メインキャスト全員が2役、真逆を堪能できるオイシサ ミュージカル『フランケンシュタイン』

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

韓国発のミュージカル『フランケンシュタイン』が1月8日、日生劇場にていよいよ開幕した。たっぷり3時間で休憩は20分、重みのある一作だけに、受け止めるのに気力と体力が必要だ。アイデアニュースでも事前にインタビューをさせてもらった小西遼生さんの初日でもある、8日18時の部を観劇したので、さっそくその様子をお届けしよう。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

■怪我から復帰の柿澤勇人、孤独な天才ビクター役を大熱演!

この作品は、メインキャストがそれぞれ2役を演じ、さらに、「ビクター・フランケンシュタイン/ジャック」役は中川晃教と柿澤勇人の、「アンリ・デュプレ/怪物」役は加藤和樹と小西遼生のWキャストという複雑なキャスティングになっている。「ビクター/ジャック」と「アンリ/怪物」の組み合わせでも4通りあるわけで、Wキャストの演じ方の違いに加えて、組み合わせから生まれてくる違いも気になるところだ。私が見た回は柿澤×小西だった。

19世紀初頭のフランス、ワーテルローの戦いでナポレオンが敗北した時代から物語は始まる。戦場でビクター(柿澤)がアンリ(小西)の命を助けたことがきっかけで2人は深い絆で結ばれる。じつはビクターは「死んだ人間の命を再生させる」という神をも恐れぬ野望を抱いていた。故郷の人々の白い目をよそにビクターは研究に没頭し、アンリも手伝うようになる。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

昨年の『ラディアント・ベイビー』を怪我で休演した後、初の舞台復帰となる柿澤が、孤独な天才ビクター役を大熱演。繊細さと傲慢さを併せ持つ役柄が柿澤の持ち味に良く似合っていた。カーテンコールで「舞台をやめようと思ったこともあったけれど」と感極まって語った柿澤だったが、再スタートに相応しい一作になった。

■小西アンリの凛々しい軍服姿に目を見張る

孤独なビクターの数少ない理解者は、アンリの他、従姉妹で婚約者のジュリア(音月桂)と姉のエレン(濱田めぐみ)、そして執事のルンゲ(鈴木壮麻)だけだ。アンリ役の小西の凛々しい軍服姿には、ただただ目を見張るばかり。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ジュリア役の音月も純白のドレスがよく似合い、役柄とも相まって天使のような存在感。エレン役の濱田は、その聖母のような歌声でビクターを温かく包み込む。鈴木演じるお茶目なルンゲは、重苦しさの漂うこの作品の中でホッと一息つかせてくれる貴重な存在だ。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ジュリアの父であり、ビクターの叔父でもあるステファン(相島一之)は、そんな彼らを複雑な面持ちで見守っている。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ある時、ビクターが火種をつくった殺人事件で、アンリが無実の罪を着せられてしまう。友の命を救うためにアンリは自らギロチンにかけられ、ビクターは研究の成果を使って友の命を蘇らせようとする。ところが、実際に蘇ったのはかつてのアンリとは似ても似つかぬ、恐ろしい「怪物」だった……。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

と、ここまでが1幕だ。1幕だけでも十分お腹いっぱい!と感じてしまうほどの濃密さである。だが、この作品の真骨頂は2幕以降にあるのだった。

※アイデアニュース有料会員(月額300円)限定部分では、ミュージカル『フランケンシュタイン』の2幕以降の様子を紹介しています。

<有料会員向け部分の小見出し>

■鞭を手にした女主人エヴァも、聖母のようなエレンも似合う濱田

■同じ心根を持ちながら真逆の運命に。それは「同じ魂の両極」なのか

■怪物になっても美しいアンリ。ビクターへの思いを切々と歌いあげる

<ミュージカル『フランケンシュタイン』>
【東京公演】2017/1/8(日) ~ 2017/1/29(日) 日生劇場
【大阪公演】2017/2/2(木) ~ 2017/2/5(日) 梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】2017/2/10(金) ~ 2017/2/12(日) キャナルシティ劇場
【愛知公演】2017/2/17(金) ~ 2017/2/18(土) 愛知県芸術劇場大ホール

<関連サイト>
日生劇場 http://www.tohostage.com/frankenstein/index.html
梅田芸術劇場 http://www.umegei.com/schedule/565/index.html
キャナルシティ劇場 http://canalcity.co.jp/news/event/1249
愛知県芸術劇場大ホール http://search-event.aac.pref.aichi.jp/p/event_month_kouen.php

アイデアニュース記事一覧:
フランケンシュタイン

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■鞭を手にした女主人エヴァも、聖母のようなエレンも似合う濱田

3年後、ジュリアと結婚し穏やかな日々を過ごしているビクターの元に再び怪物が現れ、「人間たち」にどれほど酷い目に合わされたかを語り始める。この回想シーンで、メインキャストがそれぞれ1幕とは真逆の役柄で登場するのだ。観客としては、それぞれの役者のギャップを堪能できるという、オイシイ設定でもある。

ここで「なぜ、この2役なのか?」について考えを巡らせたくなってしまった。「怪物」を拾って見世物にしてしまうエヴァ(濱田)とジャック(柿澤)夫婦。欲望をあらわにすることを恐れず、男も女も平然と犯し続けるジャックの鬼畜ぶりは不快を通り越して痛快でさえある。もしかするとこれは、同じくらい強烈な欲望を胸に抱きつつ、家名やらプライドやらに縛られているビクターのタガが外れた状態なのかもしれない。実際、柿澤自身とても楽しそうに演じているように見えた。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

鞭を手にした女主人エヴァ(濱田)からは、聖母のようなエレンの面影は微塵もない。だが、どちらの役柄も濱田にはよく似合う。もしかしてエヴァが鞭で男たちを支配していたかのように、エレンの「慈愛」もまた、真綿で首を絞めるかの如くビクターの心をじわじわと支配し続けていたのかもしれない。「優しさ」の持つ二面性について、改めて考えさせられる。

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

■同じ心根を持ちながら真逆の運命に。それは「同じ魂の両極」なのか

この世の最下層を這うようにして生きるカトリーヌ(音月)。その心根はビクターを一途に信じるジュリアと同じで、曇りない眼差して怪物を見つめる唯一の女性である。カトリーヌが怪物と心を通わせるシーンは微笑ましく、一服の清涼剤のよう。だが、それもつかの間、カトリーヌは「生きる」ために怪物との愛を犠牲にせざるを得ない。同じ心根を持ちながら、真逆の運命を与えられた2人の女性の末路に暗澹とさせられる。

執事のルンゲは道化のイゴールとして登場するが、ジャックへの忠誠心はルンゲと何ら変わらない。思慮深い町の名士だったステファンは、ずる賢い興行師フェルナンドとして登場する。

ここで、インタビューで小西さんが語っていた、

「『それぞれが反対の2役をやります』といわれると、2つの役が真反対な性格だと思うでしょ。そうじゃないと思うんですよね。人間はもっと複合的というか、ひとりの人間の中に善も悪もあるので、誰かから見たときに正反対ということなんです」

という言葉が思い出される。つまるところは、ビクターとジャックも、アンリと怪物も、ジュリアとカトリーヌも、エレンとエヴァも……「同じ魂の両極」なのではないか??

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

■怪物になっても美しいアンリ。ビクターへの思いを切々と歌いあげる

アンリは、怪物に成り果ててもなお美しかった。1幕と変わってほぼ上半身をさらけ出した姿なので、今度はその肉体美に釘付けになってしまう。「憎い」という一言ではとても言い尽くせないビクターへの思いを切々と歌いあげるのが哀しい。「怪物」とはいったいどういう存在なのか? 一見善のかたまりのようだったアンリが封印し続けていたダークサイドなのか、はたまた人間社会全体が蓋をし続けて見ぬふりをしてきたダークサイドなのか?

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ミュージカル『フランケンシュタイン』公演より= 写真提供/東宝演劇部

ビクターと怪物が対峙するラストシーンは美しく、壮絶だ。変わり果てたかに見える怪物、だがそれでも変わらぬものは確かにあった。それが果たして何なのか?は、舞台を観てのお楽しみということで。

複雑で繊細なメロディラインに心を揺さぶられ続ける3時間。見終わってしばらくは放心状態、まだ今の段階で何かを結論付けるのがもったいないと思った。「この作品、回を重ねて進化したらどうなるのか?」「その時もう1度観たら、私は何を感じるのだろう?」「願わくば、違うキャストでも観てみたい」そんな興味に抗えない私なのだった。

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“メインキャスト全員が2役、真逆を堪能できるオイシサ ミュージカル『フランケンシュタイン』” への 2 件のフィードバック

  1. Yun より:

    私も同じ回を観ました。
    柿澤くんの復活に感動!
    作品が持つオリジナリティにも目を見張りました。
    中本さんが書かれているように、進化していく作品を期待をもって目に心に残して、大千穐でどうかわるのかを見届けたいと思います!

  2. かのん より:

    同じ感想です、一度では足りなくて、もう一回見たい、別キャストでも見たい!
    見たときの思いが記事を読んで甦りました。

    歌は高低差が激しく、アクションもあるし、皆さん大変そう…限界超えてるのでは?と心配しつつも、見ている方はドキドキ、ハラハラ目が離せない、ハマってしまう

    アンリの時も悲しいのですが、怪物になってからはもっと哀しい…
    悲惨な目に合っているのに美しい…
    今までの小西さんが新たに生まれ変わった位に進化されていました…

    中毒性のあるミュージカルですよね、素敵な記事をありがとうございました。

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