小西遼生と伊礼彼方の対談2回目。ともに1982年2月生まれのふたりが、出会ってから今に至るまでを語ってもらった。入れ替わりダブルキャストで共演する「エンド・オブ・ザ・レインボー」への意気込みも聞いた。(今回の写真はモノクロです)
いつの頃からか、同じ匂いがする役者だと思っていたのだが、対談を通してやはりと思った。役者や芝居に対する思いが共通している。ふたりが出会ったのは27歳のとき。小西が「レ・ミゼラブル」のマリウス役を演じていた地方公演のときに、プライベートで一緒に食事をする機会があった。同世代だと知り、同年代が頑張っているだけで興味を持ったそう。その後も、作品を見に行って互いが出演していたりすると、楽屋で顔を合わせ、「今度一緒にやろう」と話した。「過剰に意識しているわけでもなく自然で、いつのまにか時間が経った感じがする」という。
伊礼は小西と出会う前の、ミュージカル「テニスの王子様」に出演したときのことを話してくれた。前の世代のDVDを見て、その熱気を知ったという。そこに映っていたのが小西だった。「小西くんは俺にとっては先輩。先に『テニスの王子様』から出世した役者と言われていて、『そうなんだ』と思っていた。当時はまだ帝国劇場や『レ・ミゼラブル』を知らず、大作の凄さを知らなかったから。自分も『テニスの王子様』を終えて『エリザベート』のルドルフ役に受かると、同じように言われるようになった。当時は、2.5次元作品から帝国劇場に出演するというのは、多分すごいことだったんだと思う」と明かした。これは小西も初耳だったようだ。
ルドルフ役をやることによって、これを出世と呼ぶことがわかったのかと聞くと、ふたりは声を揃えて「これを出世とは思わない」と言い切った。伊礼は「小西くんが言われていたのはこのことか。これはまだスタート地点だな」と思ったそう。小西はマリウス役を演じたが、同じように思ったそうだ。小西は「出世した役者だと言われていたことを、今はじめて知ったくらいで、その頃は劣等感しかなかった。今も劣等感の方が大きい」という。他人から見れば羨む出世でも、当人はまだまだだと思っている。これはどんな仕事をしている人にも共感できる話ではないだろうか。
ふたりが初共演したのは、TSミュージカル「眠れる雪獅子」。舞台上でいっさい絡まない役だったことは残念だったけれど、面白い作品だったと思い返す。一緒に芝居をするようになって視点が変わったかと聞くと、「特別なことは何も変わっていない」と語りあう。伊礼が「あくまでも個人の見解だけれど、僕の中で俳優さんと役者さんは違う。具体的には説明しづらいが、僕は俳優より役者になりたいとずっと思っていて。なんとなく小西くんにも同じ匂いを感じ、役者だなと思う。そこが好き」と告白すると、「今の、最後にハート付いてたよね!」と顔を見合わせ爆笑する(この伊礼の発言に、なぜ小西が突っ込んだのかは、おまけコーナーを読むと納得して頂けるかと)。
すれ違う役でなく、タッグを組んで芝居をしたいというふたり。続けていればどこかで一緒に出来ると未来を語り、以前ふたりで語りあったことを話してくれた。それは「おじいちゃんになっても役者をやっていると言えたらいい」という目標だ。伊礼は「諦めたらおわり。苦しいこともあるだろうけれど、頑張っていればこの世界で生き残れる。長く、細く、ずっとやっていたい。芝居で食べていられたら最高」と、小西は「出来るだけ純粋に、好きでやっている感覚がどこかにあり続けないといけない。今のこの気持ちを持ち続けたい」と熱い思いを話した。続けていればという話は私にも響いた。写真を学び始めたときに、この仕事を60歳ぐらいまで続けられる人は3%程と言われたことがある。純粋に好きな道を極めたいという思いは、多くの人に響くと思う。
小西は「この道が大変だと聞かせてくれる人たちもいるが、自分で歩いてみなければわからないことを感じつつ、やっぱりやりたいと思い続けられていることが幸せ。今はまだ下積み時代で、先輩役者に憧れる。出来るだけ長くやりたいと、自分の思いとして言葉が出てくるようになってきた」という。伊礼も思いは同じだ。「下積み時代というのがよくわかる。今8年目ぐらいで、やっとここから役者の芝居人生が始まると感じている。自分がどういう方向に進みたいのか、その為に何が必要なのかがやっと見えてきた」と今の自身について語り、「自分の思いを言葉にして伝えることが大事。僕自身、自分の思いを吐き出すようになって、自分の言っていることを再認識でき、正しいかどうかその答えもわかるようになった。人が与えてくれるのを待つのではなく、転がっているチャンスをどれだけものに出来るか。ちょっとした勇気が自分の道を作っていく。それはきっとどんな仕事でも変わらないのでは」とメッセージを送った。
最後に、「エンド・オブ・ザ・レインボー」への意気込みを聞いた。小西は「あえて、栄光の時代から衰退しているところを描いているのが面白い。そうなってしまった背景に、例えばショービジネスの華やかなところや残酷さなどがあり、そこに生きる人たちの心の不安定さの揺れ動き方がみえる。僕が舞台を見に行くとき、何か足下がぐらついているような状態のところで動いていく話が好きなのだが、この作品は一見ミュージカルのような華やかさがあるけれど、かなり足下がぐらついている人たちしかいないところが面白く、さらに、そこに流れる音楽が素晴らしい」と作品についてアピール。伊礼は「作品そのものに見応えがあると思う。加えて、芝居のダブルキャストはあまり見たことがないと思うので、余裕があればぜひ2回見て、芝居の空気感の違いを体感してほしい。キャストひとりが変われば、全員が変わる。さらに、その日のお客さんによっても変わる。そこを体感して頂けたら」と芝居ならではのダブルキャストの魅力をアピールした。
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<公演情報>
「End of the RAINBOW(エンド・オブ・ザ・レインボー)」
作:ピーター・キルター
演出:上田一豪
上演台本・訳詞:高橋亜子
音楽監督・ピアノ:岩崎廉
ステージング・振付:TETSUHARU
出演: 彩吹真央 小西遼生 伊礼彼方 鈴木壮麻
上演期間:2015年8月21日〜9月3日
会場:DDD青山クロスシアター
料金:8800円(全席指定・税込)
お問い合わせ:03-5485-5999(CATチケットBOX)
ホームページ:
http://www.stagegate.jp/stagegate/performance/2015/end_of_the_rainbow/index.html
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ジュディ・ガーランドを描いた濃密な舞台、「エンド・オブ・ザ・レインボー」公演評 →https://ideanews.jp/backup/archives/9047
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「エンド・オブ・ザ・レインボー」に出演、小西遼生×伊礼彼方対談(読者の声) → https://ideanews.jp/backup/archives/7915
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<アイデアニュース有料会員向け「おまけ的小文」>
対談(上)でのエピソード。ダブルキャストというシステムにはあまり興味がないと話す小西が、今回はちょっと楽しみだと目を輝かせる理由は……(岩村美佳)
小西「単純に伊礼くんが好きだから」(とキラキラ顔)
伊礼「嬉しいですね!」(と喜んだ)
小西「このニュアンスが文章で伝わればいいんだけれど、違う意味にとられたら……」
もう、その場にいたスタッフも含め、全員で大爆笑でした。違う意味にとられないように、そのままお伝え致します(笑)。
一緒に芝居がしたいのに、今までそのチャンスがなかったことが残念だったが、純粋にいいものを届ける稽古が出来そうで、一緒に稽古することがとにかく楽しみというふたり。見る側のこちらも楽しみです。
写真撮影では、伊礼さんが小西さんに壁ドンをしてみたり(私、撮影準備中でその絵を撮れなかったことが悔やまれます……)、終始仲が良くて、笑いの絶えない対談でした。ちなみに、伊礼さんは「はじめて 壁ドンした!」と、小西さんは「はじめて 壁ドンされた!」と盛り上がっていましたよ!