「自分を触発してくれる作品」、『ジェイミー』石川禅(上) | アイデアニュース

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「自分を触発してくれる作品」、『ジェイミー』石川禅(上)

筆者: 岩村美佳 更新日: 2025年6月8日

ミュージカル『ジェイミー』が、2025年7月9日(水)から7月27日(日)まで東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)で、8月1日(金)から8月3日(日)まで大阪・新歌舞伎座で、8月9日(土)から8月11日(月・祝)まで愛知県芸術劇場 大ホールで上演されます。ドラァグクイーンを夢見る高校生ジェイミーが、差別や偏見と闘いながらも自分らしく生きていく様を見て、周囲の価値観が変わっていく。最高にホットで感動的なサクセスストーリーです。

英国の公共放送局、BBCで放送された、ドキュメンタリー番組を基に制作された『ジェイミー』は、2017年、英国のシェフィールド劇場で開幕するや大ヒットを記録し、ニューヨーク・ブロードウェイと並ぶミュージカルの聖地、ロンドン・ウェストエンドへ進出。さらには英国最高峰の演劇賞であるローレンス・オリヴィエ賞に5部門でノミネートされ一大旋風を巻き起こしました。2021年にはAmazon Prime videoで映画版も世界配信され、英国アカデミー賞優秀英国映画賞ノミネート。その後も世界各地で上演され続け、大好評を博しています。日本では2021年に初上演されました。

アイデアニュースでは、ヒューゴ/ロコ・シャネルを演じる石川禅さんにインタビューしました。インタビューは上下に分けてお届けします。「上」では、ドラァグクイーンのメイク過程について、「つけまつげ」がキーになるというお話、ヒューゴのジェイミーへの思い、「多様性」についての思い、『ヒストリーボーイズ』についてのお話などを紹介します。「下」では、石川さんにとっての穏やかな生活、役に応じて実際にパン作りをされたお話や、編み物をされたお話、先日開催されたコンサートタイトル『ライフ・イズ・ミュージカル』に込められた思いなどについて伺ったお話と、お客さまへのメッセージを紹介します。

石川禅さん=撮影・伊藤華織
石川禅さん=撮影・伊藤華織

(※4月に取材しました)

――初演で石川さんが演じたロコ・シャネルがお美しすぎて、強く印象に残っています。

嘘でしょ?

――本当です!

あれはつけまつげのミラクルですよ、本当に。仕上げのつけまつげで決まります。

――普段のメイクよりも、大変じゃないですか?

大変ですね。何が大変かというと、時間に制約があるんです。ヒューゴの恰好で出て、ロコ・シャネルとして出てくるまでに、24、25分くらいで、そこから楽屋に戻って着替える時間を引くと、20分くらいなんです。その20分の間にメイクを落として、塗りなおして、仕上げるのが大変です。ドラァグクイーンは初めてだったので、初演の際、いろいろな動画でメイク方法を勉強していたんですよ。そうしたら、軒並み4〜5時間かかる世界だということがわかりました。まあ、綺麗に化けていくでしょ? それを見ていましたから、「5時間を20分って無理だろ?」と。本当に「ざー、ぱー、ぺー、ぺー」なんですよ。直感にお任せで。

――メイクの仕上がりは、日々結構違ったりしますか?

違います。最終的にどこで解決させるかというと、本当に「つけまつげ」なんです。つけまつげをちゃんとした位置に入れると、それだけで変わります。

――つけまつげ、すごいですね!

つけまつげがないと、とんでもないメイクで出ることになってしまいますね。目元辺りの細工が多少おかしくても、つけまつげで決まるんです。

――つけまつげ、いろいろな種類がありますが、「これ」というものがあるんですか?

というよりも、貼る位置です。位置が少しずれると、自己満足なんですけど、全然印象が違うんです。

――オペラグラスでチェックしたいですね。

「今日は上手くできただろう?」と周りに聞くと、「いつもと変わりません」と言われるから、自己満足ではあるんですが(笑)。でも、自己満足は大切ですよ。この間、(森崎)ウィンくんと(髙橋)颯くんがジェイミーを演じた両回がWOWOWで放送されたのを観たのですが、颯の回のメイクの仕上がりの方が明らかによかったんです。他の方がご覧になると変わらないかもしれませんが、自分で見るとはっきりと分かるんです。

――製作発表でも「メイクは武器だ」とおっしゃっていましたが、決まるか決まらないかは大きいですね。

大きいです。6時間くらいかけている方々のメイクが理想ですが、20分では、そこには到底追い付かないですよね。だから日々研究しましたし、ここからまた、研究の日々が始まります。

――ビジュアル面も皆さんに楽しみにしていただいていただきたいですね。次に、作品の中身について伺わせてください。初演を経験された石川さんの視点で、どのようなことを感じられましたか?

この作品は、BBC放送局が実在しているジェイミーくんを追ったものが原型になっていますが、彼の年代からヒューゴの人物設定を考えると、ほぼ初演のときの私と同じくらいの年齢なんです。同世代なんですよね。それを踏まえて、僕が20歳のころのドラァグクイーンと呼ばれた人たちのことを思い起こすと、日本でもとても特異な存在でした。

ドラァグクイーンの名前の語源は「裾を引きずるドレスを着て女性を表現する」ということです。当時、奇抜な格好に厳しい目があり、性的マイノリティ、少数派の人たちが、自分たちが認められない社会で戦うひとつの手段として、ドラァグクイーンをやっているという状況が多かったと思うんです。

本編でそれほど語られませんが、ヒューゴに関しては特に、「田舎の牧場育ち」という言葉が歌詞の中に出てくるんですね。田舎の牧場育ちと聞いただけで、なんとなく想像できてしまうのが、牧場は代々父親から子どもへ受け継いでいくものじゃないですか。そこで育ったということは、ヒューゴにとって悲惨な生活があったんだろうなというのは想像に難くないというか。

父親から「なぜ、お前みたいな子どもが生まれてきたんだ」と言われるところから始まって、「家を飛び出して都会に来た」と、彼はおもしろおかしく歌いますが、自己否定されたあの時代の若者たちの背景を背負って生きてきた人なんだなというところが、まずベースになくてはいけないんです。

今はおじちゃんになったヒューゴは、ドラァグファッションを売っているお店のオーナーになっているわけですが、ある日お店の扉が開いて、見るからにそうだろうという子どもに「ドラァグクイーンになりたいの!」とキラキラした目で言われた瞬間の、彼の衝撃は相当大きかったと思います。自分が戦うための手段としてやっていたドラァグクイーンが、今の世代の子たちには憧れになっている。このギャップにまずびっくりするんでしょうね。

そして、おそらくそれまでの人生では、彼は自分を律することに必死だったと思います。自分と同じ境遇にいる仲間や後輩への思いやりはもちろんあったかと思いますが、とにかく自分でひとりで立って生きていく人生だったと思います。でも、ここにきて初めて自分が守るべき存在が現れたんですよ。後輩たちには足元をすくわれたりもするだろうし、共存しつつもライバル意識があったりという状況ではあれど、逆に仲間や後輩たちがいるから自分も生きていけるというところもあったかと思います。

――それは、若い世代がいるからですか?

そうです。ライバルは「好敵手」とも書きますが、互いにしのぎを削ることで成長するんですよね。

――ドラァグクイーン同士がということでしょうか?

ドラァグクイーン同士もそうですし、私たち俳優同士もそうですね。「あいつがいるから、俺は役が取れない」というのもある一方で、「あいつがいるからしがみついて頑張ってきた」というのも事実です。そうやってしのぎを削って、切磋琢磨しあって一緒に人生を歩んできている後輩もいるとは思うんです。ヒューゴにとっては、単純に「守ってやろう」という存在は、ジェイミーが初めてだったのではないかと思って、初演は役づくりをしていたんです。

――その前提だと、ほかのドラァグクイーンたちは、どちらかというとライバルということになりますか?

ライバルであり、仲間でありということになり、「子ども」という意識ではないですよね。ジェイミーは、自分がお腹を痛めて産んだわけではないですが、自分の子どものようなんです。そのジェイミーが「これからドラァグクイーンをやりたい」と言うわけです。

他の連中とはドラァグクイーンになってから合流しているからというのもあるでしょうが、そういう境遇で知り合った若い命との気持ちの交流を通じ、ヒューゴ自身が自分の生い立ちと彼を見ながら、「彼をどうやって守っていけばいいのか」という思いを抱えるようになる。そういう中で、二幕のバスストップのシーンがやってくるんだろうと思います。

――「守る」という言葉がキーワードになるんですね。

一番はジェネレーション、生き様の違いですね。キラキラした目をしているジェイミーを見ながら「ああ、ドラァグクイーンになりたいのね」と思っていたら、ジェイミーの父親のエピソードを聞いて、この子にも辛い思いがあるんだということを知るわけです。

どんなに世の中が変わっても、どんなに性的マイノリティを容認してくれる文化があったとしても、身内、特に男親は、「女性と夫婦になって子どもが生まれた」という経験をしているわけですから、それで生まれてきた男の子から「僕、男の子が好きなの」と言われると、そうですよね。

父親という存在は、すごく手強い相手だと思います。どんなに世代が変わって、容認されても、そこに理解を示せない男親はいるんだということを、多分、あのバスストップのシーンでヒューゴは思い知るんですよね。

――自分の経験もきっと思い出すでしょうしね。

そうそう。最初はレックスイレブンの楽屋で、ジェイミーに父親から花が届いていたから、「こんなに優しいお父さんはいないわよ」と言っていたのが、結局のところ偽りだったことが、あとになってわかるので。そこでまた、さらにこの子を守ってやらねばという思いになっていくんでしょうね。おそらくヒューゴの人生の中で、そこまで自分の母性本能、父性本能、どちらか分かりませんが、それを呼び起こされたのは初めてのことではないのかなと思いつつ演じておりました。

※アイデアニュース有料会員限定部分には、「多様性」についての思い、『ヒストリーボーイズ』についてのお話などインタビュー前半の全文と写真を掲載しています。9日掲載予定のインタビュー「下」では、石川さんにとっての穏やかな生活、役に応じて実際にパン作りをされたお話や、編み物をされたお話、先日開催されたコンサートタイトル『ライフ・イズ・ミュージカル』に込められた思いなどについて伺ったお話やお客さまへのメッセージなどインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■「多様性」という言葉がたくさん出てくる今。だからこその混乱も、出てきている世の中

■流行りだから少数派を「認めてあげなきゃね」と、優位に立っている人たちがいるという問題も

■なぜフラットにできないかなと。「みんな一生懸命生きているんだし、君たちも同じでしょう?」と

■「こういう作品があるよ、目を閉ざさないでね」という思いがある。自分を触発してくれる作品

<ミュージカル『ジェイミー』>
【東京公演】2025年7月9日(水)〜7月27日(日) 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
【大阪公演】2025年8月1日(金)〜8月3日(日) 新歌舞伎座
【愛知公演】2025年8月9日(土)〜8月11日(月・祝) 愛知県芸術劇場 大ホール
公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/jamie2025/

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石川禅さん=撮影・伊藤華織
石川禅さん=撮影・伊藤華織

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<筆者プロフィール>岩村美佳(いわむら・みか)  フォトグラファー/ライター ウェディング小物のディレクターをしていたときに、多くのデザイナーや職人たちの仕事に触れ、「自分も手に職をつけたい」と以前から好きだったカメラの勉強をはじめたことがきっかけで、フォトグラファーに。「書いてみないか」という誘いを受け、未経験からライターもはじめた。現在、演劇分野をメインに活動している。世界で一番好きなのは「猫」。猫歴約25年。 ⇒岩村美佳さんの記事一覧はこちら

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最近のコメント

  1. まっきー より:

    今回も素敵なインタビュー記事と写真をどうもありがとうございます!
    ドラァグクイーンのメイクのお話も、ヒューゴの生い立ちや考え方についての禅さんの解釈も、そして多様性についての禅さんの考え方や思いも知ることができて、とてもありがたいです。観る側も禅さんが演じてくれるおかげで作品と出会い、触発されることがあります。目を閉ざさず考えることを止めずに向き合っていきたいです。

  2. せしる より:

    禅さんの言葉選びが素敵ですね。
    ジェイミー、テレビ放送で観ましたが
    いろいろ響きました。
    次は、劇場で観たいです。

  3. もも より:

    インタビューありがとうございます。
    とても深いお話で、考えさせられました。
    多数派の人の少数派に対する優位性は
    自分でもそういうことをしているのではないか?と…
    人物としては、引いてしまう部分もありましたが
    ヒストリーボーイズはとても良い作品で好きでした。
    そして、ジェイミーも大好きな作品です。
    ジェイミーに対する思いとともに、来月拝見するのを楽しみにしています。

  4. えみる より:

    興味深いインタビューありがとうございました。
    寛容になろうとする多数派が上から目線のように接することの弊害は気にしなくてはいけない立場だなと感じながらも、作品としてジェイミーもヒストリーボーイズも楽しみました。
    すべて理解できるわけはないけど、こういうことがある、こういう気持ちがある、を感じられた得難い時間でした。
    再演もとても楽しみにしてますね!

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