新型コロナウイルスの患者急増に伴う非常事態宣言が出され、ミュージカルや演劇・音楽・ダンスなどの舞台公演が中止・延期となっています。舞台は、人が生きて行く上でとても大事なことを教えてくれるもので、こんな時こそ「あの舞台のあの場面を思い出して頑張ろう」という話がしたいし聞きたいと思い、アイデアニュースで特別企画『こんな時だからこそ、舞台の話をしよう』を実施させていただくことになりました(https://ideanews.jp/backup/archives/90010)。応募してくださった作品の中から、第2弾として、ハンドルネーム:立花のこさんの文章と写真を紹介します。
■舞台作品に触れるようになったきっかけ
私の母はもともと劇団四季の作品が好きで、それこそ市村正親さんを『オペラ座の怪人』日本初演で拝見していたほど、かつては劇場によく行っていました。その母の父、つまり私の祖父は関西の出身ということもあり、宝塚歌劇の作品をよく観劇していたと聞いています。私の母方の従姉妹は、「テニミュ」でお馴染みのミュージカル『テニスの王子様』が好きで、よく観劇していました。
そんな家系のせいなのか、私も舞台という場所には前々から興味を持っていました。自分自身も、高校時代は合唱やバンド活動をするほど音楽が好きだというバックグラウンドがあります。
あるとき、母親と一緒にテレビ番組を観ていたら、『戦国鍋TV』という番組が流れていました。私も母も日本史が好き。そんな理由で観始めたのに、いつしか、出演俳優にも興味を持っていました。出演されていた俳優さんたちは、舞台を中心に活躍する、いわゆる若手俳優。
この人たちを舞台で観てみたい!と思ったのが、劇場に足を運ぶようになったきっかけでした。最初はストレートプレイやミュージカルの縛りもなく、気になる俳優さんが出演される作品を、手当たり次第によく観ていました。結果的に、当時はストレートプレイを沢山観劇していたようです。
ただ、地方の学生だったこともあり、観劇できる作品は限られていました。そんな中でも、就職活動で東京へ行った際に衝撃的な作品に出会ったのです。それが、『スリル・ミー』でした。
初見で一気に引き込まれ、一度ハマったら中毒のように抜け出せなくなる作品。当時は小西遼生さんを目当てに観に行ったのですが、作品そのものに惹かれ、もっともっと観たい! と思いました。
しかし、そこはお金のない貧乏な地方学生。他のキャストで観ることもできず、リピートすることもできず。結局その後の私は、そのまま地方で就職しました。しかも、そのまま就職したら、観劇趣味から数年遠ざかってしまったのです。自分でも驚くほど、あっさりと。
けれど、ふとしたきっかけで、再び火がつきました。それが、2017年の冬に告げられた、『スリル・ミー』再演の一報でした。自分でも直感的に「2018年は沢山劇場に行くことになるだろう」と、この時思いました。
■好きになった俳優、作品との出会いと魅力
2018年はやはり、観劇漬けの年になりました。特に、その年の後半は沢山の素敵な作品と魅力的な俳優に出会うことができました。
一番大きかったのは、『マリー・アントワネット』(以下、MA)との出会いです。そこで、田代万里生さんと出会いました。
きっかけは、ふとしたことでした。様々なミュージカル俳優の歌唱動画を観ていたら、聴こえてくる美声。そこに、「田代万里生」という見覚えのある名前。
私は、過去に観劇したとある作品のチラシを引っ張り出してきました。それこそが、『スリル・ミー』のチラシ。田代万里生さんは、『スリル・ミー』の日本初演キャストでした。私が観劇した年は田代さんが出演されていなかったので、それまでは出会えなかったのです。そこで、やっと何かが繋がり、同時に運命的なものも感じました。
なんて歌が上手いんだろう。今から一番早く彼の出演作を観に行けるのはいつ、どこだろうか。その頃、ちょうど博多座でMAが上演されていて、田代さんは王妃マリーの相手役、フェルセン伯爵を演じていました。
博多座での公演が終わったら、帝国劇場でしか田代さんのフェルセンは観られない。そのことを知って、私はすぐさまチケットを取りました。それが、私にとって初めての帝国劇場への遠征でした。
MAは今や、私にとって大切で、思い入れのある作品です。それほど、この出会いは大きかったのです。田代さんの歌声に酔いしれたのはもちろん、キャストもナンバーも作品も素晴らしく、初めて劇場で涙を流しました。1回の観劇ではとても足りず、急遽休みを取って日帰りで再度帝劇遠征をしたり、梅田芸術劇場へも遠征したりして、プリンシパルキャストはコンプリートしたほど大好きな作品となりました。
『マリー・アントワネット』2018PV【舞台映像Ver.】(YouTubeのTohoChannel より)
MAで私が一番感動したナンバー。それは、マルグリット・アルノーが歌う「100万のキャンドル」と、「もう許さない」。
私は最初にソニンさんのマルグリットを拝見しました。彼女のことはアイドル時代にテレビで拝見しただけで、ミュージカル女優として生で拝見したのはこの時が初めて。彼女の力強い心の叫びとも言える歌声で、いつの間にか泣いていました。なんて凄まじいパワーなんだろう、と。
その後、チケットを買い足して観劇した際は、昆夏美さんのマルグリットでも拝見しました。昆さんも初めて拝見しましたが、ソニンさんとは違うアプローチでありながら、昆さんのマルグリットにも圧倒されました。こんなにもメッセージ性が強く、訴えかけるパワーがとてつもなく大きな作品は初めてでした。
もちろん、名前を挙げていない他のキャストの方も素晴らしく、プリンシパル・アンサンブル問わず、ゴールデンメンバーだと今でも思っています。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、立花のこさんの作品の全文と写真を掲載しています。
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■俳優、作品の影響で変わったこと
■今の世の中に重なるMAのメッセージ
■舞台作品を考察すること
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■俳優、作品の影響で変わったこと
日本史好きで世界史嫌いだった私が、フランスの革命の世に興味を持った。それは、田代さんの影響もありました。彼は、ものすごく時代背景や人物像を勉強されている方で、ご自身のブログでもまとめてくださっているのです。
MAライブラリ まとめ【全8回】(田代万里生さん公式ブログより)
https://ameblo.jp/mario-capriccio/entry-12400340386.html
そんな一面を知って、さらに彼が好きになりました。そのおかげで、幼い頃読書嫌いだった私が、今では観劇のために本を読み、ラジオドラマのためにも本を読むほどに。
観劇は、もちろん劇場に足を運んで観劇しているときこそ最大の楽しみだけれど、観劇前の予習や、観劇後の復習も楽しい。コロナウイルスの影響でおうち時間の増えた今だからこそ、観劇したことのある作品の関連書籍を紐解いて見るときかもしれないとも思います。
MAでいえば、原作となった遠藤周作さんの『王妃 マリー・アントワネット』。観劇後のタイミングでしたが、もちろん私も読みました。
ただ、私の観劇したMAは新演出。MAは2006年に日本で初演され、そのままドイツ、韓国へ渡り、韓国で新演出版が生まれました。私の観たMAは、その韓国の新演出をベースにした、新演出版のMAです。
原作を読んで、「自分が観てきたMAと違うな」と、違和感を覚えた理由。それは、旧演出である日本初演のMAのほうが、原作に忠実だったからです。
これは、新演出のMAが大好きだからこそ、「自分が観ていない旧演出が知りたい!」と思ってライブ盤を買ってから知ったことです。イメージが崩れるのではないかと危惧していたけれど、いざ聴いてみたら、腑に落ちることがたくさんありました。初演は観ていないけれど、当時のライブ盤を聴いて、「こんなにも変わるのか」というのと、「今の時代にピッタリな演出になったんだ」と納得しました。
■今の世の中に重なるMAのメッセージ
MAは今、さらに必要とされる作品になったのではないかと思います。コロナウイルスの影響で沢山の“当たり前”が当たり前じゃなくなってしまった今。2幕ラストで歌われる「どうすれば世界は」は、今の世界にこそ投げかけたい曲なのです。
「どうすればこの世界を変えられるのか」。そう、私「たち」で、「この」時代を変える。そのためには、過去に学ばなくてはならない。まさに、今の世を生きる人、みんなに問いかけられているのだと思います。
マリー・アントワネットは無知であったがために、周りのことや現実を見ようとせず、処刑されてしまった。時代が移り変わった現在、残念ながら、コロナウイルス感染拡大の影響で、心ないことをしてしまう人や、思いやりに欠ける行動をしてしまう人もいるのが事実です。過去を知っている私たちだからこそ、過去に学べることが沢山あるはずです。「学べるか、過去に」。MAのDVDを観る度に、己に問いかけます。
■舞台作品を考察すること
冒頭で、『スリル・ミー』がきっかけだったと書きました。MAにどっぷりと浸かった後、私は大阪公演と名古屋公演の『スリル・ミー』を6公演全通しました。
初見から6年ほど経ってから観た『スリル・ミー』は、さらに奥深い森へと変容を遂げていました。そして、当時の自分と大きく変わったこと。それは、「考察をする」という行為をするようになったことでした。
インプットした分だけアウトプットをする。それは、私が『スリル・ミー』の観劇を経てから始めたことです。一度考察を始めたら、脚本の余白を埋めたり、人物像を膨らませたりと、無限の楽しみが生まれ、その時間がどんどん楽しくなっていきました。今となっては、観劇後に必ずアウトプットとして考察をするようにしています。考察を含めて、私の趣味は観劇なのです。
今の状況では、実際に劇場へ行ってインプットすることはできません。けれども、インプットできる要素はあるはずです。映像化された作品や、CD化されたライブ盤。それがなかったとしても、過去に観劇した作品の記憶や、劇中で流れるナンバーの記憶が、ふとしたきっかけで蘇ることもあるかと思いますし、関連書籍を紐解いてみることもできます。
私がそうであるように、劇場へ行けない今だからこそ、ゆっくりと考える時間ができたと、今は考えるようにしています。自分の愛する作品、俳優、音楽、芸術について、今こそ学び考える時だと思います。再び劇場で、実際に観客がインプットし、俳優や製作陣がアウトプットできる日を祈りながら。
(ハンドルネーム:立花のこ)