2024年11月12日(火)と11月13日(水)に、東京・コットンクラブでソロライブ『MIS CAST 2』を開催される鹿賀丈史さんのインタビュー後編です。「下」では、これまでに出演されたミュージカル『生きる』『レ・ミゼラブル』についてのお話と、最近ご覧になった『ビリー・エリオット』でも感じられた「芝居のリアリティ」の魅力と面白さについてお話ししてくださった内容などを紹介します。
――昨年、ミュージカル『生きる』を拝見いたしました。初演から拝見しております。
僕は、去年のが一番よかったと思っています。
――初演をTBS赤坂ACTシアターの2階最後列で拝見したんですが、多分、普段はミュージカルをご覧にならない男性の方々が多かったんですね。本編が終わると、皆さんが一気に立ち上がってスタンディングオベーションを送られていて、忘れられない観劇体験です。
それは知らなかったですね! 嬉しいじゃないですか! 1953年に黒澤明監督がお作りになってからもう、70年ですからね。やはり原作が素晴らしいのと、それを舞台化しようと思ったスタッフ、宮本亞門監督、演出を始め、作曲のジェイソン・ハウランドさん、作詞の高橋知伽江さん、そういう方々の努力ですよね。ミュージカルを1本作るって、大変なんです。
――原作があっても、ゼロからですものね。
そうです。特にジェイソンが日本のことをよく理解してくれていて、そういうところからメロディを発信してくださるので。オリジナルミュージカルは難しいですし、失敗する可能性も結構あります。そういう中で、よくできた作品に仕上がり、本当によかったなと思います。
――鹿賀さんと市村(正親)さんお二方が、全然違う渡辺勘治で、小説家役のダブルキャストの皆さまとの組み合わせによっても違いましたね。
本当にそうです。
――私は鹿賀さん平方元基さん、市村さんと上原理生さんの組み合わせを拝見しましたが、「逆も観たかった!」と地団駄を踏みました。
稽古は全然別々だったんですよ。鹿賀チーム、市村チームみたいにして、ずっと顔を合わせなかったんです。だから同じ役をやるいっちゃん(市村)とは会わないんです。会うと「久し振り! 元気?」みたいな。
――『MIS CAST 2』では『生きる』の一幕最後の「二度目の誕生日」を歌うとおっしゃっていましたが、その楽曲を選ばれた理由や、当時の思い出などを伺えますか?
今回、中島みゆきさんの曲を歌わせていただくのですが、その曲の中に、未来へ向かって突き進め、行けと自分自身に言っている歌があります。そこからのつながりで「二度目の誕生日」を歌うといいなと思いました。渡辺勘治は、それまで市役所勤めで、朝6時に起きて定時に帰ってきて、要するに「自分の未来というものがこの人にはあるのだろうか」という生活をしていたのに、定年退職の間際になって余命半年の胃がんであることが分かり、キザな言い方をすれは、そこから彼の未来が始まったわけです。人のために何かできないだろうかと。小さな公園を作るという、大したことではないんですが、それがやっぱり彼の未来に結びついていくんだろうなと。そして公園ができあがって、雪の降る開園式の前の夜に、ブランコに乗りながら天に召されるという、まあなんとよくできたストーリーだろうかと。
――やりたいことを成し遂げた瞬間に亡くなるって、すごいですよね。
すごいです。1952年のモノクロ映画で、黒澤さんの傑作と言われる所以ですよね。その後もいろんな映画をお撮りになっていますけど、あの戦後の時代に、あれだけの人間の内面を描いた作品をお作りになっているという、その辺のすごさですよね。
――3度ご出演されて、次第に見えてきたものであったり、違いなどはご自身の中ではありましたか?
僕は前回のことを忘れてしまうんですよ。だからゼロに近い状態になるんです。そうしたら亞門さんも「演出していて、僕も忘れるんです」と。
――今を生きているということですね。
そうです。ですから、歳も少しずつ重ねていくことになって、そういう意味では新鮮に向き合えると言いますか。前にやったことをなぞるのではなくて、今年の『生きる』は、こういう風に思ってやってみようとか、忘れん坊特有のありがたい性格なんですね。
――『レ・ミゼラブル』にずっと出られていた頃は、いかがでしたか?
もう1回台本を読み、『レ・ミゼラブル』は全部歌ですので、歌の練習をします。毎回同じことをやるんですけど、その日の状態によっても、年齢によっても違いますね。1回、面白いことがあったんです。『レ・ミゼラブル』の何周年かの公演の時に、僕がジャベールをやったんです。ジャベールは強いイメージがあるじゃないですか。でも、ちょっと弱いジャベールをやってみようと思ったんです。動きを変えるわけじゃなくて、心の弱さです。そうしたら、もう亡くなられましたが、テナルディエを演じていた斎藤晴彦さんが、公演の最中に「鹿賀さん、芝居変えましたね」っておっしゃって。やっぱりよく聴いていらっしゃったんですね。
バルジャンの慈悲の心に打たれてセーヌ川に身を投げるって、やっぱり弱い部分もあっただろうと。警察官ですから、職務上、強い部分もあったんでしょうけれども、内心の弱さというか、人の慈悲の心に触れて自殺するという、そういうナイーブな繊細な、ある意味弱い部分もあったと思いますので、それを全編通してやってみたんです。面白かったですね。来年の帝劇2月のコンサートで、久々に帝劇に立つので楽しみです。
――帝劇にお立ちになるのは、お久し振りですね。帝劇の思い出を伺えますか?
帝劇というと、昔の印象として、大女優さんたちが毎月月替わりで公演なさっているというイメージがあったんですが、『レ・ミゼラブル』の最初は、結構長い期間やったんですよね。大女優さんたちの公演の場を取っちゃったんですよ。そんな中、ある有名演出家の会に呼ばれて行ったら、大女優さんたちと同じテーブルになったんですが、もう視線がきつかったですよ(笑)。
――いたたまれないですね……。
僕のせいじゃないんですけどね(笑)。だから『レ・ミゼラブル』もそういう意味ではやっぱり現帝劇の劇場の幕を下ろす作品であり、帝劇にとっても東宝にとっても、転換となった大きな作品だったんですね。
――『レ・ミゼラブル』が成功していなかったら、今こんなにミュージカルブームになっていませんよね。
そうですね。
――劇団四季でミュージカルをされていて、退団されて、東宝さんが『レ・ミゼラブル』を上演する渦中にいらっしゃった時のご経験で印象的なことをお聞かせください。
僕は四季を辞めてから、ミュージカルをやっていなかったんです。というよりも、舞台そのものに出ていなかったんですね。『レ・ミゼラブル』に出演する前の年に『カッコーの巣をこえて』というストレートプレイをやったんですが、『レ・ミゼラブル』も本当に大作で、ロンドン、ブロードウェイでの上演を経ての、日本が3番目でした。英語圏ではない国ですから、訳詞を作るのが大変ですよね。岩谷時子さんには本当にお世話になりましたが、大変な思いをなさったんじゃないかなと。大変な作業でしたね。帝劇の大きな舞台にバリケードが出てくると、帝劇が大きすぎてバリケードが小さく見えたみたいなね。
――ご自身の財産として、『レ・ミゼラブル』は大きいですか?
大きいですね。四季を辞めて6、7年ぶりの舞台で、ミュージカルでしたから。それも『レ・ミゼラブル』という大きな作品で舞台復帰したということで、それがやっぱり今日の舞台出演とかミュージカル出演につながっているんだなということを、本当に思いましたね。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、最近ご覧になった『ビリー・エリオット』でも感じられた「芝居のリアリティ」の魅力と面白さについてお話ししてくださった内容などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■『ビリー・エリオット』を観に。芝居をせずに”存在“していた益岡徹さんの素晴らしさ
■昔のお客さまは、芝居をすればするほど喜んだ。今のお客さまは、リアリティに反応する
■いい演出・俳優たちの『ビリー・エリオット』。子供たちも、こんなことができるんだと
■去年の『生きる』では、芝居はほとんどしなかった。亞門さんもリアリティのある演出を
<鹿賀丈史 『MIS CAST 2』>
【東京公演】2024年11月12日(火)〜11月13日(水) COTTON CLUB
公式サイト
https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/takeshi-kaga/
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「MIS CAST2」を観劇してからこちらの記事を読ませていただきました。大好きなジキル&ハイドの楽曲をまた聴くことが出来て、今の鹿賀さんの歌声と空気を支配する存在感に圧倒されました。それでいて、チャーミングさも持ち合わせていらっしゃる鹿賀さん。ミュージシャンの皆さんも本当に素晴らしく、良質な音楽を堪能させていただきました。
インタビュー記事では、いつもながら丁寧な言葉で語って下さるミュージカルや演劇についてのお話も興味深く拝読しました。
今後もご活躍を楽しみにしています。