2019年にミュージカル『レ・ミゼラブル』にジャベール役(トリプルキャスト)で出演し、2021年の『レ・ミゼラブル』にもジャベール役(トリプルキャスト)で出演する伊礼彼方さんと、2020年11月にミュージカル『Les Miserables』を上演した大阪大学ミュージカルサークル「みーあキャット」の学生の皆さんの座談会を、アイデアニュース主催で開きました。伊礼さんと大阪大学のジャベール役の学生との「ジャベール対談」のほか、『Les Miserables』に出演した「みーあキャット」のメンバーは2021年4月に大学4年生(4回生)となる学生が中心だったことから、就活や仕事をめぐるやりとりが飛び出した座談会の様子を、上下に分けて紹介します。(司会:アイデアニュース編集長・橋本正人)
伊礼:こんにちは。みなさんご存じだと思いますが、ミュージカル、舞台をメインに活動している伊礼彼方です。どうぞよろしくお願いいたします。
学生:よろしくお願いします。
伊礼:『レ・ミゼラブル』は、前回出演した2019年が僕にとっては初演で、今年も出演が決まっています。
学生:(大拍手)。
伊礼:レミゼのことに関しては僕もまだ1年生、関西の大学では「1回生」って言うのかな、本当に新人です。だから『レ・ミゼラブル』に関しては、みなさんの方が勉強してるんじゃないかなと。
学生:いやいやいや(笑)。
伊礼:でも意外とそうだったりするんですよ。レミゼについては、ファンの方でも本当に詳しい人がたくさんいるので。
(ここから、学生が1人1人『レ・ミゼラブル』で担当した役などを交えて自己紹介。伊礼さんも自己紹介を兼ねて、中学時代に文化祭でバンドを組んだ時の話や、路上ライブなどを含めて音楽活動を続けたけれども厳しく、24歳でミュージカル『テニスの王子様』に出演し、ミュージカルの道に進んでから道が開けたことなどについて説明。質疑応答に移りました)
学生:演出家さんは、役者に対して、動きや役作りだったりを、どこまで要求するものなんでしょうか?
伊礼:人それぞれですが、自分の思い通りに動いてほしいと、全部決める演出家もいます。上手から3歩歩いたら効果音が出るから、そこで振り向いてセリフを言ってとか。
学生:へえー。
伊礼:そういう現場もあれば「とりあえず好きにやって」という人もいます。我々はその都度、演出家に合わせることをしますが、その中でも、自分の色というものを出していかなければいけないということです。『レ・ミゼラブル』は、世界共通の動きが決まっています。たとえば、ジャベールはトリプルキャストで3人いるわけですが、みんな同じ動きなんです。トリプルキャストだと1人あたりの稽古時間が短くなって、稽古で充分に合わせることができないまま本番を迎えることもありますが、同じ動きだから対応できる。合わせていなくても、お互いの芝居を見てるので、感覚はわかる。そのためにも、同じ動きをしなきゃいけないんです。
学生:なるほど。
伊礼:ただ、同じ動きでも、動くスピードとか表情とか、たとえば憎しみを表現する場面で、どの言葉に憎しみを込めるかなどは俳優に委ねられているので、そこでオリジナリティを出せる。だから同じ役を見ても違うと感じるんです。2019年の『レ・ミゼラブル』では、長くレミゼを観てきた人が「伊礼さんのジャベールは、これまでにないジャベールだ」と言ってくださったのが、とても励みになりました。
学生:アンサンブルの方の立ち位置とかも決まっているんでしょうか。
伊礼:決まっています。舞台の上で一人だけでいるときはある程度自由にやれますが、複数の人がいるときは立ち位置や段取りが変わると事故の原因になると困るので、きっちりと決まっています。それを、どれだけリアルに、自由になっているように見せるかというのが、我々の技術です。
学生:アンサンブルの人が、後ろで喋っている内容とかも全部決まっているんですか?
伊礼:それは自由です。
学生:何をしゃべってるんかなぁって、すごく見ちゃうんですよね。
伊礼:おとなしい方もいれば、うるさいぐらい話をしている人もいます。それぞれが役の特色を活かしてやってます。そういうのをオフ芝居と言うんですけど、背景とか風景をリアルに作っているわけだから、アンサンブルのそういう存在は絶対に必要なんです。アンサンブルの方がいなければ、我々がどれだけ訴えても、空気感は作れないから。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、伊礼さんと同じ役で出演した学生との「ジャベール対談」など、座談会の前半部分の内容と写真を掲載しています。3月16日(火)掲載予定のインタビュー「下」では、就活や仕事をめぐる伊礼さんと大学生のやりとりのほか、伊礼さんが24歳でミュージカルと出会ってからこれまで、何を心がけてきたのかなどについても伺った座談会後半の内容と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>
■学生:ジャベールの役作りは? 伊礼:居るだけで存在感が出せるように
■伊礼:ジャベールやってどう? 学生:楽しかった。伊礼:やばい、勉強になる
■学生:ミュージカルを続ける原動力は? 伊礼:中学校の文化祭が印象的すぎて
■伊礼:失敗しても戻ればいい。大切な人が一人でもいれば、やり直しはきく
<浦井健治×伊礼彼方『スタートライン』&『fullmoon』>
【CD】2021年3月8日発売開始 ¥1,500(税込)2曲+カラオケ
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<舞台『ダム・ウェイター』>
【東京公演】2021年3月16日(火)~3月28日(日) 下北沢・小劇場楽園
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<みーあキャット2期生公演『The SOUND of MUSIC』>
【大阪公演】2021年3月27日(土) 豊中すてっぷホール
https://twitter.com/handaimusical/status/1371047265792618498
<ミュージカル『レ・ミゼラブル』2021年公演>
【プレビュー公演】2021年5月21日(金)~5月24日(月) 帝国劇場
【東京公演】2021年5月25日(火)~7月26日(月) 帝国劇場
【全国ツアー公演】2021年8月~10月 福岡・大阪・松本
https://www.tohostage.com/lesmiserables
<みーあキャット3期生新人公演『ロックオペラ モーツァルト』>
【大阪公演】2021年5月23日(日) 池田市立アゼリア小ホール
https://handaimusical.miiiacat.work/posts/12784270
<みーあキャット第6回公演『アラジン』>
【兵庫公演】2021年7月10日(土) なるお文化ホール
https://handaimusical.miiiacat.work/posts/12770398
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■学生:ジャベールの役作りは? 伊礼:居るだけで存在感が出せるように
学生:役作りにどういうことをしますか?
伊礼:ジャベールに関して?
学生:ジャベールでお願いします。
伊礼:本(台本)は、ト書き、セリフ、ト書き、セリフ・セリフ…みたいな感じでカクカクしていているから、導線を緩やかにしていかなければいけない。機械的にやろうとすればやれてしまうし、レミゼの場合は音楽を奏でてくれるから、意外と何もしなくても成立してしまうのが、いいところでもあり、怖いところでもある。『レ・ミゼラブル』は、役者に「あれ? 俺、うまいかも?」って勘違いさせてしまうぐらい、作品がよくできています。そこに役者は、音楽が鳴ってなくても、たたずまいだったり仕草だったりに、想いをどれだけ詰められるか。
僕は、本を地図だと思っていて、地図を見て「どんな旅をしようかなー」と頭の中で1回イメージします。ジャベールで言えば、なぜ、あんなに必要以上にジャン・バルジャンを追い詰めるんだろうと考えます。悪役に見えがちだけれど、たぶん理由があるんですよね。幼少期の家庭環境に何らかの問題があったとか、バルジャンのような囚人を昔とらえられなくて、執念みたいになってるとか。理由は何でもいいんですけど、とにかくそこを深めることが大事。そこが深くなると、居るだけで存在感が出せると思うんです。
たとえば「好きだよ」というセリフでも、本当に好きで言っている場合もあれば、ごまかすために言ってる場合もある。中に何が隠されているのかっていうことをしっかり作っていると、そのセリフが初めて生きる。
■伊礼:ジャベールやってどう? 学生:楽しかった。伊礼:やばい、勉強になる
司会:伊礼さんから、ジャベールを演じた彼に聞くことはないですか?
伊礼:ジャベール、やってみてどうでしたか?
学生:ものすごく楽しかったです。
伊礼:楽しかった? ほんと?
学生:練りがいがあるというか。あの人がやっていることの裏を考えないと、ただの警官でいいってことになってしまうじゃないですか。主人公を追うだけ、主人公を追い詰めるだけの役にならないようにと考えていったら、スターズ(星よ)の歌だったり、自殺だったりに反映されて行きました。自分は、これまでいくつかの作品で何役かやったんですが、今までの中で一番、準備が生きるということを感じて、ものすごく掘り甲斐がありました。
伊礼:やばい。勉強になる。
(一同、爆笑)。
伊礼:俺はジャベールを始めた時に、苦しくてしょうがなかった。『レ・ミゼラブル』は、バルジャンの一生なわけだよね。他のキャストはポツポツ出てきて、ジャベールは冒頭に出たら次のシーンは何年経ってるんだよって。そこで言われたのは「出てくるたびに空気を変えてくれ」ということ。
学生:へえ~~。
伊礼:ジャベールって、孤独なんですよ。一人で出てくるんです。だから、みんなが舞台にいても、ジャベールが出てきて、ピタッと空気を止めなければいけない。そのためのオーラを出さなければいけない。30年の歴史もあるし、その存在を担ってきた諸先輩方がいて、比べられたりもするし、どうすれば新しいジャベール像を作り出せるのかって葛藤があって。自分は39歳になったんですけど、ジャベールとしては若いですよね。どこまで表現できるんだろうっていうプレッシャーがあって、俺、そんなふうに楽しめなかった。
学生:(笑)。
伊礼:そういえば、この前、久しぶりに歌稽古したんだけど、歌うのは、しんどいよ。君は、よく歌えたね。でも、一度経験してみたらいいけど、歌ってると「もっともっと」って言われるんですよ。一時間半ぐらい練習すると、喉が枯れるんです。喉で歌ってるわけじゃないけど、それぐらいの強さを求められる。腹筋を、ぎゅ~~って絞り出さないと出ないぐらい。でも、前回できなかったことにチャレンジしようと思ってるんで。君が今日言ってくれたことを反映して、楽しめるように。
学生:(笑)。
■学生:ミュージカルを続ける原動力は? 伊礼:中学校の文化祭が印象的すぎて
学生:伊礼さんがミュージカルを続ける原動力って何ですか?
伊礼:中学校の文化祭が印象的すぎて、あれを超える感動を人生で得られなかった。あの文化祭を超える刺激、興奮は未だに得ていないんですよ。だからそれを追い求めている自分がいる。一人でライブをやっても、大きなステージに立っても、それを超えることはない。それがたぶん、活力になってるんじゃないかな。やめられない理由はそこなんだと思う。いつかまた、あの時の感動を得たい。本当にすごかったんだよね。子供たちが、ウワーーーーー!って、俺も子供だったけど(笑)。
学生:(笑)。
伊礼:みんな中学3年生だったけど、言葉にできないよね、あの感動。とにかく全身が震えた。俺は、これを求めて生きていくんだって。結局、職種は俳優に変わりましたけど、やっぱり生にこだわってるのはそこなんです。映像が嫌いなわけじゃないけど、やっぱり生なんですよね。
学生:私はミュージカルをやっている時が一番楽しいって分かっているけれど、勉強もしなくてはいけないし…。
伊礼:勉強はした方がいいよ。俺は、学校での勉強が足りなくて大変だった。今、俳優以外に活動が増えたから、同時進行で勉強しなければいけない。学んでいて損はない。皆さんの話し方やたたずまいを見ていると、やっぱり大学は卒業したほうがいいなって思うもん。その時に経験できることって、その時にしかできないから。
■伊礼:失敗しても戻ればいい。大切な人が一人でもいれば、やり直しはきく
伊礼:じゃあ、みんなに聞きたいけど、これからエンタメの世界に進んでいく感じなの?
学生:進路に迷っていて。
伊礼:迷う理由は何なの?
学生:一番楽しいのはミュージカルだけれど、ミュージカルを仕事にできるわけでもないし、これまで勉強してきたのなら、そっちの仕事に就いた方がいいのかなって。
伊礼:なるほど。僕は、常に新しい刺激を求めてるんですよね、人生に。だから同じ道に進んでいったらこれからどうなるのか予想がつくと、じゃあ新しい道に進んでみようって。「食えなくなるかもしれないけど、いいい? マネージャー」って。そういう決断をしたりするんですよ。
学生:そういうの、憧れます。
伊礼:憧れるけど、たぶん周りはヒヤヒヤしているから、どうすれば成功できるかっていうのは練らなきゃいけないよね。興味本位だけで行っちゃいけない。下積み、準備はしとかなきゃいけない。全てに準備は必要だから。でもその勇気って、なかなか持てないと思う。
学生:難しいです。
伊礼:学校を出て、大企業に就職することが幸せだという家庭に育ってたら、その考えを180度変えるのは、なかなか難しいよね。ただ、それがすべてではないことは伝えたい。こんなに学歴に差はあるけれども、自分の人生を幸せに、まっとうに生きている人はいるってことを知って欲しいなと思います。勉強は大事だけど、学校に行って、そのあとに好きなことをやるでも遅くない。たとえ好きな道に行ってくじけても、大学などを卒業していれば、また別の仕事につくこともできる。俺は、職種を変えようと思ったら、高校からやり直さなければいけなくなるから、その道しかないというのが強みでもあるけれど、みんなには選択肢があるから迷うんだと思う。でも、とことん迷った方がいいし、迷ってそっち行って失敗しても、また戻ればいいわけだから。まだ21歳でしょ。
学生:私は、22歳です。
伊礼:22歳。俺は39歳だけど、間違ったら戻ればいいやって、この歳でも思ってるし、戻れるってことを知ってる。戻る時に支えてくれる周りのカンパニーだったり家族だったり、自分の大切な人が一人でもいれば、いくらでもやり直しはきく、と思います。
学生:ありがとうございます。