「翻訳の歌ではなく、日本語の歌にする」、ミュージカル『ライオン』成河(上) | アイデアニュース

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「翻訳の歌ではなく、日本語の歌にする」、ミュージカル『ライオン』成河(上)

筆者: 達花和月 更新日: 2024年12月20日

ギター弾き語りによる、ひとりの人生の実話を描いた感動の一人芝居ミュージカル『ライオン』が、2024年12月19日(木)に開幕しました。12月23日(月)まで、東京・品川プリンスホテル クラブeXで上演されます。ウエストエンドの批評家たちが「驚異的で魅惑的な体験」と称賛した本作は、ニューヨーク・ドラマ・デスク・アワード最優秀ソロパフォーマンス賞、ロンドン・オフウエストエンドの最優秀ニューミュージカル賞を受賞し、英米ツアーでの上演回数は500回以上にのぼります。あたたかく美しい楽曲の数々と、心が締め付けられるような独白、名人芸のギター演奏が繰り広げられる濃密な75分間が届けらます。脚本・作曲・作詞すべてをベンジャミン・ショイヤーさん本人が手がけ、自身の人生の実話を描いた作品です。日本初演となる今回は、日英のWキャストで上演されます。

来日版(日本語字幕付き)のベン役は本作初のリバイバル公演でベン役に抜擢され、高度なギターの演奏技術と繊細な表現力で絶賛を浴びたマックス・アレクサンダー・テイラーさんが演じます。日本版のベン役を演じるのは、近年あらゆる舞台作品で幅広い役柄を自由自在に演じ、高い演技力と豊かな歌唱力で観客を魅了する成河さんです。

アイデアニュースでは、成河さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。「上」ではオーディションの様子や、楽譜がなく試行錯誤したこと、翻訳・訳詞、日本語への思いなどをお話ししてくださった内容を紹介します。「下」では、演劇は「いまとここ」だというお話、「Hi」の訳、「日本語は人に渡せるものではない」というお話、脚本・作曲・作詞のベンジャミンさんからのメール、Wキャストのマックスさんが用意してくれたギター動画のことなどについて伺った内容と、お客さまへのメッセージを紹介します。

成河さん=撮影:NORI
成河さん=撮影:NORI

――ミュージカル『ライオン』は「ギター弾き語りによる一人芝居ミュージカル」だそうですが、どんな作品なのでしょう?

「一人芝居・ミュージカル・弾き語り」って言われると、そうなりますよね(笑)。多分あまり見慣れないジャンルで、僕自身は「ミュージカル」でも「弾き語り」でもない印象を持っています。「一人芝居」であり、非常に「演劇」なので、「弾き語り」ではないです。ギターだけを聴かせる演奏時間も、結構あるんですよ。

――ギターの演奏時間は、どれくらいありますか?

75分ほどの上演時間のうち、半分くらいにあたる30分から40分くらいギターを弾いていますね。楽曲が20曲ぐらいあって、歌も喋りもない「ギターだけの時間」は「弾き語り」というより「演奏」なんですよ。脚本・作曲・作詞のベンジャミン・ショイヤーさんがシンガーソングライターかつギタリストで、自分の人生そのものやご自身の感情など、あらゆるものをギターで表現している作品なんです。なので、「これ、本当に俳優さんがやる作品なの?」みたいなところもあります。ミュージカルというよりは、「ギター演劇」だと思います(笑)。

――「音楽劇」ともまた違うのでしょうか?

日本で僕たちがイメージする「ミュージカル」でも「音楽劇」でもないと思います。 寄席で、芸人さんがギターを持って、技術で笑わせたりいろんなことをするじゃないですか。どちらかというとその方が近くて「ギターを使った芸事」ですね。そのすべてをもって表現するミュージカル…。あくまでもこれはミュージカルですから(笑)。ただ、僕らが普段使っているような文脈での「ミュージカル」や「音楽劇」には当てはまらないと思うので、「ギター演劇」という新しいジャンルだと思います。

――公式サイトでアップされている動画を拝見すると、たしかに「ギター演劇」という言葉がしっくりくる気がします。

やはりベンジャミン本人がミュージシャンで、彼がやっていた演目なので。「シング・ア・ソング」だから「歌を歌う」ですよね。邦訳すると「弾き語り」になりますけど、一から十まで「シンガーソングライターの表現」で、「シンガーソングライターに、ちょっと喋らせた」みたいな演目なんです。

――MCがちょっと拡大したようなイメージでしょうか?

そうです。しかもそれが本人の自分語りで、個人史にまつわる曲を並べて、その間に自分に起きたことをバーっと語っていくというような演目。そういう特徴があります。だからなんとも、ジャンル分けしづらいものだと思います。でも僕はそこに惹かれました。

――オーディションの時は、どこまで情報があったんですか?

オーディションの段階では、これまでの上演の映像も何にもなくて、PVにもあげさせてもらった「Cookie Tin Banjo(おもちゃのバンジョー)」が課題曲でした。オーディション用に作った楽譜とベンジャミンの演奏VTRだけもらいました。この曲は作品の最初と最後を飾る、『ライオン』を代表するような曲ですが、多分、難易度的にはTOP3ぐらいの難しい曲なんですよ。あれは、誰でも弾ける曲じゃないです。

僕は課題用にもらったベンジャミンの映像の半分ぐらいの速さでトライしましたが、それでも1ヶ月かかりました。まずは、楽譜通りに1ヶ月かけて半分ぐらいの速さでゆっくり起こして。翻訳もなかったので、英語で歌って「これでお願いします」と録画したものを送って、それでOKを頂きました。

――想像以上に情報の無い状態で、オーディションを受けられたのですね。

今回に限らず、オーディションではほとんど情報がないので、そんなものです。この作品は20曲ぐらいあって、マスターするのに1曲で1ヶ月ぐらいかかることはわかっていますし、今年の1月ぐらいにOKをいただいた時点でさえ、「1年じゃ無理だ」って思いました(笑)。実は楽譜もなかったので。

――楽譜がなかったんですか!?

今年の1月上旬ぐらいにロンドンからOKの返事をいただいて「やってみましょうか」となり、マックスの上演のVTRをもらいました。そこで初めて楽曲が全部わかったのですが、この作品には楽譜がなくて、まずそこで一番悩みました。でも、そのタイミングでベンジャミンの映像を動画サイトで調べたらいろいろ出てきて、ベンジャミンのことや彼の「自分史」について、そしてマックスの上演映像などを繰り返し観る中で、語りの切実さ、作為の無さに惹かれていったんです。この作品は「当事者演劇」というジャンルでもありますから。

――具体的にはどのようなところに惹かれたのでしょう?

誤解を恐れずに言えば、起承転結のプロットだけを見ると、いわゆるハートフルな「どこにでもありそうな家族の悲喜こもごも」なわけです。「困難や別れを経て、仲直りし、前に向かって進んでいく」という物語なので、一般的な感覚でいうと、お涙頂戴の作為が付きまといそうですが、この作品には、そういう作為がないんです。

なぜかというと「実話」だから、淡々と語られていくわけです。起こったことはもちろん普通のことではないです。困難も含めて、不幸なことではあるんですけど、ただその描き方、語り方にとにかく「作為がない」ということに尽きます。そこに惹かれました。自分語り、自分史、実話であることの強さだと思いました。

――本当に脚色のない実話なんですね。

はい。ただ、後でベンジャミンに聞いて知りましたがフィクションにしている部分もあり100パーセント実話ではない。でも、その演劇的な骨格がすごくしっかりしているので、ダラダラした一人語りではありません。熟考を経て作られています。でも「すべてベンジャミンが喋ったことで作られている」ということが、一目瞭然なんです。

――「翻訳・訳詞」には、宮野つくりさんと連名で成河さんのお名前もありますね。

僕の中に、翻訳に関する問題意識がずっとあるんです。というか、みんな口にしないだけで、翻訳で苦しめられたことのない日本の俳優はいないんじゃないかと思います。ただ、その解決方法がわからないし、難しいんですよ。解決方法には正解がないので、きちんと共有して目標設定を集団でする。でもこれは、実は大変なことなんです。言語感覚は全員違いますから。

先日の『ピローマン』(新国立劇場)では、小川絵梨子さんという強い存在がいたから、6人ぐらいの座組でしたが、そこに向かってみんなで行けましたけど、大きなプロダクションで、翻訳をみんなで「日本語の感覚シェアしようぜ」は、無理なんです。ミュージカルの訳詞となると特に難しくなります。今回は、(出演は)一人でやらせていただくということもあり、誰にも迷惑がかからないから、失敗は僕が背負えるじゃないですか(笑)。

そういう意味でも、自分の喋る言葉には、自分で責任を持ちたいというのは、常々の僕の思いだったので「翻訳をやらせてください」とお願いしました。宮野つくりさんと一緒に3月から半年ぐらい取り組みました。翻訳作業はそれこそ本当にそんな簡単じゃなくて、2週間で1曲か2曲ぐらいのペースでした。僕は東京、宮野さんはロンドン在住なのでオンラインで2週間に1度のペースで会議を続けました。

――2週間で1~2曲ですか…!

全部で20曲ぐらいありますが、ようやく一段落して(取材時10月)、あとは練習というところです。翻訳に関しては、特に現代劇で自分語りなので、「遠い場所の、遠い人の出来事」のように見えないために、本当に自分事として、お客さまにとっても語りかけられるような言葉を選んだつもりです。歌に関しては、僕のこだわりとして、宮野つくりさんと「ちゃんと日本語の歌になる」ことを目指しています。

――「翻訳した歌詞」で歌っているのではないようにということですか?

「翻訳の歌」になってしまうのには理由があって。ある意味ではライセンスの問題だったりするんですよ。音符を守らなきゃいけないという。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、楽譜がなく試行錯誤したこと、翻訳・訳詞、日本語への思いなどをお話ししてくださった内容などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。インタビュー「下」では、演劇は「いまとここ」だというお話、「Hi」の訳、「日本語は人に渡せるものではない」というお話、脚本・作曲・作詞のベンジャミンさんからのメール、Wキャストのマックスさんが用意してくれたギター動画のことなどについて伺った内容やお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■日本語と英語のアクセントが真逆な場合、「音型を変えていいか?」と相談することも

■映像を元に、ギター監修のyas nakajima先生が起こしてくれた楽譜で挑戦

■「日本語の歌として成立するギリギリのところ」を、宮野つくりさんと追求している

■「無理だ」と思ったら、「翻訳ミュージカルからは手を引く」ぐらいのつもり

<ミュージカル『ライオン』>
【東京公演】2024年12月19日(木)~12月23日(月) 品川プリンスホテル クラブeX
公式サイト
https://www.umegei.com/thelion2024/

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成河さん=撮影:NORI
成河さん=撮影:NORI

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<筆者プロフィール>達花和月(たちばな・かずき) 遠方の友人を誘って観たお芝居との出会いをきっかけとして演劇沼の住人に。ミュージカルからストレートプレイ、狂言ほか、さまざまな作品を観劇するうち、不思議なご縁でライターに。自らの仕事を語る舞台関係者の“熱”に、ワクワクドキドキを感じる日々。 ⇒達花和月さんの記事一覧はこちら

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