2017年7月13日から16日まで、高遠菜穂子さんの関西スピーキングツアーがおこなわれました。毎年各地で行われる彼女のイラク現状報告、今回も2度参加してきました。そのときのレポートをお送りします。報告会の少し前の7月10日、イラクのアバディ首相は、イラク北部の都市モスルを「IS(イスラム国)から奪還した」と勝利宣言を出しました。日本では、節目の大きなニュースの時しか話題にならないイラクですが、実際には現場で何かおきているのか、海外メディアの報道と合わせてぜひご覧ください。
今回の講演会でも、高遠菜穂子さんはまず歴史的な背景を説明しました。イラクにおけるイスラム教の中のシーア派とスンニ派の対立の歴史です。
2003年に米軍を中心とする連合軍によってサダム・フセイン政権が倒されるまで、イラクではスンニ派が支配層でした。その後、新しい政府も軍隊もシーア派が中心となり、対立が深まります。スンニ派弾圧を止めるよう求める市民から多くの犠牲が出ました。米国中心の占領軍もスンニ派地域を攻撃、「イラクの米軍刑務所がなければ、ISは存在していない」というIS幹部の言葉が全てを物語っているように、ISの苛烈な尋問・拷問のやり方は米軍占領下の刑務所に入れられた人たちが、自分の受けた拷問から学んだものでした。
ISはスンニ派。シーア派が多数のイラク軍はISを攻撃すると同時にスンニ派市民への弾圧を激化させていきます。憎しみと暴力の連鎖は、現在、「モスル奪還」の勝利宣言の陰で市民に紛れて逃げるIS戦闘員や、ISに関わりがあるとみなされた人たちへの拷問や殺害に引き継がれました。
このままでは、ISがたとえ壊滅しても、第二第三の”IS的なもの”が生まれる可能性があると菜穂子さんは言います。ISのメンバーやその協力者を人間ではなく、モンスターだと考え、殺されても仕方がないと思う人たちがたくさんいるからです。
モスルは解放されたけれど、モスルの人々の闘いは終わっていないし、この負の連鎖を断ち切るための人道的な支援はこれからますます必要になるでしょう。日本は、軍事ではなく、「人道支援先進国」になるべきだと菜穂子さんは提案しています。
関西でのイラク報告会を行う直前、菜穂子さんから「素晴らしいレポート。こういう記事を日本の人の読んでもらいたい」と送られてきたのがIRIN(Integrated Regional Information Networks:統合地域情報ネットワーク)が7月6日に出した記事「Starving civilians and suicide bombings: The terrible truth of liberating Mosul:飢えた市民たちと自爆テロ:モスル解放の恐ろしい真実」です。これから見ていただく動画はその記事の中で使われていたものです。最後までISの抵抗が続いたモスル旧市街、荒れ果てた町をイラク軍のHumvee ハンビー(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle 高機動多用途装輪車両)に同乗したIRINの記者が記録した映像をご覧ください。
※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、IRINの動画の英語全文のスクリプトと筆者による試訳、高遠菜穂子さんのイラク報告会の後半と、会で紹介された動画~Elite Iraqi troops torture, execute civilians in footage captured by photojournalist~が載っています。英語を自習したい方も、高遠菜穂子さんのイラク最新情報を深く知りたい方も、ぜひ有料ページをご利用下さい。
<有料会員限定部分の小見出し>
■イラク・モスル旧市街をIRINの記者が撮影した動画の英語テロップ解説と日本語訳
■平和国家の日本のイメージは過去のもの。顔の見える「人道支援先進国」を本気で目指したい
■日本のODAやNGOのやっていることを知ること。岩井文男 在イラク日本大使は中東で大人気
■子どもたちのあこがれの職業が、NGO援助ワーカーや国際援助団体で働く人になったら
■情報鎖国を克服して世界のニュースを知り、世界から見た日本の姿をチェックして
■米ABCニュースが製作した番組の動画より(拷問や殺人のシーンを含みます)
■次の”IS的なもの”を生まないためにも、人道的な支援に本気で取り組んでいくことが必要
<関連サイト>
イラク・ホープ・ダイアリー
http://iraqhope.exblog.jp/
イラク・ホープ・ダイアリーのイラク支援カンパ振替先
http://iraqhope.exblog.jp/13592012/
高遠菜穂子 フェイスブック
https://ja-jp.facebook.com/nahoko.takato
⇒すべて見る
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※ここから有料会員限定部分です。
■イラク・モスル旧市街をIRINの記者が撮影した動画の英語テロップ解説と日本語訳
With the battle against so-called Islamic State in its final throes, IRIN entered the devastated Old City of Mosul with the Iraqi army. いわゆるイスラム国との戦闘で、最終局面の苦しい状況の中、IRINの記者は、イラク軍に同行してモスルの旧市街に入った。 *Old City 旧市街
Months of fighting have left parts of the former stronghold with no clean drinking water, nowhere to get food, and no doctors. 何か月にも及ぶ戦いで、かつての拠点は、清浄な飲み水も、食べ物を得る場所も、医療者もいない場所になってしまった。 *stronghold 拠点、とりで、牙城
Roads, infrastructure, and homes have been reduced to rubble. 道も、インフラ設備も、家々も、すべて瓦礫に帰した。 *(be)reduced to ~ ~に要約される
Iraqi officials say it will take years and billions of dollars to rebuild. イラク政府関係者は、再建にはこの先何年もかかるだろうし、何十億ドルもの費用が必要だと語る。
The city must be cleared of mines, IEDs, and other explosives. この町は、地雷やテロリスト爆弾など様々な爆発物を取り除かなければならない。 *IED =improvised explosive device 簡易爆発物 テロリストが使う手製の爆弾などを指すことが多い。
Some residents have stayed put, a number are trapped, and others are returning home. 動かずじっとしている住民もいれば、少なくない数の人が捕らわれており、そして自宅に戻る人たちもいる。
Nearly 900,000 civilians have fled the violence in and around Mosul.暴力から逃れるため、モスルとモスル周辺を後にした人たちの数はおよそ90万人近くにのぼる。
They are among 3 million internally displaced people in Iraq. 彼らは、イラクの国内避難民300万人の中に数えられる。
Countless civilians have been killed, wounded, and left homeless. 数えきれない市民が殺され、傷つけられ、家を失ったままだ。
The months-long military struggle for control of Mosul is finally over. 何か月にも及ぶモスル奪還のための戦闘は、ようやく終わりを迎えた。
But for many Iraqis, the fight for a future is just beginning. しかし多くのイラク人にとって、未来のための闘いは始まったばかりだ。
■平和国家の日本のイメージは過去のもの。顔の見える「人道支援先進国」を本気で目指したい
高遠菜穂子さんのイラク報告を聞くと、目をそむけたくなるような過酷な現実に無力感をおぼえることがあります。でも今回、菜穂子さんの講演の後半で、私たちにも出来ることがあると、希望と勇気をもらった話がありました。
軍隊を持たない平和国家としての日本のイメージは、国際的には既に過去のものになったと、菜穂子さんは言います。戦争放棄と言いながら戦争のサポートをしている国。自衛隊のイラク派遣、武器輸出三原則の緩和、安保法案の可決・成立。世界から見た日本は、「矛盾した国」、平和国家と言いながらすでに軍事化の道を進む国なのです。そんな中、菜穂子さんが「大変だけど、疲れているけど、本気を出さないといけないと思います」と提案したのが、顔の見える「人道支援先進国」を本気で目指したいということでした。
そのために必要なことのひとつが、いつも繰り返し菜穂子さんの言う「情報鎖国」の克服。国際ニュースをきちんとチェックする。英語のニュースもがんばって読んだり聴いたりしてみる。ひとつのニュースソースに頼らずチェックを怠らない。ネットニュースだけでなく、きちんと取材された新聞記事を読み比べる。メディアリテラシーには、「これで大丈夫。私はもうメディアリテラシーを身につけた」という地点はないと菜穂子さんは言います。特に昨今のフェイクニュースが氾濫する中で、よほどの努力が必要だということでした。
■日本のODAやNGOのやっていることを知ること。岩井文男 在イラク日本大使は中東で大人気
顔の見える「人道支援先進国」を目指すためにするべきことのその2は、日本のODAやNGOのやっていることを知ること。ここで、ひとつとても嬉しい情報を菜穂子さんから聞きました。岩井文男在イラク日本国大使が、イラク国内のみならず、中東で大人気だというのです。韓国アイドル並みの人気者だという岩井大使は、30年来イラクと付き合いがあり、イラクの方言も達者。ラマダンのお祝いや、モスル解放の祝辞などを事あるごとにイラクの言葉でスピーチされているそうです。避難民キャンプにも足を運ばれている大使は、日本のイメージアップに大きく貢献しています。 参照⇒在イラク日本大使館ホームページ
そして、今回特に菜穂子さんが強調したのは、国際協力の現場に日本からもっとたくさんの人が来てほしいとうことでした。「自衛隊さんに任せておけばいい」という話ではないのです。それどころか、世界の情勢や現地のニーズを知らないまま、出来ることも限られた状態で出て行く自衛隊員には、フラストレーションがたまるばかりというのが菜穂子さんの報告です。国際協力の現場にはいろいろあって、何も戦闘の最前線で働くということばかりではなく、そこから少し下がった場所で、命からがら逃げてくる人たちを直接助ける仕事はたくさんあると、菜穂子さんは言います。そこには、非武装の民間人が沢山働いているのです。水を配る、食べ物を配る、医療サービスを施したりする、世界中からやってきたボランティア、エイドワーカーで成り立っている世界があるというのです。そういう場所にもっと日本の人がいてくれたらというのが菜穂子さんの願いです。
例えば、アメリカのNGO「NYC Medics ニューヨークシティメディックス」は人道的な危機のあるところにはいち早く飛んで行って医療支援を行う団体ですが、モスルでも前線から数キロの場所に急ごしらえの設備で、戦闘で傷ついた市民やイラク兵の治療にあたっています。そして、例え怪我を負っているのがISの戦闘員であっても、応急処置を施しているのです。菜穂子さんは言いました。通訳のイラク人が、「こいつはISだ、治療なんかしなくていい!」と騒ぐようなときも、NYCメディックスの医師はこんな言葉を発したそうです。
- 「我々はここにジャッジをするために来たのではない、人の命を救うために来たんだ。我々は医者だ」
また、菜穂子さんのイラクでのパートナーであるPLC(Preemptive Love Coalition)という団体のメンバーは、” Love across enemy lines 敵陣を越えて愛する” と胸に書かれたTシャツを着て、救援物資を持って出かけて行く時、こう語るのだそうです。
- 「我々は人々が逃げてくるのを待たない。我々がそこまで行く」
■子どもたちのあこがれの職業が、NGO援助ワーカーや国際援助団体で働く人になったら
菜穂子さんも、菜穂子さんの話を聞きにくる若い人たちも、そして筆者も、こうした言葉を聞くと、なんてカッコいいんだろう、なんて素晴らしいんだろうと思います。そういう人がもっと増えて、30年後くらいに、子どもたちのあこがれの職業が、NGO援助ワーカーとか国際援助団体で働く人とかエイドワーカーというふうになったら、その時こそ日本は本当に「人道支援先進国」と言えるのではないかと菜穂子さんは言いました。
今はまだ多くの人が、「菜穂ちゃん、そんな危ないところには行かずに、自衛隊さんに任せてておけばいいよ」というふうに菜穂子さんに声をかけるそうです。火山噴火後のフィリピンに教育支援に出かける私でさえ、似たようなことを言われた経験が何度もあります。しかし、と菜穂子さんは言います。
- 「自衛隊員も限界を感じています。イラク戦争時、サマワに来ていた自衛隊の人たちは、自分たちに出来ることの限界を感じて辛かったと思います。”給水”が、彼らの仕事のひとつでしたが、実はサマワの人は水はあんまりいらなかった。彼らが一番欲していたのは実は電気だったんです。でも、それは自衛隊の人たちには出来ないことだったんですね。」
■情報鎖国を克服して世界のニュースを知り、世界から見た日本の姿をチェックして
では、自衛隊でなければ誰が顔を出して、人道支援の現場に行くのか?菜穂子さんは続けます。
- 「例えばペシャワール会の中村哲さんを、私も大変尊敬しているのですが、哲さんひとりを崇めて、哲さんにお願いしよう!とすべてお任せしてしまうのではダメなんじゃないか。国際社会の中で日本はどんな貢献をするんだと言われたとき、中村哲さんのような人が100人、1000人、いや10000人いないといけないんじゃないかと思うのです。中村哲さんが千人、一万人出てきたら、顔の見える人道支援と、ようやく言えるんじゃないですか?日本人はどこかに津波や地震が起きたらすぐに飛んできてくれるね、というイメージがようやく生まれるんじゃないですか?」
10000人の中村哲さんを、あるいは10000人の高遠菜穂子さんを生み出すために、今私たちが出来ることは、繰り返しになりますが、情報鎖国を克服して世界のニュースを知り、世界から見た日本の姿をよくチェックして、人道支援の現場に出かけて行くことがとても大切な仕事だと認識することが必要です。自分が現場に行けなくても、少なくとも、「現場に行ってみたい」と興味関心をもった若者を応援し情報収集に協力するような大人であることもまた、大事な役割です。
■米ABCニュースが製作した番組の動画より(拷問や殺人のシーンを含みます)
最後にもうひとつ、YouTubeの映像を見ていただきます。今回の高遠菜穂子さんのイラク報告会でも流された、アメリカのABCニュースが製作した番組~Elite Iraqi troops torture, execute civilians in footage captured by photojournalist~です。暴力と憎しみの連鎖が今も続いていることがはっきりと映し出されています。
拷問や殺人のシーンもありますので、見たくない方は文章の解説だけをお読みください。
イラク人フォトジャーナリスト、アリ・アルカディ氏は、ISと闘うイラク軍ERD(緊急即応部隊)に同行、戦場を取材しました。2016年のファルージャ奪還から、今回のモスル奪還まで、イラクの中でISが力を失っていく時期のことです。映像の音声の前半を一部書き起こし、訳をつけました。
We begin with an ABC news investigation in a place where cameras rarely go, inside the fight against ISIS. まずはABCニュースの調査報道をお送りします。カメラがめったに入らないところ、ISISとの戦闘の現場です。 *ISISは、ISの別称でIslamic State of Iraq and Syria(イラクとシリアのイスラム国)の略
This story involves a photo journalist embedded with Iraqi soldiers working with America to take down ISIS. 米軍と共にISISを倒そうとするイラク軍兵士に同行したフォトジャーナリストが取材しました。
But what this reporter witnessed on the front lines was far from heroic.しかし、彼が前線で目撃したのは、英雄的行為とはかけ離れたものでした。
He saw these U.S. Allies torturing and murdering civilians, behavior that’s being described as nothing short of sadistic. しかし、彼が目撃したのは、米軍と同盟関係にあるイラク軍が、市民を拷問し殺害するところでした。その行動は、サディスティックとしか言えない酷いものでした。
They are against ISIS. ISIS:イラクとシリアのイスラム国と戦闘をおこなっている。
The hours of video and still photos are the result of great battlefield courage by this Iraqi photo journalist, Ali Arkady, who was embedded last year with the emergency response division. 何時間ものビデオや写真を撮ったのはアリ・アルカディ氏で、勇敢にもERDと戦場で行動を共にした結果である。
But tonight Arkady is showing another kind of courage, blowing the whistle on soldiers he followed and became friends with. Revealing for the first time graphic scenes of torture and murder of civilians. しかし今夜、アルカディ氏は別の勇気を見せた。友となった兵士たちを告発したのだ。市民を拷問し、殺害する様子を公表することで。
Invited to travel with the emergency response division, his original idea was to feature these two Iraqi soldiers as heroes. A captain from the Sunni sect of Islam. And a corporal from the Shia sect. アルカディ氏は、もともと、ふたりのイラク兵士をヒーローとして描こうとしていた。スンニ派の大尉と、シーア派の伍長をとりあげて。
So your idea was to show a positive story. 前向きな話を見せたかったのですね?
Yeah. People from both sides of the religion. Yeah. Working together against ISIS. そうです。宗派の違うふたりが一緒にISISと闘うという話を伝えたかった。
But it was on this night raid outside Mosul last November when Arkady says he began to realize the soldiers he was following were no heroes. しかし、昨年11月、モスル近郊での襲撃の夜、アルカディ氏は、一緒に行動している兵士たちはがヒーローではないと気づく。
Entering the home of a family, they ignore a crying mother and her children. 兵士たちはある家族の家に押し入り、泣いている母親や子どもたちを無視した。
They pull the husband outside and begin to beat him. Claiming he and his wife once helped ISIS. 母親が、夫の方を外に連れ出し、兵士たちは彼を殴り始めた。彼と妻が、ISISを助けたことがあるという理由で。
フォトジャーナリスト、アリ・アルカディ氏が、明るいニュースとしてとりあげようとしていたのが、この写真に写っているナザール大尉です。同行取材中に親しくなったアルカディ氏と親しくなったナザール大尉は、「とても良い人」だったそうです。シーア派が多数を占めるイラク軍の中で、スンニ派のナザール大尉が、宗派を超えてISを打倒するために力を尽くしているという報道は実現しませんでした。市民を拷問する彼の姿を見たアルカディ氏は内部告発の道を選び、アルカディ氏には今、かつて友と思っていた人たちから殺害すると脅かされて、イラクを離れています。拷問や殺害の記録映像を、イラク軍はISによる「ねつ造」だとしていましたが、ナザール大尉はABCとの電話で映像が本物であると認めました。そしてこのように語ったのです。
- We have made mistakes, but they were all directed towards the enemy, ISIS, and I’m proud of those mistakes. 我々は過ちを犯したが、それは敵であるISISに対して犯した過ちであり、私はやったことに誇りをもっている。
- He is not human, he is a monster….人間じゃない、モンスターが相手なんだから…
アルカディ氏が公表した映像の中でも、特に恐ろしい場面のひとつが、ISのメンバーだと言わせるための拷問テクニックは、米軍から学んだという下記のくだりです。サディスティックで不必要な暴力が、アメリカから学んだ方法で行われていることに問題の深さが見えます。
On this night, the torture by the ERD unit of two Iraqi brothers was led by a soldier described to Arkady as the unit’s liaison with the U.S. Military. この夜、イラク軍ERD(緊急即応部隊)によってふたりの兄弟が拷問されたが、率先して拷問をおこなったのは米軍との連絡役を務めている兵士だった。
The torturer himself told Arkady that American soldiers taught him this so-called interrogation technique, applying the point of a knife to a sensitive spot behind the ear. その兵士はアルカディ氏に、拷問の方法はいわゆる尋問テクニックとして、米兵から教わったものだと語った。耳の後ろ側にある敏感な部分にナイフの切っ先を当てるのだ。
The two brothers, one a car salesman, the other who owned a falafel stand, were supposedly under suspicion as ISIS supporters. Although Arkady says the soldiers knew they actually had escaped from ISIS. 拷問されたふたりの兄弟は、ひとりは車のセールスマン、もうひとりはファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)売りで、ISISのサポーターではないかと疑われたということだった。しかし、アルカディ氏によれば、兵士たちは、ふたりが実際はISISから逃げてきたのだと知っていたと語る。
■次の”IS的なもの”を生まないためにも、人道的な支援に本気で取り組んでいくことが必要
高遠菜穂子さんの講演の中でも触れられたのが、戦争のモラルが低下しているのではないかという指摘です。ISは極悪非道のモンスターだから、殺されて当然だという考えが、イラクにおいてだけではなく、世界的に広まっていないか。コラテラル・ダメージ(巻き添え被害)も、対テロ戦争の場合は仕方がないという考え方が広まることに、菜穂子さんは警告を発していました。ISだろうとなかろうと、怪我をしている人を治療するというNYCメディックスや、助けを必要としている人のところにこちらから出かけて行くというPLCの考え方の方が本当で、そちらの方が「カッコいい」というふうに空気を変えていきたいと、私も心から思いました。負の連鎖を断ち切り、次の”IS的なもの”を生まないためにも、私たちは人道的な支援に本気で取り組んでいくことが必要だと感じた、今年の高遠菜穂子さんのイラク報告でした。