「闇と光が結ぶ像の中に」、ミュージカル『ファントム』7月22日に開幕 | アイデアニュース

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「闇と光が結ぶ像の中に」、ミュージカル『ファントム』7月22日に開幕

筆者: 村岡侑紀 更新日: 2023年7月27日

2023年7月22日(土)にミュージカル『ファントム』が大阪・梅田芸術劇場メインホールで開幕しました。ファントム役は、加藤和樹さんと城田優さん(ダブルキャスト)が務めます。ヒロインのクリスティーヌ役は、宝塚歌劇団雪組トップ娘役として活躍した真彩希帆さんが務めます(7月22日にダブルキャストを予定していたsaraさんの全公演休演が発表されました)。シャンドン伯爵役は大野拓朗さんと城田優さん(ダブルキャスト)、カルロッタ役は石田ニコルさんと皆本麻帆さん(ダブルキャスト)、アラン・ショレ役は加治将樹さん、ジャン・クロード役は中村翼さん、文化大臣役は加藤将さん、ルドゥ警部役は西郷豊さん、ゲラール・キャリエール役は岡田浩暉さんです。

本作は、フランスの小説家ガストン・ルルーのベストセラー小説『オペラ座の怪人』を原作としたミュージカルで、脚本家アーサー・コピットと、作曲家モーリ ー・イェストンの黄金コンビにより誕生しました。怪人ファントムを一人の青年エリックとして描き、その人間像に焦点をあてたストーリーと独創的な楽曲は、今や世界中の観客を魅了し、ミュージカルのベストセラーとして親しまれています。日本では、2004 年の日本初演以来、大ヒットを遂げ、繰り返し再演されています。

アイデアニュースでは、2023年7月21日(金)に開催された公開ゲネプロの様子を紹介します。公開ゲネプロのファントム役(エリック)は加藤さん、クリスティーヌ役は真彩さん、シャンドン伯爵役は大野さん、カルロッタ役は石田さんです。記事には、開幕後の城田優さんのファントム役、シャンドン伯爵役のお写真も掲載しています。本作は、8月6日(日)まで大阪で、8月14日(月)から9月10日(日)まで東京国際フォーラム ホールCで上演されます。

加藤和樹さん(左)と真彩希帆さん(ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場
加藤和樹さん(左)と真彩希帆さん(ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場

『オペラ座の怪人』を拝見したことはあるのですが、『ファントム』は、今回が初めてでした。この作品に初めて触れたという視点でのルポになります。ゲネプロの取材中は、いつもメモを取るのですが、ノートを確認すると2幕はほとんどメモがありませんでした。メモを取るという行為は、「取材している」自分を思い出す作業でもあり、作品に対して客観的な立場であることを確認するという面もあるので、「客観的な私」がその時消失していたということなのでしょう。驚いたのは、ラストシーンが終わった後、「拍手をする」という感情が戻るまでに少し時間が必要だったことです。

客席に座っている「私」が、「舞台の上のシーン」を観ているという認識に至るまでのわずかな空白に、徐々に「私」が戻ってくるのを実感しながら、「私」はいなくなっていたのだなと気づきました。どこかの時点で、目の前のシーンが「観る」対象から、「居る」場所になっていたのだと思います。

理由を考えてみました。まず音楽です。キャラクターの心情に寄り添うように、音楽のみが独立することなく、心の動きを届けてくれることもあり、ドラマティックでありながら、それぞれの感情ストーリーテラーとして、常に音楽に導かれているような感覚がありました。

次に演出です。劇場の入り口をくぐり、階段を登ると、19世紀のパリの街並みを思わせる街灯がロビーに並んでいます。街並みを歩くような気持ちでホールに入ると、舞台上にも同じ街灯が設置されており、舞台上と客席とが地続きであるような感覚へとスイッチが入ります。また作品においても、客席からキャストが登場するシーンもいくつかあります。クリスティーヌは客席から登場し、舞台に向かいます。そこからシャンドン伯爵に見出され、オペラ座への道が開かれていくという流れを考えると、物語ともシンクロする登場シーンです。物理的に舞台よりも下に位置している客席にファントムや従者たちが登場すると、客席は瞬時に彼が住む地下へと表情を変えます。目の前を通り過ぎたクリスティーヌがパッと明るく心踊る空気を残してくれた一方で、ファントムや従者が残した空気には冷たい緊張感がありました。エリックのすすり泣きには心がえぐられました。

真彩希帆さん(中央、ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場
真彩希帆さん(中央、ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場

劇場で観劇するということはつまり、その場の空気を纏うことでもあるでしょう。長らく客席降りが封印された時間を経ての今だからこそ、空間の中に身を置くと、考える前に心が動き始めることに改めて気づきました。「劇場での観劇」に限ったことではありませんが、「生(なま)」という経験の中には、あらゆる感覚が含まれます。その時に明確に感じたことや経験したと強く認識した事象はもちろんのこと、意図的に何かを見ようとしなくても目に飛び込んでくる色彩、一瞬すれ違った人が何気なくそこに残していく空気感、誰かが電話で話している声、足音、遠目にふっと目が合ってしまった時の気まずさなど、振り返ってみると、その時には気づかなかったようなあらゆる事象も立ち上がってくるのでした。

そしてもちろん、客席に座っていることを忘れさせたのは、出演者のみなさんです。仮面の下の顔がほぼ見えないこととは裏腹に、その瞬間ごとの感情の推移を芝居と歌で伝える加藤さんのファントムことエリック。彼の心の中が露わであるからこそ、その悲痛な叫びも束の間の喜びも、彼のその瞬間ごとの喜怒哀楽があの空間を満たしていたのかもしれません。だからこそ、観劇中でありながらも、彼の心の中に入ってしまったような感覚になったのだと思います。真彩さんのクリスティーヌからは「歌うことが喜びである」という素直な輝きが芝居からも歌声からも伝わってきました。ビストロのシーンで彼女が喝采を浴びるシーンでは、思わず涙がこぼれました。クリスティーヌの夢が叶うことへの素直な喜びゆえの涙でもありましたが、あのシーンでは、私自身も真彩さんのクリスティーヌの歌声に心動かされて感動したビストロ客の一人でもあったのだと思います。

加藤和樹さん(ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場
加藤和樹さん(ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場

またエリックの闇をより深く感じさせたのは、大野さんのシャンドン伯爵の眩さでしょう。エリックは「闇」を、シャンドン伯爵は「光」を象徴するような存在として描かれます。作品の中で、彼の内面にはあまりスポットが当たりませんが、それは彼が「視覚から感じる魅力」を象徴し、一手に担う存在であるからなのだと思います。

キャラクターの個性が強いこの作品の中で、支配人を罷免され、立場を失い、人と人の間を通り過ぎるように、秘密を抱えながら生きてきた人物である彼が、「普通の人」のように描かれているからこそ、最後エリックに正面から向き合うシーンまでの衝撃も強くなるのだと思います。岡田さんのキャリエールの、いかにも人間らしい人物像が、この作品の小説らしい設定の中に、どこかリアリティを持たせているように感じました。

石田さんのカルロッタと加治さんのショレが登場すると、「作品から独立したシーン?劇中劇が始まったのでは?」と思うほどに、トーンがガラリと変わります。シリアスなトーンが続く中、空気を自分のキャラクターに寄せて瞬時に支配するパワーは、「キャリエールを追い出して新支配人の座を乗っ取った」という役のキャラクターにも通じており、強烈な存在感でした。彼らがエリックの関心の的になるにつれ、そのコミカルな空気感が次第にこの作品のトーンつまりはエリックの空気感に巻き込まれ、感情が揺さぶられる存在へと変化していきます。

大野拓朗さん(中央、ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場
大野拓朗さん(中央、ミュージカル『ファントム』ゲネプロより)=提供・梅田芸術劇場

私自身が、「舞台を観ている」という客観的な自分でいられたシーンは、カルロッタとショレのコミカルなシーン、非の打ち所がないシャンドン伯爵、語りも担っているルドゥ警部、クリスティーヌとエリックを結びつける役割を担うジャン・クロード(中村さん)、ある意味この物語のきっかけを作る文化大臣(加藤将さん)など主に1幕のシーンで、エリックの心に(少なくともこの時点では)入り込んではいない人物で形成されるシーンでした。

この物語には、エリックという闇とクリスティーヌという光が出会った時のように、闇と光が互いに影を落とし合ったところに像が結ばれ、それぞれの人物の輪郭がくっきりと描き出されるようなところがあるように思います。逆に、シャンドン伯爵とクリスティーヌのように、光と光が出会うところには、あまり奥行きのある感情は生まれず、彩色豊かな人形のようにも見える印象がありました。「劇中の人物」という、どこか客観的で距離のある捉え方です。それは、エリックの外側にある光景と彼の内側に関わるシーンの描き方の違いでもあり、この作品にフィクションを超えた息づかいを与えている要因なのかもしれません。 

物語の中心には、エリックの感情が渦巻いています。中心は常にエリックであり、主人公は光ではなく闇であり、地上ではなく地下なのです。クリスティーヌへの愛という光によって、エリックの秘密が明るみに出ること、つまり光の要素が強くなることがエリックの結末につながっているのだと感じました。クリスティーヌはエリックの真実を知ることで、ただの光ではなく、闇という奥深さも知ったのではないでしょうか。エリックは、クリスティーヌの歌声の中に存在し、文字通り「天使の声」になったのかもしれません。

城田優さん(右)と真彩希帆さん=提供・梅田芸術劇場
城田優さん(右)と真彩希帆さん=提供・梅田芸術劇場
城田優さん=提供・梅田芸術劇場
城田優さん=提供・梅田芸術劇場
城田優さん=提供・梅田芸術劇場
城田優さん=提供・梅田芸術劇場

<ミュージカル『ファントム』>
【大阪公演】2023年7月22日(土)~2023年8月6日(日) 梅田芸術劇場メインホール
【東京公演】2023年8月14日(月)〜2023年9月10日(日) 東京国際フォーラム ホールC
公式サイト
https://www.umegei.com/phantom2023/

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<筆者プロフィール>村岡侑紀(むらおか・ゆき) 広告制作会社に入社し、企業ブランディングやコピーライティングを経験。その後、化粧品メーカーのマーケティング担当として多くのブランドを育成し、ベンチャー企業で広報も。ミュージカルや舞台作品そのものの魅力はもちろん、そこに携わる方々のことを伝えたい。 ⇒村岡侑紀さんの記事一覧はこちら

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