「2.5次元のエンタメ性と、ストプレの心の揺れを」、舞台『鋼の錬金術師』一色洋平・廣野凌大・石丸さち子鼎談(上) | アイデアニュース

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「2.5次元のエンタメ性と、ストプレの心の揺れを」、舞台『鋼の錬金術師』一色洋平・廣野凌大・石丸さち子鼎談(上)

筆者: 岩村美佳 更新日: 2023年3月12日

2023年3月8日(水)に大阪・新歌舞伎座で開幕し、3月12日(日)に大阪公演の千穐楽を迎える舞台『鋼の錬金術師』が、3月17日(金)から3月26日(日)まで東京・日本青年館ホールで上演されます。原作は2001年より2010年まで、月刊「少年ガンガン」(スクウェア・エニックス刊)に連載され、日本漫画界における歴史的名作となった荒川 弘さんの代表作「鋼の錬金術師」です。連載20周年を迎えた同年、「鋼の錬金術師」の新たな展開として舞台化が決定しました。「ハガレン」の愛称で親しまれ、錬金術を用いたバトルアクション、歴史や国家をまたにかけた壮大かつ緻密なストーリー、生き生きと描かれる個性豊かで魅力的な登場人物たちの姿に、老若男女問わず絶大な人気を博しています。コミックスは全世界シリーズ累計部数8,000万部を超え、テレビアニメ、アニメ映画、ゲーム、実写映画と数々のメディアミックスを繰り広げ、2022年夏には新作スマートフォンゲームがリリースされました。

脚本・演出を手がけるのは、ミュージカルからストレートプレイまで様々な作品を手掛け、情熱的な演出、若手俳優の育成と、近年演劇界を牽引する存在である石丸さち子さんです。生身の人間が目の前で繰り広げる芝居、心を揺さぶる歌と音楽、世界観にこだわり、舞台ならではの技法を用いた演出になります。多様なジャンルのエンターテイメントで活躍するクリエイターとキャストが集結し、エルリック兄弟役は、4か月に渡るオーディションによってキャスティングされました。主演の兄・エドワード・エルリック役は、一色洋平さんと廣野凌大さん、弟・アルフォンス・エルリック役は眞嶋秀斗さんです。

アイデアニュースでは、エドワード・エルリックを演じる一色さん、廣野さん、演出家の石丸さんにインタビューしました。稽古場で撮影した写真と共に、上下に分けてお届けします。無料部分では、本作にまつわるお話を、有料部分では「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」と「2023年の展望」について伺った内容をお届けします。

「上」の無料部分では、稽古の手応え、どのような想いで本作に取り組まれているかというお話、廣野さんのエドワードについて石丸さんがお話ししてくださった内容を、有料部分では「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」について、一色さんと廣野さんに伺った内容を紹介します。

「下」の無料部分では、一色さんのエドワードについて石丸さんに伺った内容とお客さまへのメッセージを、有料部分では、「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」について石丸さんがお話ししてくださった内容と、お三方に「2023年の展望」について伺った内容を紹介します。

一色洋平さん=撮影・岩村美佳
一色洋平さん=撮影・岩村美佳

ーー稽古を今日拝見しました。冒頭からすごい迫力でしたが、手応えなどはいかがでしたか?

廣野:手応でいったらもう、ありまくりですね。

ーーありまくりですか!かっこいい!

廣野:2.5次元を、変えるくらいの勢いでやっていますから。

ーー変えるくらいの勢いですか。

廣野:やっぱり、今回は2.5次元ではなく、ストレートプレイなどを演出されていた、さち子さんが来てくださって。2.5次元というフィールドで戦ってきた俺らが、さち子さんと戦って。その戦いの結果の清々しさみたいなものが、舞台にも出ているんです。まだ、戦っている最中ではあるんですけれども。でも、「喧嘩した後、仲良い」みたいな(笑)。

一色:雨降って地固まる、みたいなね。

廣野:そう。その美しさみたいな。2.5次元とその他の演劇に垣根なんてないんだよっていう。漫画の世界でも、人間を題材にしているからこそ、人間臭さっていうのがあるんだよと、さち子さんが、すごく大切にしながら僕らにも伝えてくれて。僕らもそれをキャッチして作ってきたので、本当に誰が見ても面白いし、文句言うやつはセンスないから!

一同:(笑)

廣野:いやほんとに、かかってこい!という感じなんですよ。度肝抜いてやる!って。それくらい自信あります。

ーー一色さんは、いかがでしょう?

一色:台本が今回、198ページくらいあるんですが、実は2週間で全体像を立ち上げた感じなんですよ。この時のワクワクはちょっと…今回僕、ちょうど舞台に立って70本目の作品なんですけど、その中で一回も経験したことなかった興奮が、あの2週間にはありました。

ーーそうなんですね!

一色:2週間で立ち上げるという、その大変さもまた清々しいし、シーンが立ち上がっていく面白さもありました。あと、寂しさもあったんですよね。「あ、もう終わっちゃうな」って。「こう立ち上がるんだ!」ってワクワクするのが終わっちゃうなあっていう寂しさがあるくらい、駆け抜けた2週間でした。そこからは舞台セットが入ったり、生バンドがもうご褒美のように入ったりと、その中で、まだまだ一皮二皮、三皮とむけています。あとは役者がしっかり戦って、舞台の上に立てればと思っていますね。

石丸:作っていけば作っていくほど、この「鋼の錬金術師」という物語の骨組みが本当にしっかりしているので、迷いなく突っ走ることができるんです。「なぜ、ここでこの言葉が出てくるのか」「なぜ、これをこんなふうに体験していかなければならないのか」というところに、淀みがないんです。そもそも、荒川先生が作ってくださったお話に、淀みがないので、もう私はそれを信じて。

もちろん台本の中では語りきれないことも、いっぱいありますが「何巻くらいに、あれ出てくるじゃない?あそこに繋がるシーンなんだよ」って言うと、その役に内在しているものの説明が、ものすごくシンプルに伝わるんです。「あの巻で起こることがあるから、こうなんだ」と、時間が逆に流れてくることもあります。

廣野凌大さん=撮影・岩村美佳
廣野凌大さん=撮影・岩村美佳

ーーなるほど。

石丸:「あれがあったから、このシーンなんだよ」というふうに、すごく具体的に共有できるんですね。本当にしっかりと、どの人物も描かれているんです。そして、これは「善悪の物語」ではないんです。エドは、正義の味方みたいに悪と戦うわけじゃないんですよね。彼自身が、既に罪を背負っていることもありますが、世界のさまざまなものに出会い、だからこそ全てを悪だと断罪できるわけではないんです。

物語の最初から、「人体錬成」という禁忌を犯してしまった少年であるという罪を背負っているので、自分はいつも“いいもん”の方に属しているというわけではなくて「自分が揺れている存在なのだ」という中で、自分探しの旅を続けるという話なんです。この世界の、苦いところも甘いところも全部、同時に味わい、それが常に共存しているのが世界なのだと。そういうところが、とても面白いんです。

ーーそうなんですね。

石丸:2.5次元のファンたちが愛しているエンターテインメント性と同時に、ストレートプレイを観る時独特の「心の揺れ」を味わってもらいたいなと。演劇では、その「心の揺れ」が生む繊細な音声表現が、空気をすっと凍らせたり、一気に揺らしたりするんです。言葉で時間を司る者たちがやってきたことを、彼らにもやってほしいし、そのために、さまざまなところから、さまざまな出自の俳優たちに来てもらっています。それぞれに影響し合い、学び合いながらという、「いいとこ取り」をしています。

一色&廣野:そうですね。

石丸:いいとこ取りして、この劇場に来ていただくことでいろんな気持ちを味わってほしいです。2.5次元のファンにとっては、全く新しい体験の時間が流れることになるでしょうし、ハガレンのファンの方々にとっては、「こんなやり方でハガレンを表現するんだ」って、面白がってくれるかなと。ミュージカルのファンも、音楽の作り方に共感して、「この音楽が物語を彩り、牽引しているんだな」と味わってもらえると思います。ミュージカルのアンダースコアやトランジションと同じように作っているんですよ。50曲くらいあります。

ーーすごいですね!

石丸:そういうふうに作ってきたので、もうどこから来てもらっても、怖くない!

廣野:そう。「かかってこい」ってそういうこと。

一同:(笑)。

一色:「かかってこい」の、具体的な説明だね。

一色洋平さん(左)と石丸さち子さん=撮影・岩村美佳
一色洋平さん(左)と石丸さち子さん=撮影・岩村美佳

石丸:そんなつもりで、ジャンルの垣根を取っ払いたいなあと思って。2.5次元の方たちにも本当に素敵な俳優たちがいますから。そして、彼らが出会ったことのない魅力的な俳優さんもたくさんいる。二人は、大石継太さんや、阿部裕さんや、星智也さんに出会ってみて、どうですか?

廣野:いやもう、刺激受けまくりですし、吸収しないと生き残れないんだなと。自分の話にもなりますが、この状況はいい意味で、エドとリンクするんですよ。エドと弟のアル(アルフォンス・エルリック)は、少年二人で旅を続けているわけなんですけれども、少年二人だけでは決してその旅は成立しないんです。「周りの大人たちが支えてくれている」という状況が、すごく僕の中で繋がってリンクしています。

稽古しながら僕が今思っているのは、何をしようと大人たちが助けてくれるから、エドとして常に新鮮に生きよう、みたいなことです。大人の素敵なキャストさんが多くて、本当に信頼しながら舞台にのびのびと立てる環境を作ってくださっています。僕は、エドとしてもみなさんのことを信頼していますし、役者としてもすごく刺激を受けていますね。

一色:大石さんは、蜷川さんの作品にもよく出られていたので、僕にとっては、ファンとして観ていた方なんです。芝居を始めた当初、先輩に「まず、この演出家の作品を観ろ!」と言われた中に、蜷川さんのお名前もあって。一生懸命、(シアター)コクーンに通って、なけなしのお小遣いやバイト代をすべてコクーンに費やしていました。『たいこどんどん』の時だったかと思うのですが、客席に蜷川さんがいらしていたのを拝見したことがあって。「うわぁ!蜷川さんだ!」ってもう、大歓喜でしたね。

そんな感じだったので、大石さんが稽古場で『ムサシ』のTシャツを着ていらしたりすると、いちファンとしての僕は、上がるわけですよね(笑)。『ムサシ』は僕、ほぼセリフ言えるくらいなんですが、大石さんの最後のセリフはもう、本当にいいんですよ。そういう方々が出られる作品で、主人公を演じるとなると、多少、「心の力み(りきみ)」もあって。さち子さんからは、「主人公こそ、たゆたうものだから、力を抜いて出会っていきなさい。出会うには、力を抜く必要がある」と言われています。気持ちはわかるけど、余計な力だからねと。まだ僕自身、その力みと格闘している最中ではありますね。

ーー先ほど廣野さんが、エドとご自身とがリンクするというお話をしてくださっていましたが、エドという役を演じる中で、どのようなことを日々感じていますか?

廣野:演じる中で、さち子さんが仰っている「心の動き」を表現するには、自分の中にあるものも使うのですが、ないものも想像力で補わなきゃいけないと思うんです。でもやっぱりどこかで、自分の中にいるエドを正直に出さないといけないんだということに、稽古の中で気がつきました。

「原作を読んだ時に、僕自身が感じたエド」ではダメなんだということを、稽古中にすごく感じたんですよ。自分が客観的に見ている「エドってこうだな」、じゃなくて、自分の中にエドを構築して、その構築したエドとして、演劇の、そして舞台の自由な空間で生きた時に、どういう顔になるんだろうとか、どういう反応するんだろうって。そこは、考えると出なくなっちゃうので、すごい難しい塩梅なんですけど、今、さち子さんからアドバイスをいただきながら目指しているところです。エドは、僕自身の中にもいるし、みなさんの中にもいるので、そこを体現するためには、新鮮に常に生きなきゃと思っているので、ぶっちゃけもう、セリフ忘れちゃってもいいや!くらいの…まあもちろんそれはダメですけど。

廣野凌大さん(右)、〓〓さん=撮影・岩村美佳
廣野凌大さん(右)、田嶋悠理さん=撮影・岩村美佳

ーーどんなトラブルが起きようとも、その状態であればエドとして生きられるということですよね。

廣野:はい。そうなれればいいなと。本当にニュートラルなエドとしての心。最初はもう邪気がありまくったんで…。

ーー邪気ですか!(笑)

廣野:稽古の最初から言われていたんです。「廣野の邪気が出ている」と。

一同:(笑)。

石丸:廣野ってね、世界に対して、ちょっといつも臨戦態勢みたいな(笑)。

廣野:先ほどの、「かかってこい」みたいな(笑)。

石丸:そうそう、常にこのスタイルがくっついていたんですよ。それを一回、とろうと。そしたらなんか、可愛らし〜い子が、向こうからやってきたという感じ。

廣野;僕、子ども時代のシーンがすごく苦手だったんですよ。さち子さんに「廣野、また出てる!」って言われながら、「うわぁ、マジか」って。その後稽古動画を観ても、「もう、こんなん観てられるか!」って、すぐ閉じちゃうくらいでした。でも、ニュートラルな心を意識してやってみたら、ある日「少しよくなったね」って言われて、「きた!!」と。さち子さんに褒められたら、嬉しいんですよ。

一色:そうだよね。わかる。

廣野:本当に、ずっと見てくださっているし。キャラクターへの理解が凄まじいから、俺らが「役者の技術」みたいなことをやっても、「小手先だね」みたいなことも言われて。「その通りです、すみません」みたいな感じになるんです。そういう時間の中で、たくさん課題をくださって。今も課題と向き合っている最中ですが、クリアできた時に、淀みなく「今のよかった」と言ってくださることへの信頼感みたいなのがあって。気持ち良いなと。邪気に満ちていた僕の暗雲が…

一同:(笑)。

一色:絵本みたいな話だね(笑)。

廣野:そうそう(笑)。暗雲が一言で晴れて、善と悪の心がはっきりと分かれて。エドは善の方で演じているので、今気持ちいいですよ。本当にすんなりと言葉も出るようになりました。邪気がやっぱりダメだったんだなと。

一色洋平さん(左)と和田琢磨さん=撮影・岩村美佳
一色洋平さん(左)と和田琢磨さん=撮影・岩村美佳

※アイデアニュース有料会員限定部分には、「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」について、一色さんと廣野さんに伺った内容などインタビュー前半の全文を掲載しています。13日掲載予定のインタビュー「下」の無料部分では、一色さんのエドワードについて石丸さんに伺った内容とお客さまへのメッセージを、有料部分では、「2.5次元舞台と、ストレートプレイのボーダーの有無」について石丸さんがお話ししてくださった内容と、お三方に「2023年の展望」について伺った内容などインタビューの後半の全文と写真を掲載します。

<有料会員限定部分の小見出し>(有料会員限定部分はこのページの下に出てきます)

■一色:全部「芝居」。「2.5次元」「ストレートプレイ」などのボーダーは感じない

■廣野:2.5次元は正直、発展途上だと感じる。小手先でやらずに人に真っ直ぐぶつかって

■廣野:舞台を通して僕が伝えたいのは、「一生懸命やって大丈夫なんだよ」ということ

■廣野:誰も見捨てず、こぼしたくない。「気づけた奴」だけで作ってもいいことはない

<舞台『鋼の錬金術師』>
【大阪公演】2023年3月8日(水)~3月12日(日) 新歌舞伎座
【東京公演】2023年3月17日(金)~3月26日(日) 日本青年館ホール
公式サイト
https://stage-hagaren.jp

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廣野凌大さん(左)、〓〓さん=撮影・岩村美佳
廣野凌大さん(左)、田嶋悠理さん=撮影・岩村美佳
一色洋平さん=撮影・岩村美佳
一色洋平さん=撮影・岩村美佳

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<筆者プロフィール>岩村美佳(いわむら・みか)  フォトグラファー/ライター ウェディング小物のディレクターをしていたときに、多くのデザイナーや職人たちの仕事に触れ、「自分も手に職をつけたい」と以前から好きだったカメラの勉強をはじめたことがきっかけで、フォトグラファーに。「書いてみないか」という誘いを受け、未経験からライターもはじめた。現在、演劇分野をメインに活動している。世界で一番好きなのは「猫」。猫歴約25年。 ⇒岩村美佳さんの記事一覧はこちら

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最近のコメント

  1. まゆのん より:

    私は最初のアニメ→実写映画→漫画→舞台(アニメ、漫画に関しては途中までしか拝見していない)に触れてきたのですが、石丸さんが演出で本当に良かったと思います。あの世界観を舞台でやるのは難しいと思っていましたが、石丸さんだからあれだけ素晴らしい世界が出来上がったのだと思います。舞台の続編が楽しみです。

  2. ゆき より:

    一色さんと廣野さんのお話ありがたく拝見しました。廣野さんのことは今回初めて知ったのですが、大変興味深いお話を聞けてよかったです。
    一色さんのような真っ直ぐ芝居を見てきたような方ばかりを偶然ですが好きになって応援して来たので、音楽という別の畑から同じものを目指して頑張っておられる姿やたくさんのものから影響を受けて育っていかれてる姿が逞しいです。
    大阪公演は終わりましたが、東京公演はさらに素敵なものを見せていただくのを楽しみにしています。

  3. mio より:

    廣野くんのこぼしたくないという言葉が凄い心に残りました。舞台は皆で作り上げるからこそ、1人だけじゃだめなんだなと、それぞれが自分の見えているものを共有しあって高めあっていくことが大事なんだと強く感じました。エドをWキャストで演じるお二方の関係に似ているなと思い、この二人がエドでほんとに良かったと感じました。素敵な記事をありがとうございました。

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