宝塚歌劇宙組公演、 ロマンス『不滅の棘(とげ)』が、2018年1月7日に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕し、1月23日からは日本青年館ホールで上演されます。一面「白」の舞台の中に、愛月ひかる(あいづき・ひかる)さんの安定した演技と響きの良い歌声が光る、「超」正統派二枚目役の魅力にあふれた、ぐいぐい引き込まれる作品となっていました。
1933年、チェコ・プラハ。100年に及ぶ「プルス事件」裁判に間もなく判決が下ろうとしているところに、有名な歌手エロール・マックスウェル(愛月ひかるさん)が現れ、事件の有力情報を次々に明かしていきます。100年前の事件を詳細に知り、銃撃された傷も、すぐに癒えてしまう。エロールとは、一体何者なのか…。
173cmの背の高さで、立ち姿だけでメロメロになってしまいそうな正統派男役の愛月ひかるさん。この作品では最初から終りまで「超」が付くほどの二枚目役です。父から、ある薬を与えられたことで苦悩し、ミステリアスな影がより一層、周りの女性を惹きつけてしまう男なのですが、丁寧な演技と、響きの良い歌声で、難しい曲が多い中、安心して物語に没頭できました。
1幕最後にエロールの公演シーンがあり、白い羽のある衣裳で赤い口紅をつけたエロールが登場します。女性のような風貌で現れ、衣裳を脱ぎ去ってスーツ姿となり、口紅を雑にぬぐうシーンは、2003年に花組トップスター春野寿美礼(はるの・すみれ)さんが演じた時と同じく、印象的なシーンになっていました。
エリイ(エロールの昔の名前)が唯一愛した女性フリーダ・プルス役と、「プルス事件」の原告フリーダ・ムハ役を演じたのは、遥羽らら(はるは・らら)さん。時折頬に現れるえくぼと、本当にかわいらしい声が特徴的で、プルス家の令嬢役と、「命は短い。だからお金が欲しいの」というショートヘアーの活発な女の子の二役を上手に演じ分けていました。
裁判の弁護人で、ヒゲが特徴的なコレナティを演じたのは凛城きら(りんじょう・きら)さん。100年も前の分かりにくい事件の詳細を、ほっそりしたスーツ姿の息子、アルベルト役の澄輝さやと(すみき・さやと)さんと共に説明してくれます。1幕では事件の詳細までは分らず疑問が残りますが、2幕では詳細が判明し、より一層引き込まれてしまいます。澄輝さん演じるアルベルトはフリーダが好きだけれど、フリーダは他の女性と同じく、エロールを好きになってしまい……。
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<有料会員限定部分の小見出しと写真>
■謎の老女カメリア役を力強く、艶っぽく。美風舞良(みかぜ・まいら)さん
■しっとり伸びやかな歌声で。クリスティーナ役の華妃まいあ(はなき・まいあ)さん
■悲しさや淋しさが、ひしひしと。ハンス役の留依蒔世(るい・まきせ)さん
<ロマンス『不滅の棘(とげ)』>
【大阪公演】2018年1月7日(日) – 1月15日(月)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【東京公演】2018年1月23日(火) – 1月29日(月)日本青年館ホール
<関連サイト>
宝塚歌劇団のページ
http://kageki.hankyu.co.jp/revue/2018/fumetsunotoge/index.html
梅田芸術劇場のページ
http://www.umegei.com/schedule/684/
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■謎の老女カメリア役を力強く、艶っぽく。美風舞良(みかぜ・まいら)さん
第2幕、エロールの特別公演後の劇場から登場する謎の老女カメリア役は、宙組副組長の美風舞良(みかぜ・まいら)さん。歌手エロールを、イカすジプシーと呼び、50年あなたを待ったんだよと親しそうに近づきます。美風さんの歌う、♪燃えろ、燃えろ、熱く、熱く…の歌は力強く、艶っぽい歌声で、見た目は老女ですが、一瞬で若い頃の村一番の美人カメリアに戻ります。
■しっとり伸びやかな歌声で。クリスティーナ役の華妃まいあ(はなき・まいあ)さん
タチアナの娘であり、ハンスの妹である心優しいクリスティーナ役は、99期生の華妃まいあ(はなき・まいあ)さん。重要な役どころで、一途にエロールを愛する純粋さゆえに、ある決断をしてしまいます。華妃さんの歌声はしっとりと伸びやかで、かわいらしさと共に目を惹きました。
■悲しさや淋しさが、ひしひしと。ハンス役の留依蒔世(るい・まきせ)さん
ハンス役の留依蒔世(るい・まきせ)さん。目付きまで酔った風なアルコールの精たちと登場して踊るシーンは、お酒に溺れているだけではない悲しさや淋しさが、ひしひしと伝わってきました。そしてそのハンスの母、タチアナ役は純矢ちとせ(じゅんや・ちとせ)さん。未亡人役で、色っぽさが声にも仕草にも前面に出ていました。後半、ハンスとタチアナが対峙するシーンは見ものです。
朝央れん(あさお・れん)さん、七生眞希(ななお・まき)さんはお二人とも同期生で、1幕最後のエロールの特別公演では歌手として、2幕では、筆跡鑑定人と刑事として一緒に登場するシーンが多く、印象に残りました。特別公演の歌手としてのお二人は、金色の幕を背に ♪ゴールデン、ゴールデン…と華やかに登場されていました。
舞台も衣装も「白」という演出の中で、見方によっては純粋に、あるいは空虚に見える一方、観ている人によって彩りを添えられる作品だと思いました。愛月ひかるさんを中心とした宙組26名の『不滅の棘』は、安定した演技と、高い歌唱力で、人類の見果てぬ夢「不老不死」の負の側面という深いテーマを描いており、一面「白」の舞台の中に、引き込まれる作品でした。