中川晃教インタビュー(下) ミュージカル「グランドホテル」出演へ

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

シンガーソングライターの中川晃教さんのインタビュー3回目は、ミュージカル「グランドホテル」について語ってもらった。お話を伺ったのは取材日で、アイデアニュースはその日最後の取材だった。共演者でその日にはじめて会った方もいたそう。いろんなお話をして、新たな発見や作品への期待が生まれたと目を輝かせて話してくれた。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

ミュージカル「グランドホテル」は、1920年のベルリンを舞台に、華やかなグランドホテルに集う境遇の異なる人々が織り成す人間ドラマ。ブロードウェイで1989年初演、1990年トニー賞で5部門受賞している。1993年にトミー・チューン演出・振付で宝塚にて日本初演。凉風真世さんの退団公演として上演された人気演目だ。今回は、「タイタニック」の演出でも評価されたロンドンの演出家、トム・サザーランドが担当。GREEN teamとRED teamの2チームによるダブルキャストで上演される。

――今日は共演者の皆さんといろんなお話をされたそうですが、皆さんとお話ししていかがでしたか?

本当に楽しみになりました! 成河(ソンハ)さんとオットー・クリンゲライン役を演じていきますが、もちろんどちらのバージョンにもひとりしか存在しません。そういう意味ではふたつのバージョンでのオットー・クリンゲラインがあるわけですが、この作品の中にはひとりだけです。そういう意味では、ふたりでひとりの人間を作っていけるかもしれないと、今日会ってコミュニケーションをとっていくうちに思ったんです。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――というと?

トムさんの演出によって、GREEN teamとRED teamそれぞれのオットー・クリンゲラインが生まれることがゴールとして見えていますが、今日、僕が成河さんと出会ったときに「グランドホテル」という作品をふたりで作っていくんだと思ったんです。

今までのダブルキャストの経験でいうと、井上芳雄さんとやった「モーツァルト!」では、それぞれ違うタイプのふたりがヴォルフガングを演じ、「ロックオペラ モーツァルト」では山本耕史さんとモーツァルト役とサリエリ役を交互配役で演じました。今回は、オットー・クリンゲラインという人物像をより立体的に作っていけるダブルキャストだなと思ったんですよね。役を見てる方向が似ていると思ったんです。本当は、その個性の違いを楽しむのがダブルキャストなんだと思います。でも、そんな単純な楽しみ方だけではない楽しみ方を、もしかしたら提示できるかもしれないと思いました。それは、作品のなかの自分の役割が何なのか、さらには稽古に挑むにあたってのそれぞれの考え方がすごく似ていると思ったんです。彼の言う言葉全てに頷けたから。ひとりで演じるよりもっと、オットー・クリンゲラインという人物像が厚みをもって人生が見えてくる。だから僕からすると、成河さんはすごく武器になるんです。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――武器?

例えば、音楽に置き換えて考えると、発信したい自分の音楽、自分自身の経験、生きてきた人生、今自分が思うこと、誰に届けたいのか、などもちろん音楽の核となるものは自分です。でも、それをどうやって商品にして多くの人たちに届けていくかと考えたときに、プロデューサー、アレンジャー、マネージャー、広告代理店……と、関わる人たちのいろんな力を借りて、世に出ていくんです。作品づくりも同じで、自分ひとりでは表現しきれないと思うんですよね。共演者、演出家、プロデューサー……。でも、今回はもうひとり同じ役を立体的に見させてくれる、簡単にいえば彼のオットー・クリンゲラインを見ることができる。ふたりでひとつの役を表現していけるパートナーだなと思えたんです。

――よりオットー・クリンゲラインをふたりで見つめる感覚なんですね。

だからふたりで演じたらいいのにと思ったぐらいです。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――え? 場面交代でとか?

そう! この作品はそういうことができるんじゃないかと思ったんです。「モーツァルト!」でダブルキャストがうまくハマったのは、アマデという存在があったから。というように、出ていないけれども、お互いのオットー・クリンゲラインを、お互いのバージョンの「グランドホテル」を、ある意味、操ることができるパートナーだなと思ったんです。それはお客さんがみるときの楽しみ方の、単純に違いを楽しむだけでなくて、プロセスが見えたときに、中川晃教のプロセスと成河さんのプロセスを交差しながら、だからこうなっていくんだというふうに、ひとりのオットー・クリンゲラインをふたりで演じる感覚に思えました。それが驚きでしたね。

――見開きのチラシをよく見ると、左右が対象できちんと合うように作られているんですよね。でも、どちらのバージョンにも出演される方は、片方がシルエットになっている。ひとりの人物をこちらから映し出すと影になり、違う方向から映し出すと明るく見えるというような、人物の見え方の違いがみえる。今のお話を伺って、このチラシがそれをよく現しているんじゃないかと思いました。

そうなんです。どちらのバージョンを見にきたのかわからなくなるぐらい、ふたりが同一人物に見えたら面白いなと。そこを極めるダブルキャストなんで今まで見たことがないなと思ったんです。同じ演出、同じ歌唱指導、タイプも似ているというのはあるけれど、持ち味はちがうのに、オットー・クリンゲラインを演じると、なぜかふたりが同じ人物に見える。そんな面白い化学反応が起きるんじゃないかと思ったんですよね。

<ミュージカル「グランドホテル」>
【東京公演】2016/4/9(土)〜4/24(日) 赤坂ACTシアター
【名古屋公演】2016/4/27(水)、4/28(木) 愛知県芸術劇場大ホール
【大阪公演】2016/5/5(木・祝)〜5/8(日) 梅田芸術劇場メインホール

<関連サイト>
⇒ミュージカル『グランドホテル』の公式サイト
⇒中川晃教オフィシャルサイト
⇒シアタークリエ『ジャージー・ボーイズ』
⇒ビクターエンターテインメントの中川晃教さんのページ

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<アイデアニュース関係記事>
⇒ミュージカル「グランドホテル」出演 大山真志インタビュー(上)

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■成河さんを見たときに、「俺、こんな顔してたっけ?」と
■宮原さんは僕より年上ですが、翻弄できそう(笑)
■劇的に演じるも良し、感動的に描くも良し、さらりと描くも良し…

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■成河さんを見たときに、「俺、こんな顔してたっけ?」と

――最近のミュージカルのダブルキャストの配役をみると、全く違うタイプの役者を配していて、結果もそうなっていることが多いですよね。「グランドホテル」も最初に配役を聞いたときは、歌チームと芝居チームなのかと思いましたが、そうでもないかもしれませんね。

そうなんですよ!

――ダブルキャストの方同士のフォルムが、それぞれよく似ていますね。

僕も思いました。成河さんを見たときに、「俺、こんな顔してたっけ?」と思ったんですよ。見間違えたの。

――きっとそれは狙って配役されているんでしょうが、それが面白い。この影と光も含めて『だまし絵』のようだなと思いました。

確かに『だまし絵』のようですね。ジャンルが違うメンバーを集めているのに、よくぞこの「グランドホテル」の世界を共通して描けるメンバーを集めたなと思いますね。今回、キャスティングの際に、どうしてもやってほしいと言われたんです。トムさんのことは「タイタニック」の演出で聞いていたので嬉しかったんですが、作品については知らなかったし、スケジュールのこともあって迷ったんです。でも、梅田芸術劇場さんが作られる作品は、重厚感があって、他では経験できないので、やってみようと思いました。作品やキャストについて知っていくと面白くて、どんどん興味が湧いてきています。成河さんとは切り口は違うんですが、お互いの作品に対する距離感が似ているんですよ。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――おふたりとも『天才』といわれていることも同じですね。

そこに対する意見も同じなんですよ。天才じゃないって(笑)。すごく面白いと思いました。

――はじめての出会いで、より興味が増したんですね。

ものすごく増しました! 本当に食いつきましたね。つかこうへいさんのところの出身だと知って、そこもリスペクトしました。今日の出会いで、「グランドホテル」が俄然楽しくなってきました! 作品へのスイッチが入りましたね。

■宮原さんは僕より年上ですが、翻弄できそう(笑)

――宮原浩暢さんの印象はいかがですか?

すごくいいですね。一緒にやりやすそうでラッキーなだと思いました。

――ラッキー?

僕が適当なことを言っても、「そうなんですか!」と真面目に受け取って(笑)。「嘘、嘘」って言ったら、「えー、何で嘘なんだよ!」って。何でもない会話で和めるんですよ。そこがすごくいいなと。

――(笑)。

LE VELVETSのみなさんは宮原さん以外、全員ミュージカルを経験していて、LE VELVETSに帰ってくると何かすごくいい変化があるそうなんです。それでやってみようと思ったと話していて、とても好感を持ちました。僕より年上ですが、翻弄できそう(笑)。

――少年が悪巧みするような顔になってますよ(笑)。

ヒヒヒ……楽しみ♪

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

――他のキャストで特に楽しみな方はいますか?

皆さんに興味がありますが、個人的には土居裕子さんをRED teamに取られたことが悲しいです。大好きなので! その役が僕達の方では、本当は春野寿美礼さんだったんですよね。寿美礼さんの「チャイナドール」を聞いたときに、「歌が上手い!」と本当に思えたんです。みなさんそれぞれ歌の上手さは違うんですが、寿美礼さんは本当にすごいと思った。だから共演できるのが楽しみだったんです。

春野さんが降板されることになって、樹理咲穂さんに変わりますが、樹理さんの歌の上手さは、僕にとって美味しいものを食べて満たされたという気持ち。というのは、オペラ的なものも歌えるし、役の声を変えて演じることもできて技術的に歌が上手いですよね。でも僕が好きなところは、樹理さんそのものなんです。バーンとはじけた、恰幅のいい感じ。そこと歌がリンクしている役が好きで。「プロミセス・プロミセス」で共演したとき、娼婦の役がぶっ飛んでいて、惜しげもなくやっちゃう感じがすごく好きでした。他の役を見ても器用にできてしまうその器用さが、今回発揮される役なのかなと。樹理さんっぽくない役だから、また、新しい樹理さんに出会えるんじゃないかと期待しています。

安寿ミラさんとははじめてご一緒しますが、いろんな方から安寿さんがすごくいいと聞いているので、楽しみですね。戸井勝海さんはよく知っていて、戸井さんにしか出せない魅力もよくわかっているので、トムさんがどう演出されるのか楽しみですね。

――海外の演出家の方と作品を作るのはいかがですか?

正直にいうと、苦手なんです。なぜかというと、英語が話せないから。でも、自分達も異国に行ったら真意が伝わらないかもとか、考え方が違うかもとか思ったりするだろうし、僕が英語で話せたらもっと壁がなくなっただろうとは思うので、そこは自分の問題なんですね。言葉については置いておくと、海外の演出家は新しい自分を見せてくれると思いました。日本は小劇場とか、2.5次元とか、王道ミュージカル系とか、なんとなくジャンルがあるじゃないですか。そうすると、そのジャンルで人を見るし、そのジャンルを求めてキャスティングしますよね。例えば和田憲明さんとやったとき、和田さんはミュージカルの世界を知らないし、僕のことも知らなかった。でも、役を作っていくなかで僕という人間をわかっていって、僕にもはじめての自分自身と出会ったと思わせてくれたんです。そこで僕はすごく成長できたんですね。そういうことが、海外の演出家とだと起きるんですよ。

――海外の方は中川さんが何者か知らないから、いろんなフィルターを外して、素を見てくれるんですね。

知らない人とやることを大切にしたいと思っているので、海外の演出家とやるのは、実は楽しみなんです。今回の「グランドホテル」での自分の役割を見つけていき、それを最終的にジャッジしてもらい、あとはそこに自分自身が入っていければいいなと思っています。

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

中川晃教さん=撮影・岩村美佳

■劇的に演じるも良し、感動的に描くも良し、さらりと描くも良し…

――最後に、作品への今の思いをお聞かせ下さい。

群像劇であり、ダブルキャストであり、そのダブルキャストそれぞれの個性ががだまし絵のように表裏一体となってお届けできるようなパートナーと出会えたという実感のなかで、ホテルを舞台にそれぞれの運命が一日で変わっていく様子を描く作品です。劇的に演じるも良し、目の前を花びらがさぁっと散っていく瞬間のように運命が変わったという見せ方とするも良し、感動的に描くも良し、さらりと描くも良し、フラッシュを光らせたときの残像のように脳裏に焼き付くぐらいセンセーショナルに描くもよし、いろんな描き方ができる作品だと思うんです。凉風さんが宝塚で演じた舞台から22年ぶりに見てみようと思って見てくれた人にも、見て良かったと思ってもらえたらいいですね。

「グランドホテル」は人と人との出会いの物語だと思います。作品に新たに出会う方にも、再会する方にも、良かったと思ってもらえる作品になりそうだなと感じています。

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