2024年12月19日(木)に開幕し、12月23日(月)まで、東京・品川プリンスホテル クラブeXで上演される、一人芝居ミュージカル『ライオン』に出演する成河さん(来日版:マックス・アレクサンダー・テイラーさんとWキャスト)のインタビュー後編です。「下」では、演劇は「いまとここ」だというお話、「Hi」の訳、「日本語は人に渡せるものではない」というお話、脚本・作曲・作詞のベンジャミンさんからのメール、Wキャストのマックスさんが用意してくれたギター動画のことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。
――これまでにも『フリー・コミティッド』(2018年・2020年)などで、一人芝居のご経験はありますが、比較してみていかがですか?
立て続けに一人芝居(『フリー・コミティッド』、二人芝居(『スリル・ミー』)、三人芝居(『ブルー・オレンジ』)とやっていたこともありましたね(笑)。もう『フリー・コミティッド』は究極です。2時間半38役を一人芝居で、あれはあれでちょっとまあ特殊なんですけど。
――今回は「ベン役」だけなんですか?
はい。「ベン」として一人で語ります。登場人物はポツポツと出てきますけど、いわゆる本当に「語りの演劇」なので、「その時お父さんがね、『ベンお前さぁ』って言ったんだよ」みたいな語りの中に、人物がどんどん含まれていきます。
――「ベン」が10歳から30歳までのお話ですが、子供時代は、大人のベンが過去を振り返って語るのでしょうか?
演劇の語りの時系列としては「いま」ということになるんだと思います。それは演劇のすべてにおいての基本だと思います。だから「僕が10歳の頃にさかのぼってみましょうか」というのが最初の第一声です。「皆さん、こんにちは。僕はベンです。10歳です。僕の家族はね…」って始まるわけですけど、じゃあこれを語っているのは誰か? と言ったら、もちろん「いま」のベンであり、「いま」の僕であり…。なかなか難しい話をしていますよ(笑)。
――「いま」は「現在」ということでしょうか?
「現在」です。演劇はすべてにおいて「いまとここ」なので、急にファンタジックに過去には行かないんです。「皆さん、こんにちは」という劇中の一番最初の言葉「Hi」これが一番大事なんです。舞台に突然フラっと役者が出てきて、お客さまに “Hi” と語りかける。これが一番大事な「いま」つまり「2024年何月何日、何時何分何秒」の「いま」でしかないんです。「Hi, どうもこんにちは、いらっしゃいませ。えっと、僕10歳なんですけど…」っていう話で、ここからフワっと始まっていく、それが演劇なんです。“Hi, I’m ten years old.” で始まって、海外の人はもう演劇に慣れているから、それだけでちょっと「プフッ」て可笑しいんです。「あ、来た来た」って、単にそういう遊びなんです。「10歳が急に遊びだした!」みたいなことじゃないんです。
「Hi, こんにちは」を、書き言葉の翻訳の先生に任せると「やあ、みんな。僕はベン。10歳なんだ。」と訳される。そのどこに『いまとここ』があるんですか?という話なんです。海外で演劇を見慣れている人は実はみんな知っていて、演劇の基本は「いまとここ」で、普通に “Hi, Thank you. Thank you for coming. I’m ten years old.” で始まるんです。「やあ、みんな。僕はベン」ってやると、ディズニーランドのアトラクションみたいなことになってしまうんですが、翻訳の先生に任せるとそう書かざるを得ないんです。
だって「Hi」なんて、何言ったっていいんですから。「こんにちは。」「いらっしゃいませ。」「ありがとうございます。」と今回演じる僕が「成河」として言う必要があって、それが「Hi」なんです。お客さまにちゃんと “Hi, Thank you for coming. I’m ten years old.” と伝える。するとお客さまは「何ですって!?」となる(笑)。それが演劇が持っている「いま」の面白さで、「いま」だったものがブワーッとどこかに連れて行かれる。戯曲によっては「白亜紀」や「ジュラ紀」だったり、「宇宙」まで連れて行かれて、そしてまた「いま」に戻ってくる。だから演劇って素晴らしいんです。その「いま」の設定が、翻訳劇や翻訳ミュージカルではすっ飛ばされることがとても多いので…。
――まず「いま」の設定をしてから…と。
現代演劇は、本当は幕開きの「いま」だけを気にしているはずなんです。蜷川幸雄さんもそうですが、冒頭がいつの間にか始まる系の演劇が多いじゃないですか。あれは別になにか特殊なことをしたいのではなくて、「いま」ということを設定したいだけなんですよ。赤い絨毯とシャンデリアで「非日常の扉が開きました」とよく言われますよね。もちろんそれは素敵なことなんですけど、それが逃避であってはしょうがないんですよね。
つまり、「いま」から出かけて「いま」に戻ってこなきゃいけないということですから。劇場の「赤い絨毯とシャンデリア」のスイッチというのは、実は演劇にとってはちょっと危険なことです。劇場を「社交場」と考えればそれでもいいんですけど、演劇が持っている本当の武器というのは「スッと入ってきて、スッと抜けていくもの」なので。
それは、翻訳に関わるんです。“Thank you for coming. I’m ten years old.” これを翻訳しようとなったとき、100人いたら100通りの日本語が出てくるんです。その100通りの中から誰が選べばいいかというと、役者が好きに選べばいいじゃないですか。「”Hi, Thank you for coming I’m ten years old.” だけでしょう? 別に日本語はなんだっていいでしょう?」って。仮に正しい日本語を選んで「やぁ! 僕はベンなんだ」となったら「どうするの? それで」というのが僕の翻訳のスタートです。それは俳優が選ばなきゃいけないんです。
※アイデアニュース有料会員限定部分には、「日本語は人に渡せるものではない」というお話、脚本・作曲・作詞のベンジャミンさんからのメール、Wキャストのマックスさんが用意してくれたギター動画のことなどについて伺った内容やお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。
<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)
■「日本語は人に渡せるものではない」というのが持論。今回は1人だからやれる限りやる
■「あなたなりの弾き方を見つけて」。ベンジャミンからの温かいメッセージが励みに
■マックスが、全曲をゆっくり演奏してくれた動画を送ってくれた。とてもありがたくて
■観に来てくださった方々の、実人生の「痛み」に寄り添える作品にしたいと思う
<ミュージカル『ライオン』>
【東京公演】2024年12月19日(木)~12月23日(月) 品川プリンスホテル クラブeX
公式サイト
https://www.umegei.com/thelion2024/
ミュージカル『ライオン』 関連記事:
- 「演劇は、”いま”と”ここ”」、ミュージカル『ライオン』成河(下) 20241220
- 「翻訳の歌ではなく、日本語の歌にする」、ミュージカル『ライオン』成河(上) 20241220
成河 関連記事:
- 「演劇は、”いま”と”ここ”」、ミュージカル『ライオン』成河(下) 20241220
- 「翻訳の歌ではなく、日本語の歌にする」、ミュージカル『ライオン』成河(上) 20241220
- 「本物だなと」「夢みたいな話」、『Musical Lovers 2024』藤岡正明・川嵜心蘭 20241017
※成河さんの写真1カットとサイン色紙を、有料会員3名さまに抽選でプレゼントします。有料会員の方がログインするとこの記事の末尾に応募フォームが出てきますので、そちらからご応募ください。応募締め切りは2025年1月20日(月)です。有料会員の方はコメントを書くこともできますので、どうかよろしくお願いいたします。
アイデアニュースは、有料会員のみなさんの支援に支えられ、さまざまな現場で頑張っておられる方々の「思いや理想」(ギリシャ語のイデア、英語のアイデア)を伝える独自インタビューを実施して掲載しています。ほとんどの記事には有料会員向け部分があり、有料会員(月額450円、税込)になると、過去の記事を含めて、すべてのコンテンツの全文を読めるようになるほか、有料会員限定プレゼントに応募したり、コメントを書き込めるようになります。有料会費は取材をしてくださっているフリーランスの記者のみなさんの原稿料と編集経費になります。良質な取材活動を続けるため、どうか有料会員登録にご協力をお願いいたします。