こまつ座の舞台はいつも面白いけれど、今回はとくに「舞台好き」にとっては特別な思い入れができそうな一作だ。何故か? それは、この作品自体が、極限状態の中でひとつの舞台を生み出していく過程を描いているからだ。
だが、良く考えてみれば、観客の多くは「舞台好き」なわけだから、結局のところこの作品はほとんどの人にとって特別だということなってしまう。井上ひさしが、新国立劇場のこけら落としという記念すべきタイミングでこの作品を書き下ろしたのは、じつはそんな狙いもあったのかもしれない。
物語の舞台は昭和20年5月の広島だ。「紙屋町さくらホテル」に滞在する移動演劇隊「さくら隊」の面々は、本土決戦が叫ばれる中で今日も芝居の稽古を続けている。その大義名分は国威発揚である。それでも役者にとっては演じる場があることが幸せなのだ。
稽古で交わされる濃密なコミュニケーションの中で、にわか隊員たちの素顔が次第に明らかになり、その間にはかけがえのない仲間意識も生まれてくる。いかめしい特攻の刑事・戸倉(松角洋平)は、監視の対象であったはずの日系二世の神宮淳子(七瀬なつみ)を次第に理解するようになり、天皇陛下の密命を果たすべく薬売りに身をやつしている海軍大将・長谷川清(立川三貴)もいつしか芝居の魔法にかかってしまい、この公演を何としても成功させてやりたいと思うようになる。
一座を率いる「新劇の団十郎」こと、丸山定夫(高橋和也)のリーダーシップがとても頼もしい。ちなみに「新劇」とは「旧劇」と呼ばれた歌舞伎に対する言葉で、明治以降に西欧から入ってきた「近代リアリズム演劇」のことである。この新しい演劇のスタイルを日本に取り入れるべく奮闘した先人たちの努力も、丸山の語りからは伝わってくる。また、彼に誘われるがまま、にわか役者となった面々が見せる「大根役者ぶり」も、この作品のユーモラスな見どころだ。
<こまつ座「紙屋町さくらホテル」>
【東京公演】2016年7月5日(火)〜24日(日) 新宿南口・紀伊國屋サザンシアター
⇒http://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#225
<関連サイト>
こまつ座 ⇒ http://www.komatsuza.co.jp/index.html
紀伊國屋サザンシアター ⇒ https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/theatre.html
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■果たして「さくら隊」の舞台の幕は無事に上がるのか?
■「芝居をすること」が人々に与えるパワーは底知れない。が…
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