筆者は現在、複数の語学学校で英語講師をしています。学生時代のアルバイトも予備校で英語を教えることだったので、講師としてのキャリアはとても長いのですが、アメリカやイギリスに留学したこともなければ、オーストラリアでワーキングホリデーを過ごしたこともありません。中学校では英語が苦手だったこともあり、いわゆる帰国子女型のナチュラルに身に着いた英語ではなく、様々な国の人々とコミュニケーションをとるための「道具としての英語」を使っています。行くつもりがなかった英文科に、事情があって入ってしまったからには、言葉が使えるようにならなければもったいないという思いだけで、一生懸命勉強しました。CDや二か国語放送くらいしか生の英語に触れられなかった私の学生時代に比べて、今は本当に便利になりました。ウエブやニュースや動画など、教材用に加工されていない生きた英語がたくさんあります。それらを使って、こんな風に英語を勉強したら楽しいのでは?というお誘いのエッセイをこれから連載していきたいと思います。
まずは、英語を教える傍ら、NGO活動をしている筆者の大好きな国、フィリピンの非営利団体PhilDev Foundationが製作した動画 “A Farmer’s Son “をご覧ください。
シンプルで分かりやすい英語が使われています。スピードもゆっくりなので、初めて生の英語に触れるにはぴったりだと思います。しかも内容が豊かで感動的です。フィリピンの片田舎で農民の息子として育った Dado Banataoさんが、自らの半生を語り、次世代のフィリピンの人々にeducationとinnovationとentrepreneurshipを通してチャンスを与えたい。 “My story could be your story. As Filipinos, it must be our story.” だと締めくくります。
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動画を見始めると19秒までは音声ではなく、英語の字幕が出ています。20秒から、PhilDev創設者のDadoさんが語り始めます。ここから1分01秒までの部分、情報や意味のかたまりごとに動画を一時停止させて、英語を繰り返してみましょう。意味の分からない単語があっても大丈夫、音だけ真似て発音してみてください。
※再生した後に、もう一度指定位置から再生する場合は、ページを更新して下さい。
My name is Dado Banatao. / I come from the North. / My father was a farmer. / I am an engineer. / I grew up / in a typical barrio / in Cagayan Valley. / Back then / there was no electricity, / no telephones./ I was taught Math / by moving bamboo sticks./ There were no luxuries. / Almost all of my classmates / stopped going to school / after sixth grade / to help in the fields. /
1分間で66words ですから、非常にゆっくりしたスピードです。Dado Banatao(人の名前)、 Cagayan Valley (フィリピンの地名)といった固有名詞と、barrio(村)というタガログ語が難しいだけで、あとは知らない単語はないのではないかと思います。すらすら言えるまで練習してください。まずは音に慣れます。
次に内容の理解です。平易な英語なので、リピートしただけで意味もはっきり分かった人はもうOKです。でも、どんなに易しい英語でも、日本語に訳さないとはっきりわかったような気がしない方は、英語の語順のまま、意味をかたまりで納得していくことが、早く英語を理解するコツです。
My father was a farmer. とか、I am an engineer.なら、そのまま理解できるでしょうが、 I was taught Math / by moving bamboo sticks. は、「竹の棒を使って、計算の仕方を教えてもらいました」という自然な日本語にならないと納得しないようでは、時間がかかりすぎです。映像もついているわけですから、「数の数え方を教えてもらった / 竹棒を動かして」くらいの感じで理解していってください。
Almost all of my classmates / stopped going to school / after sixth grade / to help in the fields. 「クラスメイトのほとんどは/ 学校に行くのを止めた / 6年生を終えたら / 畑仕事を手伝うために」 いつもこんな感じで英語の聞き取りをしてくださいね。
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この動画には、あとで自分でも使える表現がいくつがあります。せっかくなので覚えてしまいましょう。たとえば1分11秒から始まる『私の仕事は家族を食べさせること、お前の仕事は勉強することだ』と父はいつも明言していた、というセリフ。 「家族を食べさせる」「明言していた」英語でどう表現しましょうか? まず自分ならどう言うか考えてから、動画を動かして聞き取ってください。Dadoさんはどう言いましたか?
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He made it clear. / His job was to keep food on the table. / My job was to study. /
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Dadoさんは学校を卒業し、アメリカにわたり、人一倍勉強して大学を出てエンジニアになります。会社を起こして失敗。でも再び立ち上がり、挑戦します。その次の会社は成功します。今も、かつての自分が育ったような場所で貧しい暮らしをしているフィリピンの人たちに、チャンスを与えたい。だから非営利団体のPhilDevを作ったと語るDadoさん。動画の最後の方は、将来への夢を語っています。3分17秒からの文章を聞いてみてください。
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We imagine the Philippines/ where every school has Internet, /where deserving student are given scholarships /so they never have to stop learning,/ where thousands of young Filipinos start companies /that hire millions more… 「私たちはこんなフィリピンを想像する。/ 全ての学校にインターネットがあって/ 援助を受けるべき学生には奨学金が与えられていて/ だから誰も学ぶことをあきらめないでいいフィリピンを。/何千人という若いフィリピン人が会社を起こし/何百万人ものフィリピン人を雇っているフィリピンを想像している。」
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この動画を使った勉強のしめくくりに、Dadoさんの最後の言葉を聞き取ってみましょう。( )の中に言葉を入れて、訳してください。
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We know ( ). It’s time we ( ) success. I am not so special. But I am ( ). My story could be your story. ( ) Filipinos, it must be our story.
英文聞き取り解答
We know hardship. It’s time we learned success. I am not so special. But I am determined. My story could be your story. As Filipinos, it must be our story.
解説と日本語訳は、この下からログインして、ご覧ください。有料会員様向けのおまけとなります。
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アイデアニュース有料会員向け【おまけ的小文】 Could はいつも過去を表わすわけではありません (松中みどり)
英文聞き取り解答
We know hardship. It’s time we learn (learned) success. I am not so special. But I am determined. My story could be your story. As Filipinos, it must be our story.
短い文章で、聞き取りも易しいですが、仮定法が使われているため微妙なニュアンスの差があります。そこが分かるようになると英語が楽しくなると思います。
We know (hardship). It’s time we (learned) success. I am not so special. But I am (determined).
hardship (名)経済的な窮乏、困苦 learn (動) 学ぶ、覚える determined (形)固く決心している
「我々は苦労ならよく知っている。(次は)成功を学んでもいい頃だ。私はそれほど特別な人間ではないが、(成功しようとする)決意は固い」。 It’s time の後に続く文章は、「もう~してもいい頃だ」という意味で、未来への期待、願望、要望を過去形で表す仮定法過去(現在の事実に反することを表す表現)です。動画ではlearn と言っているか、learned と言ってるか微妙なのですが、文法的な標準形はlearnedです。
My story could be your story. (As) Filipinos, it must be our story. このふたつの文章は、if を使わず、仮定法を暗示しています。could という助動詞の過去形が使われていますが、助動詞の過去形が過去を表わすとは限らないですし、could で過去を表すときは、はっきりとそれを示す言葉が必要です。
たとえば I could run fast when I was young. 「若いときは早く走れた」のように、過去を表わす when I was young のような言葉が付いていれば、このcould は過去のことを表しています。
過去を表わす言葉とセットでない場合、話の内容の可能性が低い、もしくは丁寧に慎重に物事を述べる表現になります。たとえばCan you help me ? とCould you help me ? のような文章は、ダイレクトに「助けて」と頼んでいるか、「ひょっとしたら助けていただけますか?」というような差を生みます。My story could be your storyは「私の物語は、もしかしたらあなたの物語になるかもしれません」というような意味になります。
As Filipinos, と言う表現は、前置詞as +名詞で、意味は「フィリピン人として」 この動画を見ている人がどこの国の誰かはわかりませんが、もしもフィリピン人なんだったら、もう、could を使って悠長に「かもしれません」なんて言ってる場合ではありません。こんな風に成功で終わる物語を、必ず自分の物語にすべきだという意味で、ここではmust が選ばれたのだと、筆者は考えています。
「フィリピン人ならば、この物語を自分たちの物語にするべきなのだ」 「あなた方がもしフィリピン人ならば、この物語は、自分自身の物語にしなければならないのだ」といった訳が考えられますね。
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