宝塚歌劇雪組公演、MUSICAL FANTASY『CAPTAIN NEMO』 …ネモ船長と神秘の島… ~ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」より~ が、2017年 9月24日まで梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演されています(東京公演は終了しています)。ジュール・ヴェルヌの海洋SF小説「海底二万里」をベースにした物語。SFとはいえ、今から150年近く前の1870年(明治2年~明治3年)に発表された小説がもとになっているだけに、古典的な雰囲気が漂う舞台となっていました。
冒頭は「ポーランドの幻影」と題されたダンスシーン。全身真っ赤な衣装での群舞が繰り広げられる中、ただ1人、真っ白な衣装で舞台に現れたのは、ネモ船長役の彩風咲奈(あやかぜ・さきな)さん。ネモ船長は、この舞台ではポーランドの貴族という設定になっており、長身の彩風さんの長い手足が強調された踊りになっていました。
舞台は19世紀後半。南極付近で捕鯨船の沈没事故が相次いでいたことから、イギリス政府は、その謎を調査するため、海洋気象学者らを装甲艦に乗せて南極に向かいます。しかしその途中、装甲艦は爆発、沈没。学者らは、「マトカ」と呼ばれる不思議な島に漂着します。マトカに住むのは、世界各地の植民地から逃れてきた人々。そして、その島のカリスマ的リーダーが、潜水艦ノーチラス号のネモ船長だったのでした。
ネモ船長役の彩風さんは、青と金と白の豪華な模様が施された足元まで届くロングコートを着て登場。全体を通して、ゆったりとした口調と態度で大物感たっぷりですが、最後のフィナーレでは、チャーミングな八重歯のある笑顔も見せてくれます。
海洋気象学者のレティシアを演じるのは、彩みちる(いろどり・みちる)さん。レティシアは、漂着したマトカで、10年間行方不明だった父と再会します。レティシアの父で、潜水艦設計者のアラン・ド・モリエ博士は専科の汝鳥伶(なとり・れい)さんが演じますが、レティシアはモリエ博士と再会するなり、頬を平手打ちします。後半では、他の男性をも平手打ちするシーンがある気の強い女性役ですが、ビジュアルと歌声が優しく、とても優雅に感じられました。
レティシアとともに、海洋生物学者のジョイス博士と新聞記者のシリルも、マトカに漂着します。ジョイス博士を演じたのは、華形ひかる(はながた・ひかる)さんで、シリル役は永久輝せあ(とわき・せあ)さん。2人とも、冒頭の南極に向かう装甲船の中のシーンから、膨大なセリフが続きます。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分には、おもな出演者の役どころや演技についての感想を、写真と合わせて掲載しています。
<有料会員限定部分の小見出しと写真>
■舞台のどこにいても目を惹きつけられた朝美絢。凛々しい立ち姿と静かな演技が光る
■ストーリーの裏側を担った永久輝せあ。野々花ひまりは悲しみと怒りをリアルに
■要所を締めた汝鳥伶と、はつらつとした笑顔が印象的な102期生の彩海せら
<MUSICAL FANTASY『CAPTAIN NEMO』 …ネモ船長と神秘の島… ~ジュール・ヴェルヌ「海底二万里」より~ >
【東京公演】2017年8月29日(火)~ 9月4日(月)日本青年館ホール(この公演は終了しています)
【大阪公演】2017年9月16日(土)~ 9月24日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
<関連サイト>
宝塚歌劇団のページ
https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2017/captainnemo/index.html
梅田芸術劇場のページ
http://www.umegei.com/schedule/648/
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■舞台のどこにいても目を惹きつけられた朝美絢。凛々しい立ち姿と静かな演技が光る
舞台のどこにいても目を惹きつけられたのは、2017年5月31日付で月組から雪組へ異動になったばかりの、朝美絢(あさみ・じゅん)さん。朝美さんは、イギリス海軍将校ラヴロック少佐を演じますが、背筋がピンッと伸びた立ち姿は凛々しく、燕尾服風の軍服が抜群に似合います。セリフや動きが少ない寡黙な役なだけに、静かな演技が要求されますが、わずかな表情の変化での心情表現が光っていました。低めの声と歌声で、どの角度から見ても美形な朝美さん。軍服を脱いだ後に見せる柔らかな表情も素敵でした。
■ストーリーの裏側を担った永久輝せあ。野々花ひまりは悲しみと怒りをリアルに
ロンドン・タイムズの新聞記者シリル役は、永久輝せあ(とわき・せあ)さん。1幕の始めにイギリスのラヴロック少佐に拉致され、自分は誰かと間違われて拉致されたと訴えるシーンがあるのですが、膨大なセリフのシーンを滑舌よく表現していました。ストーリーの裏側を担う役ですが、特に後半の重要なシーンの演技は、印象的でした。
シリルとともに難しい心情表現が必要になるのが、ロシア軍人の妻、ヴェロニカ。赤い民族衣装を着ているヴェロニカを演じたのは、野々花ひまり(ののか・ひまり)さん。ノーチラス号の攻撃で夫を亡くしたヴェロニカは、ネモ船長をナイフで刺してしまいますが、野々花さんは、悲しみと怒りが入り混じったヴェロニカの内心をリアルに、迫力たっぷりに演じていました。
■要所を締めた汝鳥伶と、はつらつとした笑顔が印象的な102期生の彩海せら
舞台の要所を締めたのは、レティシアの父親のモリエ博士を演じた専科の汝鳥伶(なとり・れい)さん。そして、再会を果たしたモリエ博士とレティシアがテーブルで語らうシーンで、2人にお茶を勧めるミーシャを演じたのは、102期生の彩海せら(あやみ・せら)さん。ロシア人であるミーシャは、ジャム入りのロシアンティーを2人に勧め、レティシアが「いただくわ」と言ったので、ミーシャは喜びます。マトカの敵であるロシアのロシアンティーは、島では人気がないそうで、モリエ博士は「ジャム抜きで淹れて欲しい」と答えます。彩海さんは、若手らしくはつらつとした笑顔で、目をひいていました。
102期生では、潤花(じゅん・はな)さんもインドの王女ラニという重要な役を担っていました。イギリス軍に大事な人を奪われた過去を持つラニは、イギリスの軍服を着続けるラヴロック少佐のことが怖くてたまらないという役どころ。モールス信号をラ・ラララと歌って覚えるシーンも可愛らしかったです。お芝居が終わった後のフィナーレでは、彩風さんと彩さん、朝美さんと潤さん、永久輝さんと野々花さんのデュエットダンスがあり、お芝居で避け続けていたラヴロック少佐役の朝美さんとラニ役の潤さんのデュエットは、微笑ましく、もっとみていたいと思うものでした。
この作品のもとになった『海底二万里』は、ジュール・ヴェルヌが、1870年(明治2年~明治3年)に発表した海洋SF小説。SFとはいえ、今から150年近く前の小説をもとにしていることもあってか、今回の舞台は、楽曲や演出に古典的な雰囲気が漂っています。突っ込みどころのあるストーリー展開も少々ありますが、ネット上にはそれを面白くとらえたファンの声もあり、宝塚歌劇ファンの懐の深さを感じさせる舞台になっていました。