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真っ白なキャンバスのような心で 音楽劇「星の王子さま」レポート

筆者: 桝郷春美 更新日: 2016年2月5日

 

世界中の多くの人に親しまれているサン=テグジュペリの『星の王子さま』を原作とした音楽劇「星の王子さま」(脚本・演出 青木豪/作曲・音楽監督 笠松泰洋)が、2015年12月から2016年1月にかけて、水戸、埼玉、福井、東京、兵庫で上演された。アイデアニュースでは兵庫公演を取材し、出演した昆夏美と伊礼彼方、廣川三憲からコメントをいただいた。目には見えない大切なものが、生の舞台でどう立ち上がってくるのか。関係性に着目して紹介したい。(文末のアイデアニュース有料会員向け部分には、伊礼彼方さんが楽屋の昆夏美さんと廣川三憲さんを直撃した【伊礼突撃インタビュー】を掲載しました)

 

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

 

本作品は三人芝居で、配役が「王子さま」、「飛行士、ほか」、「飛行士の親友、ほか」に分かれている。「王子さま」役は、2011年にミュージカル「ロミオ&ジュリエット」のジュリエット役でプロデビュー以来、ミュージカル界新世代の歌姫として注目されている昆夏美。「飛行士」役などを演じた伊礼彼方は、幅広い役柄でミュージカルやストレートプレーなど数々の話題作に出演している。「飛行士の親友」など幾つもの役柄を演じた廣川三憲は、「ナイロン100℃」に所属し、外部公演にも多数参加しているベテラン俳優だ。それにピアノ(服部桂奈)とコントラバス(小美濃悠太〈埼玉公演のみ内田義範〉)による演奏のシンプルな編成で、各地の若者や子どもがアンサンブルとして参加している。

 

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

 

全20曲の楽曲は、メロディーラインがそれぞれの気持ちの流れに沿って作られている。王子さまのセリフは、初めからほぼ歌になっており、昆はその澄んだ歌声を存分に響かせていた。昆が演じる王子さまは、年齢や性別は関係無く、ただそこに王子さまとして存在する。そんな王子さまに対して伊礼と廣川は、飛行士と飛行士の親友のほかにも星の住人などを一人何役も引き受け、場面によってその在りようを変幻自在に変えていく。

 

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

 

服部は、ピアニストでありながら、薔薇の役と飛行士の妻の役も担った。ピアノを流麗に演奏していたかと思いきや、ぱっと立ち上がって薔薇役としてセリフを話す、そしてまた何事も無かったかのように演奏に戻る。その切り替えの早さが見事で、演奏することと演じることの境目が無く、一連の動きとして成り立たせていた。

 

王子さまに対してわがままで、弱みを見せるのが嫌いな薔薇。そんな彼女をひとり置いて、王子さまは自分の星を出た。他の星々に旅をする中で、やがて地球にたどり着く。外の様々な世界を知り、出会いを重ねる中で、王子さまにとって薔薇はかけがえのない存在であることに気づく。

 

そのことに気づく過程で、王子さまはキツネと友だちになり、キツネから関係を結ぶことを教わる。キツネ役の廣川は、着ぐるみを着ているわけでもなく、二本足の人間の姿のまま登場しているのにキツネに見えた。一人と一匹が仲良くなっていく中で、人/動物と境界線を引かないで、心と心の距離が近づく様子が伝わってきた。だから、大切なものを「心で見る」というキツネが王子さまに示したメッセージに説得力があった。

 

終演後のインタビューで、昆はこのように話している。「王子役では、普段から『素直な気持ち』でいようと心がけました。王子の心は真っ白だから、悪い人に黒いものを塗られたら黒になっちゃう。だけど、そんな真っ白いキャンバスの持ち主だからこそ、キツネの言葉がダイレクトに響く。王子がキツネの言葉を素直に聞けるように、私自身も廣川さんと伊礼さんの芝居を、素直に聞く心を持とうと思いました。素直な心、柔軟な心でお二人と芝居をすることで、王子が、キツネや飛行士の言葉に素直に応じることができる心とつながるんじゃないかと思い、芝居もいろいろ固めないでリアルさを心がけました」。

 

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

音楽劇「星の王子さま」兵庫公演より=撮影:岸隆子

 

伊礼は本作で、いくつもの役をこなす中で、やはり「飛行士」役が登場回数は少ないものの、その役柄から本質的な心が伝わってきた。それは、王子さまと飛行士が出会い、語り合う中で、新たな関係を結ぶことができたように見えたからだ。王子さまの真っ白い心が、ふと気づけば飛行士にも宿っていた。だから、王子さまの姿が目には見えなくなっても、星を眺めてその存在を感じられるようになったのだろう。伊礼が演じる飛行士と、昆が演じる王子さまには、そう思わせる関係性が感じられた。最後に歌われたナンバー「さよならはまたいつか」は、出会いと別れの刹那が感じられ、そしてなぐさめられる思いがした。

 

王子さまと薔薇、王子さまとキツネ、そして飛行士と王子さま……。それぞれの関係性を見つめながら、同時に心の旅をしていたように思う。そして観終った後には、はかなさが残った。それは、音楽劇を通して王子さまとともに星めぐりをした後、日常に戻った時に時空が少しゆがんで見えたからだ。約2時間の観劇体験の時間の尺度を人の一生に広げた時に、そのひとときが、まるで、流れ星を見た時のようなほんの一瞬に思えた。しかし、そんなはかなさを抱くからこそ、目には見えなくても心で感じることのできる存在に想いを馳せることができるのだと思う。飛行士が夜空に輝く星に王子の存在を感じるように。

 

音楽劇「星の王子さま」は、人生の旅路の中で、また巡り会いたいと思える作品だ。

 

※アイデアニュースでは、兵庫公演の終演後、昆夏美さんと伊礼彼方さん、廣川三憲さんからコメントをいただきました。余韻が冷めやらない3人の言葉をそれぞれお届けします。

 

 

■「真っ白なキャンパスのような心で」(昆夏美さん)

 

この舞台の好きなところの一つは、各地の子どもたちと一緒に組めたことです。水戸、埼玉、福井、東京の子どもたち、それに兵庫の人は大人っぽい感じで、公演した5カ所すべてアンサンブルが違い、それぞれに刺激を受け、ずっと新鮮な気持ちで取り組めました。

 

キツネが王子に言う「関係を結んだものに対してね、君は永遠の責任を追うんだ」というセリフ。私は、あの言葉が大好きです。私の場合は、生まれた時からずっと関係を持っている母のことを考えます。王子さまがバラをかけがえのない人と思うように、母と私の周りにいる人も他の誰とも替えはいない。そのことに改めて気づき、私はそんな周りの人たちとの関係性を大事にしたいと一番感じました。

 

王子役では、普段から「素直な気持ち」でいようと心がけました。王子の心は真っ白だから、悪い人に黒いものを塗られたら黒になっちゃう。だけど、そんな真っ白いキャンパスの持ち主だからこそ、キツネの言葉がダイレクトに響く。王子がキツネの言葉を素直に聞けるように、私自身も廣川さんと伊礼さんの芝居を、素直に聞く心を持とうと思いました。素直な心、柔軟な心でお2人と芝居をすることで、王子が、キツネや飛行士の言葉に素直に応じることができる心とつながるんじゃないかと思い、芝居もいろいろ固めないでリアルさを心がけました。

 

今回の役は、2時間出っぱなしで歌いっぱなし。これだけのセリフ量をしゃべったことは今までの作品ではありませんでしたが、その初めての経験がこの作品で本当によかったと思います。伊礼さんと廣川さんは、もし私が間違ったことがあっても導いてくれましたし、私はお2人に絶大なる信頼を置いています。そんなお2人との三人芝居は、またぜひやりたいですね。

 

 

■「大切なのは無駄に費やした時間のせい」(伊礼彼方さん)

 

「星の王子さま」への出演話を頂いた時、自然に心が反応するところがあって「これは勝ったぞ!」とスイッチが入りました。特に心に響いたのは「君のバラがね、君にとってなぜ大切なのか。それはね、君が無駄に費やした時間のせいだ」というキツネのセリフ。

 

人それぞれ、環境の変化や人との関係性やタイミングによって今まで自分が自由に使えていた時間が使えなくなったり、無駄な時間を過ごしてしまった…と感じる事があると思いますが、この作品を通じて僕自身も同じような経験していたと、無駄だと思っていた時間が実はとても大切な事だったと、このセリフを通して、改めて気づかされたりしました。

 

この作品には他にもたくさん、日常忘れがちな大切なメッセージが散りばめられています。演じる事によってそういう部分を自分自身で色々と反芻できましたね。

 

公演を終えた今、いろんな役を演じて、毎回エネルギーを放出してきたので、正直なところ、抜け殻状態です。自分が本から読んだ大切なものを演劇で伝えることの難しさを感じつつ、そこにパワーを注ぐ。その中で、王子さまを失う悲しみだったり、でも王子さまに出会えた喜びだったりを表現するのに、気持ちがすごく揺れるんです。毎公演、終わるとぐったりしていますが、それは気持ちのいい疲れですね。観てくださった方も「心が洗われた!」って言って下さるし、その時の自分の年齢や境遇によって、いつ読んでも、いつ演じても心に響いてくる箇所が違ってくると思うから、古くならない作品なんです。なので老若男女もっとたくさんの方に観て頂きたいし、僕自身ももっと深めていきたいので、再演を望んでいます。

 

 

■「とても愛しい大切な作品となりました」(廣川三憲さん)

 

稽古が始まってすぐに「これは素敵な作品になる」という確信がありました。実際に各地の公演でみなさんの心にしっかり届いたんじゃないかという手応えも得られ、自分の役者人生においてもとても愛しい大切な作品となりました。あと、久しぶりにたくさんの役を演じ分ける役割をいただき、ほとんどリアルな人間ではないだけに思いっきり遊べて楽しかったです。

 

(廣川さんが公演パンフレットで「特に心に響くセリフ」として「夜空に輝くたくさんの星の、どれかひとつに僕はいるんだ。そうしたら君は、夜空のすべての星が好きになる」をあげていた点については)自分は父も母もすでに亡くしていて、どこかで今の自分を見てくれてたらいいなと思ったりもするんですが、王子さまのこのセリフを聞いた時にすごく救われた気がしたんです。

 

お二人とも初共演でしたが、芝居勘というか、呼吸がとても合うお二人で、演じていてもずっと心地よく、この3人でなければならないというチームワークを互いに感じ合えていたんじゃないかと思います。昆ちゃんについてはまさに王子さまを演じるべき人だったと。彼女以外のキャスティングは考えられないくらい星の王子さまそのものでした。

 

親友役レオンの演じ方には少し悩みました。今回の青木さんの演出では「星の王子さま」を作者と妻と友人の物語として読み解いていて、お客様にその視点を感じとっていただくには、語り手として居合わせてるレオンの表情や反応が大切だと思っていました。もらった本を今まさに読み進めているように、この部分は奥さんへのメッセージか?とか、そんな反応を新鮮にできるように心掛けました。キツネについてはそれこそレオンが物語に登場したシーンだと思って取り組みました。彼がサン=テグジュペリにかけた言葉や思いが反映されているのだと。稽古を重ねるうちにどんどんキャラが人間離れしすぎてとてもそんなふうには見えなかったかもですけど。

 

 

<音楽劇「星の王子さま」>(この公演は終了しています)
原作:サン=テグジュペリ、脚本・演出:青木豪、作曲・音楽監督:笠松泰洋
出演:昆夏美、伊礼彼方、廣川三憲
【水戸公演】2015年12月12日(土)、12月13日(日)(水戸芸術館ACM劇場)
【埼玉公演】2015年12月19日(土)、12月20日(日)(プラザイースト ホール)
【福井公演】2015年12月23日(水・祝)(ハーモニーホールふくい)
【東京公演】2016年1月10日(日)、1月11日(月・祝)(シアター1010)
【兵庫公演】2016年1月16日(土)、1月17日(日)(兵庫県立芸術文化センター)

 

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真っ白なキャンバスのような心で 音楽劇「星の王子さま」レポート

 

 

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伊礼彼方さんが、最終の兵庫公演をひかえたゲネプロ前に、特別に【伊礼突撃インタビュー】を敢行! 楽屋の昆夏美さんを直撃! そして、廣川三憲さんの楽屋にも突撃訪問して座談会状態に。それぞれがこの作品への熱い思いを語る、ふだん、あまり目にすることの出来ない楽屋の貴重な様子を動画で紹介します。

 

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<筆者プロフィール> 桝郷春美(ますごう・はるみ)福井県小浜市出身。人生の大半を米国ですごした曾祖父の日記を読んだことがきっかけでライターを志す。アサヒ・コム編集部のスタッフとして舞台ページを担当後、フリーランスのライターに。雑誌やウェブサイトにインタビュー、ルポなどを執筆。世の中と表現の関わりに関心を寄せる。表現の根っこにあるものを作品を通して見つめ、言葉で伝えていきたい。 ⇒桝郷春美さんの記事一覧はこちら

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