この小さな冊子のタイトル「体当たり白雪姫と指筆談のこと」を見て、みなさんは何を想像されるでしょうか。元気いっぱいの白雪姫がど~んと体当たりして、言葉が通じない人と筆談をしている?あれ、でも、指談?指筆談??インパクトがあるけど、何のことだかよく分からないという方にもぜひ手にとっていただきたいのです。人生のどこかで、あなたやあなたの愛するご家族が、病気やけがなど思いがけないことで言葉が話せなくなってしまう・・・あり得ない話ではありません。心の中のあふれる思いを、誰にも伝えられないままになったら、どんなに辛いことでしょう。そんなときに、思い出して欲しい言葉が「白雪姫プロジェクト」なのです。この小さな本の中に、たとえ意識がないと思われ、植物状態と言われている人の中にも必ず存在する”思い”を知り、それを伝える方法が載っています。
親しい人からは「優さん」と、愛と敬意をこめて呼ばれている守本早智子さんは、ボランティアグループ「テンダーハート昭島」の代表で、昭島市内の特別養護施設で「体当たり白雪姫プロジェクト」という活動をされています。ご高齢のため、あるいは認知症のため、コミュニケーションを取るのが難しくなった方々の指をとり、「指筆談」という方法でお話をするのです。つまり、寝たきりのお年寄りは、王子さまが来るのを待っている「白雪姫」なんだというわけです。愛情のこもった体当たりのコミュニケーションが、眠っていた白雪姫を目覚めさせ、心の中の思いが指先から伝わります。手に手を添えて、微細な動きを感じ取ることで、その方が書こうとしている文字を読み取っていくのが「指談」という方法。ペン等の筆記具を握ってもらえる方で、その方がやり易ければ「筆談」ということになります。
今ではメンバーの中に「心理技術アドバイザー」「手話通訳」といった本業を持つ方も加わって、8名で活動されている優さんたちですが、対象の入所者のみなさんと”井戸端会議”をしていると書かれています。グループのメンバー全員が指談・筆談が出来るようになったそうで、対象者1名にチームから最低1名は担当者としてつけるので、活発にお話が勧められる。だから毎回議長も決めて、テーマも決めて指筆談で思いを語ってもらっていても、たいていはあらぬ方向に話が流れていき、まさに「サロンでの井戸端会議」になるというのです。そしてそれが面白くて楽しいと優さんは言います。
言葉が話せる人にはあたりまえの、なんでもない日常の会話。それを楽しむことは本当に大事なことだと筆者も思います。そういうことの積み重ねが、愛情や信頼を築き、一緒に過ごす時間を温かいものにしているのです。筆者の義母は晩年完全に聴覚を失いました。必要なことを紙に書いて読んでもらうことは簡単でしたが、耳の聞こえるもの同士が交わすちょっとした会話や、冗談や、くだらないあれこれを全部書くことはなかなかできませんでした。でも、人間のコミュニケーションは「大切な伝達事項」だけで出来ているのではないから、義母は寂しかっただろうなと思うのです。優さんたちが施設の入所者さんと指筆談をして、井戸端会議になっていくのが本当に面白いと書かれている箇所で、「さすが」と思った次第です。
分かってもらえるとは思っていなかった自分の心の中の言葉を引き出してもらって、みなさん、どんなに嬉しく楽しく「おしゃべり」していることでしょう。指先から紡ぎだされる言葉は、どんな風にあちこちに流れ、遊び、弾むのでしょうか。こうした活動を通して、寝たきりだったお年寄りが驚くべき変化を見せられるのです。「病気で、もう何もわかっていない」「もうこの人は言葉も忘れてしまった」と思われていた方が、亡くなる前には「かぞくに感謝しています。わたしのものは処分してね」と漢字交じりで書かれる。「わたしにきてくれるみなさん これからもよろしくおねがいします」と書き初めされる。人間としての尊厳を取り戻し、幸せを感じておられることがよく分かります。
今では講師として指談・筆談の方法を伝え、全国の意識障害の方のところを訪ねてその方の思いを引き出している優さんも、娘さんと「体当たり白雪姫プロジェクト」を始めた頃には指筆談の方法を知らなかったのです。コミュニケーションをとることが難しいと言われた方々のベッドサイドで歌を歌ったり、瞬きや頷きなど身体のどこか一カ所でも動かせる場所がないかと探したり、口を開ける練習をしたり。優さんは、あらゆる方法でコミュニケーションをとろうと手探りされました。それは、優さんが息子である良平君にしてきたことそのものでした。
6年間の闘病を終えて2010年に旅立った最愛の息子さんは、白血病の治療の途中で脳症をおこし、遷延性意識障害いわゆる植物状態と言われる状態になっていました。優さんは、良平君の命が尽きる日まで決してあきらめず、良平君の言葉が聞きたい、その思いをくみ取りたいと必死で過ごしてこられました。白血病の3度目の発症で良平君は20歳の生涯を閉じましたが、優さんは、それこそ死に物狂いで医学書を読み、ネットであらゆる情報を探して、良平君の回復を信じて努力されたのです。良平君が亡くなった翌年2011年に、優さんはかっこちゃんこと山元加津子さんと出会います。
脳幹出血で倒れた元同僚の宮ぷーこと宮田俊也さんの回復を信じ、「誰もが思いをもっていて、回復する可能性がある。そしてその方法がある」ということを実践しているかっこちゃんに会って、優さんは「彼女の活動を応援しよう、できることはなんでもやろう」と決心します。かっこちゃんは、ある日優さんにこんな電話をかけました。「優さん、白雪姫プロジェクトを作ろうと思うの。だから、何か体当たりしてそれをブログに書いてくれる?」この言葉がきっかけとなって、優さんは今「体当たり白雪姫プロジェクト」の代表として、全国を飛び回っているのです。
筆者も、優さんのワークショップに二度参加させていただきました。ふたり一組で、指先に伝わる小さな小さな動きを感じる練習、まずは〇とXをやってみました。時計回りに曲線を描こうとする力を感じたら〇、右上から左下に向かって下ろそうとする力を感じたらX、という風に丁寧に論理的に指導していただけるので、〇X、数字の1,2、3くらいは読み取れるようになりました。今回優さんが書かれた「体当たり白雪姫と指筆談のこと」には、ワークショップで習ってわかったつもりでも、後から「あれ?どうだったっけ」と思うところが、分かりやすく手順を追って説明されています。それだけでも素晴らしいのに、この冊子の中には、優さんたちが、テンダーハート昭島というボランティアグループとして「白雪姫プロジェクト」を応援しようとして活動されているという説明や、指談筆談をどう伝えるのか、何を大切にしているのかということが書かれています。
ワークショップに参加された方も、まだその機会がないという方も、「白雪姫プロジェクト」を知っている人も知らなかった人も、ぜひ一読をお勧めします。なぜなら、「そんなこと、私には関係ないわ」と思われる方にも、いつ何が起きるのかわからないのが人生だと思うからです。働き盛りだった宮ぷーは、重篤な脳幹出血で3時間の命と宣告された時期がありました。筆者の場合は、同居をはじめて1年半で、義父が転倒、脊髄損傷となり首から下の一切の自由を奪われました。義父を自宅介護する日々を7年過ごしました。そして優さんは、最愛の息子さん良平君が14歳で白血病となり、6年間の闘病の日々を送られました。つまり、縁起でもないことを申し上げるようですが、何歳であっても、自身が健康であっても、愛する人が体の自由を奪われたり、意識さえないような状態になる可能性はあるのです。
そんなとき、「白雪姫プロジェクト」を知っているか知らないかは大きな違いです。たとえ植物状態と言われるような人の中にも思いはあり、意識を取り戻し、食べたり、自分の思いを伝えたり出来るようになる。その方法があるということを伝えるのが「白雪姫プロジェクト」で、かっこちゃんこと山元加津子さんはその活動の揺るがない柱です。そのかっこちゃんに共鳴し、勝るとも劣らない熱意で「体当たり白雪姫」を進めている優さんこと守本早智子さんが書かれた本が、この「体当たり白雪姫と指筆談のこと」です。筆者も全力でお勧めする次第です。
ワークショップで優さんが話された言葉が忘れられません。「指談や筆談というものを知らなくて、私は良平の思いをこの方法でくみ取ることは出来ませんでした。でも、良平の身体全部を見て、触れて、あの子の思いを知りたいと必死で手探りしていた。あの子をあらん限り愛せた。そんな日々があるからこそ、今、ご家族の思いを知りたいと必死になっておられる方々の気持ちが分かるし、寄り添えるのだと思うのです」
良平君は病気になったとき、「良平で良かったんだよ。お父さんでもお母さんでもネエネでもなくて、僕が病気になって良かったんだよ」と静かに話す優しくて強い息子さんだったのだそうです。そして、テレビなどで子どもが自殺するというようなニュースがあると、「死んじゃダメだ!生きようよ、必ず笑える日が来るよ!」と無菌室で闘病中の良平君は叫んでいた・・・生きることの喜びを、命の温かさを誰よりも知っていた良平君もまた、お母さんである優さんのこの活動を応援しているはずだと思います。意識障害の患者さんにも、「生きよう、いつか必ずあなたの思いを分かってもらえる日がくるよ」と、良平君が励ましているような気がします。優さんは、ひとりでも多くの人に「生きていてよかった」と思ってもらいたくて、良平君とふたり分の思いを抱いて、歩き続けています。
冊子をお求めの方は下記の要領でお願いいたしますと、優さんからお知らせがありました。
小冊子「体当たり白雪姫と指筆談のこと」
価格:1冊500円
送料:クロネコDM便で130円(10冊まで一律130円)
お申し込み方法:FAX・メール・またはFacebookメッセージでお受けします。
FAX:042-542-4632
Mail:ryuyu☆mbc.ocn.ne.jp (☆の部分は@に変えてください)
Facebook https://www.facebook.com/sachiko.morimoto.39
必ず件名に「指筆談小冊子希望」と入れてください。
いずれの場合も、冊数・氏名・ご住所・TEL・をご記入ください。
申し訳ないのですがお支払いは冊子代金と送料をお振込みでお願いします。
ご注文頂きましたツールへのお返事で口座番号をお知らせします。
クロネコDM便の契約をいたしましたので送料は10冊までは一律「130円」です。それ以上になりましたら一番安い方法を探しますのでご相談ください。
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<関連リンク>
白雪姫プロジェクトのページ →http://shirayukihime-project.net/
指談の練習の仕方 →http://shirayukihime-project.net/yubi-dan.html
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アイデアニュース有料会員向け【おまけ的小文】 指談初体験、「みどり、みどり」と2回書いたのだと思っていたら、なんと…(松中みどり)
優さんが大阪で開いた指筆談のワークショップに私が初めて参加したのは、2014年9月でした。ふたり一組で練習。〇Xや、一筆書き出来る数字の1、2、3を読み取るのは比較的簡単にできましたが、4以上の数字は難しかったです。また、自分の名前を書いてもらえるとわかっていれば簡単に読み取れても、ほかの言葉はなかなかわかりませんでした。
参加者同士でひとしきり練習したあと、れのあちゃんという障害のある女の子に「練習させてもらえる?」と声をかけました。言葉を話せないれのあちゃんは、指談を使うことで優さんはもちろん家族のみなさんと意思の疎通ができるようになっていました。
彼女の手をとって自分の手のひらに文字を書いてもらったところ、ひらがなで「みどり、みどり」と2回書いてもらったことは、読み取れました。それ以外の言葉が読み取れないままでいると、優さんがもう一度指筆談をして、「みどりさんが、みどり色の服を着ている」と書いたのだということが、わかりました。たしかに私はその日、みどり色の服を着ていたのでした。私が「みどりって2回も書いてくれたのね」と言ったら、ちょっと首を縦にふっただけだったれのあちゃんが、優さんに「ああ、みどりさんがみどり色の服を着ていて面白いと思ったのね」と言われると、満面の笑顔になったのが印象的でした。私も、「指談、もっと練習しよう」と思った瞬間です。