アイデアニュースでたびたび紹介しているレノアちゃんこと古池玲乃愛ちゃん。2016年5月25日、養護学校に通うレノアちゃんの、小学部最後の運動会が行われました。レノアちゃんの出場種目でサプライズがあると聞いて、私も学校がある滋賀県に駆けつけました。嬉しい、楽しい運動会の様子をご覧ください。
レノアちゃんは今小学校6年生。1組の子どもたちは、医療器具を使用している最も重度の生徒で、「重度障害児」というカテゴリーに入るレノアちゃんは、その次の2組に所属しています。基本的には、今後言葉を使ってコミュニケーションをとることも、自分の足で歩くこともないという認識で療育を受けています。
これまでアイデアニュースで紹介してきたレノアちゃんとお母さんの敦子さんの軌跡は、「重度傷害児」という言葉の常識を超え、無限の可能性を感じさせるものでした。指談というコミュニケーション手段を通して、自分の中にあふれるほどの言葉があることを分かってもらって以来、どんどん想いや考えを伝えてきたレノアちゃん。
もうひとつのブレイクスルーは、ひとりひとりの体に合ったオーダーメード補装具を提供する会社PAS(ピーエーエス)さんと、PASのベテランセラピストで作業療法士の野村寿子さんとの出会いでした。体にあった補装具を手に入れたレノアちゃん、快適な姿勢がそのままリハビリになり、日毎に出来ることが増えてきました。お母さんの敦子さんによると、まず大きな違いは食事だったそうです。レノアちゃんの食べる量が増え、ほとんど普通の食事がとれるようになり、食べるスピードも大幅にアップ。育ち盛りの子どもにとって、それが心身に与える影響はどれほど大きいか、素人にも分かります。
野村さんはじめ、PASの技師さんたちは、「レノアちゃんなら、歩行器があったら歩けるでしょう」とこともなげに言いました。自分の足で歩くことはないと言われ続けてきた我が子。でもきっと歩けるようになると信じてきた母・古池敦子さんの夢は、レノアちゃんが小学校の卒業式で、歩行器を使い自分の足で歩いて、卒業証書を受け取りにいく姿でした。そして、その夢が思いがけない形で先取りされたのが、5月25日の運動会だったというわけです。
この歩行器は、レノアちゃんの運動会に合わせて「デモ機」としてPASさんが用意したもの。5月23日に初めて乗ってみた歩行器は、最新式のモデル「ペーサーゲートトレーナー」、アメリカのリフトン社の製品で、障害の重い人でも使える様々な工夫がされていました。
「歩行器」と一口に言っても、いろいろなタイプがあります。私たちが見慣れているものは、杖では体を支えきれない高齢者が使用する歩行器でしょう。車輪がついていて、押して歩くタイプのものが一般的です。
でも、障害がある人が使う歩行器には、様々な工夫がほどこされ、進化を遂げていました。まだ立つことも難しいレノアちゃんが使えるタイプが、この「ペーサーゲートトレーナー」というわけです。股関節への負担を減らすように、ヒップサポートがついています。
繰り返しになりますが、自分の足で立つこと、歩くこと、話すことはないと言われてきたレノアちゃんです。「RUN・らん・ラン」に出場したときの姿をご覧ください。
ゴールを目指して歩き続けるレノアちゃんに、見ている人たちから惜しみない拍手が送られました。レノアちゃんのことをよく知っている人であればあるほど、この快挙の意味が分かるのだと思いました。
大きな笑顔でゴールテープを切ったレノアちゃんを迎えた敦子さんの目には、光るものがありました。運動会までのたった2日間練習しただけで、こんなに素晴らしい進歩を見せたレノアちゃん。本当に嬉しい運動会になりました。
この歩行器は5月27日には返却しなければならないデモ機。「古池玲乃愛と名前を書いてしまいたいくらいだった!」と話す敦子さん。
このような歩行器を購入するためには、いくつかのステップを踏まなければなりません。歩行器がレノアちゃんのクオリティ・オブ・ライフにとって、不可欠だということを分かってもらえるかどうか。“歩くことはない”と考えられている重度障害児にとって、歩行器は本当に必要な装具なのかどうかを、まず主治医に判断してもらいます。「これはレノアちゃんの生活上、必要なものだ」と医師が納得すれば意見書を書いてもらえます。それから、特例補装具として費用を支給してくださいと自治体に申請をするという流れです。
「卒業式を目標にしてきたけど、PASさんが運動会のために歩行器を用意してくださったので、まずはみんなに、レノアの歩く姿を見て欲しかった」と敦子さんは言います。
「レノアが出来るんだったら、他の子どもさんにも出来る子がいるはず。やってみたい、試してみたいと他のお友だちやその家族の人たちに思ってもらいたかったし、特例補装具のことをみんなに知ってもらって、許可がおりるようにたくさんの人の知恵と力を借りたいんです」
「レノアがこれからもずっと使えるようにって、わざわざLサイズの歩行器を使って調整してくださったPASの野村さんの気持ちも嬉しいし、一緒に苦労をしてきた同級生のお母さんたちの励ましの言葉も嬉しい。だから、これからもっと頑張ろうと思います」と話す敦子さんです。
大興奮、大感激の運動会を終えた後、敦子さんとお話したときの言葉を、私も胸に刻みたいと思いました。
「これを、一回限りのまぼろしの運動会にしたくないんです」
言葉を使ってコミュニケーションをすることは難しいと判断されて、申請していた意思伝達装置「レッツチャット」の購入を見送ったレノアちゃん。(その後、指談によるコミュニケーションが可能となり、快適な姿勢を保つことで発語もひんぱんにみられるので、レッツチャットが買えなかったのは残念ですが、いい方向に進んでいます)
大阪府では歩行器が特例補装具として認められた実例があるといいます。レノアちゃんがパイオニアとなって購入にかかる費用を補助してもえたら、滋賀県の新しいモデルケースになります。今度こそ、申請が通って必要不可欠な機器である歩行器購入に補助金が使えますように。卒業式にレノアちゃんが使う歩行器には、大きく誇らしく、「古池玲乃愛」と書いてありますように。
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■医療・介護の補助制度について知ろう
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■医療・介護の補助制度について知ろう
私の義父は、70歳代になってから転倒して脊椎損傷となり、首から下の機能をほとんど失いました。幸い自発呼吸が出来て、小さな声にはなりましたが話も出来る状態だったので、本人の希望でもあった自宅介護に踏み切りました。嚥下障害対応の食事はもちろん、着替えや入浴や排泄などほぼすべてのことに介助が必要だった義父は、介護保険制度と障害者自立支援法の両方を利用することで、自己負担の金額が大きくならないような自宅介護を実現することが出来たのです。
例えば、障害のある人が、必要な装具を入手するための支給システムとしては「補装具」と「日常生活用具」への支給制度があり、それ以外の、本人にとって必要不可欠な機器を「特例補装具」費用として支給することも可能なのだそうです。義父の場合は、年齢的に介護保険を使って電動車椅子やエアマットなどを1割負担でレンタルし、住宅の改装費用を障害者自立支援の方で見てもらいました。その判断は、対象者の状況や環境、自治体によっても異なります。レノアちゃんの歩行器が、特例補装具として彼女にとって必要不可欠なものであると判断してもらえることを心から願う次第です。
<参考>
厚生労働省の「補装具費支給制度」のページはこちら → 補装具費支給制度の概要
補装具と日用生活用具に関してはこちら → 補装具と日常生活用具
ペーサーゲートトレーナーの特例補装具制度についてはこちら → 特例補装具制度について
制度を調べたり、担当者と話をしたりすることが苦にならない私たち夫婦にとっても、相当ややこしくて、しかもすぐに「改正」「改定」になり、各自治体で対応が異なります。ひとりで抱え込んでしまっては煮詰まることが目に見えています。信頼できる専門家、同じような経験をしている友人、相談できる相手を確保して、情報を共有し、助け合うことが必要です。アイデアニュースも、そういう意味で、医療・介護に関わるニュースをこれからも発信していきたいと考えています。
■誰もが平等に、公平に利用できる方法~いつかみんなで幸せになる日のために
運動会を見学するために訪れた養護学校、レノアちゃんのクラスである6年2組の教室前の廊下には、様々なタイプの車椅子やバギーが置かれていました。障害の種類も、体の特徴もそれぞれ違う子どもたち。成長期なので体が大きくなれば車椅子も変わるでしょうし、リハビリや治療によって状況が変われば必要な装具も異なってきます。日進月歩の技術の進歩によって、これまで思ってもいなかった変化が、あっという間に起きることも十分考えられます。だとすれば、レノアちゃんひとりが、必要な装具を手に入れられたら、それでいいという問題ではありません。
「もし支給制度が使えなかったら、自分で全額支払って歩行器を買ってしまったらいいようなものだけれど、それでは、“買える人だけが買う”っていうことになってしまう。やっぱり、誰もが平等に、公平に、必要なものを入手できることが大事だと思います」と、敦子さんは言います。
経済的に余裕がある人だけが必要なものを手に入れて、そうじゃない人は諦めるというのでは、障害のあるなしに関わらず、みんなで幸せになりたいと願うレノアちゃんの思いに反するのだと改めて分かりました。そんなレノアちゃんをこれからも応援したいと思っています。
義父の時には、本来は補助金制度が使えるのにあわてて自費で購入してしまったものもありますし、なぜこんな必要不可欠な機器を購入するのに少しも援助をしてもらえないのかと、理不尽に感じたものもありました。義父の自宅介護については、こちらの過去記事を参照してください。→ ここをクリック