アイデアニュース編集長の橋本です。本日から、アイデアニュースのライター陣に「達花和月(たちばな・かずき)さん」が加わりました。達花さんとは、舞台鑑賞の際に何度もお会いしており、アイデアニュースの執筆陣に加わっていただきたいとお願いしたところ、快諾してくださいました。達花さんには「来た見た書いた」と題した公演レポートを月に1回のペースで書いていただく予定にしていますが、「まず何を書かれますか?」とうかがったところ、「前に見たことのあるこの舞台はとても良かったのだけれど、無言劇だし一番書きにくいですね」とおっしゃったので、「では一番書きにくい、それを書いてください」とお願いしました。
その公演は、2016年2月24日から2月28日まで東京・上野にある小劇場「上野ストアハウス」で上演された「ストアハウスコレクションVol.5 タイ週間」で、タイからB-floorとDemocrazy Theatre Studio、日本からストアハウスカンパニーの3劇団が出演しました。達花さんが観たのは、ストアハウスカンパニーとB-Floorの舞台です。では、ここから、達花和月さんによる公演レポートです。
■ストアハウスカンパニー「Remains」
「ストアハウスコレクション ~タイ週間~」1本目の作品「Remains」は、一般的に「お芝居」として私達が連想する形態とは大分違っています。
作品の紹介として「『Remains』は声と言葉を剥奪された人々の物語である」という一文がフライヤーに掲載されているのですが、まずわかりやすいところで「台詞」が無く、約1時間強の上演時間中、台詞は一言もありません。いわゆる「無言劇」。舞台効果として、照明と音響はありますが、照明はナマ(電球色)をメインに青色を少し混ぜ、シーン毎に明度を変えていく、比較的シンプルな構成。そして音響は、冒頭の約10分間程は全くの無音。聞こえてくるのは、舞台上わせわしなく動き回る演者の足音と息づかいだけ。
この演者の姿もまた変わっていて、男女混合9人の演者達の姿は、それぞれ全身をストッキングで隙間無くラッピングされているのです。勿論頭部(顔)も。薄暗い照明の下では、彼らの表情はわかりません。その性別さえも。更には、頭部を覆ったストッキングの「余った」部分は、まるで紐のように他の演者達のそれと、しっかりと一箇所で結ばれていて、個々で動けないことは無いけれど、動ける範囲に制限が加わっているのです。まるで寒冷地でそりを引く犬のように。そして、舞台奥には、何に使われるのか、腿の辺りまで高く詰まれた大量の古着の山。この「動きを制限された状態」で「表情さえも出さず」押し合いへし合い、ひたすら動き回り、独特の「世界」を作り上げていくのです。
真っ暗な舞台に薄明かりが灯ると、ひとつの「塊」が視えてきます。じっとしていた塊が徐々にミシミシと音を立てて動き出すと、それが「(演者の)集団」であることがわかります。はじめは自分達「集団」の内側へ力を向けて、おしくらまんじゅうのように押し合いへし合いしていたものが、何かのきっかけで、内側から外側へ力を向け、結果「集団」が一定方向へ移動を始めます。更に何かのきっかけで、それまで同じ動きをしていた「集団」の中から、違う動きを始めるものが次々と登場します。まるで、みんな一緒に同じ方向でないと動けないと信じていたものが、実は自分だけで動ける事に初めて気がついたみたいに。最初「点」だった塊が、一定のベクトルを持って「線」となって動き出し、そしてそれぞれに動き出し「面」となって拡散していき、このあたりは、次元の拡張というか、受精卵の細胞分裂の過程を見ている気になりました。
やがて彼らは独りの状態から、2・3人のグループを作りだし、激しく動いていると自分達を1点で縛りつけていた結び目が自然に解け、本当に個々に動けるようになります。自由を得た彼らは、しかし未だ自分達の身体を覆っている「ストッキング」の存在に気付き、今度はそれを破り始めます。自分で自分の束縛を破る者あり、自分の事はそこそこに、他人の束縛を喰い破る者あり様々で、その様子は、卵胞を破って生まれ出る生き物や羽化する蝉、または、「自由」を知って、更なる「自由」を求めて行動する何者かにも見えてきます。
自由になった「彼ら」は、やがて舞台奥の古着の山へ向かい、その山に倒れ込み、そのままごろごろと床を縦横無尽に転げ回り、手足へ無造作に古着を巻きつけていきます。やがて立ち上がると、自分が大量にかき集めた服を誇示するように上へ掲げ、投げ上げてそうして身軽になると、再び古着の山へダイブする。この一連の動作が暫く続きます。ずーっとその姿を観ていると、今度は「古着」が人間社会の「価値観」を表すように見えてきて、彼らの身体に纏わりつく古着は、無垢な存在が世間の垢を纏い始めたな、などと(勝手に)連想。そうなると、集めた古着を投げ上げて、空っぽにしてから再び古着の山へダイブする姿は何かの試行錯誤を表現しているの?などと(これまた勝手に)考えてしまうのです。(笑)
さらにシーンが進むと、彼らは大量の古着の中から、1点ずつ、帽子と服と鞄を選び、それを身につけます。そして、1人、或いは数人で肩を組んだり、相手を抱き抱えたり、相手を引きずったり相手に引きずられたり、様々な「関係性と状況」を作り出して、舞台奥から次々と舞台前方へ出てきて、その「関係性と状況」が最高潮のドラマになった刹那、突然バタリ、と、崩折れます。この上演中、彼らはずっと無表情で、その思考は読みとれないのですが、(台詞もないし… ^^;)それでも彼らの作り出した「関係性と状況」で、その時の「感情」らしきものはジワリと伝わってきます。ですから急にパタリと動きを止めたことが、想定外にひどくショックで、いままで生きて、身近に存在していたものが、忽然と失われたような感覚に襲われて、この作品で私が一番「感情を捕まえられた」シーンでした。
■B-Floor「Red Tanks」
2本目のタイのB-Floorの作品「Red Tanks」。15個の赤いドラム缶が並び、演者1人と演奏者1人の構成。赤いドラム缶の中から、叫び声と缶を激しく叩く音が鳴り響き、1人の男が缶の蓋を蹴破って登場します。激昂していたらしい「彼」は狭い空間から突然解放されて、暫し放心している様子でしたが、その後周りの14個の赤いドラム缶を認識して、「彼」はドラム缶にアプローチを始めます。
横倒しにしたドラム缶の上にのって、曲芸よろしく缶を転がしながら移動したり、叩いて音を出したり、縦に置いた缶を無造作に並べて、その上を飛びながら移動したりという一連のパフォーマンスの中に、「彼」の怒りと悲しみがこぼれ、そしてどこか郷愁を誘う懐かしい優しい感覚が交錯していて、作品の詳しい背景はわからないながらも、喜怒哀楽といった、基本的な感情は観ていると伝わってきました。
観劇後に目を通した当日パンフレットによれば、40年前に反政府的という理由で、芸術家達が不本意に投獄され、迫害を受けた事実に触発された作品とのこと。個人的には、終始ドラム缶を生き物のように自在に操った、演者の身体能力の素晴らしさと効果音を一手に引き受けた演奏者の「楽器」たち。効果音はパソコンを利用している所もありましたが、何といっても赤いドラム缶のひとつに弦を張り、そのまま弦楽器にして、バイオリンの弓のようなもので奏でられる素朴な音質が、ドラム缶で共鳴して、奥行きを増して聴こえ、不思議な世界感を演出していました。他にも仏具のおりんのような椀状のものを弓で弾いていて、こちらも面白い効果を出していました。
以上が作品から受け取った私の感想の一部ですが、私の受け取ったものが、果たして作り手側の意図したものだったのかどうか?それは残念ながらわかりません。でも多分、どれが正解!というものでも無いのだろうと思います。発されたメッセージは一つでも、受け取る側の感じ方で幾通りにも変化する。そんな自由な楽しみ方で、劇場に足を運んでいる日々であります。f^_^;
■Demicrazy Theatre Studio「Hipster the King」
※(アイデアニュース編集部より)「ストアハウスコレクションVol.5 タイ週間」で上演された3作品のうち、Democrazy Theatre Studioの「Hipster the King」については達花さんは観ておられませんので、公演レポートには登場しませんが、「上野ストアハウス」から公演写真を提供していただきましたので、掲載します。上野ストアハウスのホームページ(http://www.storehouse.ne.jp/ueno/collection2016-thai-democrazy.html)は「Hipster the King」について次のように紹介しています。「誰がヒップスターなのか― 彼らのファッションは文字通り「際立って」いるし、絶対に主流派になるまいとしている。自分の容姿も、自分が消費する音楽や食べ物や本といったもの全て、ひたすら「独特」でありたいのだ。しかし、皮肉にも、彼らはどこにでもいる。そして皆同じに見える。創られたアイデンティティ、ライフスタイルといったものを見て、自分の中で創り出したイメージによって、この世界は成り立っている・・・」
<関連サイト>
上野ストアハウス ⇒http://www.storehouse.ne.jp/ueno/index.html
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