自分の思いが伝わると人はどんどん変わってゆく、「指談・筆談」の現場から | アイデアニュース

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自分の思いが伝わると人はどんどん変わってゆく、「指談・筆談」の現場から

筆者: 松中みどり 更新日: 2015年9月3日

これまでもアイデアニュースでは、指談・筆談についていくつかの記事を掲載してきました。まだ一般的には知られていないコミュニケーションの方法ですが、病気や事故で言葉を発することが出来なくなった人、様々な障害のために「この人には言葉はない」と思われていたり、遷延性意識障害(いわゆる植物状態)であったりする人の思いを知る手段として有効であることを、筆者も何度か目の当たりにしています。今日は、指談・筆談の「お話」がとても上手で、たくさんの方々から言葉を引き出している牧野順子さんの活動をご紹介したいと思います。

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牧野順子さん =撮影・松中みどり

牧野順子さん=撮影・松中みどり

合氣道指導員で、氣圧療法士でもある順子さん。短時間で指談・筆談が上達された理由のひとつが、合氣道によって培われた「相手の心を知り、相手の氣を尊ぶ」姿勢ではないかと、このたび順子さんとお話をして思いました。今では指談の講習会で講師もされている順子さんは、昨年、かっこちゃんこと山元加津子さんの毎年恒例のイベントで、指談・筆談のやり方を説明するときに、合氣道のことから話を始めたそうです。それがとても分かりやすかったと好評で、見えないものを感じるという体験ができたという人がたくさんおられたそうです。例えば、こういうことなのね、と順子さんが話してくれました。

「氣が出ている状態って、リラックスして心が鎮まっている状態。心が鎮まっていると、相手の動きを瞬時に察知できるのね」。ホテルのコーヒーラウンジで、順子さんは私に「手を出して」と言いました。順子さんが自分の手のひらを私の方に向けて、窓を拭くような動きをしました。「ほら、打ち合わせしていないのに、私の動きについてこれるでしょ」 コーヒーカップの上で、お遊戯のような動きをした私たち、確かに、ぐるぐると円を描く相手の手の動きについていくことは、すぐに出来ました。

「でも、力を入れると氣は滞るのね」 順子さんは、動かしていない方の手をぎゅっと握ってみてと言いました。するととたんに、順子さんの手についていくことが難しくなったのです。

「指談も筆談も、相手の微妙な手の動きを感じて、相手の動きを邪魔しないようにして、丸を書きたいのかバツを書きたいのか感じとるでしょう。同じだなと思ったのね。力を抜いて、リラックスして、大丈夫だよと思うと出来る」

もう一つ教わったのは、順子さんが指を2本おでこのあたりで構えて、上から下に降ろす動きをするので、自分も指を2本構えておいて同時に降ろすというもの。相手が指を動かしたのを目で確認してついていくと、どうしてもタイムラグが出ます。次に、順子さんが「今!」と言葉で降ろすタイミングのヒントをくれると同時に降ろせました。

「じゃあ、言葉には出さないよ、でも、目で見るんじゃなくて、私のヒントを感じたら指を降ろしてみて。ほら、できたね!」ホテルのラウンジが、その瞬間、合氣道の道場になりました。

言葉を介さないコミュニケーションや、目には見えないものを感じとることを、実は私たちは普段の生活の中でやっているのです。なぜかわからないけれどこの人といると楽しい、なんとなく虫が好かない、嫌な予感、センスオブワンダー……筋肉を動かせない人の手を取って、その人の脳がイメージした言葉の信号を感じ取る。それは、今はまだ「常識」ではないかもしれませんが、順子さんは「未常識はいつか常識に変わる」と話してくれました。

指談をしている順子さん=撮影・松中みどり

指談をしている順子さん=撮影・松中みどり

順子さんは今、指談・筆談でその人の思いを引き出して欲しいという依頼や紹介を受けて、施設や病院や個人のお宅を訪問されています。筆者もその現場に立ち会うことが出来ました。

指談をしている順子さん=撮影・松中みどり

指談をしている順子さん=撮影・松中みどり

この日は、複数の方と順子さんが指談で話をしました。ペンを持って字を書いてもらう筆談はしませんでした。障害も様々で、言葉が全く出せない人もおられれば、口から出る言葉は「自分が今本当に言いたいことと違う」、という人もおられます。指の持ち方も、その人の指を順子さんが持つやり方以外に、順子さんの指をその人が握るやり方もされていました。順子さんと以前指談をしたことがある人が大半で、また自分の思いを言葉にしてもらえるのをとても楽しみに待っていた人が多かったです。順子さんが数か月前に初めてお話をしたMさんも、順子さんと指談を通して話が出来る順番を、今か今かと待っておられたおひとりです。Mさんのお母さんも来ておられて、私に話をしてくださいました。

「この子は自閉症なんです。小さい時から育てるのに本当に苦労しました。男の子だから力も強いし、私も必死だったし、今なら児童虐待って通報されるかもしれないくらい、厳しくきつく当たってしまって……だから、指談っていう方法があることや、この子にも言葉があって思いを聞けるかもしれないってことを教えてもらったときに、すごく心配でした。きっと憎まれてるって思ったから」とお母さん。

「でも、息子は、お母さん大好きと言ってくれたんです。そのときは厳しくしないといけなかった事情も分かるから、もうその頃のことを思い出して苦しむのはやめてほしい。もうその頃から卒業しましょうと指談で伝えてくれた。もう嬉しくて、泣けて」 お母さんはまた涙を浮かべておられました。

そして、「この子は何にもわかっていないと思っていたときと、今では全然違います。今は、今日の予定はこうですよ、とかちゃんと伝えるし、なんだか敬語を使ってしまうときもあるくらい、大人扱いしたりして」と笑顔を見せてくれました。

Mさんご本人がこの日、順子さんを通して一番伝えたかったことは、指談で思いを伝えて以来、「お母さんの表情が明るいのが嬉しい」ということでした。お互いを思いあって、穏やかな笑顔を見せるお二人に心打たれました。話が出来ると、ご本人もご家族にも明るい前向きな変化が出てくることが多いのだそうです。

指談をしている順子さん=撮影・松中みどり

指談をしている順子さん=撮影・松中みどり

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<関連リンク>

白雪姫プロジェクトのページ →http://shirayukihime-project.net/

指談の練習の仕方 →http://shirayukihime-project.net/yubi-dan.html

<アイデアニュース内の関連記事>

指談の新しい本、かっこちゃん&順子さんの「指談で開く言葉の扉」が出ました → https://ideanews.jp/archives/11961

自分の思いが伝わると人はどんどん変わってゆく、「指談・筆談」の現場から →https://ideanews.jp/archives/8508

書評:「体当たり白雪姫と指筆談のこと」 優さんと良平君の思い →https://ideanews.jp/archives/4201

「意識がない」と思われてきた人の意思を伝える白雪姫プロジェクト、指談実演 →https://ideanews.jp/archives/1900

「大切な花を心にひとつ」 かっこちゃんの「星の王子さま」のひみつ →https://ideanews.jp/archives/1837

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<筆者プロフィール>松中みどり(まつなか・みどり) フィリピン支援ボランティア/英語講師/ライター 初めて行った外国がフィリピンで、以来かの国の人々の明るさ温かさに魅せられ、様々なNGOや支援活動に関わる。1994年からは山岳先住民アエタの教育支援主宰。コミュニケーションツールとしての英語を各地で教えている。動物好きの自称「ケモノバカ」。飼い猫は黒猫で親バカ度も加速中。 ⇒松中みどりさんの記事一覧はこちら

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