという記録があるんです。一丸となって、突っ込んでいかなければならないと言われた時代に、自分の懐に中也の詩を忍ばせていた。自分というものは何かと求めていたのではないでしょうか。彼らがそれぞれの自我を求めていたという事実は、忘れてはいけないことだと思うんですよ。実は、そんな思いも抱きながら中也の作品づくりに取り組んでいます。

僕自身は表現者として、中也を演じるとリセットされる感覚があるんです。流されすぎていると、彼の詩を読んで軌道修正します。もちろん、みんなと一緒という考えの方が幸せなことだってありますよ。自己が常に正解なわけではありません。ただ、原則として、一人の表現者として「コアな部分」を失ってはいけないと思うんですよね。

中井智彦さん=撮影・村岡侑紀
中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

■大きい舞台に立たせていただきつつ、「個」として表現する場も作っていきたい

ーー5月に『メリリー・ウィー・ロール・ アロング 』へのご出演もありますね。

『メリリー』の曲、聴き始めています。ソンドハイム作品、やっぱり面白いなって思っています。この頭痛くなりそうな感じが(笑)。楽しみですね。大きい舞台に立たせていただきつつ、僕の中で「個」として大切なものを表現する場も作っていきたいです。『Singer Song Actor』というシリーズのワンマンライブも開催したいですし。個としての活動をすることで、みんなで一体になった時に、いい味が出せるような俳優になりたいと考えていますね。

ーー最後に、好きな映画を尋ねられたことから物語が始まる『Play a Life』にちなんだ質問を。中井さんがお好きな映画は何でしょうか?

好きな映画、いっぱいあるんですけどね。『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』が、ミュージカル映画の中でもすごく好きでよく観ています。特に疲れた時に。逆に『五線譜のラブレター』というコール・ポーターの自伝的な映画は、疲れていないときに(笑)。やっぱり、ミュージカル映画が多いですね。あ、でもクレヨンしんちゃんとかも観ますよ!

ーークレヨンしんちゃん?!

映画版のクレヨンしんちゃんって、脚本が面白いんですよ。毎回脚本の方が変わりますし、作品の中に、その時の旬な人が登場しているので、時代を感じられるんですよね。あとクレヨンしんちゃんの映画での中で、作者の臼井儀人さんが出てきて「また逢う日までは尾崎紀世彦〜」っていうシーンがあって、おそらく尾崎紀世彦さんのことがお好きだったんだろうなって。そこの親近感もあります(笑)。

ーー尾崎紀世彦さんの歌が大好きな中井さんならではですね(笑)。ありがとうございました。

中井智彦さん=撮影・村岡侑紀
中井智彦さん=撮影・村岡侑紀

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